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ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ

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ペーパーシャッフル④ 〜大空に集いし新たな仲間〜

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ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ   作:コーラを愛する弁当屋さん

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ペーパーシャッフル④ 〜大空に集いし新たな仲間〜

 

 —— 勉強会1日目夕方、とある洋菓子店 ——

 

「……分かった、明日の夕方には渡せるように準備しよう」

「すみません、またギリギリの注文で」

「いいさ。友達の誕生日を祝いたいという君のその気持ち、俺はそういう気持ちに花を添えるようなお菓子を作りたいからな」

「あはは、ありがとうございます! じゃあ明日の夕方に取りにきますね!」

「ああ。……今から何処かに行くのか?」

「はい。期末試験に向けて、クラスで勉強会をするんですよ」

「そうか……頑張れよ」

「はいっ! それじゃあ!」

 

 夕方の勉強会終了後、俺は友達の誕生日ケーキを予約しに洋菓子店にやって来ていた。

 

 今回も前日なのに快く引き受けてくれて、とてもありがたいお店だ。

 

 今後も頻繁に買いに行こうと思う。

 リボーンのコーヒータイムのスイーツにちょうどいいしね。

 

 そして、俺はそのまま勉強会・夜の部に参加するべく学校の図書室へと急いだ。

 

 

 —— 校内・図書室 ——

 

 図書室に入ると、数十人が座れる大きな机の所に平田君が見えた。

 

 すでに何人もクラスメイト達が集まっているようだ。

 

「あ、沢田君。お疲れ様」

「平田君ごめん、遅れちゃった?」

「いいや、集合時間の5分前だよ」

「そっか、よかった〜」

 

 平田君に挨拶し、皆のいる机に自分の荷物を置いた。

 

 すると、軽井沢さんが話しかけて来た。

 

「ツっ君、お疲れ様」

「あ、軽井沢さん。お疲れ様」

「私達、ペアになったね」

「そうだね、お互いに頑張ろう」

「うん! あ。でも私、勉強苦手だから、ツっ君に教えて欲しいんだけど……いい?」

 

 上目遣いで俺を見つめる軽井沢さん。

 その目線を男にするのは、あんまりオススメしません。

 

「もちろんさ。軽井沢さんはローミドルだったよね。ちょうど俺が見る予定だし、ペアだもんね」

「そっか! よかった〜♪」

 

 軽井沢さんはニコニコしながら俺の右隣の席に着いた。

 俺もそのまま席に着く。

 

 鞄から勉強道具を取り出し始めていると、左隣に誰かが座ってきた。

 

 ……麻耶ちゃんだ。

 

「沢田君、私の勉強も見てくれないかな?」

「あ、麻耶ちゃん。うん、もちろんいいよ」

「本当? ありがと〜♪」

「……」

 

 麻耶ちゃんが勉強道具を取り出し始めると、右隣の軽井沢さんも勉強道具を取り出し始めた。

 

 ……そして、そのすぐ後。俺の前の席に桔梗ちゃんが座って来た。

 

「ツ〜ナ君、お疲れ様っ♪」

「桔梗ちゃん! お疲れ様。早速初日から両方出てくれるの?」

「うんっ! なんとなく出ないとダメな気がしたからね♪」

「?」

『……』

 

 桔梗ちゃんは笑顔だが、その裏に黒い何かが見える気がする。

 

(やばいな。俺、何か怒らせちゃった?)

 

 しかしながら、皆の前でそんな事を聞くわけにもいかないので黙っておくしかない。

 

「ミドルグループの勉強会はこの机でしよっか? 皆〜、ミドルグループはこの机で勉強するから集まって♪」

 

 桔梗ちゃんが周囲の女子に話しかけると、数名の女子が集まって来た。

 

 元々、俺と桔梗ちゃんでミドルグループを見る事になっていたからちょうどいいな。

 

 始める前に、一応平田君に確認を取ろう。

 

「平田君、ミドルグループはこっちで始めるね?」

「うん。ローグループもこっちで始めるよ。堀北さんも来てくれたしね」

 

 平田君の隣に視線を向けると、確かに鈴音さんもいる。

 

 鈴音さんも初日から両方参加か〜。

 桔梗ちゃんも鈴音さんも頑張り屋だな。俺も見習わないとな!

 

「よし、じゃあ始めようか!」

『は〜い!』

 

 そして、勉強会・夜の部はスタートした。

 

 

 〜 2時間後 〜

 

 

「ん〜! 疲れた〜!」

 

 ローグループの方で、池君が大きく伸びをしながらそう言った。

 

 2時間が過ぎ、今日の勉強会は終了した。

 

 全員が勉強道具を片付け始める。

 

 俺も片付けをする中、麻耶ちゃんが話しかけてきた。

 

「ね、ねぇ沢田君。この後一緒に帰らない?」

『!』

 

 一緒にマンションに帰ろうと誘ってもらえたようだ。

 

 でも残念、俺にはまだやらないといけない事があるのだ。

 ……そう、トレーニングというラスボスがね!

 

「ごめん、俺これからやる事があるからさ、まだ帰らないんだ」

「え? まだ何かするの?」

「うん」

「……何するの?」

 

 なぜか心配そうに麻耶ちゃんが聞いて来た。

 時刻は夜の9時。遅い時間だから心配してくれているのだろう。

 

「トレーニングだよ」

「トレーニング? こんな時間に?」

「うん、日課のトレーニングをこなさないと寝れないんだよね」

「へぇ〜、沢田君鍛えてるんだ」

「まあね」

 

 麻耶ちゃんとトレーニングについての会話をしていると、軽井沢さんも話に加わって来た。

 

「ツっ君って運動神経すごいけど、そのトレーニングのおかげ?」

「うん、そうだと思うよ?」

「そうなんだ〜。あれ、でも沢田君って部活とかしてないよね? なのにどうして鍛えてるの?」

「え? あ〜。それはね〜」

 

 トレーニングしているちょうどいい理由を探そうとしていると、桔梗ちゃんが会話に加わって来て、そして先に答えてしまった。

 

「うふふ♪ ツナ君はね、大切な人を守りたいから鍛えてるんだよぉ〜♪」

『え?』

「ち、ちょ! 桔梗ちゃん! そんなストレートに言わなくても!」

「え〜? でも私が聞いた時は、そう答えてくれたじゃない?」

「それはそうだけど……よくよく考えれば恥ずかしい事言っちゃったなって」

 

 大切な人を守る為とか、イケメン以外は使っちゃいけないセリフだったと、桔梗ちゃんに言っちゃった後に反省していたんだよ……。

 

「全然恥ずかしくないよ? カッコいいのにぃ♪」

「え? 何? 櫛田さんはツっ君のトレーニングしている所を見た事があるの?」

 

 軽井沢さんが驚いた様子で桔梗ちゃんに問いかける。すると、桔梗ちゃんも笑顔で語り始める。

 

「うん、敷地内を走ってる所を見ただけなんだけどね? その時にどうして鍛えてるのかを聞いたら、大切な人を守りたいからってツナ君が言ってたの♪」

『……へぇ〜』

 

 軽井沢さんと麻耶ちゃんが何とも言えない視線を向けてくる。

 痛い奴だとか思われてたらどうしよう!

 

(こ、こうなったら、逃げるが勝ちってね!)

 

「ご、ごめん! 俺さっそくトレーニング始めるから!」

『あっ!』

 

 桔梗ちゃん達から離れ、スポーツウェアに着替える為にトイレへと駆け込んだ。

 

 

 ——ツナがトイレに駆け込むと、ロースコアグループも集まって来た。

 

 

「ツナの奴どうしたんだ?」

「きっとトレーニングに行ったのよ」

 

 須藤の質問に、堀北が答える。

 

「へぇ、ツナもトレーニングしてんのか?」

「私の知る限り、入学した時からずっとしてるわね」

「……へぇ〜堀北さんも知ってるんだね♪」

「……ええ」

 

 櫛田が笑顔で堀北に突っかかる。 

 

「こんな時間からトレーニングすんのかよ〜」

「あいつの体力どうなってんの?」

「あはは、でも体育祭の時の沢田君を考えれば、人の何倍も努力してて当然だと思うな」

 

 池・山内・平田も会話に加わって来た。

 

「……本当、尊敬して止まないわ。綱吉君の努力には」

「うふふ♪ 努力してる男の子ってかっこいいよねぇ♡」

「……うん、本当にカッコいいわ」

『うん……』

『……』

 

 女子陣がツナの事をカッコいいと言い合う姿を見て、平田を除く男子は険しい顔になる。

 

 そして、須藤・池・山内の3バカが鞄を掴み歩き始める。

 それも出口じゃなく、ツナが入って行ったトイレの方向へ。

 

「? 3人ともトイレかい?」

「……バカを言うな平田」

「着替えに決まってんだろ?」

「そうだぜ。体育服に着替えんだよ」

「え? 何でだい?」

 

 平田が首を傾げていると、3人は足を止めて、とてもいい顔で振り返った。

 

「……俺達も」

「……やるんだよ」

「……トレーニングを、な?」

 

 そう言って、3人はトイレへと駆け込んだ。

 

『……』

 

 誰からともなく3人が入ったトイレに近づいてみると、中から声が響いてくる。

 

「え? どうしたの3人共」

「俺達もツナのトレーニングに混ぜてくれ!」

「頼む沢田!」

「俺もカッコいいって桔梗ちゃんに言われてぇんだ!」

「え? で、でも。俺のトレーニングすごくキツいよ?」

「それでもかまわねぇ!」

「どんなトレーニングだってやるぜ!?」

「そうさ! 俺だってカッコいい男だと証明してやるんだ!」

「……ま、まぁいいけど」

『よっしゃあ!』

 

 声が丸聞こえの中、残された女子達は冷めた顔になっていた。

 

「うわぁ……何あれ」

「トレーニングすればカッコいいとでも?」

「うふふ♪ 単純だなぁ♡」

「……はぁ。あなた達には、その時間を自習に使って欲しいのだけれど」

 

 女子達がそうぼやく中、平田もトイレに向かって歩き出してしまう。

 

「あれ? 洋介君も行くの?」

「うん。沢田君のしてるトレーニングには興味があるからね」

 

 そして、平田もトイレに入って行った。

 

「……私達は帰りましょう」

「う、うん」

「そうだね〜♪」

『じゃあまた明日〜』

 

 最後に残された女子達は、それぞれ帰路へと着いたのだった。

 

 

 —— 次の日の朝、Dクラス教室 ——

 

 

「……ぐ、ぐぐぐ」

「つ、辛い……座っているだけで辛い」

「さ、さすがの俺も筋肉痛だわ」

 

 ホームルーム前のDクラスでは、須藤君達の悲鳴に似た声が発せられていた。

 

 そんな3人を、俺と鈴音さんは近くで見ている。

 

「……綱吉君のトレーニングの成果かしら?」

「あはは、うん。皆頑張ってたんだよ?」

「……最後まで付いて来れたの?」

「……須藤君は折り返し地点前に力尽きてた。すごく頑張ってたんだけどね?」

「……他の2人は?」

「……半分もついて来れなかった」

「……それでこの感じなの?」

 

 抉るような鈴音さんの言葉に、池君と山内君は涙を浮かべながら反論する。

 

「あんなの人間のトレーニングじゃねぇからな!」

「そうだぜ! あれは宇宙人のトレーニングだ!」

「あはは……人間の考えたトレーニングなんだけどなぁ」

『嘘つけ!』

 

 2人揃って嘘つき扱いされてしまった。

 

 まぁ俺も死ぬ気の臨界点をモノにするまでひぃひぃ言ってたからな、宇宙人扱いでもしょうがない。

 

 スポーツ選手の須藤君も筋肉痛になるレベルだしなぁ……

 

 2人続き、須藤君も口を開いた。

 

「ツナはすげぇな。あのトレーニングを毎日してんだろ?」

「だよなぁ……」

「あのレベルを毎日とか、本当ボン……沢田って人間離れしてるぜ!」

 

 今の山内君、絶対にボンゴレと言いかけたな。後で注意しておかないと……

 

 そして正確には、あれは俺がいつもやってるトレーニングではないのだ。

 

「あはは……いや、昨日のはいつものより一段階レベルを下げたやつなんだ」

『はぁ!? あれが最大じゃねぇの!?』

 

 本当の事を言うと、3人は驚愕の表情を浮かべる。

 

「じ、じゃあいつもはあれよりキツイのやってんのか?」

「……まぁ」

「具体的にはどう違うんだ?」

「……昨日のトレーニングの全メニューを」

『……全メニューを?』

「……ノルマを倍にして、満面の笑みでこなすんだよ」

『できるかっ!』

「え? 慣れれば意外と……」

『できるかっ!』

「えぇ〜」

 

 まぁボンゴレのトレーニングだもんな……普通ではないか。

 

 ……ちなみにこの時、平田君は机に突っ伏してました。

 

 

 —— 放課後、パレット ——

 

 

 放課後になり、6人での勉強会の時間になった。今日も俺達はパレットで集まっている。

 

 幸村君から三宅君と長谷部さんに、そして俺から佐倉さんに、今日の課題の問題用紙が手渡される。

 

 問題文を確認した長谷部さんは、げんなりとした声を上げた。

 

「うわぁ、今日の問題も容赦ないねー。ゆきむー?」

「なんだよ、その変なあだ名は。止めてくれ」

「え〜? 別にいいじゃん? ねぇ、沢田君?」

「あはは……」

 

 何とも言えないあだ名に苦笑いしか返せなかった。

 

 ……いや、長谷部さんのあだ名というか、誰かの視線が気になって笑えないのが理由かもしれない。

 

 その時、長谷部さんに三宅君が声をかけた。

 

「わがまま言ってないで、やるぞ長谷部」

「あれ? やる気じゃんみやっち。どうしたの、熱血系?」

「折角部活が休みなのに、何時間も勉強で時間を失いたくないんだよ。終われば帰れるんだぞ」

 

 そういえば、三宅君は弓道部だったっけ。

 

「自由な時間が無いなら部活を辞めればいいじゃん」

「部活はやりたいんだよ。でも自由な時間も欲しいんだ」

「うわ〜、わがまま~」

 

 ため息を吐きながら、長谷部さんはテーブルの上に置かれたプラスチックのコーヒーカップを手に取った。

 

「勉強の前に、おかわり取ってくるね」

「また、砂糖たっぷりか? そんな甘いモノよく飲めるな」

「女の子は甘いものが好きなんですぅ〜」

 

 口を尖らせながら歩き始める長谷部さん。……だが、テーブルの脚に靴が引っかかってよろめいてしまう。

 

「わっ、おっとっと〜」

 

 よろめいたせいか、長谷部さんはコーヒーカップを落としてしまった。

 

 落ちたコーヒーカップはコロコロと回転して転がり……誰かの足元で止まった。

 

「!」

 

 その瞬間に嫌な予感を感じた俺は、瞬時に立ち上がり長谷部さんのいる所へ走った。

 

「あ、ごめ……」

 

 そして、〝長谷部〟が止まったコーヒーカップに手を伸ばそうとすると、それより早く誰かの足がコーヒーカップに振り下ろされようとしていた。

 

「! ちょっ……」

 

 誰かの足がコーヒカップを踏みつける。その寸前……俺は長谷部の前にしゃがみ込み、腕を差し出して振り下ろされる足を受け止めた。

 

「っ……」

『!』

「! 沢田君!?」

 

 俺はしゃがみ込んだまま、頭上に目を向ける。

 すると……そこには〝龍園〟が立っていた。

 

「……龍園」

「……はっ、すまんな。ゴミかと思って思わず踏んづけちまった」

 

 全く悪びれる様子もなく、とりあえず足を戻した龍園。すぐに俺もコーヒーカップを掴み、立ち上がって龍園を睨んだ。

 

 よく見てみると、龍園の後ろには伊吹とアルベルト……そして石崎が立っている。

 

「……他人の物を踏んづけようとして、その態度か?」

「はぁ? ゴミと勘違いしたって言ってんだろ?」

「……長谷部がコーヒカップを落として、お前の足元に転がる様子を見ていたくせにか?」

「……そんなの見てねぇよ。言いがかりも甚だしいぞ、沢田」

 

 睨み合う俺と龍園。

 俺達のただならぬ雰囲気に、パレット内は空気が静まり返っていた。

 

「俺達が入店してから、ずっと監視してただろ」

「……また言いがかりかよ。俺はそんな暇じゃねぇんだ」

 

 視線を感じていたから間違いないだろうが、まぁ認めるわけないか。

 

 その時、幸村と三宅が加勢に来てくれた。

 

「おい龍園、一体何の用だ」

「俺達の席に歩いて来てるみたいだったが?」

 

 幸村と三宅のその質問に、龍園はニヤリと笑った。

 

「今日はただの挨拶と確認だ。また近い内に、ちゃんと遊んでやるよ」

「……」

 

 くるりと踵を返し、龍園達はパレットを出て行った。

 

『……』

 

 龍園君が出て行くと、止まっていた時間が動き出すように周りに騒がしさが戻って来た。

 

「……はい、長谷部さん」

「え? あ、うん。ありがとう……」

 

 俺は後ろに振り返り、長谷部さんにコーヒーカップを返そうとした。

 

 ——その瞬間。1人の女子に声をかけられた。

 

「……待ってください」

『!』

「……クラスメイトの暴挙のお詫びです。こちらを受け取ってください」

「え? あ、ありがとう。……あ、でも私ブラックは……」

 

 長谷部さんが遠慮がちにそう言うと、その女子は優しく微笑んだ。

 

「ご安心下さい。こちら砂糖マシマシですから」

「え? ……どうして私がそれが好きって分かったわけ?」

「先ほど注文していた時、あなたが珍しい注文をしていたので記憶に残っていたんですよ」

「……へ、へぇ〜。じゃあ、ありがたくもらうね」

「はい。どうぞ」

 

 長谷部さんは新しいコーヒーカップを受け取ると、その女子をしげしげと眺める。

 

「……あなたも、Cクラスなの?」

「はい、Cクラスの椎名ひよりと申します」

 

 そう、その女子とはひよりちゃんだった。

 おそらく、俺が感じていた視線の1つは彼女の物だろう。

 

「期末テストが終わったら、またお話しましょう」

「え? は、はぁ……」

 

 マイペースなひよりちゃんに、長谷部さんは少し戸惑ってしまっているようだ。

 

 ひよりちゃんは長谷部さんに頭を下げると、出入り口に向かって歩き始めた。

 

 その際に俺の横を通り過ぎるのだが、少し立ち止まって小声で話しかけて来た。

 

「……死ぬ気の臨界点。現時点では極められているようですね」

「! うん……おかげさまでね」

「ふふふっ、さすがはツナ君ですね。……では、また」

「うん……また」

 

 会話が終わると、ひよりちゃんはスタスタとパレットから出て行った。

 

「ありがとね、沢田くん。踏まれないように庇ってくれて」

「当然だよ。龍園君のやることは許容できないしね」

 

 ひよりちゃんもいなくなると、長谷部さんがお礼を言ってくれた。

 

「ふふ、優しいんだね。沢田君は。……あ!」

「?」

 

 ふいに俺の手に目を向けた長谷部さんは、何かに気づいたのか慌てて俺の右手を取った。

 

 右手はついさっき龍園に踏ませた方の手だ。

 

「やっぱり……傷ができちゃってるよ」

「え? ……あ、本当だ」

 

 長谷部さんに言われて自分でも手を見てみると、確かに1センチ位の切り傷が出来ていた。

 

「あ〜、靴の踵部分で踏まれたのかもね」

「血が滲んでんじゃん。ほれ、手当てしてあげるからこっちに来て?」

「え? うおっ」

 

 長谷部さんは俺の右手を掴んだまま、俺達が利用している席へと引っ張っていった。

 

 そして席に座ると、カバンから小さなポーチを取り出して、中から可愛らしいピンクの絆創膏を取り出した。

 

「ほら、右手を出して?」

「う、うん」

 

 再度俺の右手を取ると、長谷部さんは切り傷の部分に絆創膏を貼ってくれた。

 

「はい、これでよし! 戦士の勲章だね」

「あはは、戦士って程じゃないよ? でもありがとうね」

 

 手に貼られた絆創膏を見て、他のメンバーも心配してくれたようだ。口々に俺に声をかけてくれる。

 

「だ、大丈夫? 沢田君」

「つうか、すんげえスピードで長谷部のとこに走っていったな」

「中々できる行動ではない。さすがは優しさに定評のある沢田だな」

「……絶対止めに行くと思った」

 

 綾小路君には予想通りの行動だったようだ。さすがは相棒だな!

 

 俺を心配する時間が終わると、幸村君は店内の時計を確認して咳払いをした。

 

「……こほん。邪魔が入ったが、勉強を始めようか」

「そうだね〜」

『だな』

 

 幸村君のその発言で、そういえばまだ始まってもいなかった今日の勉強会がスタートした。

 

 

 

 ——2時間後。近くのコンビニにて ——

 

 

 2時間の勉強会を終えた俺達は、三宅君の提案で近くのコンビニにやってきた。

 

「何か買うの?」

「アイスが食いたいんだ」

「ああ、頭を使った後は甘いモノだよね〜」

「お前はさっきまでも甘いモノを飲んでただろう」

「飲み物と食べ物は胃の収容スペースが別なんですぅ〜」

「あはは……その気持ちはわかるかも」

「……女子の神秘って奴か」

 

 なんだかんだ楽しく会話をしながら、全員でアイスを買ってコンビニを出た。

 

 そして、長谷部さんの提案で駐車場で食べていく事になった。

 

(懐かしいなぁ〜。獄寺君と山本ともよく買い食いしたよなぁ〜。あ、炎真達ともしたよなぁ〜)

 

 中学時代の思い出に浸りながら、新しい友達とアイスを食べ始めた。

 

「ん〜♪ 妨害にも負けず、勉強を頑張った後のアイスは美味しいね〜」

「うん、美味しい」

「分かるよ〜」

「……」

 

 皆がパクパクとアイスを食べる中、幸村君は持っている氷アイスの原材料名を凝視している。

 

「幸村君? どうかしたの?」

「……このアイス、保存料と着色料のオンパレードだな」

 

 原材料名を見てるなとは思ったけど、そこを気にしていたのか。

 

「そこまで気にしてたら、何も食べれなくならないか?」

 

 三宅君がそう聞くも、幸村君にはこだわりがあるのか首を振って否定する。

 

「食べるモノにはこだわりたいんだよ。そしてコンビニは単価が高い」

「ちゃんとしてるねぇ〜」

「そんな高校生、ゆきむーくらいじゃない?」

「細かい奴だなぁ」

「……俺もそこまでは考えないな」

「わ、私は節約には賛成かな」

 

 佐倉さんも会話に入ろうと頑張っているようだ。綾小路君も結構積極的に会話に加わって来るので、このグループは相性がいいのかもしれないな。

 

 そんな事を考えていた時、長谷部さんがクスクスと笑い出した。

 

「ふふふw」

「? どうした、急に笑い出して」

「ん? いやね、こういう関係も悪くないなぁ〜って思ってさ」

「……こういう関係?」

 

 俺がそう聞くと、長谷部さんはゆったりと語り始める。

 

「ほら、このメンバーってさ。沢田君と綾小路君以外は1人でやって来た系じゃん?」

「……まあな」

「そう、だな」

「うん……」

「……いや、俺も1人でやってきた系だな」

「え? そういう事、友達の前で言っちゃう?」

「……友達?」

「体育祭で深めた俺達の友情はどこに!?」

『はははw』

 

 綾小路君の悲しいすっとぼけに、場の空気が緩んだ。

 

「ははは。……だけどさ、勉強会は結構居心地がいいっていうか」

「……だな。俺もそんな感じがしてた」

「でしょ〜?」

 

 長谷部さんの言葉に三宅君が同意する。長谷部さんも嬉しそうだ。

 

「だからさ? この6人で新しいグループを作りたいなって思ったんだ」

「……いいなそれ。悪くない」

「……そうだな。このグループは一緒にいて楽だ」

「うん、大歓迎だよ」

「わ、私もこのグループは好きです」

 

 長谷部さんの提案に4人が同意した。残りは幸村君だけだ。

 

「ゆきむーはどうなの?」

「……俺はお前達の勉強を見る為だけに一緒にいる。……けど、効率化の為にグループを認めても……いいぞ」

「うわ、何それ? 分かりにく〜い」

「幸村君はツンデレなの?」

「う、うるさいな。そして俺はツンデレではない」

 

 遠回しな言い方ではあったが、これで全員が長谷部さんの提案に乗ったわけだ。

 

「あ、ねぇねぇ。せっかくグループになったんだし、お互いの呼び方変えない?」

「あだ名呼びは嫌だぞ」

「え〜? だったら下の名前呼びだね。私は波瑠加はるかだよ」

 

 長谷部……波瑠加ちゃんに続き、それぞれが下の名前を言い合う。

 

「明人あきとだ」

「俺は清隆きよたか」

「綱吉だよ」

「あ、愛里……です」

「……輝彦てるひこだ。だが、俺をその名前では呼ばないで欲しい」

 

 全員が下の名前を言い合うが、幸村君は自分の名前を呼ばれるのは嫌なようだ。

 

「自分の名前が嫌いなのか?」

 

 明人君がそう聞くと、幸村君は食べ終えた氷アイスをゴミ箱に入れ込みながら話始める。

 

「……その名前は母親が付けたんだ。俺の母は幼い頃に俺と父を捨てて家を出た……卑劣な女だ」

『……』

 

 複雑な思いがありそうなその理由に、俺達は何も言えなかった。

 

 そんな空気感を察してか、幸村君は慌てて謝ってきた。

 

「すまない。余計なことを言ったな」

「ううん、私こそごめん。でも、そしたらなんて呼べばいい?」

 

 波瑠加ちゃんのその質問に、幸村君は少し考え込んでから答えた。

 

「そうだな……啓誠けいせい。俺の事は啓誠と呼んで欲しい」

「啓誠?」

「ああ、父が付けようとしてくれた名前だ」

「啓誠……ね。うん、わかったよ」

「じゃあ改めて……よろしくね。波瑠加ちゃん、愛里ちゃん、清隆君、明人君。そして啓誠君!」

「ああ、よろしく頼む。……綱吉」

(あ、愛里……はわわわわ///)

 

 ここで、微笑みながら波瑠加ちゃんが手を差し出して来た。

 

「じゃあ、この6人のグループって事で!」

「うん!」

「ああ」

「だな」

「おう」

「は、はい///」

 

 6人で「えいえいおー」と気合を入れるように手を重ね合う。

 

「グループ名は沢田グループね」

「え? なんで俺中心?」

「ソロプレイヤーだった俺達をまとめ上げたのは綱吉だろ」

「だな。幸村グループと呼ばれるのは嫌だしな」

「……どう考えてもお前中心だぞ」

「わ。私も! つ! つ! 綱吉君のグループだと思う!」

「そうそう。いいじゃん、ツナぴょん」

「ツナぴょん!?」

 

 

 ——こうして、俺達は新しいグループ『沢田グループ』を結成したのだった。

 

 

 グループを組んだ帰り道。せっかくなので皆で一緒にマンションに帰っていたのだが、道中でとある事を思いついた俺は、皆に声をかけた。

 

「あ、皆! もうちょっと付き合ってくれない?」

「? 私はいいよー」

「俺もかまわん」

「後1時間くらいならいいぞ」

「私も、大丈夫」

「……いいぞ」

 

 よかった。主役の2人も来れるようだ。

 

「で? どこ行くの?」

「俺の部屋なんだけど、いい?」

「ツナぴょんの部屋? へ〜、行ってみたいわ」

 

 全員問題なさそうなので、俺は自分の学生証端末を清隆君に手渡した。

 

「清隆君、皆を連れて先に部屋に入っていてくれる?」

「? いいけど、お前は?」

「ちょっと大事なものを取りに行ってくるよ」

「……わかった」

 

 そして、清隆君は皆を連れて先に俺の部屋へと向かって行った。

 

「よし! 早く受け取りにいこう。2人のバースデーケーキを!」

 

 それから俺は、昨日の夕方に寄った洋菓子屋さんへと急いだ。

 

 

 ——  数分後。ツナの部屋 ——

 

 

 洋菓子屋さんで予約していたケーキを受け取り、なるべく急いで自分の部屋に戻った。

 

 部屋に入ってみると、皆くつろいで待ってくれていた。

 

 ケーキをキッチンに置いて、皆に声をかけよう。

 

「お待たせ」

「あ、ツナぴょん。おかえり〜」

「綱吉の部屋は最上階なんだな。ちょっと羨ましいわ」

「ベランダからの眺めがいいよな」

 

 皆に色々言われながら、俺は部屋の電気をいきなり消した。

 

 ——パチン!

 

「え? 停電?」

「いや、電気消しただけだろ?」

「綱吉、何のまねだ?」

「ごめんね。少しの間我慢してて」

『?』

 

 暗闇の中、俺は箱から小さなホールケーキを2つ取り出し、備え付けられた16の形の蝋燭をケーキに突き立て、ライターで火を付けた。

 

 ——ボウっ!

『!』

 

 暗闇の中、小さな火が4つ灯っている。

 

「! え? それって?」

「……バースデーケーキか?」

「そうだよ!」

『!』

 

 片手で一つずつケーキを持ち、ダイニングテーブルへと運んだ。

 

 テーブルの上で揺らめく4つの明かりは、16という数字とチョコプレートに書かれたハッピーバースデーの文字だけを照らしている。

 

『……』

 

 当人である2人は、もう感づいているのか驚きの表情を浮かべている。

 

 しかし当人と俺以外には誰のためのケーキか分からないので、波瑠加ちゃんが俺に質問してきた。

 

「今日って誰かの誕生日なの? ツナぴょん」

「うん、今日は清隆君の誕生日! そしてもう過ぎちゃったけど、10月15日は愛里ちゃんの誕生日だったんだ!」

『!』

「へ〜、そうなんだ!」

「一緒にお祝いしましょうってわけか」

「そうだよ!」

 

 ちょうどよくグループを組んだんだし、このメンバーで誕生日会をしたなって思ったんだ。

 

 本当は何人かに声かけて、夜の部の後にサプライズ訪問誕生会をしようと思ってたんだけど、せっかくならグループでお祝いしたいからね。

 

 ちなみに愛里ちゃんの誕生日は、この前俺の誕生会での出来事を話していた時に、みーちゃんが教えてくれたんだ。

 

「よし、せっかくだし歌うか」

「お、いいねぇ」

 

 明人君の提案で、2人に向けてバースデーソングを歌う事になった。

 

『ハッピーバースデー、トゥーユー♪ ハッピーバースデー、トゥーユー♪ ハッピーバースデー、ディア清隆&愛里〜♪ ハッピーバースデー、トゥーユー♪』

『おめでとー!』

「ほら、2人とも火を消して消して〜♪」

『……ふ〜』

 

 2人同時に息を吹きかけ、蝋燭の火は消えた。

 

『イエ〜イ!』

 

 拍手を送りながら、部屋の電気を付けに行く。

 電気を付けて戻ってみると、清隆君は固まっており、愛里ちゃんは泣いていた。

 

「ちょ!? 2人とも大丈夫!?」

「……大丈夫だ。驚きすぎているだけだ」

「ぐすっ……わ、私は嬉しすぎて……」

「愛里〜、はいティッシュ」

「ぐすっ……ありがとう」

「清隆、その顔では嬉しいのかどうか分かりにくいぞ」

「ポーカーフェイスだな」

「いや……すごい嬉しいのは間違い無いんだが、表情が感情についていけてないんだ」

「ははは、何だよそれw」

 

 2人ともすごく喜んでくれているようで何より! 

 しかし、まだサプライズは残っているんだよね。

 

「はい注目! 実は? 俺から2人に、サプライズプレゼントがありまーす!」

「ふぅ〜♪」

「よかったなぁ、清隆、愛里」

「綱吉もよく準備したもんだ」

 

 クローゼットを開くと、中から2つの包装された箱が登場する。

 

「お〜♪ いったい何が入ってるのかな〜?」

「へへへ〜。清隆君には〜、はいこれ!」

「お、おう」

 

 俺は箱の1つを綾小路君に渡した。

 

「清隆君には、イタリア製紅茶の高級茶葉と、ティーセット一式だよ!」

「! あ、ありがとうな……綱吉」

「清隆君、紅茶をよく飲んでたからさ。喜んでもらえたなら嬉しいよ」

「……すごい嬉しいよ。大事に使わせてもらうな」

「うん!」

 

 次に、もう一つの箱を愛里ちゃんに渡す。

 

「愛里ちゃんにはコレ! イタリアで女性に大人気のテディベアーだよ!」

「! あ、ありがとう綱吉君/// い。いっぱい可愛がるね?」

「あはは、うん。可愛がってあげてね」

 

 2人へのプレゼントは、リボーンに頼んでボンゴレ本部から白蘭とγのマシマロベジタブルの店に納品してもらい、それを俺が購入する形で手に入れた。

 

 受け取った2人がプレゼントを見つめている中、波瑠加ちゃんが小声で話しかけてきた。

 

「ツナぴょん、これけっこうポイント使ったんじゃない?」

「まあね。でも体育祭とバカンスでPPをいっぱい集めてたからさ、存分に放出させてもらったよ」

「へ〜。ツナぴょんは友達思いだね〜」

「あはは、ありがとう」

 

 それからは、アイスを食べた後だったけど6人でバースデーケーキを味わいながら談笑した。

 

 さすがにケーキは少し余ってしまったから、清隆君と愛里ちゃんにお土産に持って帰ってもらう事になった。

 

 皆がテーブルを片付けてくれている中、2人が持って帰りやすいようにケーキの入っていた箱に入れ込んでいると、愛里ちゃんが話しかけてきた。

 

「あの、綱吉君」

「ん? どうしたの愛里ちゃん」

「その……今日は本当にありがとう。すごい嬉しかった」

「そっか! 喜んでもらえたらならやって良かったよ。改めて誕生日おめでとうね」

「あ、ありがとう/// ……あの、ね? 今日は綱吉君グループが結成した日だし」

「?」

「グ、グループで初めて誕生日会をした日だし……」

「うん」

「その……皆で記念写真を撮りたいなって」

「!」

 

 よく見てみると、愛里ちゃんは片手にデジカメを持っていた。

 

 なるほど、確かに今日は記念日みたいなもんだよね。

 だったら記念に写真として思い出を残しておきたいよな。

 

「いいね! 撮ろうよ!」

「! う、うん!」

 

 そうと決まれば、さっそく皆に声をかけよう!

 

「皆、片付け終わったら記念写真を撮ろうよ!」

「記念写真? へ〜、いいねいいね〜」

「いいぞ。グループ結成記念と、初の誕生会記念だな」

「……まぁ。記念だしな」

「……だなぁ」

 

 素直じゃない奴が若干2名いるけど、気にせずに記念撮影といきましょう!

 

「愛里〜、どこで撮る?」

「べ、勉強机にデジカメを置いて、ベットの方に私達が集まればいいんじゃないかな」

「え〜? ベッドなんて愛里も大胆ね〜♪」

「ふぇ! そ、そういう意味じゃないもん!」

 

 女子2人が何やら盛り上がっている。そんな2人に言われるまま、俺達はベットのある所に集まった。

 

「全員は座れないぞ?」

「ベットに3人、床に3人の2列でいいじゃん?」

「じゃあ、主役の2人は後列だな」

「後1人は?」

「リーダーの綱吉がいいだろうな」

「え? いつの間にリーダーに?」

「気にしない気にしない。 ほら、早く撮ろう? 記念写真をさ♪」

 

 結局、床に啓誠君・波瑠加ちゃん・明人君が座り、ベッドに俺・清隆君・愛里ちゃんが座る事に決まった。

 

 

「じ、じゃあタイマースタートするね?」

『は〜い』

 

 ——ポチッ。

 

 デジカメのシャッターボタンを押すと、愛里ちゃんは所定の位置に戻る。

 

「記念写真撮るのなんて、すごい久しぶりかも〜」

「俺も小学校以来かもな」

「部活以外では初めてだな」

「愛里達は?」

「わ、私達は3回目かな」

「豪華客船と、夏休みのプールでも撮ったもんね」

「だな。これで3回目だ」

「え〜? なんかずる〜い! じゃあさ、これからはこのグループでもたくさん記念撮影していこーね♪」

「うん! そうだね」

「あ、もうシャッター降りるよ?」

「お、じゃあ皆。笑って笑って〜? はい、チーズっ!」

 

 ——カシャっ!

 

 ……こうして、愛里ちゃんのデジカメに、また新しい思い出が記録されたのだった。

 

 

 記念撮影が終わると、皆は帰宅して行った。

 

「……ん〜っ!」

 

 今日のメインイベントを終えた俺は大きく伸びをした。

 そして、その時に机に置かれた置き時計が目に入る。

 

「ふぅ〜、うまく行ってよか……あ! もう夜の部が始まる時間じゃん!?」

 

 まだ今日のイベントは終わっていなかった事と時間がやばい事に気がついた俺は、急いで学校の図書室へと急いだのであった……

 

 

 ——ツナが勉強会に向かっている頃、誕生会の主役達はそれぞれがツナからのプレゼントを開封しているところだった。

 

 

 —— 愛里の部屋 ——

 

「……わぁ、かわいいテディベアーだなぁ〜」

 

 ツナからのプレゼントを開封した愛里は、その愛らしさと抱き心地に感動していた。

 

(もふもふで気持ちいい〜。こんなテディベアーは見た事ないよ)

 

 しばらくテディベアーのもふもふを堪能した愛里は、テディベアーを自分のベッドの上に寝かせると勉強机へと向かった。

 

 ——カチャ。

 

 デジカメをPCに接続し、今日撮った写真をPCにインポートする。

 

 インポート完了の表示が液晶に表示されると、今度は学生証端末をPCに繋げ始めた。

 

(写真を移してっと……よし)

 

 PCから学生証端末に写真を移し替えた愛里は、プリンターで写真を現像する作業を開始した。

 

 ——ブワン、ブワン。

 

 L判の用紙に印刷された写真が、〝2枚〟プリンターから排出される。

 

 排出された2枚の写真を取った愛里は、その内の1枚を壁に固定された棚に置いてあるコルクボードに貼り付けた。

 

 そのコルクボードには、豪華客船・プールで撮った記念写真も貼り付けられており、これで3枚の写真が貼り付けられた事になる。

 

「……よし!」

 

 写真が綺麗に貼り付いた事を確認した愛里は、もう1枚の写真を持って勉強会机に戻った。

 

 そして机の引き出しを開いて、ある1つのアルバムを取り出した。

 

 それは小さいが可愛らしいアルバムで、表紙には『My Treasures私の宝物達』と、書かれている。

 

 愛里が1ページ目を開くと、コルクボード同様にすでに2枚の写真が貼り付けられている。

 

 コルクボードの写真達との違いは、このアルバムに貼られた写真は全てツーショットだという点だ。

 

 そして、アルバムにも3枚目の写真が愛里の手によって貼り付けられる。

 

 もちろんそれもツーショットだ。

 

「……えへへ、これで3枚目だ♪」

 

 貼り付けられた写真を優しく撫でると、大事そうに引き出しの中にアルバムを戻した。

 

「……あ、皆にも送らなきゃ!」

 

 引き出しを閉めた愛里は、何かを思い出したかのように学生証端末を操作し始める。

 

 メッセージトークアプリで、1つのグループトークルームを開く。

 そして、先程PCから移した写真の1枚をトークルームに送信した。

 

「……今日の、記念写真だよ、っと。……うん、これでOK!」

 

 しっかり送信されている事を確認した愛里は、学生証端末を机に置くとベッドにダイブして、寝かせておいたテディベアーを抱きしめた。

 

「……えへへ、綱吉君からのプレゼントだ♪」

 

 そう呟いた愛里は、テディベアーを抱きしめながらベッドの上をゴロゴロ転がり始めるのであった。

 

 

 

 —— 同時刻、清隆の部屋 ——

 

 

「……いい香りだな」

 

 その部屋には、紅茶のいい香りが漂っている。

 

 ツナからのプレゼントである紅茶の高級茶葉とティーセットを使って、清隆は早速紅茶を煎れているようだ。

 

 ——シュ〜。

 

 出来上がった紅茶入りのティーポットとティーカップをダイニングテーブルに持っていく。

 

 それと、小さい小皿も持っていくようだ。

 

 せっかくのティータイムなので、土産で貰ったケーキをお茶請けにするのだろう。

 

 ——コポコポ。

 ——カチャカチャ。

 

 ポットからカップに紅茶を注ぎ、まずはひと口味わう。

 

「! ……美味いな」

 

 今までの飲んできたどの紅茶よりも、ツナからのプレゼントである高級茶葉で入れた紅茶は美味しかった。

 

(……ホワイトルームでも脳に良いという事で色んな高級茶葉を飲ませてもらえたが、ここまで美味いものは初めてだな)

 

 紅茶を飲みつつ、ケーキも口に運ぶ。

 紅茶の味わいとケーキの甘さが程よく口の中で混ざり合っていく。

 

「……やはり美味いな。……ん?」

 

 ——ピコン。

 ——ピコン。

 

 その時、清隆の学生証端末から通知音がなった。

 

「……なんだ? ! グループトークか」

 

 学生証端末を開いて確認すると、通知はメッセージトークアプリのグループトークからのものだった。

 

 

 愛里:今日撮った記念写真を送るね。

 

 ——愛里が画像を送信しました。

 

 

 作り立てのグループトークルームに、最後に撮った記念写真が送られたようだ。

 

 送られてきた写真を開いてみると、俺は思わず苦笑してしまった。

 

「ふっ、なんだよこの顔。本当に俺か?」

 

 写真に写っている自分の顔を見て、清隆はこの写真に写っている男は本当に自分なのかと疑ってしまった。

 

 それもそのはず。写真に写っている清隆はいつものように真顔ではあるのだが、明らかに目が潤んでいて、口元も緩んでいるのだから。

 

「……」

 

 写真を表示したままの学生証端末と、ティーカップだけを持って清隆はベランダへと向かった。

 

 外はもう暗く、頭上には夜空が広がっている。

 

「……」

 

 表示された写真を見ながら、もう一口紅茶を飲む。

 

 そして、夜空を見上げながら清隆はポツリと呟いた。

 

「……ふっ、誕生日って嬉しいものなんだな。綱吉」

 



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