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父の死に絶望していたけれど

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第一章

                父の死に絶望していたけれど
 警察官の父が犯人から市民を護って殉職した。
 高校生の宮崎大貴はこの現実に苦い顔で言った。父親そっくりの顔で太い眉にきりっとした目をしていて唇は引き締まっている。面長で癖のある黒髪を後ろにしていて一七七位の均整の取れた体格をしている。
「立派だよ、警察官としてな」
「けれどなのね」
「死ぬなんてな」
 母の愛未小さな猫系の顔で黒髪をショートにしていて一六九位のすらりとしたスタイルの彼女に答えた。
「幾ら何でも」
「名誉あることよ、それに」
「殉職だとだよな」
「遺族年金も入るしこれまでの貯金もあるから」
「俺達暮らしていけるな」
「そうよ、だから進学のこととか気にしないで」
「それはいいよ、ただ父さん殺した奴は生きていて」
 大貴は苦い顔で言った。
「死刑になるかどうかもわからないよな」
「お父さん含めて二人殺してるけれど」
「日本だとな」
「色々な考えの人いるから」
「死刑廃止とかな」
「そういう人もいるから」
「何で死刑にならないんだよ」
 人二人殺してもというのだ。
「本当にな」
「そのことがなのね」
「嫌だよ、親父殺され損かよ」
「人を助けての殉職よ」
「それでもだよ。何で殺されて殺された奴が死刑にならないんだよ」
 いい父だった、家庭でそうで今終わった葬式の場で警察の人全員から立派な警察官であり友人であり先輩だったと言われた。このことは嬉しいが。
 それでもとだ、学生の喪服である制服姿で喪服姿の母に言った。
「あんないい父さんがそうなって人殺しが生きるなんてな」
「まだ死刑にならないと決まった訳じゃないわ」
「どうだろうな」
 母に苦い顔で言った、そしてだった。
 大貴はこの時からすっかり暗くなった、喋らなくなり人付き合いもそうなりいつも不機嫌な顔を見せていた。
 学校は通っていたがそれだけでまことに暗くなった。それで母が家で彼に言った。
「あまり考えてもね」
「仕方ないか」
「ええ、お父さんも前を向いて欲しいと思ってるわよ」
 こう息子に言うのだった。
「それにお父さんが護ってくれたから」
「助かった人いるんだよな」
「そうだしね」
「それでもだよ、あの犯人前科九犯で凶悪犯罪ばかりしてるだろ」
 このことをだ、大貴は言った。
「強盗殺人して逃げてる時で」
「自暴自棄になって近くの人刺そうとしてね」
「追跡していた警官の一人だった父さんが咄嗟に出て」
「それでだったでしょ」
「立派だったよな」
「だからね、落ち込まないでね」
「わかってるよ」 
 これが息子の返事だった。
「俺だって。けれど」
「どうしてもなのね」
「家族がああなったんだからな」 
 それ故にというのだ。
「今はな」
「そうなのね」
「ああ、何であんな奴さっさとあの時撃ち殺さなかったんだよ」
 今度はこうも思った。
「本当にな」
「それもね」
「仕方ないよな」
「日本じゃ警察官が発砲しても言う人いるから」
「日本は悪い奴に優し過ぎるだろ」
 苦い顔でこうも言った、家で喋ったが言うのはこんなことばかりだった。
 暫く彼は暗く過ごした、だが。 
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