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太子の霊木

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第一章

                太子の霊木
 近江の話である。
 厩戸皇子はこの国に来られた時に周りの者達に言われた。
「この地にも御仏の教えを伝えたいものだ」
「左様ですね」
「既に神の社はありますし」
「そこにさらにですね」
「御仏の教えも広めるべきですね」
「神仏は共に尊い」 
 皇子ははっきりとした声で言われた。
「だからこそだ」
「それ故にですね」
「この地にも寺を建立しますか」
「その様にしますか」
「そうしよう」
 こう言われてだった。
 皇子はこの地に寺を建立されることにした、そして。
 その地に寺を建立された、その寺の名は百済寺となった。
「建立出来ましたね」
「無事に」
「これでこの地にも見仏の教えが広まりますね」
「そうなりますね」
「神仏が共にあり」
 そうなってこそというのだ。
「それでこそだ」
「国は保たれますね」
「よくなりますね」
「神仏が共にあってこそですね」
「だからな」 
 それ故にというのだ。
「この地にも寺を建てた、ではだ」
「では?」
「ではといいますと」
「この地に寺の繁栄を願ってだ」
 そしてというのだ。
「少しことを為したい」
「こと?」
「ことといいますと」
「どうされるのですか」
「こうしよう」
 皇子はここでだった。
 ご自身の箸を出された、そして。
 他の周りに一本ずつ刺された、すると。
「何と、見る見るうちにです」
「どちらの箸も木になりました」
「花が咲きました」
「この箸はハナノキから造られていたのですか」
「だからハナノキになったのですか」
「そうでしたか」
「そしてだ」
 そのうえでというのだった。
「見事な花まで咲いたな」
「左様ですね」
「実に見事な花です」
「これはまた」
「そうだな、これよりだ」
 皇子はさらに言われた。
「この地に御仏の力が広まることを願い続けよう」
「わかりました」
「それではです」
「これよりです」
「そのことを願いましょう」
 こう話してだった。
 周りの者達もそのハナノキ、それぞれ箸からなった二本の木を見て皇子と共に感銘を受けた。そうしてだった。
 事大は進み明治維新を経て近江は滋賀県となった、百済寺が建立されたその地は東近江市となってだった。
 二本のハナノキは今は。
「まだあるんですね」
「そうなんだよ」
 街にそのことをフィールドワークに来た若い男性の歴史学者にだった、街の老人が穏やかな笑顔で話した。
「まあ時代が時代で」
「飛鳥時代ですからね」
「流石に今のハナノキはね」
 二本の彼等はというのだ。
「当時のとは違うよ」
「子孫ですか」
「何しろだよ」 
 老人はさらに話した。
「南花沢町、北花沢町にそれぞれ一本ずつるけれど」
「どっちも天然記念物ですね」
「それでも南の方がね」 
 そちらにある木の方がというのだ。
「北のより幹回りが四メートルも大きいし」
「そこでわかりますね」
「歳もだよ」
 樹齢もというのだ。
 
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