| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

色々と間違ってる異世界サムライ

作者:モッチー7
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第8話:強者の矜持

セツナperspective

マリアンヌの案内で屋敷の外へと出た私達は、ウララを同行者に気ままに散策をする……
なのだが……
ツキツバはずーーーーーと難しい顔をしているし、ノノに至っては緊張し過ぎて何を言っているのか解らない……
「あそこは偉大なる種族が作った建築物の名残ですわ」
町中に突如と現れる崩れた石の壁。
壁には顔が刻まれていて、大きく開いた口からマリアンヌが笑顔で手を振る。

しかし、護衛がウララだけなんて不用心ではないだろうか?
彼女は領主の娘だぞ。
私の抱いた疑問にウララが答える。
「マリアンヌ様は民に愛された御方です。害を加えようなんて不埒な考えの輩は、すぐに周囲の人々によって取り押さえられるでしょう。何よりあの方には私が付いております」
「ずいぶんと自信があるんだな」
「これでもかつてはSランク冒険者でしたので」
……何!?
私がウララの正体について首を傾げていると、さっきまでつまらなそうな顔をしていたツキツバが、街の中心部に立つ男性を模した石像に興味を示した。
「あれはこの街の領主であるお父様の若かりし頃のお姿でございますわ。お父様は恥ずかしがっておりますが、とても素敵なシンボルだとわたくしは自慢に思っておりますの」
だが、そんなマリアンヌの自慢話は突然の地震によって阻まれた……
……いや……これは地震じゃない!
ツキツバも何かを察して何時でも剣を抜ける体勢に入った!
「……来る」
ツキツバの小さな声に呼応するかの様に、轟音と共に石像が粉砕される。
「ぐおぉーーーーー!」
奇妙なうなり声と共に無数の触手が、もうもうと漂う砂煙の中から人々へと伸びた。
「きゃぁぁあ!?」
その1つがマリアンヌを絡め取ると、一気に煙の中へと引きずり込む。
「お嬢様!!」
どうやら敵は地下から侵入を果たし、手当たり次第に人を攫ったらしい。
ツキツバもそれを察したのか、既に砂煙の中へと突っ込んで往った。
その判断は悪くない!すぐに追いかければマリアンヌを無事に取り戻せるに違いない!
「私も行くぞ!」
だが、先走ったツキツバを見て戸惑うウララ。
「しかし、お客人にその様な事を―――」
「捜索するなら少しでも人手が多い方が良いだろ。それに俺達の実力はもう知ってるはず。遠慮なんてしてる場合か!?」
「その通りです!マリアンヌさんや他の人達を4人で救出に行きましょう!」
……ん?
元Sランク冒険家であるウララの実力は気になるが、まさか、ノノまで付いて往く気か?
私とノノの申し出にウララは頷く事で応える。
よーし!助けると決まったなら早い方が良い!
先行したツキツバが敗けるとは思えないが、やはり助け舟は多いに越した事は無い!
そして、3人揃って石像のあった場所に出来た大きな穴へと飛び込んだ。

月鍔ギンコperspective

着地した某は周囲を警戒する。
出入り口らしき場所の両側には巨大な人の石像があり、古めかしいデザインやかぶった埃の量から古代の物であると見てとれる。その他で目に付くのは大量の瓦礫くらいだ。
「ん?このネバネバした物は?」
よく視ると、それは1本の線の様に続いていた。マリアンヌ殿を攫った曲者の足跡の様な物か?
だが、信用して良いものなのか?
「ツキツバ!」
背後からセツナ殿達の声が響く。
「ツキツバ様!お嬢様は!?」
ウララ殿の剣幕が凄かったが、某は冷静に気になる事を軽く説明した。
「この粘液が足跡に見える?」
「では、犯人はナメクジ系の魔物でしょうか?」
ウララ殿はこのネバネバした物をナメクジが移動した後だと決めつけるが、それにしてはあからさま過ぎないか?下手に付いて行けば、顔面に人参をぶら下げられた馬の様な事になりかねん。
「……いや、このネバネバに頼るはよそう。それより、他に何か手がかりは無いか?」
その途端、ウララ殿は困り果ててしまわれた。
「おそらくここは地下遺跡かと。実はこの街は巨大な遺跡の上に建てられているのです」
「下は迷路って事かよ!?ま、私はすでにマリアンヌの匂いは覚えたから良いが……」
「出来るのか!?匂いだけで!?」
「任せな!氷狼族の誇りに賭けて!」
凄い物だな……まるで忍びの者に育てられた忍犬の様だ。

それから、しばらくセツナ殿の鼻を頼りに進んでいくが、ここはどうやら迷宮の様に道が複雑に入り組んでいる。それに、それほど強くはないがマモノも潜んでいる様だ。
「ふう、こんな平和で豊かな人里ですら、ともすれば簡単に人が死にかねぬ合戦場になりえてしまうとは……」
「!?」
「ツキツバさん!変にウララさんを不安がらせないで下さい!」
「不安なのはこっちの方だ!『氷狼族の鼻を嘗めるな!』と言った手前だが、既に大分走ったぞ!?」
「何度か調査したことはありますが、分かっているだけでも四階層はあります。なにぶん全貌が分からないだけに、どこに何があるのかは不明です」
「おい!」
セツナ殿は進めど進めど一向にマリアンヌ殿に逢えぬ事で焦っている様ですが……
「……どうやら、あのネバネバを罠だと決めつけたのは、某の早合点の様ですぞ?」
「それじゃ何か!?犯人はやはりナメクジ系の魔物だと言うのか!?」
その直後、右横から某達を襲ったマモノをウララ殿が吹き矢の要領で仕留めた。
「やけに手際が良いがなんのジョブなんだ!?」
「アサシンです」
あさしん?
やはりまだまだこの世界独特の言葉になれておりませぬ。
故に、セツナ殿が何を驚いているのかが解りません。
ただ、ウララ殿なら先程の野盗共に勝てるのでは?とは思える。

セツナperspective

む!?
マリアンヌの匂いが強まった!?
この近くか!?
橋の先には閉められた大きな扉があった。粘液はその扉の向こうまで続いている様だった。
ただ……
複数の足跡が聞こえ、左右から武装した男達が現れ扉の前で並ぶ。そのどれもが大きな体格に盛り上がった筋肉を有し、頭部らは二本の角を生やしている。
間違いない魔族だ!
どうやら、あの『粘液は足跡にして罠』と言うツキツバの見立ては、あながち見当違いじゃなさそうだ!
「のこのことこんなところにまで来るとは、ヒューマンってのは愚かな種族だな。お前達、好きにしていいぞ」
指揮官らしき男が兵に指示を出す。兵は雄叫びを上げて次々に曲刀を抜いた。
そうか!この騒動は魔族の仕業だったのか。
魔王が出現した事で動きが活発化しているとは聞いていたが、まさかこんな場所にまで入り込んでいたとは驚きだ。
で、私やウララがやる事と言えば、
「ツキツバ!此処は私に任せて先に往け!」
「マリアンヌ様をどうかお助け下さい!」
この中で1番強いのは、間違いなくツキツバだ!
なら、勝てる見込みが1番多いツキツバに敵大将をぶつけるのが勝利の筋ってもんだ!
「承知!」
そう言うと、ツキツバは立ち塞がる魔族を斬り捨てながら扉へと突き進む。
そして、重い音を響かせて開いた。

月鍔ギンコperspective

「ぐふふふ、ようやくペットの餌が来たようだな。待ちわびたぞ」
広大な部屋の中央に、幼き頃に読んだ書物に書かれておった『象』の様に馬鹿でかいナメクジがいた。
そ奴は背中から無数の触手を生やしており、10人以上の人々をぶら下げている。
その前には、肥え太った鬼の様な厭らしい男が自信満々に立っていた。
「そなたが御大将か!?」
「いかにも」
先程セツナ殿達に任せた雑兵とは比べ物にならない闘気を感じる。まさかとは思うが、こやつらは強さの強弱で階級や役割を決めておるのではあるまいな?
「まあ……貴様が敵の大将であるなら、貴様を斬る!」
某が刀を脇構に持つが、敵大将は焦らず偉そうに口上を紡ぎ続けた。
「まあ焦るな……俺様は実に親切な男だ。冥土の土産に少しくらい話をしてやろうじゃないか」
「なっ!?」
不覚!
ナメクジの触手が素早く伸ばされ某を縛り上げる。そのまま高く持ち上げられた。
「実はこの街は地下水路によって辺境の街と繋がっているのだ。もし辺境の街とここを押さえる事が出来れば、格段にこの国を落とし易くなるだろう。だがしかし、その為にはまず邪魔な領主を始末しなければならない」
なんたる卑劣!
ロアーヌ殿の首を獲る為にこの様な回り諄い事をしておったのか!?

その時、某は父上の言葉を思い出した。
「よいかギンコ!我々侍は、武士として常に清く正しくなければならぬ!侍が斬って良いのは向かって来る者、命の覚悟がある者だけだ!それ以外には毛1本の傷もつけてはならん!これは、力を持つ者の当然ぞ!」

その途端、某は無性に腹が立った!
「解せん!」
「ぶははは、なんだその顔!?許せないか?俺様をぶっ殺したいか!?ざんねーん、死ぬのはてめぇと、この街のヒューマン共――」
力任せに触手を引き千切る。
「ばかな!?俺様のトロールナメクジはレベル70だぞ!?」
「それがどうした?先程油断してこの様な仕打ちを受けた某も未熟だが、その程度で勝ったと思い上がり、敵大将を討つ上で欠かせない首獲り怠ったそなたも、また未熟!」
男は後ずさりして怯えた表情を浮かべた。
「しねぇ!リトルボムズ!」
20を超える小さな爆発が某を包む。部屋の中に爆音が響き、衝撃が激しく揺らした。
だが!
「そんな大道芸では、某の髪の毛1本燃やせぬ!」
「バカめ!剣1本で防ぎきれると思うなよ!リトルボムズ、リトルボムズ、リトルボムズ!」
目の前の炎が邪魔なら、その炎を斬って捨ててしまえば良い!
「ぐふ、ふふふ、これだけやれば生きてい……あれで無傷だと……ありえない……ば、化物だ……」
「だから言ったろう?髪の毛1本燃やせぬと」
「ひぃいいいっ!?な、なな、なんなんだ貴様は!?まさか噂の勇者なのか!?」
ゆっくりと姿を見せてやれば、顔面蒼白に震えながら後ずさりする。
こやつ、本当にこの前斃したダームとやらと本当に同類なのか?
「その程度か?これなら、ダーム殿の方がまだ手強かったぞ?」
某の言い分が敵大将を怯えさせた。
「お前があのダームを……だとおぉーーーーー!?」
さて、さっさと終わりにするか。
刹那に部屋を駆け抜け、刀を鞘に収める。
「滅びよ!貴様の最大の失態は、力を持つ者の当然を怠った事と知れ!」

ノノ・メイタperspective

セツナさんとウララさんが道を作り、ツキツバさんがマリアンヌ様が囚われているであろう部屋に入って往ったけど……
その部屋の中から不気味な爆発音が何度も響き渡ったんですけど!?
まさか……マリアンヌ様の身に何かあったら……
そんな僕の心配をよそに、連続した爆発音が途絶えた途端、男性の悲鳴が響き渡った……
「何だ!?」
本当に何が起こってるんだ!?
そして……僕が危惧している予想に対する答えを突き付けるかの様に、マリアンヌ様が囚われているであろう部屋の扉が再び開いた。
……しかし……
「……何か、異様に煙たいな?」
「部屋の中にいた者が爆裂魔法を使用したのでしょうか?」
勿体ぶらないで!
早くマリアンヌ様の無事な姿を魅せて!
が、僕の懇願を無視するかの様に中にいた者はゆっくりと歩いていた。
あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!
じれったい!
早く!早く!
早くマリアンヌ様は無事だと言ってくれぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

……で……

部屋の中の人がようやく喋った。
「聞けー!マモノの衆よー!この部屋にいた御大将は某が討ち取ったー!」
中から出て来たのは……ツキツバさんだった!
しかも、ツキツバさんの手には魔族の頭が握られていた……
セツナさん達と戦っていた魔族達は、声を出さず、目を見開き、ただ唖然としている。
「お嬢様!」
ウララさんが部屋に駆け込み、床で寝ていたマリアンヌ様をのぞき込んでいた。
「ご心配無く。眠っているだけです」
ウララさんはツキツバさんに深くお辞儀をする。
「深く感謝いたします。恐らく私だけでは救出は困難だったでしょう。ツキツバ様とセツナ様がいてくれたからこそ、お嬢様を無事に助け出す事ができました」
……良かったぁー。
ロアーヌ様の機嫌を損ねる事態は避けられた様だ。
……ただ……
「ところで……他の連中はどうする?」
そうだった!
あいつらに捕まっていた人達はマリアンヌ様だけじゃなかった!
流石のツキツバさんも、どうする事も出来ずに黙り込んでしまった……
……と言うか……本当にどうしよう?…… 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧