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目が見えず耳が聞こえなくても

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第一章

                目が見えず耳が聞こえなくても
 事故でだった。
 小学四年生の大川佐京は視力と聴力を失った、彼の両親は医師にそのことを告げられて絶望したが。
 その後で幸い手術でどちらも治ると聞いて胸を撫で下ろした。
「よかったです」
「それは何よりです」
「目は角膜移植で治り」
 医師は安堵している二人にさらに話した。
「それで耳もです」
「治るんですね」
「手術で」
「ですからご安心下さい」
 父で八条新聞社の営業部に勤めている晃大柄で細面で小さな目と黒いショートヘアの彼も妻でライターの公佳黒髪をポニーテールにしていて面長で切れ長のはっきりした目と小さな唇に一六四位の背のすらりとした彼女に話した。
「暫く入院が必要ですが」
「手術を受けてですね」
「息子はまた見えて聞こえるんですね」
「はい、お金がかかることは事実ですが」
 手術代それに入院代でというのだ。
「治りますので」
「幸い蓄えはありますし」
「それで済めば」
 二人はここでその費用を聞いたが。
 蓄えはなくなっても何とかなる額だった、それでだった。
 すぐに手術を受けてもらうことにした、だが。
 それまでには時間があって二人は毎日だった。
 息子を見舞った、そして彼を見て言うのだった。
「大丈夫だぞ」
「また見えて聞こえる様になるからね」
「気を確かに持つんだぞ」
「いいわね」
 息子に食べさせたりして暖かい言葉をかけた、だが。
 夫婦はここでだ、こんなことを話した。
「こう言ってもな」
「今の佐京はね」
「何も見えなくて聞こえない」
「そうだからな」
「それじゃあな」
「意味ないのよね」
 佐京が見えず聞こえないならというのだ。
「それならね」
「ああ、けれどな」
 それでもとだ、夫は妻に話した。
「どうしてもな」
「話しかけてね」
「抱き締めたりするな」
「そうよね」
「そうせずにはいられないな」
「親だからね」 
 それ故にというのだ。
「もうね」
「本当にな」
 夫婦でこう話して佐京の友人達も担任の先生もよく見舞いに来て彼の両親の様にした。そして病院の医師や看護師達もだ。 
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