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Fate/WizarDragonknight

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異世界の聖杯戦争

 
前書き
お待たせしました! 

 
「……なんで付いてくる?」

 士は振り向いた。
 慌ててハルトは近くの電柱に隠れる。だが、隠密行動など向いていないハルトが隠れ切ることなどできない。
 隠れ切ることを諦めたハルトは、やがて電柱からその姿を現した。

「お前、一体どこに行くつもりだ?」
「さあな? この世界を色々見て回るつもりだが?」

 士は、首からぶら下げたマゼンタカラーのポケットカメラを手で弄びながら答えた。

「世界を見るって何だよ……? アンタ、プリテンダーだってこの前自分で言ってたじゃないか」
「ああ。これのことか」

 士は手の令呪を見せつけた。
 それは、昨日見たものと同じ、ディケイドのマーク。士の手に刻まれたそれを鬱陶しそうに見下ろす彼へ、ハルトは続ける。

「アンタ、マスター兼サーヴァントって言ってたよね……一体どういうことだ?」
「言っただろ。通りすがりの仮面ライダーだ」
「俺が聞いてるのはそう言うことじゃないよ!」

 ハルトは声を荒げた。
 近くを通りがかった人が驚いた目線を投げるが、ハルトは構わない。

「俺たちの敵なの? それとも味方なの?」
「さあな? あいにく俺は聖杯戦争のルールには縛られない。まあ、適当に過ごしてまた適当に次の世界へ旅を続けるさ」
「次の世界?」

 その言葉に、ハルトは疑問符を浮かべる。

「そういえば、前も別の世界とかなんとか言ってたけど……」
「そうだな……そういえば、俺からも一つ、お前に質問をしようか」

 士はハルトから目を離し、歩き出す。
 ハルトは慌てて彼に追随するが、今度は士はハルトを振り切るつもりはないようだ。

「俺のことを知っているみたいなことを言っていたが……誰から聞いた? 大体見当はつくが」
「……」

 その質問に、ハルトは足を止めた。頭に手を当て、少しだけ黙りこくる。

「……それは……分からない」

 ゆっくりと首を振ったハルト。だが、少しずつそれを思い出してきた。

「何か、言われた気がするんだ。随分前に……」
「……大体分かった」

 士はそれ以上の言葉を待つことなく、大股で進んでいく。

「ちょ、ちょっと待って! 話はまだ終わってない!」
「似たようなパターンは前にもあった。大方、前もって張っておいた伏兵なんだろうが、その後はどうやら回収を忘れていたようだ」
「勝手に一人で納得しないでよ! 俺にも分かるように説明して……痛っ!」

 だが、突然立ち止まった士の背中にぶつかったハルトは、そのままよろける。

「……もう何!?」
「お前、そういえば聖杯戦争の参加者、なんだよな?」
「……そうだけど?」
「お人好しそうな顔をしていて、お前もいっちょ前に願いのために戦っているということか……サーヴァントが身近にいないのはあまり見ないがな」
「……俺に願いなんてない」

 ハルトは声を荒げた。

「願いなんてない。俺はただ、この戦いを止めたいだけだよ」
「本当にそうか? 本当はお前も、聖杯に叶えて欲しい願いがあるんじゃないのか?」
「無いよ。そんなもの……」

 いい切るハルト。
 だが、士は笑みを浮かべたまま、大空を仰いだ。

「お前……見返りもなしに、こんな戦いを止めるとか言っているのか?」
「そうだよ。俺は人を守るために魔法使いになったんだ。誰かを傷付けてまで叶えたい願いなんてない」
「……かつて。聖杯戦争に参加した男がいた」
「……?」

 士は、どことなく懐かしそうな顔を浮かべた。

「そいつにも、願いはいらないと言っていたな。実際、奴は異常なまでに他人に手を差し伸べていた。それこそ、聖杯戦争の最中であろうとな。お前は……そこまで、壊れた異常者か?」
「……何が言いたいの?」
「ここの聖杯の詳細は知らないが……お前も、願ったんだろ? 聖杯に……お前の願いを。聖杯に……何かの願いを代償にした戦いに参加する奴は、ほぼどいつもこいつも他の奴の命を顧みない奴ばかりだ」
「……アンタは、ここ以外の聖杯戦争も、知っているの?」
「ああ」

 あっけなく。当然のように。
 士は答えた。
 懐のポケットに手を伸ばし、それを取り出した。
 それは、士がこれまで訪れた世界で、彼が撮影した写真だろう。どれもこれもピンボケしており、どこかの一瞬を写真に切り取ったものではない。どちらかというと、それぞれの箇所で撮影した写真の一部一部を切り分けて合成したもののうようにも思える。

「他のところも……そうだな。中々に過酷だったな」
「……」

 束の一枚目。青い女性の西洋騎士を中心に、合計七人の参加者___おそらくサーヴァントが、別々の方向へそれぞれの武器を向けている。煌めく涙が星になるような美しい一枚絵に、ハルトは一瞬息を呑んだ。
 二枚目。二人の幼い少女が、七枚の舞うカードの中で、必死の表情で何かを求めている。二人の少女の内一人___黒髪の少女は、どことなく泣いているようにも見える。
 そのほかにも、士が写真の束をめくるたびに、また新しい聖杯戦争が姿を見せては、また入れ替わっていく。

「これが全部……聖杯戦争なのか……!」
「ああ。全て、別の世界のな」

 江戸時代らしきものの他にも、まだまだ聖杯戦争の写真は残っている。
 だが士は、その束を懐に収納し直した。

「アンタは……聖杯戦争のことを、どこまで……?」
「久しぶりだな。魔法使い」

 その粗暴な声に、ハルトは口を閉じた。
 突然割り込んできた声。
 無精ひげを生やした男性。もう春ですっかり暖かくなったというのに、赤いストールを首に巻く彼は、全身を温めることに余念がないように見える。
 あまり見たことがない、その人物。だが、その声には覚えがあった。

「フェニックス……!」
「また遊ぼうぜ?」

 にやりと笑みを浮かべた彼の顔に、不気味な紋様が現れる。それを見た途端、ハルトは身構える。
 燃え上がる、男の体。炎とともに、その肉体は形から変質していく。丸みが特徴的な人間が、炎を形に収めた不死鳥の姿に。

「ファントムか……」

 士が呟く。
 炎のファントム、フェニックス。その深紅の体を持つ彼は、手にした大剣、カタストロフをハルトへ振り下ろす。

『コネクト プリーズ』

 ハルトは大急ぎでコネクトの指輪を発動し、中からウィザーソードガンを引っ張り出す。
 ウィザーソードガンが、コネクトを寸でのところで受け止める。火花が散るが、ハルトは何とか防ぐことが出来た。

「お前……前に真司が倒したって聞いたけど……」
「残念だったな魔法使い……てめえを倒すまでは、俺は死ねねえんだよ」

 フェニックスはそう吐き捨て、そのままもう一度カタストロフを振り上げる。
 今度は避けられない。そう判断したハルトは体を反らし、カタストロフをそのまま地面にめり込ませる。

『ドライバーオン プリーズ』

 その隙に、ハルトは大急ぎで銀のベルト、ウィザードライバーを腰に展開した。ノータイムで、ハルトはウィザードライバーのつまみを動かす。

『シャバドゥビダッチヘンシーン シャバドゥビダッチヘンシーン』

 変身詠唱が鳴り響く最中、フェニックスは再びカタストロフを振り上げる。その手元を両足で蹴り飛ばしながら、ウィザードは指輪を発動させる。

「変身!」
『フレイム プリーズ』

 現れる、赤い魔法陣。
 それは、ルビーの指輪から発生し、フェニックスの丁度は以後に静止した。
 ゆっくりとハルトに近づいてくる赤い魔法陣に向け、ハルトは急ぐ。その肩を跳び箱の要領で乗り越え、体を回転させながら赤い魔法陣を潜り抜ける。

『ヒー ヒー ヒーヒーヒー』

 変身成功。
 着地と同時にウィザードとなり、即座にフェニックスへ足払い。
 地面に倒れたフェニックスを見て、ウィザードはバク転により距離を取る。

「お前の戦闘パターンはもう見切ってる……!」

 ウィザードはそう言って、ウィザーソードガンでカタストロフと切り結ぶ。やがて、カタストロフを蹴り上げるウィザードは、そのまま両足で跳び蹴りし、カタストロフを弾き飛ばした。

「よし!」
『キャモナスラッシュシェイクハンド キャモナスラッシュシェイクハンド』

 ウィザードは即座に、ウィザーソードガンの手を開く。同時に、フェニックスの手から炎の鳥が放たれる。
 ウィザードはバク転でフェニックスの攻撃をかわし、同時にルビーの指輪をウィザーソードガンに押し当てた。

『フレイム スラッシュストライク』
「焼き切れろ!」

 赤い魔法陣が絶え間なくウィザーソードガンの刃に走る。炎で瞬時に威力を上げたそれは、振り抜くと同時にフェニックスの身体を切り裂く。

「ぐああああああああっ!」

 炎による爆発。
 一気にフェニックスは、灰塵と化し爆発するが。

「……なあんてな?」

 爆炎の中で、灰や塵がどんどん集まり、それは形を作り上げていく。
 再生したフェニックスの上半身が、同じく再形成されたカタストロフを振り下ろしている。不意打ちにウィザードは防御が間に合わず、そのままそのルビーの身体から火花を散らす。

「ぐっ……!」

 転がったウィザードは、即座に指輪を入れかえる。

「こんなに速く復活するのか……!」
『ウォーター プリーズ』
「オレは蘇るたびに強くなる。そして、再生する……テメエらをぶっ潰すまで、何度でも蘇えるぜ」
『スイ~スイ~スイ~スイ~』

 サファイアの魔法陣が、ウィザードを水のものに作り変えていく。即座にウィザーソードガンをガンモードに組み換え、ハンドオーサーを起動。

『キャモナシューティングシェイクハンド キャモナスラッシュシェイクハンド』
「そんなチャチな水程度で、オレの炎が消せるかよ」

 吐き捨てるフェニックスを無視しながら、ウィザードは再びウィザーソードガンに変身に使った指輪を押し当てる。

『ウォーター シューティングストライク』

 そして集い出す、水の魔法。ウィザーソードガンの銃口に形成された青い銃弾を、ウィザードは即座に打ち出す。
 だが。

『アタックライド ブラスト』

 無数の散弾が、横からウィザードを打ち弾く。
 全身に蓄積したダメージにより、変身を解除したハルトは、再び倒れ込んだ。

「な、何……?」

 ハルトを妨害した者。
 それは、戦いの最中に変身を終えていたディケイドだった。
 ガンモードにしたライドブッカーを向けながら、徐々にハルトに近づいてくる。

「お前……何のつもりだ?」

 だがディケイドは、ハルトの問いに答えることはなく、ライドブッカーをソードモードに組み替える。
 歩調を崩さないまま、彼はハルトを通過。そのまま、フェニックスに近づく。

「ああ? テメエ、ナニモンだ?」

 睨みつけるフェニックスだが、ディケイドは容赦なくライドブッカーでフェニックスを切り裂く。
 遅れて反撃しようとするフェニックス。
 だがそれよりも素早く、ディケイドはライドブッカーをガンモードに変形し直す。間髪入れない銃撃に、フェニックスは徐々に後ずさりしていく。

「アンタ……何のつもりだ!?」

 ライドブッカーを腰に収納し直したディケイドへ、ハルトは詰め寄る。
 ディケイドは首を動かすことなく、それに応えた。

「人を守ると言っていたな?」
「……それが何?」
「じゃあ、アレはなんだ?」

 ディケイドはそう言って、それを指差す。
 フェニックスがいた場所の奥。シューティングストライクがフェニックスを倒そうとしていたその場所に。

 泣き崩れている女の子がいた。

「……!」

 その姿を見た途端、ハルトの顔から血の気が引く。
 もし、あのままシューティングストライクを放っていれば、あの子供も間違いなく巻き込んでいただろう。

「テメエらまとめて消し炭にしてやる!」

 怒鳴り声を響かせる、フェニックス。
 炎が竜巻の形で巻き上がりながら、ハルトへ近づいてくる。
 だが。

『アタックライド スラッシュ』

 ライドブッカーが、無数の刃に分裂する。それは炎の竜巻を切り裂き、そのまま霧散させていく。
 炎の残滓の中、ディケイドは静かにハルトへ振り向いた。

「立て。仮面ライダーウィザード」 
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