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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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AXZ編
  第178話:愛に生きる騎士

 互いの絆を取り戻した透とクリスの猛攻は、ウィズですら唸らせたあのレギオンファントムを押さえ込むほどに苛烈であった。

「うぉぉぉぉぉっ!」
「くぅッ!?」

 イグナイトモジュールを起動した事により変化したギアを纏い、アームドギアのボウガンの引き金を引くクリス。無数の光の矢がレギオンファントムに襲い掛かり、奴はそれを手にしたハルメギドで防いでいる。奴が薙刀を振るう度に複数本の光の矢が弾かれ、地面に落ちたり壁に刺さって消えていくがそんなのはお構いなしにクリスは攻撃を続けた。ただでさえ単騎で集団を圧倒する程の広範囲を制圧する事が可能なイチイバルは、決戦機能を起動させたことでその苛烈さを増していた。

 その弾幕の中を、恐れず駆ける者がいた。グロウ=メイジに変身した透である。彼はレギオンファントムへ続く最短の道を真っ直ぐ突き進んでいた。
 本来であれば無謀極まる選択肢だが、2人は互いを信頼し合いどう動くのが互いにとっての最善となるかを瞬時に判断した。透が僅かに左右に動く素振りを見せればクリスはそれに合わせて射撃をズラし、クリスの狙いが動けば透はそれに合わせて素早く対応した。

 お陰でレギオンファントムは目の前まで迫る透を前に、ロクに迎え撃つ体勢も取れないまま彼の接近を許す事となった。

「くぅぅ……この攻撃の中を進んでくるとは大した度胸。……しかし! 近付いてきた事が逆に私に有利に働くッ!」

 レギオンファントムが透の攻撃圏内に入り、その瞬間クリスの弾幕が止まった。流石のクリスも、透が相手に攻撃する最中に引き金を引く事は出来なかったのだ。

 こうなってしまえばレギオンファントムにとっては楽な戦い。これまでの戦いで透の戦い方が速度と手数を活かしたものである事は学習済み。一撃一撃は言うほど痛くないのは分かっている事だったので、レギオンファントムは余裕を持って彼を迎え撃った。

「さぁ、お前のその美しい心を俺に壊させろッ!」

 一思いにハルメギドで亀裂を作り透の中へ入ろうと薙刀を振り下ろすレギオンファントム。だがその時、透の影からアームドギアをハンドガンに変形させたクリスが飛び出し銃口を突き付け引き金を引いた。

「バーンッ!」
「ぐぉっ!? い、何時の間に……!?」

 クリスがレギオンファントムの近くまで近付く事が出来たのは、何て事は無い。透が奴の目を引いている間に接近しただけの事である。クリスは弾幕を張ってレギオンファントムを釘付けにしつつ透の接近を手助けし、透はレギオンファントムの目を自分に向けさせクリスの接近を悟らせないようにしたのだ。

 レギオンファントムが生半可な攻撃ではダメージを与えられない事は彼らも既に承知の上の事。透1人の攻撃で傷付けることは難しい。かと言ってクリスの攻撃は全力を出せば出すほど被害は広がってしまうし、何より奴には空間に亀裂を作って相手の行動や攻撃を防ぐ能力がある。

 この問題を解決する一つの最適解は、レギオンファントムの反応が間に合わない程に翻弄しながらの絶え間ない攻撃。それを可能とするのが、手を取り合った透とクリスのコンビであった。

「透、行くぞッ!」

 クリスの声に透が頷く。レギオンファントムはそんな2人を纏めて薙ぎ払おうとハルメギドを振るった。

「はぁぁぁっ!」

 横凪ぎに振るわれた薙刀を、2人は同時に身を低くすることで躱した。レギオンファントムは身を低くした2人に、地面の草を刈る様に薙刀を振るおうと構え直す。
 その瞬間、クリスは両手に持った二挺のハンドガンを構え奴の顔面に向け引き金を引いた。無数の弾丸はレギオンファントムの顔を穿ちこそしなかったが、しかし攻撃を中断させ顔を手で遮らせた。勿論そんなのは大したダメージになりはしないが、しかしそれだけの時間があれば透が攻撃に移るだけの時間は十分に稼げる。

「ッ!」

 レギオンファントムが顔を守ろうと手を上げている間に透は立ち上がり、その手に持ったカリヴァイオリンを握る手に力を籠める。
 透が迫ってきた事を気配で察したレギオンファントムが、迎え撃とうと手を退けた時には既に遅かった。

「はっ!?」

 すれ違いざまに透のカリヴァイオリンがレギオンファントムの腹部を切り裂く。それだけで終わらせず、彼は即座に反転すると両手の剣を縦横無尽に振るいながら、レギオンファントムの周りを引っ切り無しに動き回り狙いを付けさせないように立ち回った。
 その素早い動きにレギオンファントムも反撃も防御も間に合わず翻弄される。

「このっ!? ぐぅぅ……!? 調子に、乗るなッ!!」

 幾らダメージが小さいとは言え、こうも立て続けに攻撃を喰らうのは宜しくない。小さなダメージも積み重なればバカには出来ないし、何よりも相手を調子に乗らせるのは気に入らなかった。

 この状況を変える為、レギオンファントムは兎に角透を引き剥がそうとハルメギドを振るおうとした。

 しかしその行動はクリスにより阻まれる。

「させっか!」
「ぬっ!?」

 透に意識が向いている隙に放たれたのはクリスの飛び蹴り。彼女はレギオンファントムが痺れを切らして大雑把な攻撃を繰り出そうとする瞬間を狙い無防備な腹に蹴りをお見舞いしたのだ。予想外の攻撃にレギオンファントムもたたらを踏んだ。

「くっ! この、小娘ッ!」

 体勢を崩されたレギオンファントムは、その苛立ちをそのままクリスにぶつけようとした。確かに今の蹴りでレギオンファントムの体勢は崩れたが、同時にクリスも即座に次の行動には移れない。今なら彼女に亀裂を作り、中に入る事も可能だとその凶刃を振り下ろそうとした。

 そんな危機的状況にあったクリスの腕を透が引っ張った。何時の間にか片方の剣を手放した彼は、レギオンファントムに切り裂かれそうになっていた彼女を引っ張って自身の腕の中に収めたのである。結果、レギオンファントムの一撃は何もない場所を切り裂くだけに終わった。

「チィッ!」

 攻撃が不発に終わった事に舌打ちをしながら返す刃で薙ぎ払いを放とうとする。が、2人はそれをさせまいと同時に蹴りを放ち後ろに退かせた。

「ぐぅっ!」

 またしてもレギオンファントムは体勢を崩される。それは明らかに先程よりも大きな隙となった。度重なる2人の連携に、レギオンファントムもリズムを大きく乱されているらしい。

 それを好機と見て、2人の怒涛の攻撃が始まった。透とクリスは互いに手を取り合い、まるでダンスを踊っているかのようにレギオンファントムへの攻撃を続けた。

 透が切りかかったかと思えばその後ろに張り付く様に背中を合わせていたクリスがハンドガンを向け銃弾をお見舞いし、レギオンファントムが反撃して来たら屈んだ透の背に背中を預けたクリスが蹴りで攻撃の軌道を逸らせた。そして攻撃が逸れている間に2人は上下を入れ替え、透が彼女の背中の上を転がるようにしてレギオンファントムを切り裂いた。

「ぐ、が……!?」
「まだまだぁッ!」

 度重なるダメージにとうとう体勢を立て直す余裕も失ったレギオンファントムだったが、2人の猛攻は止まらない。お互いの手を取り、時に相手を引き時には互いに押し合って動く2人の息の合ったコンビネーションを前に、レギオンファントムは見る間に追い詰められていった。
 その様子を離れた所から見ていたステファンとソーニャは、このまま行けば勝てると信じていた。

 が…………

「貰ったぁッ!」

 透がレギオンファントムの体勢を大きく崩した。その隙を狙って、ここで勝負を決めようとクリスがアームドギアをライフルに変形させ至近距離からの一撃で仕留めようとした次の瞬間、レギオンファントムの目が怪しく光ったのに透は気付いた。
 これが罠だと気付いた次の瞬間、彼は咄嗟にクリスを突き飛ばしていた。

「うわっ!? 透……!」

 どうしたのかと思う間もなく、突如クリスの視界から透の姿が消えた。レギオンファントムの渾身の薙ぎ払いを受け、胴体を切り裂かれながら大きく吹き飛ばされたのである。先程の一撃でレギオンファントムが体勢を崩した際、手応えに違和感を感じた彼はそれがクリスの大技を誘う為の罠である事に気付き、彼女を守ろうとして咄嗟に体が動いてしまったのだ。

 今の一撃で勢いが完全に殺された。連携は崩され、クリスを守る者は居なくなる。それでも抗おうとしたクリスであったが、透が居ない状況での接近戦はやはり無理があったらしい。

 ハンドガンを用いる接近戦で対抗しようとしたが、苦も無く弾かれた挙句首を掴まれ持ち上げられた。

「あぐっ!? ぐぅ……」
「ふん……手古摺らせてくれたな。だが、これで……!」

 レギオンファントムは一度持ち上げたクリスの首から手を離したかと思うと、彼女が着地する寸前に彼女の体をハルメギドで切り裂いた。その瞬間悍ましい光を放つ赤い亀裂が彼女の体に刻まれる。

「あ゛ッ!? か……!?」
「クリスッ!?」

 遠くからその様子を見ていたソーニャが思わず悲鳴のような声を上げる。一方レギオンファントムはと言うと、漸く己の快楽を満たせる瞬間が来たかと満足そうに頷いた。何しろこの場に他の魔法使いは居らず、装者はカリオストロにより分断されまたは足止めされている。透も暫くは動けない。誰の邪魔も入らず、ゆっくりとクリスの心を壊す事が出来た。

「さぁて、いよいよだ」
「うぁ……ぁ、ぁ……!?」
「この娘の美しい心。降り積もったばかりで汚れの無いバージンスノー、それを踏み荒らす快楽を今こそ……!」

 体を切り裂かれ、心に無理矢理穴を抉じ開けられた苦痛にクリスが苦悶の声を上げる中、レギオンファントムが彼女の体に手を掛けようとした。

 それを見て、ステファンが咄嗟に近くに落ちていた木の棒を蹴り飛ばした。恐らくはイスかテーブルの足だったのだろうそれは、クルクルと回転しながら真っ直ぐレギオンファントムに向け飛んでいく。

「クリスから離れやがれぇぇッ!」
「むっ! んん?」

 所詮少年が蹴り飛ばしたただの木の棒、当たっても蚊が刺した程度にも感じないものでしかなかったが、それはレギオンファントムの気を一時でも引くには十分なものであった。お楽しみの邪魔をされて、レギオンファントムの視線がステファンとソーニャへと向く。

「ふむ…………フンッ!」

 暫しステファン達を見ていたレギオンファントムは、徐にハルメギドを振るい衝撃波を2人に向け飛ばした。ただの人間でしかない2人はその衝撃波に抗う事が出来ず、木っ端の様に飛ばされ地面に叩き付けられた。

「うわぁぁぁぁぁぁっ!?」
「きゃぁぁぁぁぁぁっ!?」

「フン……他人の為に勇気を振り絞るその心、この娘には及ばないがそれなりに美しい。デザート代わりにこの娘の後…………うん?」

 ステファンに気を取られていたレギオンファントムだったが、ふとある事に気付く。何者かが自分の肩を掴んでいるのだ。
 一体誰だと振り返れば、そこに居たのは首の無い騎士。そしてその後ろに佇む、透の姿があった。

「何……?」

 思わず呆然として、レギオンファントムは透と首無し騎士デュラハンを交互に見る。同じファントムだからこそわかる。このデュラハンもまたファントムであると。それが何処から出てきたか?
 レギオンファントムは直感的にその答えに行きついた。

「コイツは……まさか……!」

 本来であればあり得ない出来事に慄いていると、デュラハンを通じてレギオンファントムに透の心の声が響いた。

――お前……今、クリスに何しようとした……!

――クリスを、傷付けようとしたな……!

――許さない……許さないッ!!

 温厚な透からは想像もできない程の怒りに震えた声。その声に呼応するように、デュラハンは手にした剣でレギオンファントムを切り裂いた。

「ぐぁぁぁぁぁぁっ?!」

 デュラハンの一撃に大きく吹き飛ばされたレギオンファントム。それと同時に亀裂が消え、自由になったクリスが崩れ落ちそうになるのを透が支えた。

「うぁ、ぁ……透?」

 苦痛から解放されたクリスが、透の腕の中から彼を見上げる。怒りに駆られた姿を、仮面越しとは言えクリスに見られてしまった事に思わず身を強張らせる透であったが、そんな彼にクリスは優しく微笑みながら彼の頬をそっと撫でた。

「へへっ……ありがと、透」

 嘗ては、自分の為に怒ってくれた彼から逃げてしまい彼を傷付けた。だが今度は逃げるような事はせず、クリスは自分を想って怒りを露にしてくれた彼を優しく受け止める事が出来た。その彼女の愛に、透は心がスッと軽くなるのを感じた。

 もう、恐れる事など何もない。透はクリスを支えたまま立ち上がり、自身の隣に立つ己の分身とも言えるファントムと向き合った。首の無い騎士であるデュラハンは、存在しない頭で透の事を見返す。

 お互い見つめ合う透とデュラハンは、言葉も交わす事無く頷き合い拳をぶつけ合う。透は右の拳を、デュラハンは左の拳を。お互いに拳をぶつけ合うと、デュラハンの体が光となって透の右手に集まっていく。
 その光の中心にあるのは1つの指輪。透がファントムの力を引き出す時に使う、スペシャルの指輪だった。全ての光がその指輪の中に納まったのを確認すると、透は右手をハンドオーサーに翳した。

〈イエス! アーマースぺシャル! アンダスタンドゥ?〉

 透が魔法を発動すると、魔法陣からデュラハンが飛び出してきた。そしてその体がそれぞれの部位ごとのパーツに分かれると、そのまま透の体にフィットする鎧となって装着される。アーマードメイジとなった透は、デュラハンの剣を携えレギオンファントムに切っ先を向けた。

 対するレギオンファントムは、今し方の光景に信じられないと声を震わせる。

「まさか……こんな……ファントムが、器である人間にここまで心を許すなどと……」

 ファントムは最終的に器である魔法使いの命を奪ってこの世に姿を現す存在だ。故に、器を傷付ける事無く外に飛び出してくるなど普通はあり得ない。それこそアンダーワールドの様な特別な条件下でもない限りは。
 だが透とデュラハンの場合は事情が違った。この両者は共に1人の少女を愛し、彼女の為に全身全霊を尽くす覚悟があった。そう、デュラハンもまたクリスの事を愛しているのだ。
 故にデュラハンは、透がクリスをその心までも守ろうと言うのであれば、その存在全てを彼に委ねる事が出来た。

 その姿は、レギオンファントムを狂喜させるには十分な輝きを放っていた。1人の少女の為にそこまで尽せる男の姿は、この上なく美しいと思えるものだったのだ。

 レギオンファントムは切られた傷の痛みも忘れて、ハルメギドを手に襲い掛かる。

「ハハハハッ!」

 振り下ろされるハルメギドを、透はデュラハンの剣で防ぐ。そしてお返しに剣を薙ぎ払えば、レギオンファントムはその場で大きく跳躍し真上から攻撃を仕掛けてきた。

「その荷物を抱えた状態で、どこまで抗えるッ!」

 未だぐったりとした様子のクリスを抱えた透は、当然だが動きが制限される。得意の素早さを活かせない彼など、レギオンファントムからすればいい的も同然だった。

 そう思っていると透は予想外の行動に出た。何を思ったか透がデュラハンの剣を投げてきたのでそれを弾くと、今度は鎧が弾け飛んだ。その衝撃は流石に防げず、バランスを崩して地面に落下する。

「くぅ……!」

 この程度大したダメージにもなり得ず、すぐさま立ち上がると再び透に接近しようと一歩足を踏み出した。
 その時、横合いから何者かが攻撃を仕掛けてきた。仲間の魔法使いが駆けつけたのかと思ったが、振るわれた刃を受け止めたレギオンファントムはそこにあった光景に思わず目を見開く。
 そこに居たのはつい先程透の中へと戻った筈のデュラハンだったのだ。

「何ぃッ!?」

 このデュラハンは何処から出てきたのかと思って、レギオンファントムはふと気付いた。透が先程剣を投げ、鎧をパージしたのはまさかこの為なのではないかと。そう、あの形態の透はデュラハンと一つになる事も出来れば、デュラハンを分かれて行動する事も可能な状態なのだ。
 それはこの魔法を生み出したアルドからしても予想外の結果であろう。本来であれば、透がデュラハンの鎧を最適な形で身に纏う事だけを目的としていた。だが透はデュラハンと本当の意味で心を通わせ、共にクリスを守ると誓い合った。それがこのような形で現れたのである。

 まさかの展開にレギオンファントムが呆気に取られていると、脇腹に強烈な銃弾が突き刺さった。

「ぐぉぁっ?!」

 激痛に視界がチラつく中、銃撃が飛んできた方を見ればそこでは透に支えられたクリスが先程は撃てずに終わったライフルを構えているのが見えた。

「へへっ、ざまみろ……!」

 まだ先程レギオンファントムに亀裂を付けられたダメージが残っているのか、肩で息をし透に支えられている状態だがそれでもその眼差しには必殺を感じさせる強い心が宿っていた。

 レギオンファントムが見ている前で、クリスはライフルをその場に捨て自分の足で立った。

「透、決めるぞ……!」

 クリスの言葉に頷くと、透が手を翳す。それを合図にしたようにデュラハンが再び透の鎧として装着されると、彼は指輪を付け替えてハンドオーサーに翳した。

〈イエス! キックストライク! アンダスタンドゥ?〉

 透が魔法を発動すると、鎧が勝手にパージされてクリスを挟んで反対側にデュラハンが現れる。そして3人並んで空中にジャンプすると、クリスのギアの装甲が変形してミサイルをベースにした大型のブースターが3人を固定。
 その状態でレギオンファントムに向けて飛び蹴りしながらブースターが火を噴き射出された。

「いっけえぇぇぇぇぇぇっ!!」
[MEGA DETH TRIDENT]

 クリスを中心に透とデュラハンが並んで飛び蹴りを放つ、透とクリスの合体技『MEGA DETH TRIDENT』。レギオンファントムはその一撃を正面から受け止めた。

「ぐぬぅぅぅぅぅぅぅ…………!」

 ハルメギドにより亀裂を作り出して止めようとするが、透とクリス、そしてデュラハンの力を合わせた一撃はそれすらも打ち破ってレギオンファントムを粉砕せんと迫った。
 そして長い拮抗の末、白旗を上げたのはレギオンファントムの亀裂の方であった。

「なっ!?」

 亀裂に罅が入ると言う表現もおかしな話だが、罅割れた亀裂はまるでガラスが砕けるように散り防ぐものが無くなった透たちの蹴りはレギオンファントムを大きく吹き飛ばした。

「ぐぉぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 蹴り飛ばされたレギオンファントムはそのまま別の建物へと突っ込み、そのビルの倒壊に巻き込まれた。

 レギオンファントムが崩れるビルの下敷きになったのを確認すると、着地したデュラハンは鎧として透に装着される。アーマードメイジに戻った透は、レギオンファントムが下敷きになったビルを一瞥してから彼女を目を合わせ互いに頷き合うのだった。




***




 一方、カリオストロの方も響と切歌の2人を相手に予想外の苦戦を強いられていた。

「くっ!? どうしてイグナイトが? 賢者の石の輝きを受けて、何故ッ!?」

 カリオストロ達パヴァリア光明結社の錬金術師にとって、賢者の石の浄化の輝きでイグナイトを封じる策はある種の頼みの綱であった。だが彼女達の与り知らぬところで、装者達はそれに対する対策を既に手にしていた。
 それは彼女らファウストローブを纏う錬金術師にとっても予想外の事態だったのである。

 当然、イグナイトを起動したシンフォギアとの戦闘など考慮していなかったカリオストロは、その爆発力に思わず慄いた。だがそれ以上に彼女にとって予想外だったのは、響と切歌がユニゾンして攻撃してきた事である。

――これって、ユニゾンッ!? ザババの刃だけじゃないのッ!?――

 実は弦十郎は、既に敵が切歌と調のユニゾンこそがある種の弱点にもなると言う事を読んでいた。2人のユニゾンは確かに強力だが、敵に知られれば当然分断を狙われる。
 故に、彼はこの数日で装者達にギアの特性に頼らぬ、様々な組み合わせで歌を重ねられるように特訓を施していたのだ。

 その特訓の成果、絆のユニゾンが今ここに形を成した。

「うぉぉぉぉッ!」
「デースッ!」

 響と切歌が歌をユニゾンさせ、フォニックゲインを高めた一撃をお見舞いする。これを見て、カリオストロは俄然これを放置する訳にはいかないと気合を入れた。

「賢者の石の輝きを封じた上にユニゾンッ! こんなの、サンジェルマン達にやらせる訳には――」

 もう出し惜しみしてはいられないと、カリオストロは両手の魔力を込め最大出力の攻撃を2人に見舞おうと構える。

「やらせるわけにはァァッ!」

「何あれッ!?」
「何だか分からないけど、ヤバそうデスッ!」

 難しい原理は分からずとも、直感であれが差し違え覚悟の一撃を放つ前兆である事を見抜いた2人。それを証明する様に、カリオストロはその全力を解放するべく2人に襲い掛かった。

「あーしの魅力は爆発寸前ッ!」

 このカリオストロの本気を前に、響と切歌も勝負に出る。魔力の光を帯びて殴り掛かって来るカリオストロの拳に、響が同じように拳を握って迎え撃つ。強烈な相手からの一撃を、響の握り締めた拳が受け止めた。

「ぐ、ぅぅぅぅぅぅぅ……!」

 拳を砕かれそうになるほどのカリオストロからの圧力に、イグナイトを起動したとはいえ流石の響も押されて後ろに下がらされる。これ幸いと、カリオストロは更に力を込めて響をこのまま粉砕しようとした。

「おおおおおおおッ!」

「ッ、切歌ちゃん!」

 相手が更に力を込めようと一瞬圧力を緩める、その瞬間を響は待っていた。この僅かな間隙に、響は腰のブースターを点火し体を浮き上がらせ足を後ろに伸ばす。そこに背後から迫った切歌と足底部同士を連結、そして両者のブースターを最大出力で噴射させ錐揉み回転しながらカリオストロを逆に押し返した。その圧力は、全力のカリオストロすらも凌駕していた。

「な、嘘……!?」

 まさか自分が押し返されるとは思っていなかったカリオストロは、驚きのあまり体を強張らせた。その瞬間2人は更に攻撃を押し込み、響の拳が回転しながらカリオストロの腹に突き刺さった。

「うぶぉっ?!」

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」」
[必愛デュオシャウト]

 カリオストロはそのまま響と切歌により地面に叩き付けられ、出来たクレーターの中心にめり込んだ。攻撃を決めた響と切歌は、肩で息をしながらクレーターの中心に倒れるカリオストロを見降ろした。

「うぐ……ぁ……さ、さん、じぇるま…………かはっ」

 ただでさえ先程不意打ちで脇腹をクリスに撃たれたダメージがあるのに、ここに更にユニゾンで出力を増したイグナイトの合体技を喰らっては一溜りもない。カリオストロは転移結晶で逃げようとしたようだが、意識を保ち続ける事が出来ず取り出した小瓶は小さな音を立てて地面に落ちただけだった。
 そして意識を失ったカリオストロのファウストローブは解除され、それを見て響と切歌も安堵の溜め息を吐きイグナイトを解除する。

「はぁ~……か、勝てたぁ……」
「ふへぇ~。もうクタクタデ~ス」

 疲労困憊と言った様子の2人に、クリスを横抱きにした透が近付いて来た。レギオンファントムを退けた後、こちらも限界に達したのか崩れ落ちそうになったのを透が抱き上げて連れてきたのだ。

「あ、透君ッ! クリスちゃんッ!」
「2人も大丈夫だったデスねッ!」
「おぅ」

 近付いて来た2人にクリスも返事を返す。その間もクリスは透にお姫様抱っこをされたままであり、その光景に響と切歌も思わず目を瞬かせた。

「えっと……何か、前よりも距離近くない?」

 響の指摘にクリスは一度透の顔を見る。彼女と目が合うと透は優しく微笑み、クリスはそれに頬を赤く染めるとそのまま彼に甘えるようにギュッと抱き着いた。
 今までずっと疎遠になっていた反動だろうか。透は透でクリスから自分を前に出せと言われ、それに従う様に自分に正直に愛しいクリスの事を絶対に離さないと言う様に抱きしめる。

 その光景に響も切歌も思わず顔を赤くした。

「あわわわわわッ!」
「ク、クリス先輩も透先輩も大胆デ~ス……!」

 結局2人は、今まで以上に距離が近くなった透とクリスのラブラブっぷりを間近で見せられ続け、亜空間から脱出に成功した装者達もその光景に顔を赤くしたり目を丸くしたりと様々な反応を見せるのだった。




***




 翌日、透とクリスはソーニャとステファンと共にクリスの両親の墓前を訪れていた。ソーニャは2人の墓前に花を手向け、2人の死を悼み静かに手を合わせる。その隣ではステファンも姉に倣って、クリスの両親の死に哀悼の意を表していた。

 心の底から自分の両親の死を悼んでくれるソーニャに、クリスは素直に感謝した。

「ありがとうな。ソーニャ、ステファン」
「良いのよ。何時かは来たいと思っていたし。これで私も、本当の意味で前に進めそうよ」
「前に……そう言えば、ソーニャって今は何してんだ?」

 復興に手を貸している事は知っていたが、それ以外で何をしているかは知らなかった。なので純粋に興味を持って訊ねてみれば、返ってきたのは意外な答えだった。

「今は、その……家や家族を失った子供達の支援をね」
「え? それって……パパやママの遺志を継いで……?」

 クリスの言葉にソーニャは静かに頷く。クリスの両親の死後、ソーニャは自分に出来る事をと2人の遺志を継ぎ子供達の支援に力を注いでいたのだ。それは決して楽な道ではないだろう。特に内戦が続く国なら猶更だ。それでも彼女は諦める事無く、嘗ての自分のミスを清算するように。
 だがこれからは違う。これからは、本当の意味で子供達を、故郷の人々を笑顔にする為に活動するのだ。クリスと透が過去を乗り越えて前に進む事を選んだように。

 立ち上がったソーニャは、まるで親が子を見るような目で透とクリスの事を見つめた。

「頑張ってね、2人共」

 それはこれから未来に向けて歩む2人へのエール。何時か、世界中の人々を笑顔にする為に2人が飛び立つ時を心待ちにしての言葉であった。その言葉を正しく理解した2人は、それに応えるように頷き彼女の手を取った。

「あぁ。何時か必ず、またそっちに行くからな」
「待ってるからな、クリス! 透も!」

 微笑み合うクリスとソーニャの横で、ステファンと透が軽くハイタッチする。

 この場に最早過去に囚われて足踏みする様な者は誰も居ない。誰もが未来に希望を見出し、歩む事を選んでいた。

 その4人を祝福する様に、爽やかな風が彼らの間を吹き抜けていくのだった。 
 

 
後書き
と言う訳で第178話でした。

透とクリスは、今までが疎遠になっていた反動で今まで以上に距離が近くなりました。クリスなんかはもう自分の方が、そう言うのは家でやれ、言われるくらいになってしまいましたね。

あ、それとこの後カリオストロはめでたくS.O.N.G.により捕縛されます。次回はそのあたりも描いていくことになります。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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