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仮面ライダーAP

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凶兆編 仮面ライダータキオン&エージェントガール 中編

 
前書き
◆今話の登場ライダー

森里駿(もりさとはやお)/仮面ライダータキオン
 かつてはノバシェードの尖兵であり、遥花に敗れた後は芦屋隷の保護観察を受けつつ実験に協力していた改造人間。ぶっきらぼうに振る舞うが、情には厚い。年齢は27歳。
 ※原案はエイゼ先生。

上福沢幸路(かみふくざわゆきじ)/仮面ライダーGNドライブ
 大富豪の御曹司でありながら、警視庁の刑事でもある優雅な好青年。気障な言動を見せることが多いが、その内側には熱い正義感を秘めている。年齢は28歳。
 ※原案は黒崎 好太郎先生。

南義男(みなみよしお)/仮面ライダーボクサー
 質実剛健で情に厚い、元ボクサーのベテラン刑事。年長者として新世代ライダー達を支える良き「おやっさん」でもある。年齢は45歳。
 ※原案は平均以下のクソザコ野郎先生。

熱海竜胆(あたみりんどう)/仮面ライダーイグザード
 警視庁の警部であり、愛する妻と娘達を守るためにノバシェードと始祖怪人の打倒に立ち上がったタフガイ。年齢は31歳。
 ※原案はカイン大佐先生。
 

 
 数台のバイクに跨り、凄まじい速度で猛追して来るノバシェードの戦闘員達。ミラーでその様子を目の当たりにしたヘレンは、追手の男達が見せる下品な笑顔に眉を顰めていた。

「ヒューッ! なんだなんだァ、すんげぇデカ乳な上にかなりの美人じゃねぇか! 俺達のことを嗅ぎ回ってた特務捜査官が居ると聞いて来たが……こりゃあ、思わぬ収穫(・・)だッ!」
「へへっ、こりゃあ聞きしに勝る超弩級の上玉だぜぇ! 俺達と一晩(・・)付き合ってくれたら、命だけは助けてやれるかもなァ!?」
「改造人間の俺達とたぁ〜っぷり遊んで(・・・)……ブッ壊れずに済んだらの話だけどよォッ!」

 M4カービンのものとは明らかに違う銃声。死屍累々と横たわる仲間達の死体。そこから即座に状況を理解した他の戦闘員達が、ヘレンとベイカーを乗せた高級車を発見していたのである。ノバシェードの戦闘員達を乗せた数台のバイクは、あっという間にヘレン達の車両に追いついてしまうのだった。

「……ッ!」

 顔付き通りの下品な罵声を浴びせて来る戦闘員達の言葉に、冷酷な怒りと殺意を露わにするヘレン。
 彼女はギリッと歯を食いしばると、片手でハンドルを操作しながらワルサーPPKをスーツの懐から引き抜いて行く。その弾みでシャツのボタンが弾け飛び、そこの隙間から白い谷間が覗いていた。

「しつっ……こいわねッ! ノバシェードの下衆共がッ!」

 目の前から迫る瓦礫を、左右に動いてかわしながら。彼女は後方から迫る戦闘員達の眉間に、次々とACP弾を撃ち込んで行く。この状況であっても彼女の銃弾は寸分の狂いもなく、戦闘員達の頭部に命中していた。

「ぐぉああッ!?」
「このアマッ……がはッ!?」

 それでも辛うじて「急所」からは外れていたようだが――被弾によって体勢を崩し、バイクから投げ出された彼らはそのまま瓦礫に激突し、次々と命を落として行く。その様子を見届けながら、ヘレンは鋭く目を細めて引き金を引き続けていた。

(やはり兄さんの情報通りだわ……! 「完成品」の改造人間のみで構成されていた旧シェードとは違って、ノバシェードの構成員は軒並み「失敗作」ばかり! 運動能力こそ超人染みてるけど、急所さえ狙えれば通常兵器でも奴らには通用する!)

 人間を遥かに超える力を持った改造人間とはいえ、その界隈においては失敗作とされる程度のスペックしかない。それに加え、戦闘のプロばかりだった旧シェードとは違い、戦闘員のほとんどは民兵上がり。
 能力においても戦闘技術においても、ノバシェードの戦闘員達は旧シェードのそれには遠く及ばない「紛い物」に過ぎないのだ。急所を正確に狙える技量さえあれば、通常兵器でも十分に渡り合える。

 その事実を己の眼で確かめながら、彼女は空になった弾倉を車窓から脱落させていた。
 片手でハンドルを握ったままでは、再装填は難しい。そこで彼女は、身体をくの字に仰け反らせることによって、自身の爆乳をどたぷんっと弾ませると――その白い谷間から、次の弾倉を「発射」させていた。

(正直、私もあんまりやりたくないんだけど……結構便利なのよね、これッ!)

 白い爆乳のたわわな弾みで、その深淵から飛び出して来た弾倉。そこに向かってワルサーPPKのグリップを振り下ろし、空中で再装填を終えたヘレンは、即座に射撃を再開して行く。その鮮やかな再装填と連射により、追手のバイクはほどなくして全滅してしまうのだった。

 だが、それで終わりではない。如何に手練れだろうと、たった1人の人間の力で対処し切れるほど、ノバシェードは甘い相手ではない。

「……! い、いかんアーヴィング捜査官! 前がッ!」
「えっ……!?」

 後部座席から前方を目にしたベイカーが声を上げた瞬間――4人の戦闘員達が、高級車の前に飛び込んで来たのである。
 異様に肥大化した両腕を持つ、「腕力特化型」の改造人間である彼らは、走行中の高級車を真っ向から受け止めようとしていた。

「調子に乗りやがってぇえッ!」
「し、しまっ……きゃあぁああッ!」
「うわぁあぁあッ!」

 失敗作とはいえ、改造人間は改造人間。その事実を思い知らせるように、高級車の追突を受け止めた戦闘員達は、そのまま力任せに車両を横転させてしまうのだった。
 ヘレンとベイカーの悲鳴すら掻き消す衝撃音と共に、車体が地を転がって行く。その回転が終わった直後、ヘレンは苦悶の表情で車両から這い出ていた。

 彼女が立ち上がった弾みで、ぶるんっと乳房と巨尻が揺れる。その躍動に目を奪われつつ、ベイカーも横転した車両から何とか抜け出そうとしていた。

「だ、大丈夫ですか市長っ……!」
「あ、あぁ、何とかな……!」

 一足早く車両から脱出したヘレンは、地を這ったままのベイカーを車両の下から引き出そうとする。だが、彼女の背後を取っていた戦闘員達は、瞬く間にその豊満な肢体を取り押さえてしまうのだった。

「あぐっ!?」
「へへ……仲間達が随分と世話になったみてぇだな? 勇敢な女捜査官さんよっ!」
「ア、アーヴィング捜査官ッ!」

 ついに捕われてしまった女捜査官の豊満な肉体に、戦闘員達が下卑た声を上げる。そのグラマラスな肉体を覆う黒スーツが、紙切れのように引き裂かれて行く音が、ベイカーの叫びを掻き消していた。

「きゃあぁああっ!? は、離しなさい! 離せぇえっ!」
「俺達をここまで手こずらせるくらいなんだ、もしかしたら改造人間の力で可愛がっても……壊れねぇかも知れねぇなァ?」
「い、いやぁああっ!」

 珠のような柔肌を際立たせる黒のブラジャーとTバックのパンティが露わにされ、スーツの内側で熟成されていた濃厚な汗の香りが匂い立つ。そのフェロモンの芳香を鼻腔で堪能する男達は、必死に抵抗しようとするヘレンの肉体を、改造人間の膂力で容赦なく組み敷いていた。

「このッ……離しなさいッ!」
「おごぉッ……!?」

 穢れを知らない純白の素肌。その瑞々しい全身の柔肌を、男達の厳つい手が無遠慮に這い回る。
 靴まで脱がされ裸足を晒されていたヘレンは、なんとか彼らの手から逃れようと、咄嗟に男の顔面に鋭い蹴りを叩き込んでいた。スラリと真っ直ぐに伸びた、白く肉感的な足。その芳しい足裏が、男の顔面に炸裂する。

(これでッ……!)

 キックの衝撃により、たわわな乳房と安産型の白い巨尻がぶるんと弾み、芳醇な匂いの汗が飛び散っていた。ピンと伸び切った長い脚は矢のように鋭く疾く、男の顔面に命中している。
 これまでヘレンの身体を組み伏せようとして来た犯罪者達は皆、このキックに意識を刈り取られて来たのだ。美女に目がない同僚の男達も彼女の蹴りの威力を知っているため、迂闊に言い寄ろうとはしないのである。人間の男なら、確実に意識が飛ぶ威力なのだから。

 だが、それは生身の人間を相手にしていた時の話でしかない。今ヘレンを組み伏せている戦闘員達は――例え失敗作だろうと、改造人間であることには違いないのだ。人間の常識など、通用しない怪物なのである。
 ヘレンの白い足裏が顔面に減り込んだ状態のまま、蹴りを食らった戦闘員の男は下品な笑みを浮かべていた。まるで、効いている様子がない。

「……ひっ!?」
「へへっ……いい蹴りじゃねぇか、ますます気に入ったぜ。その調子でもっと抵抗してくれよ、そうでなきゃあこっちとしても張り合いがねぇ……!」
「そ、そんなところっ……!? や、やめっ……!」

 むしろ男はキックという名の「余興」すら愉しむように、ヘレンの優美な足先を隈なく舐め回し、そこから漂う熟成された匂いを鼻腔で味わっている。
 足の匂いを嗅ぎ回り、指の股から足の裏、さらには膝裏にまで舌を這わせて来る男の下卑た顔に、ヘレンはただ慄くばかりだった。足先から伝わって来るぞくぞくとした悪寒が、伸び切った白い美脚を通じてヘレンの背中を走り抜けて行く。その感覚に思わずびくんと仰け反った彼女の白い爆乳が、ぶるんっと弾んでいた。

(き、効いてない……まるで効いてないッ! 確実に急所に入ったはずなのにッ! 人間の筋力では、例え急所に当てたとしてもこの程度の威力にしかならないというのッ!?)

 顔面を蹴られることすら、圧倒的な優位に立っている彼らにとっては「娯楽」の一つに過ぎないのだ。常人の男なら気絶してしまうような蹴りでも、彼らの感覚では「戯れ」に彩りを添えるスパイスでしかない。

 「エリート捜査官」と「失敗作の戦闘員」であろうと、決して埋められない「人間」と「改造人間」という根本的な力の差が、その光景に表れている。一度銃器を取り上げられてしまえば、もはや戦い方でどうにかなる力関係ではなくなってしまうのだ。

「あ、あぁあ……!」

 全ての抵抗が、相手を喜ばせるだけの「戯れ」で終わる。その絶望感に打ちひしがれたヘレンの白い身体に、男達の浅黒い身体が覆い被さろうとしていた。

「おっほ……! やっぱりこりゃあとんでもねぇ上玉じゃねぇか! この乳の張りと柔らかさ、堪んねぇ……! こいつと一晩寝られる金で、戦車も買えちまいそうだなぁ!?」
「でっけぇケツ見せ付けやがって……! このケツで捜査官は無理があるだろうが! それとも……こうして男を誑し込むのがあんたの本領かぁ?」
「や、ぁぁぁあっ……! や、やめっ……!」

 容易くブラジャーまで剥ぎ取られ、たぷんと躍動する白い爆乳が露わにされる。先端部を間一髪ガードしているニプレスが、男達の嗜虐心と獣欲を掻き立てていた。
 甘い匂いを閉じ込めていたブラジャーから解放された、白く豊穣な二つの果実。その熟れた双丘からは、濃厚な女の芳香がむわりと匂い立っている。

(も、もうダメぇっ……! 兄さん、仮面ライダー、私、もう壊される(・・・・)っ……! 捜査官としての誇りも、女としての尊厳も、全部っ……!)

 羞恥に頬を染めるヘレンは必死に両腕で隠そうと暴れるが、ガッチリと押さえ付けられていてはそれも敵わない。その身動ぎに応じてたぷんたぷんとプリンのように揺れ動き、女の香りを振り撒く特大の乳房は、男達の粘ついた視線を釘付けにしていた。

「さぁて……そろそろ極上の身体を頂く(・・)としようか。もっと本気で抵抗して見ろよ、特務捜査官殿ッ!」
「……っ!? や、やめなさいっ! そこは、そこだけはぁあっ!」

 Tバックの紐に指を掛けた他の者も、そのまま一気にパンティを剥ぎ取ろうとしている。未知の恐怖に晒された哀れな処女(バージン)は、ただもがくことしか出来ない。

(あ、あぁ、何ということだ……! 我々のような生身の人間では、彼らを止めることなど出来ないというのかッ……!?)

 無論、自力で車の下から抜け出すことも出来ないベイカーでは、彼女を救い出すことなど出来るはずもない。

(た、頼む……! 私はもうどうなっても構わん、だから彼女は、彼女だけは……!)

 ――このまま自分は、ヘレンが辱められて行く様を見ていることしか出来ないのか。その悔しさに唇を噛み締めた彼が俯いた、次の瞬間。

「んっ!? な、なんだてめぇら……どわぁぁああッ!?」
「……!?」

 極上の女体に群がる戦闘員達は、背後からぬっと現れた4人の男達に首根っこを掴まれると、そのまま後ろに放り投げられてしまった。2m近くにも及ぶ腕力特化型の巨躯さえ、その男達は軽々と投げ飛ばしていたのである。

 ヘレンの前に現れた4人の男達は皆、鋼鉄の装甲服を身に纏い。大きな複眼状の両眼を特徴とする鉄仮面で、素顔を隠していた。
 装甲服のデザインも装備も、何もかもが違う彼らだが、ヘレンは彼らの姿を一目見た瞬間に「理解」する。

(こ、この人達は……! この人達が……!)

 彼らこそ、自分が本来このテロに対抗するために合流するはずだった「応援」。この時代に現れた、新世代の「仮面ライダー」達なのだということを。

「……これでも羽織って、大人しくしていろ。後は……俺達が引き受ける」
「あ、あなた達は……!」

 そのうちの1人が、低くくぐもった声を掛けてくる。頭部から伸びた一角を特徴とする漆黒の戦士「仮面ライダータキオン」こと、森里駿(もりさとはやお)。彼は装甲服の上に羽織っていた黒のロングコートを勢いよく脱ぎ捨て、ヘレンの白い身体にばさりと被せていた。
 強く逞しい漢の匂いが滲むそのコートの温もりに、ヘレンは羞恥心もあって頬を赤らめている。コートの裾を握る白い手は、恐怖から解放された安堵感に震えていた。

 だが、コートを与えたタキオンは彼女の白く美しい身体を目にしても、全く反応を示さない。男の欲望を強く掻き立てる白い乳房の躍動など意に介さず、ただヘレンを庇うように戦闘員達の前に立ちはだかっていた。

「人間の自由と平和を守る。そんな戯言のためにこんなところまで飛ばされて来た、哀れな鉄砲玉だ」
「鉄砲玉って、そんな言い方……! 仲間の方々に対しても、あなた自身に対しても、あまりに酷ではありませんか!?」
「知ったことか、事実だ」

 その皮肉めいた白々しい声色と突き放すような言葉遣いに、ヘレンはコートを羽織りながらもムッと眉を吊り上げる。そんな彼女の様子にため息をつくもう1人のライダーは、優雅な佇まいで一礼しつつ、艶やかな声色で語り掛けていた。

「済まないね、美しき捜査官殿。彼はどうにも、紳士的な振る舞い……というものが絶望的に不得意なのだよ」
「は、はぁ……」

 白銀に煌めくボディと、赤いタイヤ状のパーツを特徴とする「仮面ライダーGNドライブ」こと、上福沢幸路(かみふくざわゆきじ)。彼の気障な振る舞いに胡散臭さを覚えていたヘレンは、コートで身体を隠しながら桃尻を擦って後退りしていた。

「やかましいぞ、上福沢。癪に触る態度しか見せんお前にだけは言われたくない」
「それはいつものことじゃないか。それとも……静かな僕がお好みかい? 森里君」
「……今の発言は撤回する。大人しいお前など気色悪くて敵わん」
「ふふっ、僕に対する理解が一層深まったようで実に何よりだ。面白い男だね、君は」

 ノバシェードの戦闘員達から目を離すことなく肩を並べたまま、漆黒と白銀のライダーは軽口を叩き合っている。
 そんな2人の奇妙な距離感に、ヘレンが困惑する中。3人目である銀色のライダーは、両拳に装備された巨大な手甲をぶつけ合わせながら、仲間達の前に進み出ていた。

「おいお前ら、揉めてぇなら後にしとけ。俺達はさっさとコイツらを片付けて、『次』の現場に行かなきゃならねぇんだぞ。……ノバシェードの馬鹿共が暴れてる場所は、ここだけじゃあないんだからな」

 新世代ライダー達の中でもベテランである、「仮面ライダーボクサー」こと南義男(みなみよしお)。ライダー達の「おやっさん」でもある彼は、腕力特化型の両腕さえ霞むほどの大きな拳を構え、臨戦体勢に入っている。

「……それにしても。改造人間、それも腕力特化型の力を生身の女に向けるとは、どこまでも見下げ果てた連中だな。お前達を率いていた上杉蛮児(うえすぎばんじ)も、草葉の陰で泣いているぞ」

 そして、4人目となる最後の男がゆっくりと歩み出て来る。全身を固める紅い装甲と漆黒のマントを特徴とする、「仮面ライダーイグザード」こと熱海竜胆(あたみりんどう)警部だ。
 常人には耐えられない負荷が掛かるスーツを平然と使いこなしている警視庁屈指のタフガイは、マントを靡かせボクサーの隣に並び立っていた。威風堂々とした佇まいで戦闘員達の前に立ちはだかった彼は、今は亡きかつての宿敵(シルバーフィロキセラ)の無念を憂い、それ故の義憤に拳を震わせている。

武田禍継(たけだまがつぐ)、上杉蛮児、そして明智天峯(あけちてんほう)。彼らには彼らなりの『信念』というものがあったが……今のお前達に、そのようなものは微塵も感じられん。被害者意識を拗らせ、暴力を正当化するお前達のような存在だけは……許すわけには行かん。あの3人のためにもな!」
「……そういうわけだ嬢ちゃん、危ねえからちょっと下がっとけ。巻き込まれたら痛いじゃ済まねぇぜ? 『化け物同士』のデスマッチはよ」
「……っ!」

 彼ら4人の逞しい背中に絶対的な頼もしさを感じていたヘレンは、気圧されるままに頷くと、白い巨尻を地に擦り付けながら後方に引き下がって行く。特に「既婚者」である義男と竜胆は、その全身から煮え滾るような「義憤」のオーラを噴出させていた。

 先ほどまでヘレンが受けていた数々の辱め。それはノバシェードの暴虐が及ぶ全ての場所で起こり得ることであり、その残党が世界中で蜂起し始めている以上、誰にとっても他人事ではいられないのである。
 ましてやノバシェードの仇敵である仮面ライダーにして、妻帯者でもある義男と竜胆は、常に愛する妻の生命と貞操を狙われる立場にある。さらにどちらの妻も、誰もが思わず振り返る絶世の巨乳美女なのだ。夫の不在を狙うノバシェードに襲われれば、ひとたまりもない。

 ライダー達の「ボス」とも言うべき番場惣太(ばんばそうた)警視総監はそのリスクを見越して、日本で夫の帰りを待っている部下達の妻に対しては特に厳重な警備体制を敷いているのだが――それも、絶対と言えるものではない。
 現に、「仮面ライダーケージ」こと鳥海穹哉(とりうみくうや)はすでにノバシェードのテロによって、妻子の生命を奪われてしまっている。彼と同じ苦しみを味わうことになる可能性は、ノバシェードが存続している限り永久に付き纏うのだろう。

(みやこ)……俺は必ず、お前を守り抜いて見せるぞ。鳥海一家のような惨劇は……何としても阻止せねばならないんだッ! この「仮面ライダーイグザード」……熱海竜胆の誇りに懸けてもなッ!)

 かつての同僚でもある最愛の妻、都。日本に残して来た彼女と愛娘達の笑顔が、脳裏を過るたびに。イグザードの鎧を纏う竜胆は拳を震わせ、漆黒のマントを覇気のオーラで靡かせている。全身に迸る凄まじい威圧感はやがて波紋となり、彼を中心に広がって行った。

(……鳥海(あいつ)のような思いだけは、もう誰にもさせはしねぇ。そのためにも……こいつらだけは! 迅速かつ正確に、完膚なきまで叩き潰すッ! そうでなければこの俺、南義男に「仮面ライダーボクサー」を名乗る資格なんざねぇッ! そうだろう、本子(もとこ)ッ!)

 愛する妻の笑顔を糧にしているのは、竜胆だけではない。巨大な拳をガツンとぶつけ合い、闘志を剥き出しにしているボクサーこと義男も、妻を守ると意気込む1人の夫として、ノバシェードの戦闘員達を鋭く睨み付けている。イグザードの覇気にも全く見劣りしないほどの苛烈なオーラが、その白銀のボディから滲み出ていた。

 ――自分達が専用のマシンで駆け付けて来るまで、この一帯に響き渡っていた悲痛な叫び。その悲鳴と、声の主であるヘレンのあられもない姿。義男と竜胆はその光景から、あり得るかも知れない「妻の窮地」を連想してしまっていた。
 熱海都(あたみみやこ)と、南本子(みなみもとこ)。愛する妻達の名を心の奥底から呼ぶ男達は、己の鉄拳を熱く震わせている。穹哉(なかま)と同じ悲劇だけは、繰り返してはならない。このような暴虐は、断固として阻止せねばならないのだと。

 一方、新世代ライダー達の登場に一時は怯んでいた戦闘員達は、気を取り直したように吼え始めていた。「お楽しみ」を邪魔された怒りで恐怖の感情を塗り潰した彼らは、相手の実力を推し量ることも忘れて挑み掛ろうとしている。

「てめぇら……全員仮面ライダーか! 俺達の『聖戦』を邪魔しやがって……! いつまでもてめぇらの思い通りになると思うなよッ!」

 やがて。今回のテロに参加した戦闘員達の「主力」である、腕力特化型の改造人間達が力任せに飛び掛かって来た。その光景に息を呑むヘレンとベイカーは、ただライダーの勝利を祈ることしか出来ない。
 だが、この戦いの行方は実に一方的なものとなっていた。肥大化した戦闘員達の両腕と真っ向から組み合い、力比べの体勢に入った4人のライダー達は――圧倒的に体格で優っているはずの彼らを、「腕力」で押し返している。

「な、なんだこのパワー……!? ば、化け物共がぁあッ……!」
「化け物、ね。生憎だけど、人々にとっては僕達も君達もさして変わらないよ。どちらも等しく超人であり……化け物さッ!」
「ぐはぁああッ!」

 優雅で紳士的な佇まいとは裏腹なパワーで、腕力特化型の「お株」を奪ってしまったGNドライブは、組み合った姿勢のまま戦闘員の腹部に蹴りを突き入れて行く。その衝撃に吹き飛ばされた戦闘員は、握られたままの両腕を容赦なく引き千切られていた。

「な、何なんだコイツ、俺達よりもずっと細っこい癖に――ぐわぁああッ!?」
「……寄ってたかって女を襲うのがお前達の『聖戦』か? 安い大義があったものだな」

 パワーを売りにしていた腕力特化型の両手を、力比べの姿勢のまま握り潰してしまったタキオン。彼は激痛に蹲る戦闘員を冷酷に見下ろしつつ、その両手から鮮血を滴らせていた。

「がは、あッ……!」
「……今日のところは、軽い『お仕置き』で勘弁しといてやる」
「ちょっとでもその気になったら……すぐに死んじまうからな」

 力比べの体勢から逃れようと、強引にボクサーの両手を振り解いた1人は――顔面に軽いジャブを喰らっただけで意識を吹き飛ばされ、昏倒して行く。
 イグザードに無理矢理引き寄せられていた最後の1人も、眉間に頭突きを喰らって気絶していた。かくして4人の腕力特化型は、ライダー達の一撃だけであっという間に再起不能となってしまったのである。

 ライダー達はあくまで戦闘員達を「人間」として扱い、悪に堕ちた改造人間が相手であろうと、極力殺害を避けようとしているのだが。彼らと戦った者達は皆、このように刃向かおうとする「心」を殺され、無力化されて来たのだ。

「……そういうことだ。聞いているな?」
「ひ、ひひっ、ひぃいいぁあッ……!」

 意識を保っている残りの2人は怯え切った表情でライダー達を見上げており、抵抗する意志を根刮ぎ破壊されている。そんな彼らをジロリと一瞥するタキオンは、腰を抜かした戦闘員達の醜態に鼻を鳴らしていた。

 もう彼らは2度と、ノバシェードの戦闘員を名乗ることは出来ないだろう。この場で命を奪われることなく、彼らは人としての裁きを受けるしかない。そうなるほどにまで、彼らの心は完全にへし折られてしまったのだ。
 
 

 
後書き
 
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