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神々の塔

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第十三話 塔の中の時その九

「采配はな」
「ほんま思い付きでな」
「当たれば大きいけどな」
「外れるとな」
「あかんからな」
「あれが案外侮れんというが」
 相手チームにすればそうである、何をするかわからないのがかえって怖いのだ。
「しかしな」
「あのおっさんが使いきったか」
「戦力やった」
「つまり自分の時に優勝出来ればええ」
「そうした考えでや」 
 そのうえでというのだ。
「監督もな」
「やってたんやな」
「選手にも尊大で冷たかったそうやし」
「つくづく性格悪かったんやな」
「そや」
 川上哲治という人間はというのだ。
「もう悪い話満載のや」
「打撃の神様か」
「そやったんや」
「いや、詳しい話聞いたらな」
 メルヴィルは嫌悪感に満ちた顔で述べた。
「あらためて嫌いになったわ」
「そやろ」
「ほんまに性格悪かってんな」
「そやからアホな奴しかや」
 物事がわからない様なだ。
「ファンやなかった」
「その性格知ったらやな」
「皆去ってたし嫌いになってだ」
「まあそんな奴好きになるとかな」
「アホしかおらんやろ」
「それか同じ位性格悪いな」
 人は自分と同じレベルなら悪いと思わない、これは残念ながら性格の悪さについても同じことであるのだ。
「そんな奴やないとな」
「好きにならんか」
「実際ここで誰があの爺さん好きやねん」
 中里はメルヴィルに問うた。
「一体な」
「ここにおるのは全員アンチや」
 施が答えた。
「巨人自体に対してな」
「もうそうやな」
「というかうちの学校でな」
 八条学園でというのだ。
「どれだけ巨人ファンおるか」
「数える程しかおらんな」
「過去の悪事にな」
「今見たらな」
「もう勝率毎年一割台でや」
「普通に百十敗してな」
「防御率、得点、打率、ホームラン数、エラー数全部ダントツ」
 十二球団全てで、ある。
「もうええとこ何もないな」
「恰好悪い、無様、ださい、情けないな」
「そんな人気もダントツ最下位のチームや」
「十年以上連続でそやしな」
「そんなチームそれこそや」
「誰も応援せんな」
「そやからうちの学校でな」
 八条学園でというのだ。
「保育園から大学院まで、先生や職員の人を探しても」
「まあ五本の指で数えられるか」
「それ位や」
 巨人ファンはというのだ。
「ほんまな」
「そんなチームやな」
「今の巨人はな」
「それでこの面子でもやな」
「一人もや」
 施は中里に応えて話した。
「おらん、ましてやな」
「今話している爺さんはな」
「好きどころかな」
「アンチやな」
「まさに巨人の象徴やろ」 
 川上哲治という人間はというのだ。
「作られた評判でな」
「監督としての実績もやな」
「もう悪徳そのもので」
「碌なもんやないな」
「ああ、誰がそんな爺さん好きやねん」
「幾ら神様でも」
「人間としてはな」
 そえこそというのだ。
「最悪やろ」
「そやな」
 中里もその通りだと答えた。
「それで僕も今言うてるんや」
「そういうことやな」
「まあ人間として最悪でも」
 トウェインは考える顔で言った。
「何かが凄いとやな」
「日本では神様になれるんや」
「そやねんな」
「まあこんな爺さんでもな」
「日本では神様になれるな」
「確かにバッティング以外は最悪やった」
 その様な人間だったことをだ、中里はまた言った。尚中学で同期でバッテリーを組み巨人も同時に入団した吉原というキャッチャーのことは終生忘れることなく帰省したなら必ず墓参りをしていて監督を退いてからは子供達に野球を教えていたという一面もある。
 
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