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ペーパーシャッフル③ 〜迫り来る嵐の予感〜

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ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ   作:コーラを愛する弁当屋さん

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ペーパーシャッフル③ 〜迫り来る嵐の予感〜

 

 俺抜きでの作戦会議の数日後、その日の最後の授業はホームルームだった。

 

 なので平田君と鈴音さんが茶柱先生に許可を取り、ホームルームを丸々ペーパーシャッフルについての話し合いに使わせて貰えるようだ。

 

 一応鈴音さんからはこの前の作戦会議ので決まった事は聞いてはいるが、他のクラスメイトに説明をするつもりなのだろう。

 

 教卓には平田君と鈴音さんが立っており、この2人を中心に話を進めていくようだ。

 

 全員が2人に注目する中、まずは平田君が口を開いた。



「今日のホームルームは明日の小テストの話し合いを行いたいと思う。僕を含め、数名のクラスメイトで話し合った事を皆に共有して最終決定としたいんだ。まずは、堀北さんから今回の試験でDクラスが取りたい方針を説明してもらおう」

 

 平田君にそう言われ、今度は鈴音さんが口を開いた。

 

「今回の特別試験、なによりもペアの組まれ方が重要になってくるわ。だから、このクラスにおいてベストなペアを作れるように明日の小テストで対策を打とうと思う。……平田君、お願い」

「うん」

 

 平田君は黒板に大きな紙を貼り出した。その紙には、このクラスを4つのグループに分けた一覧表とグループごとにテストで取るべき行動が記載されている。

 

「まず第一に、ペーパーシャッフルにおけるペア決めは、クラスの平均点がバランスよくなるように組まされる。この事は平田君が先輩に確認を取ってくれたから間違いないわね?」

「ああ、間違いないよ」

「そうなると、成績上位者は成績下位者と間違いなく組まされる。だからこのクラスを1学期から今までの全てのテストの成績順に4つのグループに振り分けたの。そして、明日の小テストではこの紙に記載した通りの行動を取ってもらうわ」

 

 紙に記載された行動は以下の通り。

 

 ハイスコア——80点以上を目指す。

 ハイミドルスコア——50点以上70点未満を目指す。 

 ローミドルスコア——答えの分かる問題を1問だけ解く。

 ロースコア——白紙で提出する。

 

 俺の場合はハイミドルスコアだから、50点以上70点未満を目指す事になるな。

 

 その時、俺と同じくハイミドルスコアの三宅君が質問をするべく挙手した。

 

「三宅君、何かしら?」

「ハイミドルスコアの50点から70点未満を目指す……っていうのは難しすぎないか? 必ず50点を超えつつ、70点をオーバーしたらだめなんだろう?」

「その心配はいらないと思うわ。これも平田君が先輩に聞いてくれたんだけれど、小テストは誰でも解けるような簡単な問題が出題されるそうだから」

「! そうか、なら点数配分もしやすそうだな」

「ええ。私もハイミドルスコアのメンバーなら点数配分も容易だと考えているわ」

 

 この説明で三宅君も納得したらしく、他に反対意見も出なかったのでクラスの方針はこれで決定になった。

 

「……じゃあ続いて、本番のペーパーシャッフルに向けての対策について話し合いましょう。今回も中間テスト同様勉強会を開こうと思っているわ」

「僕と堀北さんで夕方と夜の2部に分けて行おうと思ってる。僕はサッカー部の練習があるから基本的に夜の部に入る事になるね。それと同じで部活をやってる人でも夜の部の方なら参加できると思う。もちろんどちらも参加しても構わない。あと、サポート役として沢田君と櫛田さんにも講師役として入ってもらうことになっているよ」

 

 平田君から講師役を頼まれた時、俺は二つ返事で引き受けた。

 

 鈴音さんからもサポートをしてほしいと言われていたし、特別課題の事もあって講師役くらいしか今回はクラスの役に立てないからね。

 

「平田君が夜なら夜の部に出ようかな〜」

「あ、でも沢田君の方に出たいかも?」

 

 クラスメイト達は小声でどの部に出るかを話し合い出した。

 

「どの部に出るかはペアが決まった後に集計を取るわ。勿論出なくても大丈夫な人は不参加でも構わない。とりあえず、クラスとしてのこの方針に反対の人はいる?」

 

 鈴音さんのその問いかけで、クラスメイト達は静かになる、そして、反対の意見を述べる者はいなかった。

 

「……反対意見はないみたいだね」

「ええ。ではDクラスの方針はこれで決定としましょう」

「皆。体育祭の時のように、力を合わせてペーパーシャッフルを乗り切ろう!」

『お〜!』

 

 平田君の言葉にクラスメイト達が声を上げて同調する。

 鈴音さんも何だか嬉しそうに見えるな。

 

(体育祭でDクラスの結束は強くなった。今回はその結束で特別試験をクリアするんだ)

 

 俺も鈴音さんや平田君、そして綾小路君を信じて任せよう。

 

 リボーンに俺が仲間の事を信じている事を証明する為。

 

 そして、俺達が深めてきた絆を証明する為に!

 

 

 —— 翌日、小テスト ——

 

 ついに小テストの時間がやってきた。

 

 小テスト用紙を抱えて教室に入って来た茶柱先生は、教卓に着いてもすぐにはテスト用紙を配ろうとしなかった。

 

 どうやら、テスト前に1つ話があるようだ。

 

「これから小テストを行うわけだが、その前にひとつ報告がある。先日お前達が希望していた対戦相手の選考結果だが……他クラスと被ることはなかった為に承認された。よって、Dクラスの攻撃相手はCクラスとなった」

 

 この間の作戦会議で決まったそうだが、DクラスはCクラスを対戦相手に希望する事になっていた。そして無事にその希望が通ったようだ。

 

 ……だが、逆にDクラスを攻撃してくるクラスはどこになったんだろう?

 

 その答えはすぐに茶柱先生が教えてくれた。

 

「そして、Dクラスに問題を出すことになったクラスだが……そちらもCクラスで決定した。こちらも指名が被ることは無かった」  

 

 ……つまりペーパーシャッフルはDクラス対Cクラス、Bクラス対Aクラスになったわけだ。

 

「理想的な組み合わせね」

「……だな」

 

 後ろの席で鈴音さんと綾小路君が小さくそう呟いた。

 

「さて、それでは小テストを始めるぞ。……くれぐれもカンニング行為はするなよ? たとえ成績に関係なくとも、カンニングすれば容赦ないペナルティを科すからな」  

 

 そう言いながら列の先頭にプリントを渡して後ろに回させる。

 回す間はまだ裏返した状態だ。  

 

「始め」  

 

 茶柱先生の合図でついに小テストがスタートする。  

 全員が一斉にプリントをひっくり返した。

 

「!」

 

 平田君が難易度が低めに設定されているという情報を教えてくれていたけど、本当に簡単な問題ばかりだ。これなら作戦通りにペアを組み事が出来そうだな。

 

 

 

 —— さらに翌日、ホームルーム ——

 

 小テストの翌日のホームルームで、ペーパーシャッフルにおけるペアが発表される事になった。

 

「それではこれより、期末テストに向けたペアの発表を行う」  

 

 茶柱先生によって、決定されたペアの一覧表が貼りだされて行く。

 

 堀北鈴音ー須藤健。

 平田洋介ー山内春樹。

 櫛田桔梗ー池寛治。

 王 美雨ー佐倉愛里。

 

 ほぼ予定通りのペアが組まれているようだ。

 

(え〜と、俺のペアは〜)

 

 自分のペアを探すべく一覧表を見回す。

 

 沢田綱吉ー軽井沢恵。

 

 どうやら俺のペアは軽井沢さんのようだ。

 

 軽井沢さんかぁ〜と思いながら彼女の席に目を向けると、軽井沢さんも俺の方に視線を向けていて目があった。

 

「! ……えへへ」

 

 目があった軽井沢さんは恥ずかしそうにしながらも手を振ってきた。俺も微笑みながらよろしくという気持ちを込めて手を振り返しておいた。

 

 そんな中、後ろの席から独り言が聞こえてきた。

 

「……佐藤か。話したこともないな」

 

 その声の主は綾小路君だ。声に反応して一覧表に視線を移す。そして綾小路君の名前を探した。

 

 綾小路清隆ー佐藤麻耶。

 

 綾小路君のペアは麻耶ちゃんか。俺も最近まで話した事なかったけど、綾小路君もまだ話した事がないらしいな。

 

 もし必要なら、2人の橋渡し的な事もやろうかな。今回の俺はクラスの為に動けないから、裏方でできる事は全て引き受けるつもりだ。

 

 

 

 —— その日の放課後 ——

 

 

 ペアが決定した後の放課後。Dクラス教室に俺・鈴音さん・平田君・桔梗ちゃんが集まっていた。

 

「ペアも無事に決まったし、明日から勉強会を始めようと思うの」

「そうだね。前に決めた通り、僕は夜の部を担当するよ」

「私は夕方の部ね。でも、出来るだけ夜の部も参加するつもりよ」

 

 事前に決めておいた通り、夕方の部は鈴音さんが、夜の部は平田君が指導役を担当する事になるようだ。

 

 そして、平田君は手に持っていたノートを開いた。

 

「中間テストの時より参加希望者が増えているね。どちらも1人で指導役をするのは難しいから、櫛田さんと沢田君にはどちらかに指導役として入ってもらいたいな」

 

 これも事前に決めていた通り、俺と桔梗ちゃんは指導役のサポートに回る。

 

「うん♪ あ、私はできれば夕方の部が良いんだけど〜。ツナ君は夜の部でもいい?」

「あ、うん。俺はどこでもかまわないから、桔梗ちゃんの好きな方を選んでいいよ」

「ありがとう♪ さすがツナ君♡ 私も行ける日は夜の部も参加するようにするね〜♪」

「……」

 

 ニコニコしながら俺の手を取る桔梗ちゃん。

 最近スキンシップが多いけど、距離が縮んでいるだけとは思えなかった。

 

 仲良くなれるのは全然構わないんだけど、鈴音さんと綾小路君との距離は逆に広がってしまっている気もするし。

 

 やっぱり桔梗ちゃんには何か悩みがあって、それを解消しようと奮闘していると思える。

 

 ……俺は桔梗ちゃんの為に何かできないのだろうか。

 

「……すまん、ちょっといいか?」

『!』

 

 その時、2人の男女が教室に入ってきた。

 

「あれ、三宅君に長谷部さん。どうかしたのかい?」

 

 教室に入ってきたのは、クラスメイトの三宅君と長谷部さんだった。

 

 三宅君はハイミドルスコアで、弓道場所属の運動も得意な男子だ。

 

 長谷部さんはローミドルスコアだが、ほとんどハイミドルスコアと変わらない成績だった気がする。部活には無所属で、運動は嫌いなのか体育の授業は休みがちだ。

 

「期末試験の相談があるんだ」

「相談? あ、そういえば2人はペーパーシャッフルのペアだったよね」

 

 平田君はノートにメモしてあったDクラスのペアの一覧を見ながらそう言った。

 

「ああ。そうなんだが、実はどっちもテストの得意不得意が被ってるんだよ。それでちょっと困ったからアドバイスを貰いたくてな」

「被ってる?」

「ああ。これを見てくれ」

 

 そう言うと、三宅君は2人の中間テストの答案用紙を手渡してきた。

 

 2人の中間テストの平均点数は三宅君が65点で長谷部さんが63点。学力に差は殆どないようだ。

 

 ハイミドルとローミドルの組み合わせだけど、苦手な所が殆ど被っているから期末試験で苦手分野の庇い合いが出来ないと言うことかな。

 

「ん〜、これは難しいね。不得意な部分がハッキリしてる分、今回の集団勉強会では指導がしずらかもしれない」

「……そうね。私達はロースコア組の指導で殆ど手一杯になるし、他のミドルのメンバーをサポートの櫛田さんと綱吉君に見てもらおうと思ってたから、一部に特化して指導するには指導役が足りなくなるわ」

 

 確かに……全体的に苦手な人と、一部だけ教わりたい人では同時に指導は難しいか。

 

「……やっぱり辞めようよ〜ミヤっち。私、集団で勉強するのは抵抗あるし〜」

 

 ここで、今まで黙っていた長谷部さんが口を開いた。

 

「でも長谷部、俺達だけで解決はできないぞ。苦手部分が同じなんだからな」

「分かってるけど〜、嫌なものは嫌だし?」

 

 長谷部さんは1人でいる事が多いけど、大人数で行動するのが苦手だったからだったのか。そういえば三宅君も1人でいることが多いな。性格も似ているのかもしれない。

 

『……』

 

 皆がどうしようかと悩んでいるので、ここは俺が動く事にしよう。

 

「あ、じゃあ夕方でよければ俺が勉強手伝うよ。俺の担当は夜の部だし!」

「……やってくれるなら助かるけど、綱吉君の負担が増えるけど大丈夫?」

 

 鈴音さんが俺を心配してそう聞いてきたが、特に問題はないと思う。

 

 それに、鈴音さん・平田君にはCクラスにだす試験問題の作成も担当してもらう事になっているし、桔梗ちゃんは夜の部も参加してくれるみたいだから俺も何かしたいって思いもある。

 

「うん。俺は夜の部の指導役だけだし、それぐらいはさせてほしいんだ」

「そう……じゃあお願いするわ。三宅君達もそれでいいかしら?」

 

 鈴音さんが確認を取ると、2人は頷いてくれた。

 

「ああ、すまんな沢田。よろしく頼む」

「よろしくね〜。あ、なるだけ少人数希望で〜」

「うん。こちらこそよろしく」

 

 こうして、俺は夜の部とは別に少人数の勉強会も担当する事になったのだった。

 

 

 

 —— 勉強会1日目。昼休み ——

 

 

 翌日の昼休み、平田君と幸村君が声をかけてきた。

 

「……え? 幸村君も指導役を?」

「うん。三宅君達の勉強会に参加してもらおうと思ってるんだ。人数が増える可能性や、他にも少人数の勉強会を開かないといけない事も考慮して、指導役も2人いた方がいいと思ってね」

 

 平田君からそう言われ、俺が幸村君の顔を見ると幸村君が口を開いた。

 

「俺から志願したんだ。体育祭ではあまりクラスの役に立てなかったから、勉強に関してはクラスの役に立ちたいからな」

「……幸村君」

 

 幸村君は運動が苦手だから、体育祭での成績に引目を感じているのだろうか。

 

 俺としては全く気にしなくていいんだけど、本人がやる気になってくれているなら断る必要も理由もないよね。

 

「わかった。じゃあ2人で頑張ろう!」

「ああ、よろしく頼む」

 

 そして平田君達と別れた後、飲み物を買いに行こうと廊下に設置された自販機に向かおうとすると、今度はみーちゃんと佐倉さんに声をかけられた。

 

「あ、ツナ君!」

「? みーちゃん、それと佐倉さん。どうかしたの?」

「……」

 

 佐倉さんは何かを言いたそうにしながら、もじもじしている。そんな佐倉さんに代わり、みーちゃんが話を切り出した。

 

「あのね、ツナ君に佐倉さんの勉強を見てあげて欲しいの」

「え? ……ああ、全然構わないよ」

「! ほ、本当!?」

 

 俺が構わないと返すと、佐倉さんはいきなり口を開いた。

 

「……でもどうして直接? 夜の部に参加してくれれば俺が見る事になってるよ?」

「そ、それはその……」

 

 佐倉さんがまたモジモジし始める。そしてみーちゃんが佐倉さんの背中を優しくさすってあげている。

 

「佐倉さん、自分の口で言った方がいいよ」

「う、うん……あ、あのね?」

「うん?」

 

 辿々しいけど、佐倉さんはゆっくりと自分の言葉で説明を始める。

 

「わ、私、大人数の中で勉強するのが、あ、あんまり得意じゃなくて……それで、さ、沢田君が少人数の勉強会を開くって話を聞いたから、わ、私もその中に入れて欲しいなって」

「ああ〜、そう言う事ね。うん、もちろん構わないよ」

「! ほ、本当!? ありがとう沢田君!」

「……ふふ、よかったね佐倉さん」

「は、はい! ありがとうございました!」

 

 喜んでいる佐倉さんと、優しい微笑みで佐倉さんに寄り添うみーちゃん。確かこの2人もペアだったな。仲も良さそうだし、佐倉さん的にもいいペアが組めてよかったな。

 

 

 

 —— 放課後 ——

 

 

 そして放課後になり、俺は勉強会のメンバーと共にパレットに向かっていた。

 

 結局勉強会のメンバーは、俺・幸村君・三宅君・長谷部さん・佐倉さん・綾小路君となった。

 

 ……ん? なんで綾小路君? 堀北さんと一緒に夕方の部に参加するんじゃなかったっけ?

 

 最初から決まっていたかのように何の違和感もなく一緒に歩いているから、気になって俺は聞いてみる事にした。

 

「綾小路君、夕方の部の方はいいの?」

「……ああ、堀北に沢田を手伝えと言われてな。こっちがある時はこっちに顔出せとのことだ」

「あ、そうなんだね。じゃあちょうど生徒3人に指導役3人になるね」

「ああ。……だが、俺はそこまで指導は出来ないと思ってくれ。勉強はそこそこしか出来んからな」

「う、うん……」

 

 英才教育を受けてきたって言ってたのに何を言うか……と思ったけど、綾小路君は自分の生い立ちを誰にも話したくないみたいだし、そこは相棒として考慮してあげないとだよね。

 

 そして、俺達はパレットへと入店した。

 

 —— カフェ・パレット ——

 

「……と、いうわけで。この6人で勉強会だ」

 

 席について飲み物を注文すると、幸村君が口を開いた。

 

「よろしくな」

「よ、よろしくお願いします」

「よろしく〜」

「ああ」

「よろしくね!」

「……よろしく頼む」

「……」

 

 最後に挨拶をした綾小路君を、長谷部さんがじ〜っと見つめている。

 

「……何だ?」

「……綾小路君ってしゃべるんだね。もっと空気みたいな感じかと思ってた」

「おい、それは失礼だろ長谷部」

 

 思っている事をズバッと言い切る長谷部さん。そんな彼女をペアである三宅君が注意した。

 

「……まぁそうだな。基本空気だと思うぞ」

「ははは……自分で言わないでよ」

 

 綾小路君が否定しないので俺が一応突っ込んでおいた。相棒の名誉のため、ここは俺がフォローしよう。

 

「綾小路君はクールなだけだよ。コミュニケーションも普通に取れるし、少し照れ屋さんな所もあるから接していけば面白さが分かってくると思う!」

「……誰が照れ屋だ?」

「フォローしてるんだから乗っておいてよ!」

 

 せっかくのフォローも無に返す綾小路君。これが俺の相棒クオリティーさ。

 

 そんな俺達のやりとりを見て、今度は面白そうに長谷部さんが口を開いた。

 

「沢田君と綾小路君って仲いいんだね。前からよく一緒にいるなぁとは思ってたけどさ」

「確かにな。お前らほとんど一緒に行動してるよな」

「バカンスの時も思ったが、タイプが全然違うのによく一緒にいられるな」

 

 長谷部さんの意見に、三宅君と幸村君も同調してきた。

 

 そんなに変かなぁ? 別に俺はそんなふうには思わないんだけどね。

 

「まぁ、高校に入って初めて出来た友達だからね。ほら、俺って最初あんまりいいイメージなかったでしょ?」

「あ〜、なんかPPの事を1人だけ情報を前もって知ってたとかいう噂あったな」

「でも、あれは山内の勘違いだろ?」

「そうなの? 私その噂も真相も知らなかったわ」

「……わ、私は最初から疑ってなかった……よ?」

 

 いろんな意見があるようだが、今はもう蟠りもないし関係ないよね。

 

 その時、綾小路君が俺の事をじっと見ている事に気がついた。

 

「……なぁ、沢田」

「ん? どうかした?」

「……俺とお前って」

「……待って? 何となく言いたい事が分かるから待って?」

 

 俺が最後まで言わないように止めようとするも、綾小路君は止まってはくれなかった。

 

「……友達なのか?」

「待ってって言ったのに! ってかまだ認めてくれてなかったの!?」

 

 今だにこの流れが無くならないとは……

 本気で俺の相棒になるって言ってくれたのになぁ!

 

 もう! さっさと本題に入ろう!

 

「おほん! え〜、まずは勉強方針を決める為に、3人の苦手分野を把握しようか」

「……話すり替えたな?」

「うるさいよ!? え〜。幸村君がその為の問題をいくつか作ってくれたみたいだから、まずはそれを解いてもらおうかな」

 

 俺がそういうと、幸村君がカバンから3枚の紙を取り出した。

 

「三宅と長谷部は文系教科が苦手らしいからな。文系の問題を集めている。佐倉はまだ分からないから、理系と文系を半分ずつ集めてある。まずはそれを制限時間10分で解いてみてくれ」

「わかった」

「は〜い」

「わかりました……」

 

 幸村君から紙を受け取った3人は、すぐに取り掛かり始めた。

 

 〜10分後〜

 

 3人が解いた問題を確認すると、幸村君は目を丸くして驚いていた。

 

「ここまで来ると見事だな……」

「うん、間違えた箇所も答えも同じだね」

「……実質教えるべき人数は1人か」

「いや、佐倉は理系が苦手のようだぞ。全体の成績的には三宅と長谷部と遜色ないが、苦手分野は真逆だ」

 

 幸村君のいう通り、三宅君と長谷部さんは苦手な所が完全に一致しているが、佐倉さんは全く別の所を苦手としているようだ。

 

「……じゃあどうする?」

「そうだな……」

 

 幸村君は少し考え込み、やがて再び口を開いた。

 

「俺と綾小路で三宅と長谷部を見よう。沢田は佐倉を見てやってくれ」

「あ、うん、分かった。場所も移した方がいい?」

「いや、同じ場所でいいだろう。指導役も指導方針で迷った時は協力しあいたいからな」

「そうだね。そうしようか」

 

 生徒と担当指導員が決まった所で、お互いに再度挨拶を交わすことにした。

 

「と、いうわけだ。2人ともよろしくな」

「……よろしく頼む」

「ああ、よろしく」

「お手柔らかによろしく〜」

「……」

「〜っ////」

 

 幸村君達は普通に挨拶を交わしたのだが、俺はまだ佐倉さんに挨拶をできていなかった。

 

 なぜかって、佐倉さんが顔を赤くして俯いているからね。

 

「……あの、佐倉さん?」

「! は、はいっ!?」

「俺が佐倉さんの勉強を見る事になったから。よろしくね」

「う、うんっ! よ、よろしきゅ!」

「あ、噛んだ」

「〜っ////」

『あははっw』

 

 佐倉さんが噛んでしまったのを長谷部さんが指摘する。

 佐倉さんはさらに顔を赤くし、その様子を見て俺達は笑った。

 

 まだ勉強会が始まってもいないけど、この勉強会は上手く行くような気がしてきた。

 

 場がいい感じになってきたその時——。

 カフェには相応しくない怒号が聞こえてきた。

 

「なんとかなんねーのかよ!」

『!』

 

 声のする方に目を向けると……そこにはCクラスの石崎君と、困ったような店員さんが立っていた。

 

「そう仰られましても……そういった特注のケーキは、引き渡しの1週間前にはご注文を頂かないと対応が難しくて……とても当日では対応ができませんので」

「だから、そこを何とかしろって頼んでんだろうが!」

 

 店員さんが説明をしても、石崎君はしつこく食い下がっている。

 

「なにあれ」  

 

 長谷部さんがペンをクルクルさせながら、石崎君を気持ち悪そうに睨んだ。

 

「……さぁな。俺達には関係ないことだ」

「だなぁ。飛び火されても困るしな」

「……」

 

 幸村君と三宅君は我関せずという感じだ。

 

 ——さらさら。

 ——ビリッ。

 ——すっ。

 

「……? 沢田君?」

 

 そんな空気の中。俺はノートにとある事を書き込み、そのページを切り取って、佐倉さんの問いかけに答える事もなく、1人立ち上がった。

 

 そして、そのまま石崎君の元に歩いて行く。

 

「……石崎君、やめなよ。無理だって店員さんが言ってるんだからさ」

「ああ? ……! 沢田か、何だよ? 割り込んでくんなよ!」

「さすがに見てられないよ。店員さんが無理だって言ってんだからさ、別のお店を探せばいいじゃないか」

「うっせぇな! ここ以外でも断られてんだよ! もうここしかねぇんだよ!」

 

 石崎君の言葉を聞きながら、俺はちらりとカウンターに目をやった。そして、ケーキが並んだショーケースの上に、「バースデーケーキ、チョコでホール」と書かれたメモが置いてあった。

 

(なるほど、バースデーケーキか。これは当日じゃ厳しいだろうな)

 

 そう思った俺は、まだ店員さんに喚いている石崎君にさっき書いたノートの1ページを渡した。

 

「石崎君、これ」

「あ!? なんだそりゃ!」

「当日でも特注ケーキを作ってくれる洋菓子屋さんの地図。そこなら当日でも受け付けてくれるから」

「あ!? ……マジか? 嘘じゃねぇだろうな?」

 

 ノートの1ページを見た石崎君は、半信半疑なのか疑いの目を持ちながらそう聞いてきた。

 

 ちなみにその洋菓子屋さんは、夏休みに葛城君と妹さんにバースデーケーキを送った時にも利用したお店だ。

 

 店主さんが本当にいい人で、大事なイベントの為なら当日でも引き受けてくれるんだよね。俺も何件も断られてやっと見つけ出したお店だ。きっと今後もお世話になると思う。

 

「本当だよ。俺、夏休みにそのお店でバースデーケーキ作ってもらったから」

「……分かった。ここに行ってみるわ」

 

 そう言って立ち去ろうとする石崎君。そんな石崎君を俺は呼び止めた。

 

「待ってよ」

「あ? まだ何かあんのか?」

「店員さんに謝らないと。無理な要求して仕事の邪魔したんだからさ」

「……あぁ? テメェあんまり調子乗ってんじ……」

 

 キレたのか再び俺に詰め寄ろうとする石崎君だったが、お店中から迷惑そうな目線を向けられている事に気づいたのか、すぐに足を止めた。

 

『……』

「……ちっ!」

 

 大きい舌打ちをすると、石崎君はパレットから退店していった。

 ……結局謝らなかったか。

 

 石崎君の代わりに、俺が店員さんに謝罪しておこうかな。

 

「すみませんでした。ご迷惑をおかけしました」

「あ、いえいえ! むしろ助けていただいてありがとうございます!」

 

 店員さんが安堵した表情になっていたので、許してもらえたと思って席へと戻った。

 

 俺が席に近づくと、長谷部さんがパチパチと小さい拍手をしてくれた。

 

「ひゅ〜。すごいね沢田君。あんな事普通できないよぉ〜。ちょっと感動した」

「あはは、ありがとうね」

 

 少し照れながら席に着くと、綾小路君も話しかけてきた。

 

「……石崎、何をしてたんだ?」

「ああ、なんかバースデーケーキを頼みたかったらしいよ。でも当日ではお店では注文を受けられないって言われて食い下がってたみたい」

「……ああ、なるほどな」

「うん」

「……」

「……?」

「……」

「綾小路君?」

「……ん? あ、すまん。何でもない」

 

 綾小路君は何でもないと言うが、いきなり無言になった事が気になった俺は、無言中に綾小路君が見ていた場所に視線を移した。

 

 そして、そこにあったのは——卓上カレンダーだった。

 

 パレットの客席には、その月のイベントが記入してある卓上カレンダーが置かれているんだ。

 

 卓上カレンダーを見たということは、日付が気になったって事かな?

 

 今日は10月19日。だから明日は10月20日。……あ!

 

 その時、とある事を思い出した。

 

 ちょうど5日前、その日は俺の誕生日だった。それでクラスメイトの何名かが放課後にお祝いしてくれたんだ。

 

(あ、その前日はリボーンの誕生日だった。お祝いされにあいつは俺の実家に帰ったけど、プレゼントを渡さないわけにもいかなくて、後日にエスプレッソマシーンをプレゼントさせられました。……すごい高かったです!)

 

 その時に確か皆の誕生日の話題になって……綾小路君は10月20日だと言っていたな。そうか、明日誕生日だって思い出して思わずカレンダーを見ちゃったんだね。

 

 俺もお祝いしてもらったし、相棒である綾小路君の誕生日をお祝いしないわけにはいかないよな。

 

(今日の勉強会が解散したら、夜の部に参加する前にこの前と同じ洋菓子屋さんに寄ろう)

 

 そう決めた俺は、再び勉強会に集中するのであった。

 

 

 ——ツナ達が勉強会をしている中、Cクラスには全クラスメイト達が揃っていた……

 

 

『……』

 

 全員が俯く中、龍園・伊吹・アルベルト達が教卓前に陣取っている。

 

 静寂と畏怖の念が教室を支配する中、龍園はゆっくりと口を開いた。

 

「……よくよく考えてみりゃ、俺は今までほぼ全ての作戦をあいつに邪魔されてるよなぁ」

「……あ、あいつ?」

 

 クラスメイトの1人が恐る恐る口にすると、龍園は嬉しそうに話を続ける。

 

「沢田だよ、沢田綱吉だ。須藤を退学させようとした時も邪魔され、無人島試験でも邪魔され、なおかつ失格にさせられた。干支試験では関わりがなかったから俺の作戦通りに事が運んだが、次の体育祭ではまたも俺の作戦を邪魔してきやがった。……しかも最優秀賞生徒賞まで取り、生徒会副会長に就任しやがった!」

『……』

 

 だんだんと強くなって行く龍園の語気に、クラスメイト達は震え上がる。

 

 龍園の機嫌が悪くなるのは沢田綱吉のせいだ。そういう意識が働き、クラスメイト達の中にはツナに対し恨みのような感情を抱えている者も少なくない。

 

「……今、同学年で1番やっかいなのは、Aクラスの坂柳でもなく、Bクラスの一之瀬でもねぇ。Dクラスの沢田綱吉だ。まずは、こいつを真っ先に潰さねぇといけねぇな」

「……でもさ、それはかなり難しいんじゃないの?」

「……伊吹、なぜそう思う?」

 

 龍園に意見したのは、伊吹澪だ。このクラスの中で、唯一龍園にタメ口をきける存在でもある。

 

「今までの結果でも分かるけど、あいつは頭の回転は速いし機転も利くはずよ。それに、体育祭でのあいつの活躍を見たでしょう? あの運動能力では、あんたお得意の暴力でも屈服させるのは難しいんじゃないの?」

「……まぁそうかもな。だが、暴力の勝敗を決めるのは何も腕っ節だけじゃねぇ。〝ここ〟を使える奴が勝つ事もある」

 

 そう言いながら、龍園は自分の頭をトントンと叩いた。

 

「……じゃあ、あんたは沢田に暴力で挑む気なのね」

「ああ、周りくどい方法を取ってる場合じゃねぇ。今のうちにあいつを排除しねぇとな……そこでだ」

 

 龍園は教卓の前に立ち、クラスメイト達を睨むように見回す。

 

「……満を持して勝つ為に、あいつの弱みを握りてぇ。お前ら、沢田に関する情報を持っている奴はいねぇか?」

『……』

 

 誰も答える者はいないが、数名に目を付けた龍園はその人物達の席に直行する。

 

 最初に向かったのは……椎名ひよりの席だ。

 

「ひより……お前、何か知らないのか?」

「……いえ。沢田君とは親しくしていますが、弱みのようなものは存じ上げませんね」

「……そうかよ。なら、沢田に近づいて弱みを握れと言ったら……どうする?」

「……それがCクラスの為になるなら、引き受けますが?」

 

 ひよりと龍園はお互いに笑みを浮かべながら見つめ合う。

 

「……ふっ、よく分かったぜ」

「お分かり頂けてよかったです」

 

 満足したのか、龍園はひよりの席から離れて別の席へと向かう。

 

 そしてそこは……干支試験の最中に軽井沢に対していじめを行なっていた3名の内の1人、真鍋の席だった。

 

「……おい真鍋。お前、さっきからすごく震えてるなぁ?」

「す、すみませ……」

「お前、何か知ってるな?」

「そ、その……わ、私は」

 

 ——ドンっ!

(びくっ!)

 

 痺れを切らした龍園は真鍋の机を強く叩いた。

 

「……とっとと話せ」

「! は、はいっ」

 

 恐怖の余り、真鍋は泣きながら話し始める。

 

「……D、Dクラスの、軽井沢恵……って知ってる?」

「……名前と顔くらいはな。平田の女だったか?」

「う、うん。……あの子、その、今はあんな強気な態度だけど、昔虐められてたっぽくて……」

「ほう? それで?」

「リ、リカが、軽井沢にひどい扱いを受けてたから、仕返ししようと思ったの……」

 

 真鍋は干支試験の最中の出来事を全て龍園に話した。

 

 軽井沢と同じグループになって、軽井沢が昔は虐められっ子だったのではと疑い、それが事実だったこと。そして仕返しとばかりに暴力行為をしようとしたことを話したのだ。

 

「……なるほど。それで?」

「私達が軽井沢に暴力を振るおうとしたその時、沢田君が現れたの。そして、軽井沢の代わりに土下座で謝ってきた。 自分にはなんでもしていいから、軽井沢の事は許してあげてくれって……」

「はんっ、沢田は人格者って訳か?」

「う、うん。で、でも、そこが沢田君の弱点なんじゃないかって……」

「? どういう意味だ?」

「その……体育祭の時も思ったんだけど、沢田君は友達とか仲間の為なら、自分を犠牲にする事を厭わないんじゃないかな……」

「……」

 

 真鍋の意見を聞いて、龍園はこれまでの事を思い出す。

 

(石崎達を使って須藤を退学にしようとした時、沢田は自分を殴らせてお互いの立場を同じものにする事で問題を相殺して見せた)

 

(俺が綾小路の作戦に乗り、桔梗達を砂浜に置き去りにした時も、佐倉を助ける為に俺に土下座してみせた)

 

(体育祭の棒倒しでは、須藤を庇って1人で暴力を受けながら棒を守り切った)

 

「……そうか。よくよく考えれば、沢田が力を発揮して来る時は必ず俺達がDクラスの生徒にちょっかいをかけていたな。ならば、その習性を利用すればあいつを完膚なきまでに叩きのめせそうだな」

 

 ツナの弱点を見つけたと確信した龍園は高笑いをした。

 

「ははは! これであいつも潰してやれそうだなぁ。……真鍋、よくやった」

「……は、はい」

 

 真鍋の肩に手を置いた龍園は、教卓へと戻って行った。

 

「……よし、方針は決まったな。お前らに命令だ。これからしばらく、沢田の交友関係を探れ。沢田にとって1番攻撃されるとダメージがでかそうな奴を見つけ出すんだ。見つけ出せた奴には、PPを10万ポイント贈呈しよう」

『!』

 

 10万ポイントというご褒美に、クラスメイト達の目の色が変わる。

 

(10万……)

(沢田のせいで、俺達は龍園からひどい扱いを……)

(鬱憤を晴らすチャンス!)

 

 クラスメイト達が様々な思惑を巡らせる中、ひよりは1人でため息を吐いた。

 

(……見る目のない人達ですね。ツナ君にコテンパンにやられて、もう少しまともなクラスになってくれればいいんですけど)

 

 そう思いながら、窓側である自分の席から大空を見上げて微笑んだのであった。



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