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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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第94話:レジアス・ゲイズ

部屋に入ってきたゲイズ中将は俺の敬礼に返礼を返すことも無く
ゆったりとした動きでテーブルを挟んで俺と反対側の椅子に座る。
腰をおろした中将に鋭い目で射抜かれ、俺は椅子に座ることもなく
立ちつくしていた。

「座ったらどうかね?」

「は、はい・・・」

野太い声ではあるが柔らかい口調でそう促され、俺は慌てて
自分の椅子に座る。
その場の雰囲気にのまれたまま俺は一言も発することなく
中将の顔を眺めていた。

「君は?」

「自分は本局古代遺物管理部機動6課所属のシュミット3佐です」

「機動6課・・・か。では、君もあの戦いに?」

「はい。しかし、自分はその前の戦いで負傷したため後方での指揮に
 あたっておりました」

「その前の戦いというと・・・」

「スカリエッティによって地上本部ほかの施設が攻撃された時ですね。
 自分は6課の隊舎の守りについておりましたが、敵の攻撃により負傷を」
 
「そうか・・・」

中将はそう言ったきり難しい表情で黙りこんでしまう。
俺もそんな中将になんと声をかけてよいかわからず、
部屋の中を沈黙が支配する。
しばしの時が流れて、中将がその沈黙を破った。

「で、君はなぜここに?」

「と、いいますと?」

「何の用も無くこんなところまで出向く者はおらんよ」

「そうですね・・・閣下と直接お会いしてお聞きしたいことが
 いくつかあるからですね」

俺がそう言うと中将は渋い顔をする。

「話・・・か。知り得ることは取調べで話したつもりだが」

「閣下・・・私は・・・」

そこで中将は俺の話を遮るように手を上げる。

「閣下はよせ。私はもう中将でもなんでもない。ただの被告人だ」

「では、ゲイズさんとお呼びしても?」

「好きにしろ」

憮然とした表情でゲイズさんはそう言った。

「では、ゲイズさん。最初に申し上げておきますが、私はJS事件の捜査を
 担当しているわけではありません。今日も捜査官や管理局員としてではなく
 いち私人としてここに参りました」

「詭弁だな。局員でなければここに来ることはかなうまい」

ゲイズさんは憮然とした表情を崩すことなく指摘する。

「確かに。ですが管理局員としての立場などとは関係なく私的に
 あなたと話をしに来たのだという点についてはご理解いただきたいのです」

俺がそう言うとゲイズさんはしばらく間をおいて鷹揚に頷いた。

「よかろう。それで、話とは?」

ゲイズさんの言葉を受けて俺は小さく息を吐くと、話を始めることにした。

「8年前、首都防衛隊に所属するゼスト隊がスカリエッティのアジトに
 突入した際、戦闘機人によって隊が全滅するという事件がありました。
 もちろんご存知ですよね?」

「ああ」

短くそう言ってゲイズさんは頷く。
その表情から感情をうかがい知ることはできない。

「調書によればその頃すでにあなたは人造魔導師計画と戦闘機人計画を
 推進していたとあります。つまり、ゼスト隊が突入する先には
 スカリエッティの率いる戦闘機人がいることは判っていたはずです。
 ここから導き出される答えは・・・」

そう言って俺はゲイズさんの目を正面から見つめた。

「あなたが戦闘機人の実験台としてゼスト隊を利用した」

俺がそう言った瞬間、ゲイズさんの眉がピクリと動いた。

「それは違う。私はあの件に直接関わってはいない」

「なら、何故ゼスト隊から発せられた応援要請を各隊に断らせたんです?
 あなた自身が圧力をかけてまで」

それはクレイから受け取った情報から俺が導き出した答えだった。
俺の言葉にゲイズさんの両目が見開かれる。
俺とゲイズさんの話が始まって、初めてゲイズさんの表情が動いた瞬間だった。

「何故それを・・・」

「地道な調査の結果から推論したことです。どうやら当たっていたようですね」

俺がそう言うと、ゲイズさんは苦虫をかみつぶしたような顔で俺を見た。
しばらく沈黙が続いたのち、ゲイズさんはぽつぽつと語りはじめた。

「あいつは最初、”スカリエッティのアジトを発見した。
 だから地上本部の総力を上げて叩きたい。協力してくれ”と言った。
 無論、私としてはそれに協力などできん。
 将来の貴重な戦力を失うわけにはいかんかったからな。
 だから私は危険だからやめておけと言った。
 だがあいつは、”スカリエッティを放置する方がよほど危険だ。
 協力してくれないのならそれで構わんから邪魔はするな”と言って
 独自に突入作戦を立案し、首都防衛隊の他の隊に応援要請を出した」

「さぞ焦ったでしょうね、あなたとすれば。
 万一スカリエッティとの関係が明らかになればあなたは破滅だ」

俺の言葉にゲイズさんは小さく頷く。

「そうだな。私は自らの保身のため、あいつに突入作戦の実行を
 諦めさせる必要に迫られた。だからこそ、あいつが突入作戦への
 助力を依頼した部隊に協力しないよう圧力をかけたのだ」

「そうすればゼストさんは作戦を中止するだろうと?」

俺がそう尋ねるとゲイズさんは頷く。

「そうだ。あいつはどのような状況であっても冷静な判断ができるし、
 部下や仲間の命を第一に考える指揮官だった。
 だからこそ、戦力が不足するのであれば作戦を中止するだろうと考えた」

「しかし、その目論見は外れた訳ですね」

俺がそう言うと、ゲイズさんは苦しげな表情を浮かべる。

「私はあいつの正義感や義務感を読み誤った。
 あいつは私が考えているよりもはるかにスカリエッティを脅威と感じていた。
 だからこそ、部下の命を危険にさらすと判っていながら作戦を
 強行したのだろう」

「そしてあなたはどうしたのです?何もしない訳にはいかないでしょう」

俺の言葉にゲイズさんは苦々しげな表情で俺を見据える。

「君は何を聞きたいのかね?」

「事実です」

俺が短くそう答えると、ゲイズさんは目を閉じて小さくため息をつくと、
再び目を開いて俺の顔を見つめる。

「私はスカリエッティにアジトへの突入作戦が行われることを教えた。
 突入部隊の構成や作戦の実行時期もな」

「それは、スカリエッティに迎撃の準備をさせるためですか?」

俺がそう言うとゲイズさんはカッと目を見開いて俺の睨みつける。

「違う!」

短く言ったゲイズさんの声に怒りを感じた。
俺はそれにあてられそうになりながらも、努めて冷静さを保つようにする。

「ではなんのために?」

「突入作戦が実行される前にアジトの移動をさせるためだ。
 俺はスカリエッティに言ったのだ。”襲撃が行われる前に退避しろ”とな」

ゲイズさんの言葉にはそれまでと異なり感情が込められていた。
一人称が”私”から”俺”に変わったことからもそれを感じられる。

「それは本当ですか?」

「本当だ。今更ウソをついても何ら得はないからな」

「ですが、実際にはスカリエッティは戦闘機人で迎撃しました。
 何があったんです?」

「俺は知らん。スカリエッティが勝手にやったことだ」

「そうでしょうか?スカリエッティの人となりを考えれば、
 そのような行動に出るのは簡単に予測できそうなものですが・・・」

「かもしれん。だが俺はできるだけのことはしたつもりだ」

「私はそれには賛同できかねますね」

「というと?」

そう言ってゲイズさんは試すような目で俺を見る。

「私があなたの立場であれば、スカリエッティには実際よりもはるかに
 大きな襲撃があるように情報を流します。
 そうすれば手持ちの戦力では太刀打ちできないと考え、
 アジトを移動するという方に思考を傾けさせることができると思いますが」

「だが、奴にも独自の情報網はある。偽情報と判ればどのような行動に
 出るかは予想できなくなる。その方がより危険ではないかね?」

「確かに・・・」

俺は様々なパターンを考えたが、ゲイズさんの説を論破できるだけの
説得力ある案を考え出すことができなかった。

「この件についてはもうやめにしましょう。建設的ではありませんし、
 究極的には結論が出ている話ですから」

「どういう意味かね?」

「あなたが保身に走ったためにゼスト隊のほぼ全員が命を落とす結果になった
 ということです」

俺がそう言うと、ゲイズさんはカッと目を見開いた。
が、反論はなくそのまま元の憮然とした表情に戻った。

「それにまだあなたには聞きたいことがあります」

そこで俺は一旦間をとった。

「ゲイズさん。ティーダ・ランスターという名に聞き覚えはありませんか?」

 
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