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Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
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A's編
  第六十六話 双槍乱舞

 士郎と男が静かに睨みあう。
 二人の距離は士郎が一歩踏み込めば届く距離。
 士郎が双剣の時は一歩では届かない間合いが、槍となった事で一歩の踏み込みで事足りるようになったのだ。
 もし男がそんな状況で逃げようと背中を晒したらならシールドを張ろうが赤い長槍が貫くだろう。

 男も不用意に背中を晒す危険は理解しているのだろう。
 間合いを計るようにすり足で間合いを詰めてくる。

 そして、徒手の男でも一歩で間合いを詰めれる距離になった時

「はあっ!!」

 一気に踏み込んでくる。

(速い)

 男の踏み込みに士郎は冷静に男の技能の高さを理解する。

 士郎に槍を振る暇さえ与えず、懐に入り槍が苦手とする間合いまで一気に踏み込もうとする。
 並な実力者なら踏み込まれるだろう。
 だが士郎は知っている。
 この男が霞むほどの速さを、この男と比べ物にならない程に重い拳を放ってくる女性を。

 だからこそ対応できる。
 迎撃できる。

「しっ!」

 男の踏み込みに合わせるように士郎は仮面に向かって短槍の突きを放つ。
 だが男も身体を逸らし槍をかわす。
 それと同時に長槍を男を阻むように横に薙ぐ。
 そんな士郎の連撃を男は僅かに体勢を崩しながらも後ろに跳び避ける。

 間合いをとり直し、瞬時に体勢を立て直し再度攻勢に出ようとする男。
 だがそれは叶わず男は一瞬で守りに徹さざる得なくなった。

 士郎が僅かに半歩踏み込むだけで男は士郎の槍の間合いに入ってしまう。
 突きを放ち、再度男が踏み込んでくるのを阻む横薙ぎ。
 さらに士郎は踏み込みながら急所を狙った連続の突きを放つ。

 男は後ろに横に避け、間合いを詰めようとするも士郎の放つ突きと薙ぎの縦横無尽な攻撃に攻めきる事は出来ない。

 そして、士郎も本気ではなかった。

(このぐらいならかわせるか、だがもう余裕はそんなにないな)

 相手の実力を冷静に測る。
 管理局に戦いを監視されているという事を意識して、男より少し上のレベルで抑える。

 だがそれだと士郎が男を圧倒しきるのには時間がかかる。

 ただでさえここまで長期戦とはいかないが、戦いを続けている。
 管理局と士郎、そして謎の仮面の男という登場にシャマルもどう動くのが最良なのか判断できておらず、こちらの戦いを見ている。

(このままでは増援が到着する可能性もある。
 ならこのレベルのまま一気に片をつける)

 赤き長槍の上からの振り下ろしを横にかわす男。
 その男に向かって今までよりもわずかに大きく、そして深く踏み込み黄色の短槍の突きを放つ。

(これを待っていた!)

 その突きはあまりに自然で男も士郎の策だと読み切れない。
 男は突きを身体を逸らしかわしながら、士郎に魔力の籠った蹴りを放つ。
 それは

(こちらの読み通りだ!)

 振り下ろされていた赤き長槍が凄まじい勢いで引かれ、穂の腹で男の蹴りを叩きおとす。
 だがここで予想外の事が起きる。

「なっ!」

 男の足に込められた魔力が霧散し、それと同時に男のズボンの一部が霧散し、黒いソックスに包まれた足が晒される。

 士郎の手にある赤き長槍の銘は『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)
 ケルトの英雄、フィオナ騎士団随一の戦士、輝く貌のディルムッド・オディナが持ちし魔術を打ち破る魔槍である。
 そしてこの槍は士郎がフェイトと初めて出会った時に魔法を打ち破れるのか試し、魔法にも同様の効果を発揮した。

 さらに士郎の驚異的な視力は僅かな時間晒された足の肉付き、細さもしっかりと見ていた。
 そこから導き出されるのは

「女?……貴様、変身魔法で男に姿を変えているな」

 男の纏う変身魔法と男の本当の性別。

 そして仮面の男、もとい変身魔法で姿を変えている仮面の女も表情こそ、仮面で見えはしないが酷く動揺していた。

(バレた!
 いや、そんな事よりなんなのよアレ?)

 仮面の女が足を見るがそこには変身魔法がちゃん効果を発揮して男の足となっている。
 だがあの槍の穂に触れた途端、変身魔法の一部が解かれた。

(魔法無力化の槍?
 まずい。魔導師にとっては天敵みたいなモノじゃない)

 バリアジャケットにしろ、シールドやバリアにしろ魔力で編まれている魔導師。
 魔力を無力化する槍の前では防御などないに等しい。

 そんな仮面の女の困惑を察してか士郎の手から黄色の短槍が屋上に転がる。
 そして両手で握られる赤い長槍、ゲイ・ジャルグ。

「次で素顔を見させてもらうぞ」

 士郎のブレのない一点狙いに歯噛みする。

(ここで素顔がばれたらすべてが破綻する。
 なら腕一本、一瞬晒してもかわして一撃を叩きこんで逃亡する。
 あそこで見ている守護騎士はその時に攫って空に逃げ切れさえすれば)

 仮面の女も覚悟を決めて拳を構える。

 そして、その覚悟さえ、この一撃を受ける事を選択させることすら士郎の策。

(ゲイ・ジャルグに意識が向き、足元の短槍は気にも留められていない。
 さすがに管理局の手前命までは取らないが、その身をただで返すことだけはしない)

 睨みあう二人。
 士郎がすり足で僅かに間合いを詰める。
 その時

「っ」

 士郎が砕けた屋上のアスファルトに足を取られる。

 屋上のアスファルトを砕いたのは士郎が縦横無尽に振るった槍だ。

 両手で振るう槍を片手で縦横無尽に振り回したのだ。
 子供の身長と腕の長さではどうしても地面に触れることなく振るう事は難しい。

 ここにきて、次の一撃が戦いを決めるこの場面で完全な隙を晒す士郎。
 そして、その隙を逃すはずもなく踏み込む仮面の女。
 
 この戦いで見せる仮面の女の最速の踏み込みと握られた拳。
 士郎は完全に出遅れている。

 だが士郎は笑っていた。

 士郎の笑みに悪寒を感じ、足を止めようにも遅すぎる。
 跳ね上がる士郎の右足。
 足は手のようにアスファルトに転がる槍を絡め取り、その切っ先を仮面に向ける黄の短槍。
 そして、蹴りだされる黄色い閃光。

 眼で見てから動いてたのでは間に合わない。
 足の動きだけで予測し、あとは直感を信じさらに踏み込む事よって身体の進行方向を無理やりかえる仮面。

「こっのお!!」

 だがそれでもかわしきれず脇腹を切り裂き激痛が仮面の女を襲う。
 しかし仮面の女も意地があるといわんばかりに、士郎の横を通り過ぎながら受け身など考えずに身体をねじり、蹴りを放つ。

 無理な体勢とはいえ踏み込みの勢いが乗った蹴りは士郎をシャマルのすぐそばまで弾き飛ばす。
 だがその蹴りですら士郎は赤き長槍でしっかりと防いでいた。

「ぐっ」

 受け身を考えず放った蹴りのせいで地面に転がる仮面の女。
 切り裂かれた脇腹を押えながら士郎を睨みつける。

 その時、仮面の女は士郎の口が何かをつぶやいているのを目にする。
 士郎の言葉にハッとしたようにするシャマル。
 その光景にもしやと思う。

(まさかこの脇腹の傷も、守護騎士の傍に蹴り飛ばされるのも計算の上だというの?
 近接戦闘のレベルが高いとは思っていたけどそんな次元じゃない。
 この男のレベルが見えない)

 仮面の女には士郎が少年ではなく化け物のように見えてくる。
 士郎が赤き長槍を構え直し、こちらに向かって跳躍するのをみて、脇腹を押えながら身体を起こし構えをとった。




side 士郎

 黄色の短槍が相手の脇腹を切り裂き、傷を作った。
 蹴りと共に放った短槍もビルの屋上の入り口の近くに突き刺さっておりあとで回収は出来る。
 輝く貌のディルムッド・オディナが持ちしもう一振りの槍『必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)
 この槍での傷はこの槍が消滅するか、俺を倒すまで治る事はない。
 回復不能の傷である。
 これで目的はほぼ達成できたといえる。

 さらに相手の蹴りに乗じて蹴り飛ばされるようにシャマルの傍に来る事も出来た。

「逃がす手があるのだろう。
 なら早くしろ。
 これ以上は援軍が来るぞ」

 小声で蹴りを受け止めるように構えた槍と腕で口元を隠しながらシャマルに話しかける。

 そんな俺の言葉にハッとしたように頷くシャマル。

 クロノはバインドを解いたが複数重ねられた三角錐のクリスタルゲージのせいですぐには動けない。

 あとはこの仮面の奴の動きを止めるように俺の動きも止めれば舞台は整う。

 仮面の奴に向かって跳躍しながら振り下ろす長槍。
 仮面に触れさせまいと手で受け止める相手と今までと違い力で無理やり押し込むように鍔迫り合いに持ち込む。

 それにあわせて緑の三角形の魔法陣が現れる。

「闇の書よ、守護者シャマルが命じます。
 眼下の敵を打ち砕く力を、今、ここに」

 シャマルの呼び声に応えるよう闇の書から光が天に昇り、雷が光る。

 凄まじい魔力だが、これ大丈夫か?
 俺の意識が闇の書に向かった時

「はあっ!」

 俺をシャマルから引き離すように蹴りが放たれる。
 それを腕で防ぎながら吹き飛ばされたかのように距離をとる。
 それとほぼ同時に

「大丈夫か、士郎」

 クリスタルゲージから逃れたクロノが俺の傍に降り立ち、シャマルにデバイスを構える。

「今は動くな」
「なに?」

 それを阻むようにシャマルと俺達の間に入る仮面。

「時を待て。それが正しいとすぐにわかる」

 こいつ何を言っている?
 まさか闇の書の完成後の事を知っているのか?
 問い詰めようとするも

「撃って、破壊の雷!」
「Geschrieben.」

 凄まじい轟音と共に結界と雷がぶつかり合う。

「クロノ、なのは達に連絡しろ。
 これだけの威力まともに受けたらただじゃすまない」
「わかってる」

 凄まじい光に視界が奪われる。
 その光もゆっくりと収まる。

 屋上の端から結界の方を見つめる。

「なのは達は……無事か。
 そうか、アルフとユーノが守ってくれたか」

 なのは達の無事に胸をなでおろす。
 それにしてもビル等の物理的な損壊はない。
 アレだけの攻撃だというのに相変わらずふざけてるな

「安心しろ士郎、なのは達は」
「わかってる。
 ちゃんと見えてる」
「見えているって」
「眼はいいんだ」
「そんなレベルじゃないと思うんだが」

 俺の返答に呆れたような表情をするクロノ。
 なかなか失礼である。

「守護騎士と仮面は?」
「だめだ。逃げられた。
 さっきの攻撃でサーチャーとレーダーがジャミングされてね」
「結界破壊と同時に逃走用のジャミング目的か。
 抜け目がないな」

 人的被害はなのは達がシグナム達との戦いで多少怪我はしているかもしれないが、大きな怪我等はないようだ。
 クロノも仮面の攻撃による打撲。
 俺は無傷。
 となるとあとは物理被害だけか。

「士郎、この後一旦僕達の家で今までにわかった事を話しあう。
 君も来るだろう」
「ああ、参加させてもらう。
 その前に頼みがあるんだか」
「なんだ?」

 クロノは俺の頼みが何なのかわからないらしく首を傾げている。

「物理被害の修繕だ」
「ん? 先ほどの攻撃では物理被害はないはずだが。
 なのは達の戦いでの破損も結界によって影響は出てないはずだ」
「いや、そっちじゃなくてこっちだ」

 俺が手に持つ赤い槍でアスファルトをコンコンと叩く。
 クロノの視線が下に向かっていき、あっとした表情をする。

 その他にもクロノが吹き飛ばされた際に歪んだフェンスに、ビルの屋上の入り口の近く突き刺さったゲイ・ボウ。
 俺と仮面の戦いの最中でできた屋上の刃物傷や陥没。
 さらに黒鍵を最初投げたため隣のビルの壁には見事に黒鍵が突き刺さっている。

「そうか。魔術は」
「魔力ダメージだけなど便利のいいものはないぞ。
 被害は物理、魔力の両方が基本だ」
「はあ、わかったあとで要請して朝までには元通りにしておく」

 クロノの背中にどこか哀愁が漂っている。
 ただでさえ魔術に絡みが多いメンバーの一人で管理局員なのだから色々うるさいのだろう。

 その事は頑張ってもらうしかない。

 それにしても仮面の奴が意味深な事を言っていたのが気になる。

 あの者は闇の書が完成するとどうなるか、知っているのだろうか。
 シグナム達すら知らないと言っていた真実を。

「士郎、どうかしたか?」
「いや、なんでもない」
「なら、修復の要請もしたし家まで転移しようと思うんだが」
「ああ、ちょっと待ってくれ。
 剣と槍を回収する」

 黒鍵を外套にしまう様に霧散させ、赤の長槍と黄の短槍をマルティーンの聖骸布で包む。
 黄の短槍、ゲイ・ボウは霧散させると仮面の奴につけた呪いまで消えてしまうので消すわけにはいかない。

 そこら辺はなのは達には少し血生臭い話になるのでリンディさんに話すとしよう。

「待たせたな」
「ああ、その槍は?」
「少々事情があってな。
 気にするな」
「ああ」

 槍をわざわざ消さずに持つ俺の行動に首を傾げるクロノと共に今夜の戦場から姿を消した。 
 

 
後書き
先週に引き続き、士郎と仮面の戦闘です。

ちなみにですが、A's編に入っていろんな場所で戦闘があるので今回のように原作通りの所とか一部、戦闘を省略するところも出てくるかもです。

キャラが増えるとそこらへんの問題がな・・・

次回も来週にお会いしましょう。

ではでは 
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