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リュカ伝の外伝

作者:あちゃ
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アーティストとエンジニア:五限目『国家として』

(アリアハン王国:天空城・謁見室)
ラッセルSIDE

俺の彼女のリューナが社長に就任する事が内定した数日後……
何故か目の前に厳ついドラゴンが鎮座している。
そう、ここはアリアハン王国の天空城にある謁見室だ。

だから目の前のドラゴンはアリアハン王って事になる。
何故に王様がドラゴンなのか……答えは簡単。
王様であると同時に、この世界の創造主たるマスタードラゴン様だからだ!

「珍しいなウルフ宰相。貴殿がワザワザここへ来るとは……何用かな?」
威圧感ハンパないマスタードラゴン様が我々の中で一番位の高い人物に声を掛ける。
そう……何故だか俺はリューナと共に宰相閣下に連れられてアリアハン王に謁見しているのだ。

「正直言って来たくはなかったのですが、緊急な用件がありまして馳せ参じました」
正直言って俺も来たくなかったです!
俺は何も関係無いと思いますが?

「緊急な用件……ほほぅ。個人的な用件と受け取って良いのかな?」
「いえいえ……私はグランバニア国王の代理で参りました。それ即ち公用でございます」
公用ってアレだろ……リューナに天空人の技術を学ばせるってやつ。

「……公用と言うのであれば、国王自らが出向くのが常識ではないのかな?」
「その方が良かったですか? 私は気を利かせて出向いてきたつもりです。もしリュケイロム陛下が自ら出向いてきたとなれば……こちらからの要求に対して話し合いの余地などが無くなりかねませんが?」

「ぐっ……た、確かに。宰相殿の心遣いに感謝すべきかもな」
「お褒めに与り恐縮です。我が主の事は誰よりも熟知しておりますので」
言葉の端に“お前何も解ってない”と混じってる気がする。

「しかし口振りからすると私に何か要求があるのかな?」
「当然でしょう。私も人間なんで暇じゃぁないんです……何らかの用件が無ければ来ませんよ」
要求を言う立場の態度じゃない。
ちゃんと頭を下げろよ。

「そ、そうですね……人間も暇ではないと言うことが、過去の過ちで学びました。では暇ではない者同士、早々に要求をお願いします。検討するにも時間が掛かりますからね!」
あ、ダメだ……『お前の要求なんか受け入れん!』って感じの態度だ。

「では私の部下……の“彼女(フィアンセ)”から、今回の用件を伝えさせて頂きます」
「ほう……部下の彼女(フィアンセ)……ねぇ。それは勿論そちらの娘……リュカの娘であるリューナ嬢と言う事ですな?」

「他に“彼女(フィアンセ)”と呼ばれる様な存在(女)は来てねーだろ」
言わなくて良いのに……俺も思ったけど、ワザワザ言わなくて良いのにボソッと宰相閣下が呟いた。勿論聞こえる様な声で。

「お初にお目に掛かりますアリアハン王」
マスタードラゴン様は凄い形相で宰相閣下を睨んでいたが、リューナが恭しく挨拶をしたので視線を彼女に向ける。
当の宰相閣下は気にもしてない様子だ。

「リューナ嬢よ……私と其方は『お初』ではないぞ。数年前だが私は“プサン”という人間の姿で、其方の父上と共に会っておる。忘れたのかな?」
「いえ。勿論憶えておりますが、本日私が馳せ参じるに居たる立場は、“グランバニア王国に雇われたエンジニア”でありまして、その立場としては『お初』になります。もし気分を害されたのでしたら深くお詫び致します」

「いや、そういう事であれば了解した。特段気を害しては居らぬ故、謝罪は不要である。しかし若さと血筋に似合わぬ奥ゆかしさ……そのままの淑女に育ってもらいたいな」
言外に陛下と宰相閣下へのディスりを感じる。

お父上に対して大変敬意を持っている娘に些か拙い言い様だと思い、横目で顔色を覗う。
だが特段気にする素振りも無く視線をマスタードラゴン様に固定している。
怒ってないのか……それとも激オコなのか……解らないから凄く怖い。

「ではアリアハン王。私めから折り入ってお願いがございます」
「ほうほう、何かなリューナ嬢」
ところで……俺って居る意味ある?





「……と言うワケで、情報を発信・電波・受信する為の技術提供をお願い致します。勿論そのまま天空人の技術を使用するわけにも参りませんので、私が扱い易く致しますので……早急なる手配をお願い致します」
自分達で使い易いように技術を改造するから、手っ取り早く教えろ……と言う事らしい。

「か、簡単に“技術提供”と言われてもなぁ……そう簡単に高等な技術を教えるわけにはいかぬ。気を悪くされては困るが、お前等人間が悪用しないとも言い切れない。何とか自らの力で開発をしてもらいたいのだが?」
楽すんなって言われてますね。

「アリアハン王。我々も本来であればそのつもりだったが、貴殿には我が国に対して借りがあったでありましょう。ソレを返す機会を設けたのですよ。解りますか?」
予定通りなのか、断られる事を想定した対応をする宰相閣下。

「“借り”? そんなモノは無いが……何を言っているのだね宰相殿!」
「借りが無い? 何を馬鹿な。貴殿はアリアハン王に即位する以前に、我が国の重要な人物の命を見捨てたではないですか! 謝って許される問題では無いですぞ!」

「リュ、リュカ王の事を言っているのであr「リュケイロム陛下の事ではございません!」
言い訳(?)をしようとするマスタードラゴン様に食い気味で釘を刺す宰相閣下。
まるで水を得た魚だ……生き生きしている。

技術提供に関する説明が終わったリューナは、既に発言権を宰相閣下に渡した様子。
普段なら宰相閣下が出しゃばる事に苛立ちを見せているが、今に限っては気にする素振りも無い。
今回は二人はタッグを組んでいるって事か?
恐ろしいな。

「リュカの事でないとすれば……一体誰の事を言っているのだ? 皆目見当も付かないが!」
「これは困りましたな……我が王家では大問題になっているのに、アリアハン王は憶えていないと仰る。我が国(グランバニア)を馬鹿にしすぎでは!?」

「馬鹿になどはしておらん! 本当に何のことか解らぬのだよ!」
「はぁ~……やれやれ。ではご説明致します」
相変わらずムカつく態度だ。オーバーに肩を竦めて首を横に振っている。

「貴殿は神であると言う尊大な態度で、我が国の国王を誘拐拉致し異世界に送られました。その件で我が王家は混乱に陥り国王救出に動きましたが、その際に不慮の事故により我が国の王太子殿下までもが異世界へ……更に事故は続き、我が国の王太子殿下は命の危機にさらされます。本来であれば貴殿が責任を持って我が国の国王陛下と王太子殿下の命を救出しなければならないにも関わらず、救出に必要な“天空の剣”を異世界に送る事に対し拒絶の態度を示しました! これは如何なる理由があろうと命を見捨てたと同義であり、これを看過する事は出来かねます。 家臣を初め、国民は許さないでしょう。アリアハン王国が我が国に対して友好的である事を分かり易く示さなければ」
酷い恐喝である。

「そ、その件に関しては、あなた方が使用しているMH(マジックフォン)とかいう代物の提供で解決しているはずですが!?」
アレって天空人の技術なのか!
道理で凄い技術なワケだ……って、解決済み?

「ほぅ……私はてっきり、MH(マジックフォン)の提供は、リュケイロム陛下を誘拐拉致した事への謝罪だと思っておりました。なるほど……そういう事であれば、ティムアル殿下の命を見殺しにした件で技術提供を迫るわけには参りません」
「わ、解って頂けたのなら……さ、幸い(汗)」

「では改めて……リュケイロム陛下を誘拐拉致した件での謝罪要求を致します! 我が国民への危険と大いなる混乱を招いた事……簡単に許すわけにはいきません。王太子殿下だけであれば……まぁ時間を掛ければ代わりを用意できたワケですし、くだらない技術の提供だけで済ませる事が出来ましたが、現役の国王陛下を誘拐拉致した事となれば、もっと大きな発展に寄与してもらう! そうですね……天空人に比べて人間の寿命は短い。そこら辺を如何にかしてもらいましょう……か!」

「そ、そんな自然の摂理に反する事など出来ん!」
「当然でしょう。私も全人類を不老不死にせよとまでは言いません。ですが我が王家に対しての罪であるわけですから、グランバニア王家に入った者の寿命を100倍にする秘薬の提供はお願いします。それが我が国との和解条件です。なんせ現役国王の誘拐拉致ですからね!」

「ま、待たれよ宰相殿……私の思い違いであった。その件こそMH(マジックフォン)の提供で解決しており、未だに解決しておらぬはティムアル殿下に対してだけであった。技術提供の件……快く引き受けようぞ」
マスタードラゴン様の声が上擦っているのが分かる。
普通、神様を脅しますか?

「最初っからそう言え」
宰相閣下は恭しく頭を下げながら、聞こえるような小声で言い放つ。
マスタードラゴン様の頬がピクピク痙攣しているのが分かる。
部下でこれなのだから、陛下自らが出張ってきてたらと考えると……怖いなぁ。

「で、では……もう良いかな?」
もう関わりたくないのだろう。
取り敢えず早々にこの場を解散させたがっている。

「良くはありませんわ、プサン様♥」
しかし、終わらせないのが俺のフィアンセ。
可愛い声と美しい笑顔で、マスタードラゴン様をたじろがせる。

「先程、私の血筋について仰っておりましたわよね」
「も、申したが……何か気に障ったのなら謝ろう!」
必至だ。リューナの声も顔も怒ってはないが、絶対怒ってるってのが感じ取れるから。

「先程まではグランバニアという国の要請で話しを進めていましたが、ここからは私の個人的な訴えとなります」
「こ、個人的な……?」

「私の大切な敬愛する愛しのお兄様の命を蔑ろにした事……許せません! 姉妹の代表として私に贖罪して下さい」
「そ、そんな事言われても……先程の情報を発信・電波・受信する為の技術(通信技術)の提供で良いであろうに!」

「言いましたわよね! それはグランバニアに対しての贖罪であり、私個人への贖罪ではありません。別の知識を授けて頂く事で許しますわ♥」
「一方的な! じゅ、寿命延長関連の知識であれば絶対に断るぞ!」

「そんな知識(技術)があるのですか?」
「無い!」
「では別ですわ」
「……内容による」

「私にルーラの知識(技術)をお教え下さい。そこから発展させて色々なマジックアイテムを作りたいと考えております」
ルーラ(瞬間移動)の!? だ、ダメに決まっておるだろう!」

「決まってなどおりません!」
「ルーラは高等な魔法だ。万人が簡単に使用できるようになったら、戦争利用が懸念される! 認める事は出来ない」

「認めてもらいます!」
「出来ぬ! 貴国は既に危険な武器を開発してるであろう。あれだけでも恐ろしい事になり得るのに、瞬間移動までアイテム化させるわけにはいかぬのだ」

「元を正せば貴方の所為でしょう! 貴方が神という立場に奢り、一国の現役国王を誘拐するから、今後に備えて他国からの武力介入を抑止する武器を開発せざるを得なかったのです! 国のトップが何時(いつ)居なくなるか判らない……急に居なくなられ他国に隙を突かれて攻め込まれては、組織的な抵抗も出来ずに力無き国民が犠牲になる。それをさせない為に心ならずも武装強化を遂行したに過ぎません。そうなった原因を作っておいて、国民を守る事を許さないとは……以後は“神”と名乗るのを止めて“魔王”と名乗って下さい。名前負けも甚だしい!」

「あ、あれは仕方なかったのだ! 大勢の人々を邪悪なる者の手から守る為に、急ぎ其方の父上の力が必要になったのだ!」
「何を言うかと思えば……まるで私が邪の者を滅する事に反対している様な言い方ですわね。不愉快ですわ!」

「では分かってもらえるよな?」
「分かってないのは貴方です。邪を滅するのであれば“正義の味方”・“天空の勇者”そんな風に呼ばれている男を送り込めば良かったでしょうに! でも貴方は伝説の勇者様を送らなかった……代わりに彼の父親を送り込んだ。何故ならば、大変危険な冒険になる事は予想していたし、命を落とす事も考えていたから。我々の世界の勇者様が、伝説の武具と共に帰らぬ者になっては拙い。そう考えて帰らなくてもよい……寧ろ帰らないで欲しい人間を犠牲にしたのです! その証拠こそまさに今回の議題である事件……ティミーの命を救う為に天空の剣を即座に送らなかった事に繋がるわけですからね!」

「そ、そんな事はない! な、何故なら私は知っていたから。リュカが生きて帰ってくる事を太古より知っていたのだ! あの件で生きて帰って来て、後にこの世界の過去に行き悪を滅する事を私は知っていた。だから……」

「過去の世界に行くのは、何も帰って来てからとは限りませんよね? 異世界で事件に巻き込まれ、この世界の過去に現れるって可能性もあったではないですか!? そしてその過去にはティミーと天空の剣は現れなかった……この世界から伝説の武具が無くなる事を恐れたのですよ! だから父の命も、愛しき兄上の命も蔑ろにしたのです! さぁ贖罪を!」

恐喝だ。
これは紛れもなく恐喝である。
覚悟はしていたが、結婚後は尻に敷かれよう。





暫くの口論後……
遂にマスタードラゴン様が折れて、グランバニア王国とリューナ個人の要求を受け入れてくれた。
だがこの血筋の恐怖はまだ続く。

帰り際、アリアハンの人々が周囲に居なくなったタイミングで、宰相閣下がリューナに尋ねる。
「良いのか? 勝手に姉妹代表としてマスドラからの贖罪を受け取っちまって? 他の姉妹が怒るぞ」

「早い者勝ちです。それに気付きもしないでしょう」
「まぁ……ポピー姐さんくらいかな、気付くとして」
「じゃぁ問題無いでしょう」
「末子が気付かなきゃな」

末子?
つまり末っ子って事だな。
そうか……まだ陛下のお子さんは大勢居るんだな。

「それに……」
「『それに』?」
それに何だ?

「ティミーの父親へは、まだ贖罪してませんでしょう(笑)」
「うわっ……まだアイツから搾り取るの?」
ティミー殿下の父親って……陛下の事ですよね!?

「その時が来れば、本人が直接乗り込んでくるでしょう。私の血筋を侮った罪です……いい気味だわ♥」

ラッセルSIDE END



 
 

 
後書き
実は今回のエピソードを含め、
三限目・四限目・五限目は
他のエピソードを書いてる最中に思い付き、
急遽完成させた話です。

次の更に次のエピソードまで書き終えてからの追加でした。
だからストックは万全!
このペースで10月半ばまで掲載できるはずです。
私の体調次第ですけどね。 
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