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ドリトル先生と桜島

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第九幕その六

「人間が乗り込んで操縦して敵艦に体当たりする兵器だよ」
「それも凄いね」
「そこまでする?って思うよ」
「本当にね」
「そこまでした事例は他にはないから」
 全く、というのでした。
「特攻隊は悲しくて恐ろしいよ」
「そうだよね」
「何よりもね」
「そんなものだね」
「そして美しいね」
 そうでもあるというのです。
「今はわかるよ、昔はとんでもない戦術だと思ったよ」
「死ぬことは絶対だからね」
「それで敵諸共なんて」
「他の国じゃ有り得ないわ」
「当然イギリスでもね」
「そう、だからね」 
 それ故にというのです。
「イギリスにいた頃は日本人はよくそんなことが出来たってね」
「思って」
「それでだね」
「先生も驚いて」
「信じられなかったんだね」
「そうなんだ、恐ろしい戦い方だとしかね」
 それこそというのです。
「若し僕が艦艇に乗っていて」
「こんなの来たらね」
「怖くて仕方ないよね」
「爆弾搭載して全速力で体当たりしてきたら」
「自分は死んでも相手を倒すなんて」
「そんな人達と戦ったらね」
「そんな人達の顔を想像出来るかな」
 先生は皆に尋ねました。
「こっちに命を捨てて倒さんとして来るんだよ」
「物凄い顔だね」
「間違いなく」
「そんな顔で突っ込んできたら」
「そしてその顔を見たら」
「想像するだけで寒気がしたよ」 
 先生は真顔でした、そのお顔で言うのでした。
「ドイツ軍よりも日本軍とね」
「戦いたくなかったんだ」
「先生としては」
「そうだったのね」
「うん、絶対にだよ」
 それこそというのです。
「戦いたくなかったよ」
「そうだろうね」
「僕達なんか想像もしたくないよ」
「何があっても」
「それこそね」
「そう思っていたよ」
 かつてはというのです。
「けれどね」
「今はだね」
「先生は違う考えだね」
「そうなのね」
「確かに今も怖いよ」
 特攻隊のその戦い方はというのです。
「有り得ないからね、けれどね」
「それでもなんだね」
「悲しいと思って」
「そして美しい」
「そう思ってるんだね」
「先生は」
「そうだよ、悲痛美って言うんだね」
 しみじみとしたお言葉でした。
「これは」
「不思議な言葉ね」
「悲痛、悲しくて痛い」
「けれど美しいって」
「とてもね」
「あの戦争の日本軍はそうだったんだ」
 特攻隊だけでなくというのです。 
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