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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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第93話:軌道拘置所


・・・数日後。

俺は朝から車に乗って出かけていた。
クラナガン市内に向かうと転送ポートから本局へと向かう。
本局につくと転送ポートの係官に行き先を告げる。
係官の案内である部屋に通されると、俺の目的地の管理を行う部署の
長である1尉が現れた。

「3佐。許可証と身分証をお預かりします」

「はい。どうぞ」

俺は本局運用部の発行した許可証と自分の身分証を1尉に手渡す。

「お預かりします。確認を」

「はい」

1尉から許可証と俺の身分証を受け取った係官は奥の部屋へと向かう。

「3佐。これから規則についてご説明させていただきます」

「はい」

それからたっぷり15分ほどかけて俺がこれから以降とするところについての
規則と注意事項について1尉から説明を受けた。
ちょうど説明が終わったころに、許可証と俺の身分証の確認に出ていた
係官が戻ってくる。

「1尉、確認できました」

「そうか」

1尉は係官から許可証と身分証を受け取ると、俺の方に向き直って
2つを俺に手渡す。

「ご協力感謝します」

「いえ」

俺は許可証と身分証を制服の胸ポケットにしまうと、椅子から立ち上がり
同じく立ち上がった1尉の後に続く。
奥の部屋に入ると、1つのボックスとスキャニング装置が置かれていた。

「それでは武器の類はこちらに」

「判りました」

俺は首から下げている待機状態のレーベンを1尉の指したボックスに入れて
施錠する。

「こちらへ」

1尉の誘導に従ってスキャニング装置の中に入る。
30秒程中で待っていると1尉に外へでるように促された。

「武器や危険物の類をお持ちでないことは確認できました。
 最後に、こちらの宣誓書にサインを」

そう言って1尉は1枚の紙が挟まったバインダーを差し出してくる。
見ると、先ほど別室で説明を受けた注意事項を守らなかった場合に
厳罰を受けることが書かれていた。
俺はサラッと書類に目を通すと、署名欄に自分のサインをして1尉に返した。

「ありがとうございます。それでは行きましょうか」

そう言って1尉はさらに奥の部屋へと向かう。
俺はその1尉について奥の部屋に入った。
そこには小さめの転送装置が設置されていて、先ほどの係官が操作していた。

「それでは3佐はそちらのポッドへ」

1尉の指さした方のポッドに入るとすぐに転送シークエンスが始まる。

「転送を開始します」

係官の言ったその言葉を聞きながら、俺は数日前のはやてとの
会話を思い出していた。




「で?話っちゅうのは何?」

なのはが去った後の艦長室で、はやては腕組みして俺の方を見ていた。

「ああ。ひとつ頼みがあるんだけど・・・聞いてくれるか?」

「そらコトと次第によるやろ。で、頼みって何?」

そう言ってはやては俺の顔をじっと見据えた。

「ゲイズ中将と会わせて欲しい」

単刀直入に俺が言うと、はやては眉間にしわを寄せた。

「それは難しいわ。ゲオルグくんも判ってるとは思うけど」

「判ってるつもりだよ。でも会っておきたい」

はやての言葉に頷きつつ、俺ははやてに向かって宣言する。
そんな俺にはやてはゆるゆると首を横に振る。

「判らんなあ。何でそんなにあの人と会いたいん?何をするん?」

「何をって・・・話を聞きたいだけだよ」

「調書やったら見れるはずやけど」

「読んでるよ。でも、そういうことじゃないんだ」

「何を話すつもりなん?」

「あの人が何を思い、何故あんな行動をとったのかを聞きたい」

「それは調書にも書いてある通りやと思うけど」

「それならそれでもいいんだよ。俺は俺の過去に対するケジメをつけるために
 あいつから直接話を聞きたいんだ」

「それやったら後でもええんちゃう?裁判が終わったあとやったら
 もっと楽に会えると思うで。それこそ私の仲介なんぞなくても」

「だとは思う。でも、俺は今あの人に会っておかないといけないと
 感じてるんだ。頼む、はやて」
 
俺はそう言って深く頭を垂れた。
しばしの静寂の後、はやてのため息が聞こえてきた。

「・・・頭上げて。私から捜査部に頼んでみるわ」

「いいのか?」

「頼むだけやけどね。許可が下りることは保障できひんよ」

「判ってる。ありがとな、はやて」

俺がそう言うと、はやては不機嫌な表情で追い払うように手を振った。

「早く出て行って。仕事の邪魔や」

その言葉に追われるように俺は艦長室を後にしたのだった。



回想から意識を引き上げ目を開けると、そこには先ほどまでとは
うって変わって重苦しい雰囲気の光景が広がっていた。
ポッドから出ると隣のポッドから同じく出てきた1尉と目が合った。

「さあ、着きましたよ。ここが第19無人世界、軌道拘置所です

部屋の窓からは漆黒の中にぽつぽつと光の点が見えた。

「時間も限られていますし、早速行きましょうか」

「はい、お願いします」

俺は1尉について部屋を出る。
通路は細く長く続いていて、そしてどことなく暗い印象を受ける。
本局やアースラの明るい色を基調とした内装とはちがう暗色系の内装からは
圧迫感に近いものさえ感じた。
1尉の後について歩いて行くと、通路の先にいかにも厳重そうな扉が目に入る。
1尉は扉の前まで来ると俺の方を振り返った。

「ここから先が重犯罪で起訴されている被告を収容する区画です」

俺が1尉の言葉に無言で頷くと、1尉は扉の脇にあるパネルに手をかざす。
一瞬パネルが青白く光ったかと思うと扉のロックが外れる音がした。

「さ、どうぞ」

そう言って1尉は俺に先へ進むように促す。
俺が促されるまま扉を抜けると1尉は俺に続いて扉を抜けた。
直後、自動的に扉は閉まり再びガチャリという音とともにロックされた。

「このロックは?」

俺がそう尋ねると1尉は申し訳なさげに首を振る。

「申し訳ありませんが機密です。お教えできません」

そう言って1尉はさらに通路の奥へと進んでいく。
先ほどまでと全く変わらない通路の様子に俺は少し不安を覚える。

「これほどまでにずっと同じような光景が続くと迷ってしまいそうですね」

俺がそう言うと1尉は小さく笑った。

「それが目的で全く同じ内装を全通路に採用しているのですよ。
 かく言う私も初めてここに来た時は迷ってしまいましてね」

顔だけ振り返りながらそう言った1尉の顔には苦笑が浮かんでいた。

「ですから、ここにいる間は私から離れないようにお願いします。
 監視システムは完備してますが、探すのも厄介ですので」

「わかりました」

やがて、他と何ら変わりない1つの扉の前で1尉の足が止まった。

「ここが面会室です。お入りください」

そう言って1尉はやはり扉の脇にあるプレートに手をかざし、
扉のロックを外した。
部屋に入ると簡素なテーブルが部屋の中央にあり、それを挟むように
向かい合わせに置かれた椅子が2脚あった。
部屋の隅にはこれまた簡素な机と椅子のセットが1つ置かれている。

「どうぞお掛けになってください」

俺は1尉に勧められるまま中央のテーブルに向けられた椅子の一脚に
腰を下ろす。正面には俺が入ってきたのとは違う、しかし全く同じ形の
扉が1つあった。

「間もなく来られると思いますのでそのままお待ちを」

そう言って1尉は部屋の隅に置かれた椅子に腰かけた。
俺も1尉も一言も発することなく、低く小さく唸るような空調の音だけが
面会室の中に響いていた。
しばらくして、1尉の持つ通信機が呼び出し音を鳴らす。

「はい・・・。了解した。お通ししてくれ」

1尉は通信機をしまうと、真剣な表情で俺を見る。

「3佐。ここに来る前にサインしていただいた宣誓書にも書いてありました通り
 ここでの会話はすべて記録されます。また、ここでなされた会話の内容は
 いかなる相手であっても被告の裁判が終了するまでは一切口外なさらないで
 ください。よろしいですね?」

「はい、理解しています」

俺がそう答えると1尉は固い表情で頷く。
その時だった。俺の正面にある扉がゆっくりと開き
俺がここに来て会うことを目的とした人物がゆったりとした歩みで
部屋に入ってくる。
その服装は収監者のものであったが、発せられる威厳というか
オーラのようなものは少しも損なわれていなかった。
その威圧感に俺は思わず立ち上がって敬礼する。

「お待ちしていました。中将閣下」

こうして、俺はレジアス・ゲイズ元中将と初めての対面を果たすこととなった。

 
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