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無意味ブランク

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第一章

                無意味ブランク
 重い病になってしまってだ。
 向田七菜香は暫くバイオリンを弾いていなかった、世界的なバイオリニストだっがたそれが出来なかった。
 それでだ、彼女は退院してからこんなことを言った。五角形の顔で黒髪をロングヘアにしていて大きな澄んだ目で眼鏡をかけている。すらりとしたスタイルで背は一六〇位だ。
「やっとね」
「バイオリンが弾ける」
「そうだっていうのね」
「だから嬉しいのね」
「ええ、何しろ面会謝絶絶対安静で」 
 そうした状況になってというのだ。
「もうずっとね」
「バイオリンどころじゃなくて」
「ずっと安静にしていた」
「そうだったわね」
「まあ癌とかじゃなくて」
 七菜香はこのことはよしとして言った。
「今は助かる病気で」
「よかったな」
「このことはね」
「今は助かる病気で」
「まだよかったわね」
「死んだらね」
 そうなればというのだ。
「もうバイオリンを弾くにも」
「この世じゃ無理だから」
「死んでからってなるから」
「そうなるからね」
「だから」
「そのことはよかったわ、だからね」
 それでというのだった。
「これからどんどん弾くわ」
「またそうするんだな」
「入院するまでみたいに」
「そうするのね」
「ええ、今から楽しみよ」
 目をきらきらさせての言葉だった。
「本当にね」
「そうか、けれどな」
 七菜香を出迎えた一人がここでこう言った。
「ずっと弾いてなかったからな」
「ブランクね」
「一年位な、だからな」
「それね、けれど弾かないことにはね」
 さもないと、というのだ。
「何もはじまらないから」
「だからか」
「ええ、弾くわ」
「そうするだな」
「早速でもね」
 七菜香は笑顔で言った、だが。
 皆彼女が長い間弾いていなかったので正直不安に思っていた。
「大丈夫かな」
「一年位弾いてなかったし」
「腕も落ちているだろう」
「一年は長いわよ」
「ブランクを埋めるのは楽じゃないだろうな」
「どうしても」
 周りはこう話していた、そんな中でだった。
 七菜香はバイオリンを弾いた、その腕はというと。
「あれっ、落ちてないぞ」
「入院する前と変わってないぞ」
「相変わらず見事だ」
「これならすぐにコンクールに出られる」
「いい腕じゃない」
「これは」
 ある者がここで気付いた。
「元から凄くてしかも入院している間ずっとね」
「バイオリンのことを考えていて」
「イメージトレーニングをしていて」
「楽譜も読んでいて」
「勉強していてか」
「それでなのね」
「元から実力が高くて」
 そしてというのだ。 
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