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仮面ライダーAP

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特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第6話

 
前書き
◆今話の登場怪人

◆ジョン・ドゥ/トライヘキサ
 某国内で起きている内戦により両親を失った戦災孤児であり、自身も重傷を負っていたところを清山により改造された過去を持つ。現在は徳川清山が運営する傭兵会社に所属しており、トライヘキサと呼ばれる怪人として戦っている。当時の年齢は8歳。
 ※原案はSOUR先生。

紅衛校(コウエイコウ)
 文化大革命の動乱に巻き込まれ記憶を失っている中国出身の少年兵であり、今では自分の本当の名前すら思い出せずにいる。現在は徳川清山が運営する傭兵会社に所属しており、紅衛校と呼ばれる怪人として戦っている。当時の年齢は14歳。
 ※原案はG-20先生。

波田水過(なみだすいか)/プラナリアン
 交通事故により瀕死の重傷を負っていたところを改造手術で救われて以来、徳川清山に心酔している若手の傭兵。現在は徳川清山が運営する傭兵会社に所属しており、プラナリアンと呼ばれる怪人として戦っている。当時の年齢は21歳。
 ※原案は板文 六鉢先生。
 

 

「ひ、ひぃっ、ひひぃっ……!」

 ブレイズキャサワリーの爪攻撃に恐れをなし、逃走を図る隊長格の男。他の怪人達はその動向を捕捉していながら、敢えて即座に狙おうとはしなかった。

 敵に背を向け、部下や仲間を見捨てて逃げ出すような敗残兵など、いつでも殺せる。それに、この一帯を包囲している森林火災から、生身の人間が逃れる術などない。
 ケルノソウルの火炎放射がこの大火を招いた時点から、すでに彼らの「末路」は決まったも同然なのである。故に誰も、わざわざ追おうとはしないのだ。

 非力な人間風情が改造人間を侮った瞬間から、勝敗の行方は決しているのだから。

「……どうして、戦いを止めない。なぜ殺す。なぜ戦いを続ける。何故だ……何故だ」

 10本の角と7つの頭を持つ異形の怪人――トライヘキサことジョン・ドゥも、その判断を下した1人だった。
 この国で生まれ育った戦災孤児である彼は、反政府運動の動乱に巻き込まれ死に瀕していた。彼もまた、改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)に成らねば生きられなかったのである。

 何故、奪い合うのか。何故、殺し合うのか。その理由を問う暇もなく両親を殺され、その意味を理解する歳まで、人として生きることすら叶わず。彼は運命に翻弄されるがまま、異形の怪物と成り果てていた。

 そんな理不尽に対する、煮え滾るような憤怒。その猛火を、8歳の少年の瞳に見た徳川清山は――名無しの死体(ジョン・ドゥ)同然だった彼を改造し、その憤怒を存分に発露出来るだけの「力」を授けたのである。

 それが厚意による救命だったのか、体のいい人体実験に過ぎなかったのかは、清山にしか分からない。
 だが少なくともジョン自身は、トライヘキサの力を与えた清山を実父のように慕い――彼の手足となって戦う道に身を投じている。禍々しい人型の獣と化した彼は、清山の尖兵として幾度となく両手の爪を振るって来たのだ。

「な、なんだこの化け物……! 10本の角に、7つの頭……!?」
「まるで、黙示録の獣じゃあないか……!?」

 そんなジョンことトライヘキサの異様な姿に、兵士達は慄きながらも銃口を向ける。だが、彼らの突撃銃がどれほど火を噴いても、獣の怪人がその歩みを止めることはない。

「俺の問いに答えろ……答えないのなら……!」
「う、撃てぇええッ!」

 弾雨をものともせず、ジリジリと迫り来るトライヘキサの獰猛な貌が、兵士達の視界を埋め尽くした時。振り上げられた両手の爪が――愚かな侵略者達を、粉々になるまで切り刻むのだった。

「が、あぁッ……!?」
「……俺が、『報い』を受けさせる……!」

 鮮血に塗れ、然るべきを「報い」を受けた兵士達は、物言わぬ骸となって獣人の足元に倒れ伏して行く。その屍の山を踏み越え、トライヘキサは次の獲物を探し始めていた。

 ◆

 ケルノソウルが吐き出した火炎は森を焼き、さらに激しく延焼して行く。
 その渦中に取り残された兵士達も周囲から迫る炎熱に危機感を抱いていたが、彼らの退路は重火器で武装した巨漢によって塞がれていた。2mにも及ぶその巨大な背中は、猛炎の輝きを後光のように浴びている。

「クソッたれがッ! なんなんだよ、あの巨漢は……! あのナリで、中身はあいつらと同じ化け物だって言うのか!?」
「おい、RPGを出せッ! こうなりゃ1人だけでも道連れにしてやるッ!」

 柳司郎のものと同じ野戦服に袖を通しているその巨漢は、一見すれば体格が並外れているだけの「人間」のようだったが。突撃銃の弾雨をものともしていないその姿は、彼もまた「怪人」なのだという事実を雄弁に物語っている。

 改造人間に銃弾が通じないというのなら、それ以上の火力で吹き飛ばすしかない。
 そう判断した数名の兵士達は、RPG-7と呼ばれる対戦車用の擲弾発射器(ロケットランチャー)を持ち出して来た。「人間」に向けるにはあまりにも過剰な数発の弾頭が、巨漢目掛けて発射される。

「……ぬぅあぁああッ!」

 だが、巨漢こと紅衛校(コウエイコウ)は全く怯むことなく雄叫びを上げ、専用の重機関銃の引き金を引いていた。勢いよく乱れ飛ぶ銃弾の嵐は、RPG-7の弾頭を次々と撃ち落として行く。

 それでも、1発だけ仕損じた弾頭をまともに喰らってしまったのだが。猛煙の中から現れたのは、無傷のまま重機関銃を握り締めている紅衛校の姿だった。
 外観以上の迫力を齎しているその姿に、対峙している兵士達は揃って震え上がっていた。

「ば、馬鹿な……! やはり、奴も改造人間とか言う怪物の1人なのかッ……!?」
「……そんなものか? 俺達を屠るには、まるで『火力』が足りていないな。その程度の武装で改造人間を倒せるつもりでいたとは……片腹痛いわ」

 1960年代から中国で巻き起こった文化大革命。その動乱に巻き込まれ、瀕死の重傷を負った幼き少年は、死の淵から蘇るために徳川清山の技術に縋り――鋼鉄のボディを持つ改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)として蘇った。

 天涯孤独の身であった彼は動乱の傷で記憶を失っており、己の本当の名前すらも分からなくなっている。紅衛校という名も、怪人としてのコードネームに過ぎない。

「俺には……俺には、何も無い。本当の名前はおろか、俺が俺である理由さえも。在るのはただ一つ、人ならざるこの『力』のみ」
「な、何を言って……ぐ、ぐぎゃあぁあぁああッ!」
「俺という存在を証明してくれるのは……俺の手によって死ぬ、貴様らの『死』だけだということだ。貴様らの死が、断末魔が、俺の存在を肯定してくれる。この身体の内側を、満たしてくれる……」

 故に、今の彼は徳川清山の尖兵として、重機関銃を撃ち続けているのだ。自分という存在の空虚さを、激しい銃声で掻き消し――己の存在意義を確かめるために。

 そんな彼が薙ぎ払うように乱れ撃っている無数の銃弾は、1発たりとも外れることなく兵士達の肉を抉っていた。炎の灯りに照らされた血の海が、そこから無尽蔵に広がって行く。
 炎に追い立てられるように紅衛校の前に現れた増援の兵士達は、その光景に青ざめるばかりだった。それでも彼らは何としても生き延びようと、行手を阻む巨漢に銃口を向けている。

「さぁ……お前達。お前達が真に撃つべき者に、その銃口を向けるが良い。本当は分かっているのだろう? 殺さねばならない敵が、誰であるか。どこに居るのか」

 そんな彼らの方へと向き直った紅衛校は、敢えて重機関銃を下ろすと――まるで演説のように、高らかに声を張り上げた。
 兵士達にとっての抹殺対象である紅衛校自身が、真の敵を撃てと言い始めたのである。

 だが、彼の言葉を受けた兵士達が「何を馬鹿な」と一笑に付すことは――出来なかった。

「がッ……!?」

 明らかに紅衛校のものではない銃弾が、笑い飛ばそうとしていた兵士の喉を撃ち抜いてしまったのである。
 その際の銃声は間違いなく、国防軍の突撃銃が発したものであった。

 そう――増援の兵士達の1人が、突然仲間に銃を向けたのである。紅衛校の言葉に操られている、としか考えられないような動きだった。

「な、なんだッ!? 今の銃撃は……奴の機関銃じゃないぞッ!?」
「き、貴様、気でも狂ったか!? 敵はあっち――がぁああッ!」
「こっ、この裏切り者がぁあ!?」
「なっ……!? お、おい待てッ! 今のは俺では……ぐわぁあぁあッ!」

 そこから先はもはや、「自滅」に向かう一方となっていた。
 猛煙に紛れて仲間を撃った「裏切り者」を特定出来ないまま、疑心暗鬼に陥った兵士達は互いに銃を向け合い、同士討ちを始めてしまう。

 その現象は、すぐ近くで兵士達の混乱を目撃していた別の部隊にも起きていた。レッドホースマンも、自分を取り囲んでいる兵士達に挑発的な声を掛け始めたのである。

「ふふっ……よぉし、次はてめぇらを操ってやるよ。そら、あいつらを撃っちまいな。遠慮なんかいらねぇぜ?」
「な、なにィ……!?」
「ふざけるな、誰が貴様の言いなりになんか……ぐわぁあぁッ!?」

 レッドホースマンの言葉に反発する兵士達だったが、すぐに彼らもその背に仲間達の銃弾を受けてしまっていた。
 紅衛校と対峙していた増援部隊の混沌を目の当たりにしていた他の部隊が、「先手」を打とうとしたのである。それが「誤解」であることなど、知る由もないまま。

「あいつらも洗脳されたようだぞ! 撃たれる前に撃ち殺せぇえぇッ!」
「ち、違う! 俺達は操られてなど……ぎゃあぁあッ!」
「ちくしょう……! こうなったら、お前らから殺してやるッ!」
「あぐッ!? 奴ら、撃ち返して来やがった……やっぱり洗脳されてるんだ! やられる前に……やるしかねぇッ!」

 同じ国防軍の兵士達であるはずの彼らは、互いに憎しみ合い、銃を向け合っている。最初に同胞を撃った「裏切り者」の行方すら忘れ、彼らは見えるもの全てを敵と認識するようになっていた。

「いいぞ……実に賑やかだ。戦場とは常に、こうでなくてはな。この混沌、怒号、断末魔……実に良い。俺の空白に、充足を与えてくれる」

 そんな兵士達の混乱を遠巻きに眺めている紅衛校は、満足げな笑みを浮かべて夜空を仰いでいた。レッドホースマンも同様に、兵士達の同士討ちにほくそ笑んでいる。

 ――実際のところ。紅衛校にもレッドホースマンにも、他者を操る能力など無い。彼らはただ、ほんの少しの「出まかせ」で混乱を煽ったに過ぎないのである。
 これほど常識外れな怪物ばかりならば、洗脳能力の類も備わっているのではないか。そんな兵士達の不安に付け込んだ、ただのハッタリだったのだ。

 最初に兵士達の1人を撃ち、混乱のきっかけを作った「裏切り者」。それは兵士達の中に紛れていた、怪人側の伏兵だったのである。
 彼の発砲から始まった疑心暗鬼に乗じた紅衛校とレッドホースマンは、洗脳能力があるかのように装い、兵士達の「同士討ち」を誘っていたのだ。そして兵士達は、見事なまでにその術中に嵌まってしまったのである。

 それが怪人達の策略であることなど知る由もなく、彼らは次々と仲間の銃弾で倒れて行く。紅衛校の隣に立っている1人の怪人は、静かに腕を組んで「同士討ち」の様子を静観していた。

「……無様だな。実に無様だ」

 この男の「能力」こそが、国防軍兵士に扮していた「裏切り者」の正体だったのである。
 彼が自身の能力で作り出した「分身」が兵士達の中に紛れ込み、混乱の引き金を引いていたのだ。彼の意のままに動く分身が兵士達に向けて放った1発の銃弾が、この「同士討ち」の元凶だったのである。

「しかし……私の『能力』を随分と利用してくれたな、紅衛校。その若さで、油断ならない男だ」

 全身が漆黒で統一されたマネキンのような姿を持つ怪人――プラナリアンこと、波田水過(なみだすいか)
 分裂能力により無尽蔵に「分身」を作り出せる彼は、自身の能力を利用して大混乱を起こした紅衛校の手腕に嘆息しているようだった。

 そんな彼を一瞥する紅衛校は、「頼もしい戦友」の肩を気さくに叩き、重機関銃の再装填(リロード)を始めている。どうやら、先ほどの掃射で弾倉内の弾を撃ち尽くしていたらしい。

「礼を言うぞ、波田。おかげで俺も戦馬も、楽に奴らを扇動出来た。そろそろ弾を再装填(リロード)しなければならなかったからな……良い『暇』が出来たというものだ」
「それが清山様のご意志だからな。……私の『力』も命も、あのお方の大望を成就させるためだけに在る。私は所詮、それだけの存在。消耗品だ」

 ――1950年代から社会問題として顕在化していた、交通整備の不足に伴う事故の続出。「交通戦争」と呼ばれたその時代に生まれ合わせていた波田は、かつて交通事故で瀕死の重傷を負っていたことがある。

 その時に彼を改造手術で救ったのが、当時の徳川清山だったのだ。人として蘇ることは叶わなかったが、彼は命の恩人である清山に忠誠を誓い、自ら改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)に志願していた。
 それも全ては――改造人間の兵器としての有効性を全世界に発信し、浸透させるという清山の「大望」を成就させるため。彼はその野望を叶えるための「消耗品」として、戦場に身を投じているのだ。

「……これが本物の『戦争』、か。実に醜く、愚かな所業だ。弱き肉体にその魂を委ねているから、容易く闇に堕ちるのだよ……」

 自身が人間だった頃に味わったものとは違う、比喩ではない本物の「戦争」。その惨状を目の当たりにしている彼は、憐れみの色を帯びた声を漏らしていた。

 弱き肉体故の、弱き精神。その概念を体現したかのような兵士達の醜態は、彼の目にはより無様に映っているのだろう。
 
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