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仮面ライダーAP

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特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第7話

 
前書き
◆今話の登場怪人

加藤都子(かとうみやこ)/ハイドラ・レディ
 羽柴柳司郎の妻であり、彼と生死を共にするために改造手術を受けた美女。現在は徳川清山が運営する傭兵会社に所属しており、ハイドラ・レディと呼ばれる怪人として戦っている。当時の年齢は24歳。
 ※原案はエイゼ先生。

◆アシュリー・フォール/アルコサソ
 とある国の変革運動で家族を失った孤児であり、男性離れした美貌の持ち主である「男の娘」。現在は徳川清山が運営する傭兵会社に所属しており、アルコサソと呼ばれる怪人として戦っている。スリーサイズはバスト71cm、ウエスト59cm、ヒップ73cm。当時の年齢は16歳。
 ※原案は俊泊先生。
 

 

 隊長格の男が逃走を始めたことで国防軍の指揮系統は大きく乱れ、退却命令を待たずして後退を始める兵士達が続出していた。この森全体が火に包まれている以上、すでに逃げ場など無いのだが、彼らはそれを知らぬまま自らの命を優先しようとしている。

 そんな彼らの前に立ち塞がったのは――和装に身を包んだ黒髪の美女。おかっぱに切り揃えたその小柄な女性は、澄んだ眼差しで兵士達を見つめていた。

「な、なんだこいつ……!」
「着物の女……!?」

 この場には似つかわしくない格好で現れた彼女を前に、国防軍の兵士達は警戒した様子で突撃銃を構えている。
 略奪や暴行に走ることなど珍しくもない普段の彼らなら、女と見るやすぐさま組み敷き、その和装を引き裂こうとしていたところだが。この状況に居合わせている女がまともであるとは思えない以上、油断は出来なかったのである。

 そして、その判断は的中していた。彼らにとって何よりも残酷なのは、それが正解だったとしてもどうにもならないことだろう。

「皆様、はじめまして。……そして、さようなら」

 鈴を転がすような声が響き渡る瞬間、女性は怪人としての姿に「変身」する。
 髪と肌が灰色に変色し、肌は蛇のような鱗状に変異して行く。おかっぱに切り揃えられていた髪は腰まで伸び、髪先は蛇の頭のようになっていた。

 羽柴柳司郎の妻にして、改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー) の1人でもある加藤都子(かとうみやこ)こと、ハイドラ・レディ。

 その悍ましい変異後の「正体」を目の当たりにした兵士達は、自分達の予感が的中していたことを呪い、絶叫と共に突撃銃を乱射する。だが、堅牢な彼女の鱗は銃弾など一切通さない。

「柳司郎様と私達に銃を向けたからには……あの村を焼いたからには。あなた方にも、相応の覚悟がおありなのでしょう? 逃げられるとは……思わないことです」
「ば、化け物があぁあぁあッ!」

 警察官時代の頃から柳司郎に深い愛情を寄せ、共に地獄に堕ちることも厭わず改造手術に志願した彼女は、蛇の怪人として猛威を振るう。

 敵対者に柳司郎との関係を悟らせないため、敢えて旧姓を名乗り。柳司郎が背負う深き業を、僅かでも肩代わりするために。
 怪人と化してでも己の愛に殉ずると決めた彼女は、行手を阻む兵士達目掛けて蛇頭状の髪先を無数の鞭のようにしならせ、矢継ぎ早に伸ばして行く。

 その髪先全てが獰猛な牙を剥き、兵士達の喉元に噛み付いた瞬間。牙から注入された猛毒が、兵士達の肉体を内側から殺し尽くして行くのだった。

「あ、がが、がぁあっ……!」
「……化け物で結構。それでも柳司郎様は、私を愛して下さった。故に私も……あの方への愛に殉じるのです。この人ならざる命が、絶え果てるその日まで」

 恐怖に歪んだ表情を浮かべながら、崩れ落ちて行く兵士達。その骸を一瞥した後、次の「標的」へと目を向けた彼女は――再び無数の蛇頭を、容赦なく差し向けて行くのだった。

 ◆

 ハイドラ・レディとの遭遇から免れた他の兵士達は、猛火に飲まれつつある森の中を必死に駆け抜け、我先にと戦場から離れようとしていた。隊長格の男も居ない以上、ここに残っても死ぬだけだと判断したのである。

「くそッ、くそッ! なんなんだよあいつら、どうしてこんなことになっちまってんだよッ!」
「とにかく走れ! あんな化け物共の相手なんかしてられるかよォッ!」

 圧倒的な戦力差を目の当たりにした士気の低い部隊が、その愚行に走るのは火を見るよりも明らかだった。故に彼らの逃走先にも怪人達が待ち構えているのだが、そんなことは知る由もないのだろう。

「兵隊さん、助けてぇっ!」
「なっ……!?」
「子供!? なんでこんなところに……!」

 その時、木々の影から1人の子供が飛び出して来る。助けを求めて現れたその子供はうるうると涙ぐみ、身を屈めた姿勢で兵士達に泣き縋ろうとしていた。
 ――だが、間違いなくツジム村の生き残りではない。その子供の外観は、明らかにこの国出身の若者のそれではなかったのだ。

 膝まで伸びているローズピンクの髪。そのうち後ろ髪の殆どを、黒いリボンで1本の三つ編みにしつつ、残りを肩辺りで外跳ねにしている。左斜め前の一部の髪だけ、白のメッシュが入っており、頭の両サイドにも黒のリボンが結われていた。

 やや吊り目で、瞳の色はダークパープル。長めな八重歯が特徴の、ボーイッシュな美少女……のようにも見える、中性的な美少年だった。後の時代においては、「男の娘」と形容されることもある容貌だ。

 しかも、尻の形が浮き出る程のタイトなマイクロミニスカと、臍を露出している扇情的な女装姿。男すら惑わす美貌の持ち主ではあるようだが……どう見ても、まともではない。

「ひぐっ、うぅうっ……! ボ、ボク、家に帰る途中でお母さんとはぐれちゃって……いつの間にかこんなところに来ちゃってて、森は燃えてるし怖い怪物がいっぱい居るし……! 怖いよぉ! 兵隊さん、助けてよぉっ!」

 そんな()は自分も怪物達の被害者だと主張し、兵士達に保護を求めている。彼らに真っ当な善性があれば、例え見た目が奇抜であろうとも泣きじゃくる子供を見捨てたりはしない。

 だが、反政府ゲリラなど居ないことを承知の上で、ツジム村を躊躇なく焼き払えるような連中にその善性を期待出来るはずもなく。彼らは少年を「胸が小さな少女」と誤認したまま鬱陶しげに手を振り、少年の傍らを素通りしようとする。

「……ちっ、おいメスガキ! 俺達だって死にたくねぇんだ、撃ち殺されたくなきゃさっさと退けっ!」
「おい、こいつもしかしたらあいつらの仲間なんじゃねぇか!? はぐれたガキにしちゃあ、妙な格好だしよぉ!」
「そ、そんなぁ……! 兵隊さん、助けてくれないのぉ!? ボク何でもするよぉ、靴磨きでも何でもするから、置いて行かないでよぉお!」
「うるせぇクソガキがッ! 退けって……言ってんだろうがッ!」
「あっ……!」

 そんな彼らの袖を掴み、引き留めようとした少年の眉間に――突撃銃の弾丸を撃ち込み。兵士達は何事もなかったかのように、倒れた少年を一瞥もせず、その場から走り去ろうとする。

「……あ〜あ、残念。対応次第じゃあ、君達だけでも助けてあげようと思ってたのに」
「な、なにっ……!?」
「馬鹿な、確かに眉間に1発……!」

 その撃ち殺したはずの少年が、冷酷な声色で静かに呟いたのは、それなら間も無くのことだった。

 思わず兵士達が振り返った頃には――そのうちの1人が、首を切り裂かれていた。少年の右手はいつの間にか、鋭い爪を持つ「怪人」のものに変異していたのである。
 その右手から徐々に「変異」が広がって行き、やがて彼の怪人としての正体が露わになって行く。

「あ、が……!」
「無垢な子供にまで銃を向けるような連中なら……遠慮は要らないよねぇ? 柳司郎さん」

 鮮血を浴びながら、静かに立ち上がった少年――アシュリー・フォールがその言葉を紡いだ頃には。すでにその姿は、アルコサソと呼ばれる怪人のものと成り果てていた。
 先ほどまでは身を屈めていたため、かなり小柄な体格のように見えていたが――怪人に変身しながら背筋を伸ばして立ち上がっている今は、164cmほどはあることが分かる。

 アシュリー自身の体格に沿ったボディラインを持つその姿は、柳司郎が変身している羽々斬と同じく、後の時代に現れる「仮面ライダー」と呼ばれる者達に通ずる意匠が見受けられる。
 だが、外骨格の関節各部の筋繊維が剥き出しになっている点やそのディテールは、仮面ライダーに通ずる姿と呼ぶにはあまりにも禍々しいものとなっていた。


 臀部上部中央辺りからは蠍の尾を想起させつつも、先端部がラッパ状になっている尻尾が伸びており、その尾はベルトのように腰に巻き付けられている。

 顎部(クラッシャー)は獰猛な野獣を彷彿させる牙が備わっており、後頭部下方にまで外反りが設けられている。そこからは蠍の尾のようなローズピンクの触手が1本だけ、膝まで垂らされていた。

 白く優美なマントを羽織っているその姿は、綺麗な外観に殺意を隠した冷酷な狩人という、アシュリー・フォールの人物像を如実に物語っている。

「や、やっぱり奴らの仲間だったんじゃねぇかッ! ちくしょう、撃ち殺せぇッ!」
「……仲間さ。だけど、君達は上の命令に従っていただけだったっていう可能性にも賭けていたんだよ。その賭けは、どうやらボクの負けだったようだけど……ね」

 その異様な姿を目の当たりにした兵士達は、恐怖に飲まれながらも突撃銃を乱射する。アルコサソは白いマントを翻し、彼らの銃口から放たれる弾雨をその1枚で軽やかに凌いでいた。

 後頭部下方の触手先端に備わっている毒針が、兵士達の1人に突き刺さったのはその直後だった。強烈な神経毒によって一瞬のうちに倒れ伏した兵士は、そのまま痙攣するばかりとなっている。

 臀部上方の尻尾先端に付いたラッパ状の部分は音波兵器の役割を持っており、腰に巻いた状態から解かれたその兵器は、最大出力の衝撃波で周囲の敵兵達を吹き飛ばしてしまうのだった。

「ひ、ぃ……!」
「ば……化け物め……!」

 それでも生存していた者達は、腰を抜かしながらも必死に引き金を引き続けている。
 だが、彼らを冷たく見下ろしながら歩みを進めるアルコサソは――腰のベルト状になっている部位のバックル部分から、長い馬上槍を引き抜いていた。

 それが、1人も逃さないという意思表示であることは明らかだった。

「や、やめっ、助けッ――あがッ!」
「今の1発で、ボクもよく学んだよ。……君達を、もう人間だとは思わない。ボクらと同じ、いやそれ以上の怪物と見做して……相応しい『末路』を与えてあげる」

 彼は突撃銃の弾丸を弾きながらゆっくりと距離を詰め、1人ずつ念入りに、その顔面に槍の切っ先を突き立てて行く。罪無き命を軽んじる者達を、尊重する価値などないのだと言わんばかりに。

 ――中欧に位置する、とある連邦国家。そこで生まれ育ったアシュリー・フォールが全てを失ったのは、1960年代に母国で起こった変革運動と、それに伴うソビエト連邦軍の軍事介入だった。
 彼もまた、冷戦というこの時代に運命を狂わされた1人だったのである。身寄りを失った彼が独りで生きて行くためには、その美貌を活かして行くしかなかった。

 徳川清山と羽柴柳司郎に出会い、改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)として生きる道を選んだ彼は、怪人アルコサソという冷酷な殺戮者に堕ちるしかなかったのである。
 例えいつか、この殺戮に対する報いを受ける日が来るのだとしても。せめてその時までは、両親の分まで生き抜くために。

「……つくづく嫌になるね。ボクら以上に、怪物染みてる奴らを見るのは」

 断末魔が終わり、自分の周囲が静かになった頃。殺戮を終えたアルコサソは夜空を仰ぎ、力無くそう呟いていた。
 自分という存在に終わりが訪れるのは、一体いつになるのだろうか――と。
 
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