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嫌われ少年は今日も妖の世で暮らす

作者:久遠-kuon-
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第1話

 僕は、学園に伝わる"鬼神様の噂"を試した。
 もちろん、やりたくてやったわけではない。そもそも僕はこの手の話に全くと言っていいほど興味がなかった。

 じゃあ、なぜ試したのか。

「元宮〜。いつもみたいにさ、カネ、貸してくんね?」
「あー、立ってんならジュース買ってきてよー。いつものやつー」
「元宮、そこ邪魔。ぼーっとしないでよ。てか、突っ立ってるだけなら学校来ないでほしいんだけど」

「コイツ、死んじゃえばいいのにな」
「それならさ!試してきてもらおうぜ!"鬼神様の噂"」

 ……まあ、そういうことだ。

 僕はいじめを受けている。抵抗する気はない。無駄に抵抗する素振りをすると、コイツらが喜んでしまうことを僕は知っている。
 だから、せめてもの抵抗として、僕はあえて何もしない。黙って、人形のように命令を聞く。殴られそうになっても、大人しく殴られる。

 別に、辛くはない。今日まで、人生で一度も楽しいと思ったことはないからだ。

 物心ついた時から、両親から虐待を受けていた。よくしてもらったことは一度もない。
 よくしてもらった経験がないから、満たされなくてもなんとも思わない。これが僕にとっての普通なんだ。

 最悪な人生だが、不満はない。僕はこれ以上を知らない。

「……わかった」

 そして、僕は噂がある図書室へと向かった。


 噂通りの手順を踏んで、鬼神様が現れた。ここまではいいのだ。
 だが、問題はここからだ。

『少年はなぜここに?たくさん傷があるが、もしかしていじめられているのか?それとも虐待か?私が直してやるからこちらへおいで』
「……あの、僕『殺してください』ってお願いしたと思うんですけど」
『まあまあ、それは後でいいから』
「あの……」

 どうやら、すぐには願いを叶えてくれないらしい。殺される覚悟をしていたのに、なんだか拍子抜けだ。
 言われたように、僕は鬼神様がいる窓の方に近寄った。手が届く距離になると、鬼神様は僕の制服の袖をめくって、しばらく眺めた。

『……』
「……なんですか、ジロジロ見て」

 その問いに返答はなかった。
 黙って立ち上がったと思えば、急に姿を消してしまった。

「!?き、鬼神様」
『なんだ?』

 ……と思ったら、また現れた。救急箱と氷が入ったバケツを持って。
 再び窓に腰をかけ、近くのテーブルに氷を置いてから救急箱を開けた。中には消毒液やガーゼなどが入っていて、特に変なものが入っているわけでもなさそうだ。
 鬼神様は慣れた手つきで脱脂綿をいくつか出して、丸める。それに消毒液を染み込ませ、ピンセットで僕の腕にあった切り傷をポンポンと優しく叩いた。

「……痛っ」
『驚いた。少年、痛覚があるのか』
「僕のことなんだと思ってるんですか」

 これは、今日『ナイフの切れ味を試したい』といってつけられたものだ。相当な切れ味だったようで、かなり傷は深い。まあ、噂を試すために借りて、今写真に刺さっているから……少し悪くなってしまったと思うが。

『これは痕になるぞ。縫合しても?』
「なんでそんな気にかけるんですか?僕、殺してほしいって言いましたよね」
『否定しないってことはいいんだな。おとなしくしていろよ』

 すぐに針と糸を用意して、傷口を縫い合わせ始める鬼神様。普通に痛いし、やめてほしい。痛い。

「っ〜〜〜」
『……』

 なんて勝手なんだ。すごく、嫌だ。

「やめてくれませんか、痛いです」
『勝手に言ってろ。ちなみに、これより死ぬときの方が断然痛いぞ』
「別に……それは、いいんですけど……」

 縫合は五分も経たないうちに終わった。……慣れているようだった。 
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