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イベリス

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第百二十四話 相手の好みその十四

「そうよね」
「物価高いけれど色々な場所もあるでしょ」
「交通の便もいいし」
「何でも揃ってるしね」
 人が多いだけあってだ、東京はあらゆるものが備わっている街でもあるのだ。
「住みやすいと言えば住みやすくて」
「カラオケボックスとか本屋さんも多いし」
「咲の大好きな秋葉原もあるわね」
「ええ」
 母にそれはと答えた。
「嬉しいことに」
「そのことも嬉しいわね」
「凄くね」
「だったらね」
「日本にいられたら」
「少なくとも咲はね」
「幸せね」
「そう思うでしょ」
「満足しているわ」
 咲もこう答えた。
「そりゃ幾分か不満もね」
「あるわね」
「あるって言ったら」
 それならというのだ。
「ない筈がないけれどね」
「どうしてもそれはね」
「誰だってあるわね」
「何でも満点はないから」
 それでというのだ。
「どんなところにいてもね」
「不満はあるわね」
「何かね。けれど全体で見てね」
「よかったら」
「百点はなくても八十点ならね」
 それならというのだ。
「いいってね」
「考えることね」
「そう、それでね」
 そのうえでというのだ。
「やっていったらね」
「いいのね」
「そうよ、それで咲もお母さんもね」
「日本にいて。そうね」
 母の先程の点数の話を思い出してだ、咲は言った。
「九十点位ね」
「お母さんもそれ位よ」
「それ位あったら幸せね」
「充分そうでしょ」
「そうよね」
「北朝鮮は流石に零点にしても」
 この国にいると、というのだ。
「それでも今の日本にいたらね」
「それ位だから」
「充分幸せでしょ、そして幸せを感じて満足することも」
 このこともというのだ。
「人生では大事なのよ」
「そうなのね」
「そのことも覚えておいてね」
 こう娘に言うのだった。
「いいわね」
「そうしていくわね」
 咲も母に頷いて応えた。
「私も」
「そうしたらあんたも幸せになれるしね」
「それじゃあね」
「さて、お父さんが帰って来るから」
 そそろそとだ、ここで母は話題を変えた。
「今夜はお父さんの好きなお豆腐もあるし」
「冷奴よね」
「まだね。咲も好きでしょ」
「大好きよ。じゃあお豆腐食べてね」
「幸せになるわね」
「そうなるわ」
 あっさりとしていて食べやすい豆腐大好きなそれをとだ、咲は応えてだった。
 実際に豆腐も食べた、そうして幸せになったのだった。


第百二十四話   完


                 2023・8・23 
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