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水虫を甘く見るな

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第一章

                水虫を甘く見るな
 水虫、陸上自衛隊に所属している衣笠花道の持病はそれである。大柄で鍛え上げられた身体に細い目と長方形の顔を持ついかつい感じの男だ。
 彼は今隊舎の中で自分の足に薬を塗りつつ言った。
「嫌な病気だよな、水虫」
「ああ、俺もな」
 同期で同じ部屋にいる赤松慎吾もそれはと答えた、すらりとした長身で面長ですっきりとした顔立ちである。二人共髪の毛は短い。
「実はな」
「水虫だよな、お前も」
「自衛隊にいたらな」
「革靴だからな」
「なりやすいよな」
「水虫とインキンはな」
 この二つの病気はというのだ。
「何かとな」
「多いよな」
「ああ、ただな」
 ここで衣笠な赤松に言った。
「水虫って怖いか?」
「怖いっていうか誰でもなるだろ」
「自衛官だったらか」
「それとインキンはな」
「だから怖くないか」
「そんなこと言う奴いたのかよ」
「ちらってな」 
 漫画を読んでくつろいでいる赤松に話した。
「聞いたんだよ」
「そうなんだな」
「ああ、それでお前何読んでるんだよ」
 衣笠は赤松が読んでいるその漫画を見て尋ねた。
「一体」
「ああ、ブラックジャックだよ」
「手塚さんの代表作か」
「面白いな、これ」
 真面目な顔で言うのだった。
「読んでいるとな」
「そうなんだな」
「お前も読んでみるか?」
「後でな、そういえば手塚さんってお医者さんだったな」
「そうだよ」
 隊舎の中でこうした話をした、そしてだった。
 衣笠なブラックジャックを読んで面白いと思った、それでインターネットでこの作品について調べもしまた作者である手塚治虫のことも調べたが。
 彼は赤松に休憩時間の時に言った。
「手塚さんも水虫だったらしいぞ」
「へえ、そうだったのか」
 赤松は今知ったという顔で応えた。
「それは知らなかったな」
「それでな」
 赤松にさらに話した。
「戦争末期でな」
「二次大戦のか」
「あの頃って皆食うもんなかったよな」
「大変だったらしいな」
 赤松もこのことは知っていた。
「随分とな」
「それであの人も栄養失調になってな」 
 そうしてというのだ。
「大変だったらしいな」
「皆そうだったな」
「それで水虫が悪化してな」  
 栄養失調も重なってというのだ。
「両足切るかもってな」
「おい、水虫でかよ」
 赤松もこれには驚いた。
「マジかよ」
「本当に悪くなっててな」
 それでというのだ。
「そうした話がな」
「出てたんだな」
「そうみたいだな」
「そうだったんだな」
「いや、俺も驚いたよ」
 この話を知ってというのだ。 
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