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やはり俺がink!な彼?と転生するのは間違っているのだろうか

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パラディ島編 第24話 ウォール・ローゼ攻防戦③ ~思いと裏切り~


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Kyoya

パラディ島編 第24話 ウォール・ローゼ攻防戦③ ~思いと裏切り~/三木梟の小説
やはり俺がink!な彼?と転生するのは間違っているのだろうか。 #26
パラディ島編 第24話 ウォール・ローゼ攻防戦③ ~思いと裏切り~
25,523文字51分
   ―――キャプションの間―――

ハチマン「…またここか…」

ヒョウ「さあてさて、今度はここで何が起こるのやら…」

三木梟「Howdy! I'm FLO―――」

「「…」」ジャキンッ

三木梟「ヒョェッ!」

「「二度とそのまったく似ていない声真似をするな…!虫唾が走る…」」

三木梟「す、すすすすすみませんっ!なのでその『助弓の宝剣(アウクシリア)』と『破邪の秘双剣(ドーンブレイカー)』は仕舞ってください…」

???2「えっと…は、八幡さん、私どうすれば…」アワアワ

ハチマン「え、???2?なんでここに…」

三木梟「私が呼んだ」

ヒョウ「なんで?」

三木梟「いや、前回はあの神だったじゃん?だったら次誰よぼっかなーと思った矢先、この娘の存在を思い出したから」

???2「は、はい!梟さんに呼ばれてきました!
     …最近、そこまで会えてなかったので…」

ハチマン「そ、そうか…確かに最近あんまり会えてなかったしな…」

???2「あの…その…ご、ご迷惑でしたか…?」ウルウル

ハチマン「いやいや、こっちももうそろそろ会いにいこうと思ってた頃だ。
     迷惑なんぞ思ってねぇよ」ナデナデ

???2「ふぁ…」トローン

「「ゴバァッ!」」

ハチマン「ふぁっ!?」

ヒョウ「お前らが止まんねぇかぎり…」

三木梟「俺たちは…その先にいるからよ…!」

「「だからよ…止まるんじゃ、ねぇぞ…」」

ハチマン「唐突なオルガ・イツカやめい」

???2「ふぇ…?」

三木梟「さて、それはさておき…」

ヒョウ「いや、普通に起き上がるなよ…」

ハチマン「おまえがいえたことじゃねぇから」

三木梟「…クリスマスがまた過ぎちまったッ!」

「「おう、そうだな」」

???2「え?そ、そうですね…」

三木梟「チクショウ…何時になったら俺は『クリスマスの性夜』を書けるんだ…!」

「「ちょちょま、ちょま、オイ!」」

???2「…?せいや…?」

ハチマン「気のせいだよな!?『聖夜』のニュアンスが若干違った気がしたのは気のせいだよな!?」

ヒョウ「たのむ!そうであってくれッ!」

三木梟「ハッハッハ!残念だったなッ!もちろんR指定な方の『聖夜』に決まっているだろう!?」

「「ッ!ふざけるなーッ!」」

???2「…?…???」

ハチマン「おッおまッ!それ書くって事は…」

ヒョウ「…やめろ…ッ!止めてくれ…ッ!」

三木梟「知らんな」

「「この外道めッ!」」

???2「…えっと…どういうこと?」

   ―――終わり―――

 ※オマケ

   ハチマン・ヒキガヤ(比企谷八幡)
 我が作品の主人公。
 今回のここではクリスマスの『性夜』に異常なほど反応していたが、その理由はかつて自分の嫁の1人…というかそれまでの嫁全員(後々さらに増えた)に一晩どころかイブの夜からクリスマスが終わるまで永遠と絞られ続けたから。
 幸いにも性欲バリ強な嫁は片手で数えられる程度だったので、その嫁達以外の嫁をどうにか満足させたあとその嫁たちとヤりあったらしい。
 ハーレム主って割と大変だね。
 ちなみにそれによってクリスマスは中々ヤる気になれないらしい。…当たり前だよなぁ…。

   ヒョウ・ギルデット(三木氷華)
 我が作品のサブ主人公みたいな存在。
 彼?もクリスマスの『性夜』に過剰に反応していたが、それは昔実は居た自分の嫁とクリスマスに『3ヶ月』ぶりにヤったからだそう。
 ネタバレになるから詳しくいえないが、彼とその嫁は丸々3ヶ月間性欲を一切発散せずに普通に生活していたがとある理由により嫁さんの性欲が爆発していつも通り逆レ気味にシたようだ。
 後日あまりにも倦怠感があったのとクリスマス当日を半分以上寝て過ごしたため、『一年の1/4を一切性欲を発散せず過ごすのはやめよう』と誓ったらしい。
 ちなみに別の年のクリスマスに結局また嫁さんとヤってしまったらしいが、その時は1ヶ月間程度だった為比較的マシだった。

   三木梟
 皆様おなじみ作者。
 R指定を書きたいとは思いつつも書いてる作品自体が中々書き進まない為書くに書けない状況をここで憂さ晴らしした割と碌でもないやつ。
 けど後悔はしてない。
 いつかどうにか書くんでお待ちください。

   ???2
 前回のオマケでチラッと出てきた『黒髪紅眼のボッチ少女』。
 梟の言っていた『性夜』についても殆ど知らず、ただただハチマンに会いたいがためにここに来た娘。健気でカワイイ。ハチマンとイチャイチャしてるところを妄想をすると個人的に和む。
 誰か分からない可能性を踏まえ多少ヒントを書くとすれば、某爆裂魔法っ娘のライバル。
 出した理由はふと読み直したから。

続きを読む
オリキャラクロスオーバーやはり俺の青春ラブコメはまちがっている。HACHIMAN進撃の巨人比企谷八幡原作キャラ生存ハーレム原作改変ハンネス

33
35

980
2022年12月30日 00:06
日本語

(…ライナー…ベルトルト…!)

「この…ッ!
 裏切り者がああああああッ!!」

 雷が落ちるような轟音と熱風、そして、エレンの大声で目を覚ます。

「ッ!熱ッ!」

「ハチマン!起きたッ!?」

 起き上がった途端、ペトラさんに声を掛けられる。
 だが、起き上がった直後に視界に入った光景を見て、すぐには返事が出来なかった。

「超…大型巨人…!」

 俺がそう呟くのと同時に、超大型巨人は俺たちの方に向かって腕を振るってくる。

「ッ!全員!!壁から跳べ!!」

 ハンジ分隊長の声が聞こえると同時にその場から壁外方向に飛び去り、超大型巨人の腕を避ける。そして、エレンの声が聞こえてきたであろう方向に目を向ける。
 するとエレンは既に巨人化しており、鎧の巨人に殴られたのか顔の一部が凹み、皮膚がなくなった状態で倒れており、そちらに向かって鎧が歩いていく。
 だが、その目には戦意が宿っている。
 …まだまだ戦ってくれそうだ。
 それに、エレンは異形の鎧を倒した経験もある。
 もしかしたら、鎧の巨人を倒してくれる…かもしれない。
 …いや、ミカサと一緒に先に時間を稼ぐべきか?
 俺の『立体機動装置』が効くのか怪しいが…やってみる価値はありそうだな。
 そう思い、俺は鎧の巨人に向かってアンカーを刺し、急接近して腕に刃を振るう。

ギュイーッ!

 火花が散るような音が響き、鎧のような硬質の皮膚に一閃の傷が入る。
 だが、肉までは届いていない。
 …これでは項を削ぐ事はできないだろう。
 結論を出しつつ、ガスを噴いて立ち止まって傷跡を驚愕した様子で凝視する鎧から離れる。
 はぁ…まだ疲れている。
 多分だが、10分も寝れていない。
 徹夜には慣れていないから、ものすごい睡魔と疲労に襲われ続けている。
 一応、『魔黒檀の腕輪』を着けっぱなしだったから体力だけはある程度回復してきているが…まだ『審判者サバクモノ』や『異常者オカシナモノ』は使えなさそうだ。

「ウオオオォォォォォォッ!!」

 自分自身の現状を見直していると、声を上げてエレンが起き上がる。
 それに気付いた鎧は、殴る構えを取った。
 対するエレンは力を抜き、腕を力なく下へと向ける。
 …一見すれば、諦めたかと見える体勢。
 だが、あの目を見た後ならば、これは…

「ッ!」

 エレンの戦術の内の一つだ。
 鎧の右拳がエレンの顔面に当たろうとしたその時、エレンはそれを寸での所でしゃがみ避け、左手で右拳をつかみ、右手で鎧の頭を掴んだかと思うとこめかみ部分に力を込め、俺の得意な「アイアンクロー」を行いつつ、鎧の巨人を地面に投げつけた。
 鎧のように硬い皮膚を持っているが故の関節部分の動きのぎこちなさ。
 それゆえに鎧は受身を取れず、そのまま仰向けで地面を削りながらすべる。

「ナイスだ、エレン!俺とヒョウの格闘訓練が活きたな!」

「…」コク

 エレンにこちらの存在を認知させる為に声をかける。
 するとエレンはこちらを向いて頷き、鎧の方を再び向く。
 どうやらしっかり理性もあるらしい。
 それを確認した直後、鎧が起き上がる。

(…速いな)

 そして、少し歩いたかと思えばいきなり急加速し、タックルを仕掛けてきた。
 だが、ヒョウと俺に散々しごかれたエレンには対応には問題ない動きである。
 …しかも、良くヒョウ監修のタックルによる反射神経と動体視力の訓練をしてたし。
 エレンは鎧のタックルを右手で受け流すようにずらし、そして脚をかけて思いっきり転ばせる。

「…あれ、なんか…闘牛士みたいに見える…」

「?ハチマン、とうぎゅうし?って何?」コテ

 すぐに立ち上がった鎧は再びタックルを仕掛けるも、先ほどと同じようにエレンは軽やかに避ける。それを何回も続ける光景からふと漏れ出た言葉に、何時の間にか隣にいたミカサが反応した。
 …こてって首を傾けるの可愛いな…。

「ああ、牛に限った事じゃあないんだが…動物には自分自身が何か認知できない何かが上下左右に振られていると危機感を感じるっていうってのがあってな、それを利用して牛を自由自在に操るっていう見世物があるんだ。それを行う人を闘牛士って言うのさ」

「…そんなのが…」

「まぁ、壁内じゃあもう早々やって無いと思うけどな。
 ほとんどが家畜になってるし」

「…楽しいの?」

「…どうだろうな。
 だが、まぁ、見てて面白いとは思うぞ。多分」

 …まぁ、正直ミカサは闘牛士を見るより実際にやってそうな感じだが。
 そんな会話をしている間に、エレンと鎧の戦いは激化していく。
 ついに鎧がタックルでは埒が明かないと気付き、行動を変えたのだ。

「…」

 今度は攻撃ではなくこちらの攻撃を誘う防御。
 エレンとしてはこの場から逃げるには鎧に一時的に無力化できるほどの痛手を与える必要があるため、防御形態をとられるのなら攻撃するしか手段がなくなる。
 それを分かっているのかエレンは構えを取り、身体を低くして鎧の顔面に向けて右拳を振るう。
 鎧は焦ることなくそれに対応し、両腕を顔前に持ってきた。
 だが…エレンは右拳を後ろに下げ、その後ろ向きの力を利用して逆に左拳を鎧の顔と両腕の隙間に滑り込ませ、顎に一撃お見舞いする。
 それにより鎧の身体は浮き上がり、うつ伏せに倒れた。
 おそらく、エレンはコレを狙ってやったのだろう。
 なぜなら…

「ッ!ウウウオオオォォォォォォッ!」

 エレンはうつ伏せで倒れる鎧に対して、その顎を掴みヒョウから教えられた『キャメルクラッチ』をかけているのだから。
 一度この状況になれば、もうあとは力比べである。
 …だが…まだ、何か不安を感じる。

「ミカサ、一旦壁にいるハンジ分隊長達と合流するぞ」

「!けど、エレンは…」

「俺はあるが、ミカサ、お前が刃のない状態でここにいても意味が無い。一度補給した方がいいだろ」

「…分かった」

 ミカサをそう説得し、壁を登ってハンジ分隊長と合流する。

「!ハチマン、ミカサ。無事かい?」

「はい、無傷です」

「…そうか…。
 それにしても、エレンは本当に対人格闘術に長けているんだね…」

 キャメルクラッチをかけつづけるエレンを見ながら警戒を解かずハンジ分隊長は言う。

「そりゃあ、まぁ、そんな温い鍛え方はさせてませんから」

「?その言い方だと…」

「はい、エレンに対人格闘を教えたのは俺と銀髪のヒョウってやつです」

「!へぇ~、という事は君もその子も対人格闘は強いの?」

「はい、訓練兵時代の成績でしかないですが、対人格闘は俺は2位、ヒョウは3位でした。エレンは4位です」

「あれ、1位じゃないんだね」

「1位はつい昨日共闘したアニ・レオンハートですよ」

「!…そうなんだ、彼女がね…」

 どこか含んだ言い方をするハンジ分隊長。
 …まぁ、それはいい。
 今は目の前の状況に集中しよう。
 そう思い、エレンのいる方を見ようとしたとき、

「オオオオオオオオォォォォォッ!!」

 鎧が咆哮を上げた。

「ッ!周囲を警戒しろ!巨人を呼んだぞ!!」

 その言葉を聞き、周囲を見渡す。
 だが、巨人の姿は見当たらない。
 …この状況で、『重力操作』が使えたらどれだけ楽な事か…。

《それに関しては不可能だぞ、ハチマン。
 少々休んだとはいえ、もう『重力操作』にまわすエネルギーは無い。
 戦闘と『七個之魂セブンスソウル』の『立体機動装置』の維持で手一杯だ》

 ああ、分かってるよ。
 無いものねだりしても意味が無いことはな。

《分かってくれているのならば問題は無い》

 そう言って、ガスターはエネルギーの最小限化作業に戻っていく。
 丁度その時、

「上だぁ!避けろおおおおッ!」

 必死な声を聞き、反射的に真上を見る。
 そこには、肉が無くなり骨だけになった超大型巨人の亡骸とも言うべきものが蒸気を噴出しながらこちらに降ってきていた。
 この位置では回避しようも無く―――俺は強烈な熱風と衝撃で意識を失った。

―――
――


『For you, for you
 Baby, I'm not movin'on
 I'll love you long after you're gone』

 聞いた事のない女性が歌う声が聞こえる。

『Them only for a miniute
 I want to change my mind
 Cause,this just don't feel right to me』

 そう思っていると、すぐに別の聞いた事のない男性が歌う声が聞こえる。
 …俺はさっきまで鎧と戦っていたというのに、何故歌が聞こえるのだろう。
 そう思いつつふと目を開けると、目の前には舞台が広がっていた。
 既視感のある舞台だ。
 周囲には見覚えのある制服を見て盛り上がる生徒たちがいる。
 …ここは…総武高校か…。
 すっかりと記憶から抜け落ちていた。

『ぼくらは命に嫌われている
 価値観もエゴも押し付けて
 いつも誰かを殺したい歌を
 簡単に電波に流した』

 何時の間にか、一瞬にして曲が変わる。
 今度は、どこか見覚えのある白髪の女性がやはり聞いた事のない声で歌う。
 …この既視感は…なんだ?

『鳴らない言葉をもう一度描いて
 赤色に染まる時間を置き忘れ去れば
 哀しい世界はもう二度と無くて
 荒れた陸地が零れ落ちてく』

 思考の沼にはまりそうになったとき、またもや曲が変わる。
 今度は誰が歌っているのだろうかと思っていると、この曲を歌う声に聞き覚えがあった。
 まさか、と思いつつ顔を向ける。
 そこには、

『一筋の光へ』

 三味線を弾きながら歌うヒョウの姿があった。
 いや、良く見れば…ヒョウだけではない。
 何故か…ギターを弾く俺の姿もある。
 これは…どういう事なんだろうか…。

『さぁ進め、止む事なく
 竜が導く光へと
 時を越えて
 空と未来を繋ぐ』

 疑問が脳を埋め尽くす時、またもや曲が変わり、見知らぬ女性が歌う曲へと変わった。
 …時を越えて・・・・・?
 その言葉を聞いてふと思う。
 ここは…俺がさっきまで居た時間軸ではないんじゃあないか…?

『瘡蓋だらけ荒くれた日々が
 削り削られ擦り切れた今が
 君の言葉で蘇る、鮮やかにも、現れていく
 蛹のままで眠る魂を
 食べかけのまま捨てたあの夢を
 もう一度取り戻せ』

 聞き覚えしかない声で、俺自身と重なる曲を歌う声が聞こえる。
 …これは、俺の声だ。
 嗚呼…そうだ…。
 何でここにいるか、少し分かった気がする。

『いつだって目を腫らした君が二度と
 悲しまないように笑える』

 そうだな…。
 あいつらミカサやアニ、ヒストリアを、泣かせちゃあ、悲しませちゃあいけないよな。
 俺は、あいつらを、彼女らを笑わせなければならない。
 何より、俺がそう望むから。
 …だから、ケツイが漲った。

『自業自得の被害に
 誘われた私は愚かよ
 それでも構わない
 恋の不思議
 ねえ君色に染めていいよ』

 目が覚める感覚がする。
 耳が冴える感覚がする。
 そんな中、聞こえる声に背を向けても、はっきりとその美しく、思いの篭った音色を脳裏に刻み付けて、俺は目を開けた。

―――
――


 視界に入ってきたのは、どこまでも青い空。
 そして、茶色い何かとオレンジ色の髪、こちらを覗き込む焦げ茶色と金色の瞳。
 後頭部からは柔らかい感触が伝わってくる。
 …あれ、これ…膝枕じゃね?
 それを認識したと同時に俺は飛び起きた。

「わっ!?あ、起きたみたいだね、ハチマン」

「ちょ、ま、ペトラさん!?
 何で膝枕を―――」

「ハーチーマーン?
 ペトラさんじゃあ、ないでしょ?」

 言葉を遮り、笑顔なのに闇を感じる笑みを向けられて萎縮しながらも返す。

「ひゃ、ひゃい!ペトラですねハイ。
 …で、ペ、ペトラ…。何で俺に膝枕を…」

「…駄目だった?」

「あ、い、いやいや、駄目じゃあなくて寧ろ柔らかかったというか…。
 その…理由を…」

 …あれっ?なんか…自爆してね?

「/////なら良かった/////
 …あ、それで理由はね、壁の上じゃあ痛くなるかなって思ったから、ならさっきみたいに膝枕をすればいいかなって」

「そ、そうか…。
 …その…ありがとう」

「うん!」

 俺の言葉に満面の笑みで返すペトラ。
 …うん、呼び捨てと敬語には慣れないがこんな可愛い笑みが見れるならいいかな。

「痛ッ!」

「もう!やっと起きたと思ったら、すぐペトラさんとイチャイチャしてぇっ!」

 ペトラの笑みに和んでいた時、後ろから頭をこつんと小突かれる。
 その衝撃に反応して後ろを振り向くと、そこには不満そうな顔をして怒るヒストリアがいた。
 …というか、イチャイチャはしてなかったと思うんだが…。

「ペトラさんもですよ!
 何時の間にかハチマンに膝枕なんてしちゃってるし!」

「でも…ヒストリアは他のみんなの介抱で忙しそうだったし、開放し終えたら座って舟漕ぎ始めちゃったじゃない」

「うっ…それはそうですけど…」

 その言葉を聞いて周囲を見渡すと、奥の方は壁の表面が一部削られ固定砲台の運用に必要なレールが破損しており、手前には大火傷を負って重症のハンジ分隊の兵士たちが横たわっていた。

「…なぁ、話してるとこ悪いんだが…」

「「?」」

「この状況説明してくんね?」

 俺がそういったとき、

「アルミン!エレンは!?どこ!?」

 そう叫ぶミカサの声が聞こえた。
 声の方向を向くと、やはり火傷を負ったミカサが壁の下を覗いている。
 …おそらくだが、ミカサはアルミンにこの状況を説明してもらうだろう。
 なら、あっちの方を聞くほうがいいか…。

「…いや、やっぱアルミンに聞いてくる。
 丁度ミカサも起きたみたいだしな」

 俺はそう言って立ち上がろうとしたとき、ガクンと脚から力が抜けて膝をつく。

「うおっ」

「「!ハチマン!」」

 それを見たヒストリアとペトラの2人が寄ってきて、手を掴んで腕を肩に回す。
 どうやら運んでくれるらしい。

「よいっしょ…」

「これで問題ない?」

「ああ…すまんな、ありがとう」

「ううん、気にしないで。
 さすがに目の前で倒れかけられたら誰でも心配するからね」

 そういってヒストリアと息を合わせて歩くペトラ。
 …頼りになるな、2人とも。
 まぁ、そう言う風になるまで鍛え上げたのも俺たちなんだけども。

「!ハチマン!大丈夫!?」

「!あんまり無理しない方が…」

「いや、今はそんなこといってる状況じゃあないだろ。
 話は朧気ながら見えてる。鎧がエレンを連れ去ってたんだろ?」

 ミカサとアルミンの心配する声を制止して、状況を確かめる。
 周囲の様子からもう既にある程度予想はついていた。

「うん、エレンだけじゃない。ユミルも連れ去られたんだ。
 そこから…5時間は経ってる」

「…誰か…その後を追っているの?」

「…いいや」

「…どうして」

 アルミンの返答にミカサは制服の襟を掴んで問う。
 …まずいな、ミカサが完全に取り乱している。

「ミカサ、落ち着け。
 俺もお前も火傷を負ってるし、寝ている先輩方だって同じだ。
 一部の兵士は重症のミケ班員を搬送中だし、早々助けになんていけないぞ」

「!…」

 俺の言葉に冷静になったのか、ミカサはアルミンの袖から手を放し俯く。
 そんなミカサに俺は2人に頼んで隣に座らせてもらい、礼を言って他のやる事を任せたあと、頭を撫でながら言う。

「今出来るのは、このボロッボロの体をおとなしく治す事だけだ。
 時間の許す限り」

「うん。
 …ねえ、ハチマン。何で…エレンはいつも、私たちから遠くに行くんだろう」

「ふっ…エレンは昔っからそうだったな。
 俺やヒョウがいろんな事を教えていたとはいえまだまだ弱かったのに…どんな相手にだって突っ込んでいった。
 己が正しいと思う道を突き進んで、立ち向かうのさ。
 そう言うとき、基本的に俺らは置いてけぼりだがな」

 そう自嘲気味にいうと、ミカサは頭を俺に肩に乗せてくる。
 そして、涙を流し始めた。
 …駄目だ、泣かせちゃあいけないだろう。
 俺はコイツに笑ってて欲しいんだろ。
 そう思うもミカサに何と声をかけてよいか分からず、一先ず頭を撫でる。
 すると、後ろから気配を感じた。
 振り向けば、久しぶりに見る顔がある。

「なぁお前ら、腹減っただろ?」

「ハンネスさん…」

「ほら食え。
 まぁいつもの野戦糧食しかねぇが…」

 そう言いながら、ハンネスさんは俺たちに袋に包まれた、カロリーメイトの劣化版といっても過言では無い野戦糧食を人数分差し出してくる。
 そして、受け取ったのを確認した後自分も座り、野戦糧食を貪り食い始める。

「ぅん…まずくもねえがうまくもねえな。いつも通りだ」

 気を紛らわすようにハンネスさんが言うが、場の雰囲気は変わらない。
 そんななか、野戦糧食を食い終えたのかハンネスさんは水を飲みいう。

「まぁ、いつものことじゃねぇか。
 あの悪がきの起こす面倒を世話するのは、昔っからお前らの役目だろ?」

 その言葉にひきつけられて、全員がハンネスさんの顔を見る。

「腐れ縁ってヤツだよ。
 まったく…お前らは時代とか状況は変わってんのに…やってる事はガキンチョの頃のままだぜ。
 だろ?」

「ハハ…街のガキ大将と巨人とじゃ背の高さが違いすぎるよ」

 ハンネスさんの言葉に無気力な笑いをしながら返すアルミン。
 それを無視して、ハンネスさんは続ける。

「まぁ…しっかしあの馬鹿はハチマンやヒョウに言われて多少鍛えてたとはいえ大してケンカも強くねぇクセに相手が3人だろうと5人だろうとお構いなしに突っ込んで行ったよな。
 そんでミカサや兵士に止められた事にはもうボロボロだ。
 ただな…、
 勝った所はついぞ見たことねぇが…負けて降参した所も見たことが無かった」

 俺たちから顔を逸らして言うハンネスさんの瞳には、強い確信が込められていた。
 そして、俺たちに顔を向けていう。

「あいつは時々俺でもおっかねぇと思うぐらい執念が強ぇ。
 何度倒されても何度でも起き上がる。
 そんな奴がだ…ただおとなしく連れ去られていくだけだと思うか?
 いいや、力の限り暴れまくるはずだ。
 ましてや敵はたったの2人だ。相手が誰であろうと手こずらせ続ける。
 俺やお前らが来るまでな。エレンはいつもそうだろ?」

 両手を広げ、俺達をそう励ますハンネスさん。
 それに2人は固まっている。
 そんな中、ハンネスさんは俯き、拳を握っていう。

「俺は…あの日常が好きだ。
 エレンに言わせりゃそんなもんはまやかしの平和だったのかもしれんが…。
 …やっぱり俺は、役立たずの…呑んだくれ兵士で十分だったよ…。
 あの何でもない日々を取り戻す為だったら…俺は何でもする。
 どんだけ時間がかかってもな…」

 その言葉には…巨人に臆して立ち向かえなかった恐怖とそれに対する自責の念、そして確固たる決意が宿っていた。
 ハンネスさんは顔を上げると、強い意志を秘めた目で俺達を見て言う。

「俺も行くぞ。
 ヒョウは療養中らしいが…あいつも早々死ぬはずがねぇ。
 あいつはエレンとは違う意味で執念深ぇ。そんなヤツが早々死にはしねぇ。
 それに…お前ら5人が揃ってねぇと、俺の日常は戻らねぇからな」

 その言葉を聞き終えて、さっきまでの無気力さは何処に行ったのか…ミカサとアルミンは野戦糧食を貪り喰らい始める。
 それに続いて、俺も水と一緒にカロリーメイトの劣化版にしか感じないそれを頬張る。
 …うん、カロリーメイトみたいにチョコ味とかがあればいいんだが…。

《それはまたネイキッド・スネークが喜びそうな…》

 あ、そっか。
 あの人ツチノコとカロリーメイトが大好物なんだったっけ。
 という事は、この野戦糧食も食ったら「ウマすぎる!!」とか言うのかな…。
 そんなどうでもいい事を考えながら、俺は調査兵団の援軍が来るまで体力を回復しながら何故かミカサに頼まれて膝枕をする。
 …男の膝枕に果たして需要があるのだろうか…。
 まぁ、本人が幸せオーラ全開だし良いか。
 …ヒストリアにもして欲しいって頼まれたけど。
 逆にペトラにはさせてくれって言われたし…。
 いや、当の本人らがそれで満足するならいいけどさ…人前でするのもそれをお願いされるのも俺にとっては割と恥ずかしいんだよな。
 まぁ、押しが強いからもう諦めたけども。

《…『押して駄目なら引いてみて、出来ぬならば打つ手なし』。
 君の座右の銘だったかな?》

 ああ。
 そのあとに『未練残らば挑むべし』って続く。

《…『諦めきれないなら、最後まで足掻き続けろ』か…。
 君らしい座右の銘だね》

 始めの方で既に諦めてるけどな。

《それでも諦め切れなかったから、足掻くのだろう?
 実に君らしい『渇望』の意思が込められた座右の銘さ》

 …そうかもな。
 そんな風にミカサに膝枕をしながら頭を撫でたりミカサに抱きつかれて柔らかい身体に理性を削られながら、それを誤魔化すようにガスターと会話していると遠くの方から馬が駆けてくるのが見えた。
 まさか、壁の上を馬で駆けてくるとは…。
 そう思っていると俺が見た馬を見たのか、ミカサが起き上がり既に着けていた姿勢制御用のベルトを除いた立体機動装置本体の装備を素早く装着し始める。
 …俺も装着しなきゃじゃん。
 慌てて俺も装備を着ける。
 そうして装備を付け終わるのと同時に他の兵士の声が聞こえた。

「おぉ…エルヴィン団長!!」

「んん!?憲兵団まで…」

 その兵士の視線の先を見ると、確かにエルヴィン団長と馬から下りる憲兵団の兵士の姿が見える。
 漸く王政は現状打破を決したらしい。
 そう思っていると、団長を中心とした周囲の兵士が一点に集中し始める。
 何かと思い近づいていくと、その中心には疲れ切った表情で脂汗を垂らしながらも説明するハンジ分隊長の姿があった。

「賭けだけど…巨人化の力があっても壁外じゃ他の巨人の脅威に晒されるようだし、あれだけ戦った後だからエレンほどじゃなくても…えらく消耗してるんじゃないか?アニに聞くと、巨人化には膨大な量の体力の消耗と明確な意思が必要らしい」

 その言葉を聞くに、アニはどうやら人類側についたのだろうか。
 …そういや、戻ったら話があるといわれてたな…。
 一体何の話だろうか。
 そんなことを考えていると、ハンジ分隊長が声を荒げて言う。

「夜までだ!!夜までにこの森に着けばまだ間に合うかもしれない!!」

 …まだ希望はある。
 なら…俺たちはそれに賭けて、いくしかないか。
 リフトを使った馬の運搬作業が終わる。
 時間が惜しい為リフトはそのままにして、俺たちは索敵陣形を組んだ。

「今回の目標は攫われたエレンの奪還だ!
 そのため、巨人との戦闘を極力避けつつ巨大樹の森へと向かう!
 総員、進め!」

 エルヴィン団長の言葉と共に馬を走らせる。
 …無事でいてくれよ、エレン。






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25,523文字51分
   ―――キャプションの間―――

ハチマン「…またここか…」

ヒョウ「さあてさて、今度はここで何が起こるのやら…」

三木梟「Howdy! I'm FLO―――」

「「…」」ジャキンッ

三木梟「ヒョェッ!」

「「二度とそのまったく似ていない声真似をするな…!虫唾が走る…」」

三木梟「す、すすすすすみませんっ!なのでその『助弓の宝剣(アウクシリア)』と『破邪の秘双剣(ドーンブレイカー)』は仕舞ってください…」

???2「えっと…は、八幡さん、私どうすれば…」アワアワ

ハチマン「え、???2?なんでここに…」

三木梟「私が呼んだ」

ヒョウ「なんで?」

三木梟「いや、前回はあの神だったじゃん?だったら次誰よぼっかなーと思った矢先、この娘の存在を思い出したから」

???2「は、はい!梟さんに呼ばれてきました!
     …最近、そこまで会えてなかったので…」

ハチマン「そ、そうか…確かに最近あんまり会えてなかったしな…」

???2「あの…その…ご、ご迷惑でしたか…?」ウルウル

ハチマン「いやいや、こっちももうそろそろ会いにいこうと思ってた頃だ。
     迷惑なんぞ思ってねぇよ」ナデナデ

???2「ふぁ…」トローン

「「ゴバァッ!」」

ハチマン「ふぁっ!?」

ヒョウ「お前らが止まんねぇかぎり…」

三木梟「俺たちは…その先にいるからよ…!」

「「だからよ…止まるんじゃ、ねぇぞ…」」

ハチマン「唐突なオルガ・イツカやめい」

???2「ふぇ…?」

三木梟「さて、それはさておき…」

ヒョウ「いや、普通に起き上がるなよ…」

ハチマン「おまえがいえたことじゃねぇから」

三木梟「…クリスマスがまた過ぎちまったッ!」

「「おう、そうだな」」

???2「え?そ、そうですね…」

三木梟「チクショウ…何時になったら俺は『クリスマスの性夜』を書けるんだ…!」

「「ちょちょま、ちょま、オイ!」」

???2「…?せいや…?」

ハチマン「気のせいだよな!?『聖夜』のニュアンスが若干違った気がしたのは気のせいだよな!?」

ヒョウ「たのむ!そうであってくれッ!」

三木梟「ハッハッハ!残念だったなッ!もちろんR指定な方の『聖夜』に決まっているだろう!?」

「「ッ!ふざけるなーッ!」」

???2「…?…???」

ハチマン「おッおまッ!それ書くって事は…」

ヒョウ「…やめろ…ッ!止めてくれ…ッ!」

三木梟「知らんな」

「「この外道めッ!」」

???2「…えっと…どういうこと?」

   ―――終わり―――

 ※オマケ

   ハチマン・ヒキガヤ(比企谷八幡)
 我が作品の主人公。
 今回のここではクリスマスの『性夜』に異常なほど反応していたが、その理由はかつて自分の嫁の1人…というかそれまでの嫁全員(後々さらに増えた)に一晩どころかイブの夜からクリスマスが終わるまで永遠と絞られ続けたから。
 幸いにも性欲バリ強な嫁は片手で数えられる程度だったので、その嫁達以外の嫁をどうにか満足させたあとその嫁たちとヤりあったらしい。
 ハーレム主って割と大変だね。
 ちなみにそれによってクリスマスは中々ヤる気になれないらしい。…当たり前だよなぁ…。

   ヒョウ・ギルデット(三木氷華)
 我が作品のサブ主人公みたいな存在。
 彼?もクリスマスの『性夜』に過剰に反応していたが、それは昔実は居た自分の嫁とクリスマスに『3ヶ月』ぶりにヤったからだそう。
 ネタバレになるから詳しくいえないが、彼とその嫁は丸々3ヶ月間性欲を一切発散せずに普通に生活していたがとある理由により嫁さんの性欲が爆発していつも通り逆レ気味にシたようだ。
 後日あまりにも倦怠感があったのとクリスマス当日を半分以上寝て過ごしたため、『一年の1/4を一切性欲を発散せず過ごすのはやめよう』と誓ったらしい。
 ちなみに別の年のクリスマスに結局また嫁さんとヤってしまったらしいが、その時は1ヶ月間程度だった為比較的マシだった。

   三木梟
 皆様おなじみ作者。
 R指定を書きたいとは思いつつも書いてる作品自体が中々書き進まない為書くに書けない状況をここで憂さ晴らしした割と碌でもないやつ。
 けど後悔はしてない。
 いつかどうにか書くんでお待ちください。

   ???2
 前回のオマケでチラッと出てきた『黒髪紅眼のボッチ少女』。
 梟の言っていた『性夜』についても殆ど知らず、ただただハチマンに会いたいがためにここに来た娘。健気でカワイイ。ハチマンとイチャイチャしてるところを妄想をすると個人的に和む。
 誰か分からない可能性を踏まえ多少ヒントを書くとすれば、某爆裂魔法っ娘のライバル。
 出した理由はふと読み直したから。

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オリキャラクロスオーバーやはり俺の青春ラブコメはまちがっている。HACHIMAN進撃の巨人比企谷八幡原作キャラ生存ハーレム原作改変ハンネス

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2022年12月30日 00:06
日本語

 索敵陣形を組み、どうにか日没前に目的の巨大樹の森にたどり着く寸前、森の奥で光が見えた。

「ッ!」

「あれは…巨人化の光…?」

「!森の奥で一瞬光が見えました!
 巨人化した際の光だと思われます!」

「…間に合ったか」

 その言葉と目の前の森の中から向かってくる巨人を見て気を引き締める。

「総員散開!エレンを見つけ出し奪還せよ!
 敵は既に巨人化したと思われる!戦闘は目的ではない!
 何より奪い去る事を優先せよ!」

 その言葉を聞きつつもルドウイークの背から立ち上がって立体機動に移り、他の兵士に気を取られている巨人の項を削いでおく。
 今ここで倒さず鎧の巨人と戦っている最中に介入されるより、今ここで倒してすぐに向かった方が勝率は上がる。
 間に合うかどうかは賭けだが…104期はこういう悪運だけは強いので問題ないだろう。
 それに…

《!ハチマン、『重力操作』の干渉範囲内に1体だけ木に捕まる巨人・・・・・・・を確認した。おそらく連れ攫われたユミルだ。それと…巨大樹の森の西側に3人反応がある。おそらくライナー、ベルトルト、そしてエレンだろう。早く向かった方が良い》

 そのガスターの報告から分かるように既にエレンの位置を把握した。
 多少巨人を減らしてからいっても問題ないだろう。
 そう思って巨人の項を削いでいたが世の中やっぱりそう上手くいかない。

《…ッ!?ハチマン!ユミルがライナーたちのいる方向へと動き出した!
 それとユミルと重なって別の人間の反応がある!誰かが捕まっているぞ!》

「ハッ!?」

 ガスターの焦った言葉を聞き、思わず驚きの声をあげる。
 だがやはりそれは事実のようで、ユミルと思しき反応はライナーたちの反応へとどんどん近づいていく。

「チッ!」

 悪態を吐いても何も変らない事を理解しつつ、出来るだけ早く干渉反応のある位置へと向かう。
 すると、

ゴゴゴ…

 行く先で轟音と光が見え、どうにかその光が見えたところへ着くとエレンを背負ったベルトルトと何処か違和感を感じる巨人化したユミルが鎧と化したライナーの肩へ飛び移り、そのまま逃げ去ろうとしている所が目に入った。

「あ…!」

「…!まずい…!エレンが連れて行かれる…!」

 少しの間呆然としてしまったが、ユミルを追ってきたであろうアルミンの言葉を聞いて我に返る。
 追わないと不味い…!
 そう思い、ルドウイークを呼んですぐに駆ける。
 アルミンやミカサもハンネスさんの言葉ですぐに馬に乗っていた。

「…クリスタがユミルに連れ攫われた。
 僕たちはエレンだけじゃなくクリスタも取り返すことを視野に入れなくちゃいけない」

 鎧の巨人に追いつくため馬で全速力で駆けている中、誰が捕まっているのかを隣で共に駆けているアルミンに尋ねた返答がこれだった。
 森の奥の光を目指すとその光ったと思われる地点にユミルがおり、そこにヒストリアが合流した途端ヒストリアがユミルに喰われたらしい。
 …道理で違和感を感じてたわけだ。
 ヒストリア第一で動くユミルが飲み込むわけないし、大方口に含みながら移動していたんだろう。
 それよりも、何故ユミルがヒストリアを攫うのかが分からない。
 誰よりも…恐らく俺よりもヒストリアの幸せを願い行動してきたユミルが何故ヒストリアを攫い、敵側のライナーやベルトルト側についたのか。
 アニによれば壁の外には人類がいる様だし、その人類の中ですら俺たちの人種は鎧の巨人や超大型巨人のような巨人の特異性から前世でいうかつてのユダヤ人のように迫害を受けているらしいというのに…。
 アニの言った『仲間を喰った巨人』がユミルなら、壁外の情勢については良く知っていそうなものなんだが…。
 …考えても分からん、今は先を急ごう。
 思考を切り替える。
 すると何時の間にか俺は鎧の巨人と並走しており、

「ぎゃあああああ」

 ユミルの苦しむ声が聞こえた。
 反射的にそちらを見ると、ミカサが空中で刃を構えながら一回転しているのが見える。
 恐らくユミルの身体をミカサが切り裂いたのだろう。
 それでユミルは痛みで悲鳴を挙げた、といった所か。
 ミカサは立体機動でエレンを背負っているベルトルトを狙う。
 ベルトルトはそれに悲鳴を上げ鎧の巨人の首元へ行き、

「ライナー!守ってくれ!」

 そう懇願すると、間一髪の所で硬質の皮膚に守られた腕がミカサの刃を弾いた。
 それによって出来た隙を狙ってユミルが腕を振るうが、ミカサはすぐに回避し空中に飛び上がる。
 ミカサは刃を換装しながら何を考えたかは分からないもののユミルを攻撃しようとした。
 すると、

「待ってミカサ!」

 ミカサを制止するヒストリアの声が聞こえてきた。
 それから続く討論。
 双方の言葉にはやはり余裕が無い。
 特にミカサは。

『なぜなら今は、心の、余裕と、時間が無い』

 こんな風に言う状態を余裕があると言えるだろうか、いや言える訳が無い。
 かという俺も俯瞰的に見ながらも思わず反語を使ってしまうほどには余裕が無い状態だ。
 連戦続きで間然には体力と精神が回復しきっていない。
 身体は5時間ほど眠ったお陰でマシにはなっているが、今寝れば丸一日ほど眠っているであろうほどの疲労が溜まっているし、精神面に関してはミカサに膝枕をしていたり甘えられていたため理性が削られ、余計に精神的疲労が溜まった気がする。
 …まぁ、可愛いミカサを見れたので一応プラマイゼロではあるのだが。
 それは兎も角、そんな状態でのこの危機である。
 さすがに精神的に参ってきた。
 今なら『\(・ω・\)SAN値!(/・ω・)/ピンチ!』と踊れそうだ。

《止めてくれ…見ているこちらが恥ずかしくなる…》

 冗談だっての。
 この状況で踊れるかってんだ。

《もはや冗談が冗談に聞こえない域に達しているのだが…》

 気にすんな。疲れてるだけだ。

《…返答も雑になってきているし、これは本格的に不味いな…》

 脳内に聞こえてくるその声から意識を外し、ミカサとヒストリアの睨みあいを尻目に鎧…ライナーの首元へ立体機動で移動する。

「―――ッ!」

「うっ!止めろエレン!暴れるな!」

 鎧の手の中からはくぐもった声でそんな言葉が聞こえてくる。
 恐らく、こんな状況でもエレンは暴れているのだろう。

「そりゃ無理があるぜ、ベルトルト。
 そいつをあやしつけるなんて不可能だろ!?」

「!?」

「うるさくてしょうがねぇヤツだよな。よーく分かるぜ!俺もそいつ嫌いだからな!一緒にシメてやろうぜ。
 …まあ、出てこいよ」

「ベルトルト…返して!」

「なぁウソだろ、ベルトルト?ライナー?
 今までずっと…俺たちの事を…騙してたのかよ…」

「…エレン、今みたいな状況になったときに一体どうすれば良いか…教え、学ばせたはずだよな?状況が分からないが故に暴れるのも仕方ないとはいえこの頽落…戻ったらヒョウと鍛錬のやり直しだな」

 俺がそう言った途端、ベルトルトの「ぇ…?」という言葉と共に何かを叩く音が消えた。おそらくエレンが大人しくなったからだろう。

「「「「「「…」」」」」」

「おい、何だその何か言いたげな視線は」

 ジャンやコニー、ヒストリア、果てには巨人体であるユミルやライナー、敵であるはずのベルトルトからも怪訝な目で見つめられ、俺は思わずそう返す。

「あはは…」

「…」

 アルミンは苦笑いし、ミカサは一切の反応を示さない。
 それを確認し、意を決したのかベルトルトが声をあげた。

「ハチマン…仮にも攫われた張本人に対して投げかける言葉がそれなのかい…?」

「あ?こちとらストヘス区の戦いにウドガルド城、オマケにお前らとの戦闘でアホみてぇに疲れてんだ。それなのに散々教えたはずの事を実際に実行できていない特攻死に急ぎ野郎にかけてやる心配の言葉は流石に出てこねぇよ」

「そ、そう…」

(ハチマン、何時にも増して口が悪いね…まぁ、ヒョウよりはマシなんだけどさ…)

(やべぇ…いや、忘れてたわけじゃあない。忘れてたわけじゃあないんだが、外の様子もわからねぇ以上、助けが来るまで時間を稼ぐ必要があった。暴れれば、俺の体力は減るがこいつら…特に超大型巨人であるベルトルトの体力と精神力も削れる。そう考えての事だったが…うん、諦めよう)

「…って、おいおいおいおいお前らこのまま逃げ通す気か?」

 そういって場の空気をどうにか戻すように言うジャン。
 …ナイスだ、ジャン。自分で作っておいてなんだが、どうすりゃあいいのか分からなかったし。ありがとう。

「そりゃねーよ、お前ら…3年間1つの屋根の下で苦楽を共にした仲間じゃねぇか…。
 ベルトルト、お前の寝相の悪さは芸術的だったな!いつからか皆お前が毎朝生み出す作品を楽しみにして、その日の天気を占ったりした…」

 あ、懐かしいなそれ…。
 ベルトルトのあの寝相で一番印象的だったのはやっぱ自分の寝床である二段ベットの上から脹脛より上の身体をベットから下ろした状態で逆立ちする寝相だな。
 ちなみにその日はゲリラ豪雨が発生した。
 しかも当日の訓練は集団で大荷物を抱えながら体力を鍛える兵站行進。
 もうここまで言えば分かる。雨の中必死に大荷物を抱えてランニングしたよくそったれ。
 その寝相と壁に寄りかかって肩から逆立ちするという寝相が女難の相の表れであるという事から『ベルトルトの逆立ちは不吉の前触れ』というのが104期の共通認識になった。
 だから他の逆立ち系統の寝相の時は部屋が阿鼻叫喚になったもんだ…。
 …正直、あんまり思い出したくは無かったが。
 特にゲリラ豪雨の寝相は。

「…けどよ、お前…。
 あんなことした加害者が…被害者達の前でよく…ぐっすり眠れたもんだな」

 自らの思い出話で嫌な事を思い出したとは思いも知らずジャンは言葉を続ける。
 その声には、堪え切れない嫌悪感が入り混じっていた。

「全部嘘だったのかよ…!?
 どうすりゃ皆で生き残れるか話し合ったのも、おっさんになるまで生きていつか皆で酒飲もうって話したのも…全部…嘘だったのか?
 なぁ!?お前ら…お前らは、今まで何考えてたんだ!?」

 コニーの悲痛な叫びにベルトルトは目を見開く。

「…それは、わからねぇ。
 だが…壁内人類俺たちと壁外人類あいつらは早々分かり合えないってのと、戦うしか道はねぇったことだけは分かってるんだよ。
 そうだろ?ベルトルト」

「ッ!…あぁ…」

「…だったら、少しくらい胸の内を明かしてみてくれよ。
 冥土の土産だ」

 どっちにとっての冥土の土産になるかは分からないがな。
 そうして始まったのはベルトルトの独白であった。

「…誰が、人なんか殺したいと思うんだよ…。
 誰が好き好んでこんなことを…こんな事をしたいと思うんだ…。
 人から恨まれて、殺されても…当然の事をした自覚はあるさ…。
 でも…僕らは罪を受け入れ切れなかった…。兵士を演じている間だけは…少しだけ、楽だった…。
 嘘じゃないんだ、コニー…ジャン…。確かに皆騙した…けど全てが嘘じゃないんだよ…。本当に仲間だと思ってたよ!
 …けど僕らに…謝る資格なんてあるわけない…それでも…誰か…頼む…誰か…お願いだ…誰か僕らを、見つけてくれ…」

 己の懺悔と後悔を込めたその言葉に、一瞬言葉を詰まらせる。
 だが、その沈黙はミカサによって破られた。

「ベルトルト、エレンを返して」

「…だめだ、出来ない…。
 誰かがやらなくちゃいけないんだよ…誰かが…自分の手を、血で染めないと…」

「…血を血で洗う、復讐の物語ってか」

「ぇ…」

 ベルトルトの言葉に思わず漏れ出た言葉が本人の気を引く。
 …『血を血で洗う、復讐の物語』。
 もしかしたら、存外的を得ているのかもしれない。
 そんなことを考えていると、馬で駆けているハンネスさんから声をかけられた。

「お前ら、そこから離れろ!」

 その言葉を聞いてふと前を見る。
 そこには巨人を引き連れたままこちらに向かってくるエルヴィン団長の姿があった。
 …オイオイ、マジかよ。

「お前ら!今すぐ飛べ!」

 その言葉で我に返る。
 すぐに立体機動でルドウイークの元へ戻るころには、鎧の巨人は巨人達に向かってタックルを仕掛ける寸前であった。

「総員散開!巨人から距離を取れ!」

 団長のその指示に従い一先ず全速力でその場を離れる。
 後ろを振り向くと、無数の巨人に噛み付かれる鎧、背後から巨人の項に齧り付くユミルの姿があった。

「何だこりゃ!?地獄か?」

「いいや…これからだ!」

 ジャンの漏れ出た言葉。
 団長はそれに返す。

「総員!突撃!」

 その指示にこの場にいる全員が驚き固まる。
 無論俺も。
 それを知ってか知らずか、団長は言葉を続ける。

「人類存亡の命運は今!この瞬間に決定する!エレンなくして人類がこの地上に生息できる将来など永遠に訪れない!エレンを奪い返し、即帰還するぞ!
 心臓を捧げよ!!」

 その言葉に鳥肌が立つような感触を感じつつ、俺はルドウイークを方向転換させ、巨人達の方向へと突撃する。
 するとエレン第一に動くといっても過言では無いミカサが続き、それを見たジャンやコニー、アルミン、ハンネスさんが続き、果てには調査兵団全員がそれに続いた。

「「「「うおおおおおっ!!」」」」

 その時、鎧の巨人が痺れを切らしたのか首元に添えていた腕を巨人に向かって振るい始める。それによってエレンを抱えたベルトルトの姿が顕になった。

「流石に多くて手を使う必要が出てきたようだな…。
 これなら奪い返すチャンスはある」

「おい、正気か!?
 あの巨人の中を掻い潜っていくのかよ!?」

「ジャン、今は正気である必要もあるけど狂気に身を任せるときでもある。
 死に物狂いで動かなければ、エレンは攫われる。
 …必ず、阻止する…!」

 ジャンの反論にミカサがそう言う。
 …狂気…ね…。狂気に一番身を委ねていそうな奴がこの場にはいねぇからな…。
 まぁ、無いものねだりしても意味は無いが。

「進め―――ッ!」

 団長がそういったとき、猛スピードで団長に向かってくる生体反応を感知した。
 そちらを向くと、四つんばいの巨人が速い動きで団長に迫っている。

(グ―――ッ!?間に合わないッ!)

 『思考加速』によってようやく認識したが故に、団長と巨人との距離はギリギリだった。この距離で発動しても効果は薄く、最悪の場合ギリギリの所で巨人がエルヴィン団長を口にいれてしまい、『重力操作』のせいで巨人が団長の身体を噛み千切ってしまうかもしれない。
 万事休す…そう思ったとき、

「ッ!ハアアァァァッ!」

 その巨人の背後から聞き覚えのある声・・・・・・・・がして、その巨人の項を削いだ。
 そして、

「ッ!進め―――ッ!」

 その場の全員を鼓舞するかのように大声を上げた。
 その声に、本当に背中を押されるような心地を感じて俺は振り向かずに進む。

「「「うおおおおお―――っ!!」」」

 それは他の調査兵も同じなようで、皆が叫び声を挙げて巨人の群れの中へと立ち向かっていく。士気が高いゆえか、向かってくる巨人の手を次々と回避しながら馬で駆けたり立体機動を行う兵士たち。しかし、やはり士気が高いといっても巨人に捕まってしまう者が出る。
 だが…

「フッ!」

 先ほどの団長を喰おうとした巨人を倒した兵士によって救出されていた。
 また、こちらに視線を向け追おうとする巨人も同じく項を削がれていく。
 気付けば後ろから追ってくる巨人の反応は無く、数名の兵士が恐らくその兵士の手を借りて戦線離脱をしている事が分かる。
 その姿に少し安心して、俺は目の前の状況に集中する。

―――
――


 時は少し巻き戻り…視点はとある兵士へと移る。
 その兵士は野原をただ1人馬で駆けていた。
 本来ならばたった一人で兵士が壁外を移動する事はできないだろう。
 だが、幸運にもウドガルド城付近で超大型巨人、鎧の巨人と戦った調査兵団が残したリフトのお陰でそれが可能になった。
 故にこの兵士は己の目的ゆえにこの野原を1人駆けている。
 しばらくすると、遠くに煙弾が見えてきた。

(よし、間に合った…!)

 兵士は少し安堵しながら、周囲の警戒を怠らず煙弾の方向へ駆けて行く。
 そこは地獄といっても差し支えないほどの悲惨さだった。
 かつては訓練兵団で優秀な成績を収めたとはいえ、その腕を生かすことも維持する事もせず職務を殆ど放棄していた憲兵が次々と喰われ、調査兵たちは流石というべきか上手く立ち回りしぶとく生き残り続けていた。
 そんななか、1人の調査兵が巨人の手に捕まる。

「チッ!間に合え―――ッ!」

 兵士は馬上で立ち上がり、腰に着けた立体機動装置を使用する。
 アンカーは巨人の肩に刺さり、兵士はそれを確認した後ガスを一瞬だけ強く吹かし付けその回転を維持するようにガスを噴きながらワイヤーを巻き取り、調査兵を喰おうとする巨人の項に迫る。

「ラァッ!」

 肉をそぎ落とす感覚と共にアンカーを外しつつ後ろに身体を向け、続け様に先ほど救出した調査兵を狙う目の前の巨人の後頭部目掛けてアンカーを刺し、少し早くアンカーを抜き去り自身の後ろに向けていた両手の刃を一気に振り下ろす。
 刃は巨人の項を縦方向に切り落とし、絶命させた。
 それを確認した兵士は素早く地面に降り立ち、座り込んだ状態からどうにか立ち上がろうとする調査兵に手を貸す。

「大丈夫ですか?手を貸します。馬は?」

「あ、あぁ…すまない。ありがとう…。馬は…ピーッ!
 …もうすぐ来るはずだ」

 兵士の手を借りながらどうにか馬をよぶ調査兵。
 そんな調査兵に兵士は念のためにと持っていたあるものを渡す。

「巨人に捕まれた以上、激痛が走ってるでしょう。
 これを。飲めば多少は自然治癒能力を促進してくれますし、一時的にではありますが痛みを軽減してくれるでしょう」

 そういって調査兵に手渡したのは、治療院で使われる効果の高い応急薬と鎮痛薬を混ぜ合わせた『回復薬』とよばれるもの。急患や重要人物への治療以外では滅多に使われることは無い貴重な品である。
 そんなものを何故持っているか、それは本人のみぞ知るというものだが調査兵はそんなものの存在自体知らず、命を助けてくれた恩人ゆえに疑うことなく感謝を述べてそれを口に含む。

「…すまない…」

「いえいえ、馬が来たようですしそれに乗って一度戦線離脱を」

「しかし―――」

「いいえ、離脱してください。
 今は治療に、そして後にまた戦えるよう気を蓄えてください。
 それが今出来る事です」

 調査兵はそう言う銀髪の髪に隠れた漢字の人と書かれた紙で顔を隠した・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・兵士をみて礼を言い去っていく。

「…さて…」

 兵士は己がここに来た目的を果たす為、再び馬を走らせる。
 すると、目の前で巨人が見覚えのある金髪の調査兵を喰らおうと走っていく姿を捉えた。

「!よし…狩るッ!」

 己の目的を1つ果たせる。
 そう思いながら巨人にアンカーを刺し、その金髪の調査兵を喰らう前にその項を削いで絶命させる。
 そして…

「ッ!進め―――ッ!」

 この場にいる調査兵・駐屯兵全員を鼓舞するように声を上げ、先へと進ませた。

「「「うおおおおお―――っ!!」」」

 そのお陰か、調査兵や駐屯兵たちは声をあげて巨人へと立ち向かう。

『嗚呼、選び悔いた道の先は、どんな景色ばしょに繋がっている?』

(嗚呼…俺たち・・・がこの時間軸へ来たことによってどれだけの事が変わるのだろうか)

『唯捧げられた人生いのちを糧に咲く尊き彼岸悲願の勝利ジーク』

(分からない…分からないが…!)

『約束の地は、楽園の果て』

(それでも…皆が生きる…希う楽園テュライムへ…!)

 近くに来た馬に乗り、調査兵や駐屯兵に群がる巨人達へアンカーを刺す。

「そこをどけ、憐れなる元人間落とし子達よ」

 その言葉を発するうちに2体の巨人が項を削がれる。

「…何のために生まれて、何のために生きるのか…」

 またもや巨人の項が削がれ、2体が地に伏せる。

「…答えられないなんて…そんなの、お断りだ」

 刃が力強く振るわれ、5体の巨人が項から蒸気を噴出し、絶命した。
 付近の巨人が全滅したことを確認し、目の前にいる巨人達に群がられている鎧の元へ向かう。
 近づけばこちらが得やすい獲物だと考え伸びてくる巨人達の手を馬に乗りながら回避し、1体の巨人にアンカーを刺して大きく飛び上がる。
 高さは群がられている鎧の巨人よりも7.8mほど高い位置。
 巨人の項を削ぐには飛び上がりすぎである。
 しかし、

(…よし、この高さなら問題ない)

 兵士…否、彼・の目的はそれではない。
 鎧の巨人やそれに群がる巨人達に向かって調査兵・駐屯兵が果敢に立ち向かうなかに芯から熱くなる、鼓舞する声が響き渡った。

(…ライナー、ベルトルト…お前たちの境遇は知っている。
己が身には重過ぎる、その罪を…今は・・晴らしてやれない。
だが…来るべきときは必ず…お前たちに赦しを…)

「―――ッ!『赦しをペレドーノ』!」

 その言葉は波紋となり、音波となり、鎧の巨人に纏わりつく巨人を少しではあるものの吹き飛ばし、鎧の巨人自体をもよろめかせた。
 万能型速攻魔法『赦しをペレドーノ』。
 彼が大きく飛び上がった理由がコレを放つ為である。
 スペルキーペレドーノを波紋、音波に変換し、周囲の存在を吹き飛ばす。
 超音波を纏わせる付与魔法としても作用し、指向性をもつが故に強力な超接近型攻撃魔法にも扱える。
 その性質から上空で放てば纏わりつく巨人は排除できなくとも鎧の巨人へは大きいダメージを与えられると踏んでの行動は功をそうした。
 鎧の巨人がよろめく隙にエルヴィンがベルトルトの胸元を一閃し、宙を舞うエレンを巨人に捕まれたもののジャンによって救出されたミカサが受け止め、撤退の条件が整ったからだ。

「総員撤退!」

 その声を聞いて安堵すると同時に突然異常なほどの倦怠感と睡魔に襲われる。
 それによろめいていると、巨人がその隙を逃すまいと腕を伸ばしてきた。

「…チッ…」

 彼はその手が己を掴むギリギリでガスを吹かし少しだけ上昇しつつ避け、その巨人の額にアンカーを刺しどうにか馬のいる位置まで移動する。

「グ…ハァ…ハァ…」

 もはや声にならないような小さい声で唸り、この戦線を離脱しようと試みる。

(…なるほど…狩人さんやエマ殿が言っていたのこれか…。
『分身体』は…込められたエネルギー以上の負荷には耐えられない…。
俺の魔法は…この『分身体』で使うと、ここまでの負荷がかかると…。
『分身体』でこれなら…本体でも相当の負荷がかかる…道理で、異形の女型や鎧と戦い終えたあと…いきなり吐血して倒れたわけだ…)

 己の状態を把握しつつ、周囲を確認する。
 憲兵団の兵士はその数を大きく減らしているが調査兵・駐屯兵の数は殆ど変わっていない。対して肝心の鎧の巨人は巨人に阻まれ動けていない。
 この状況、見ればこちらが有利ではあるものの…

(鎧が巨人を投げて寄越すのだとすれば…!)

 そう考えた時、行く先に巨人が落ちてきた。
 それによって馬の歩みが止まる。

「ライナーの野郎…!巨人を投げて寄越しやがった!」

 近くにいたジャンの言葉だ。
 これでは馬で駆け抜けることも難しい。
 なにより…

「エレン!ミカサ!」

 保護対象であるエレンとそれを背負っていたミカサが巨人の投擲によって馬から落ちている以上、2人を馬に乗せ移動させない限り撤退はできない。

「…グッ…やるしかねぇじゃねぇかよ、くそったれ…」

 悪態を吐きつつ、疲れきったその体を動かして立体機動へ移る準備をする。
 だがそのまえに…

「…エポナ…お前はエレンたちのところに…。
 回収できたらそのまま撤退を…頼む…」

 自身の愛馬にそう伝える。
 馬はその言葉を聞き届け、彼が立体機動で巨人の元へ飛び去るのを確認した後エレンたちの元へ駆けて行く。
 だが…巨人がいる以上そう易々と近づけない。
 なにより…

「ハハッ!こんな事があるか!?なぁ!?お前ら!
 見てろよ!お前らの母ちゃんの仇を!俺が!ぶっ殺す所を!」

 エレン達は因縁の巨人と戦っており、割り込む事すらできない。
 まさに、万事休すの状況であった。

―――
――


 戦況は最悪だった。
 エルヴィン団長が巨人達を使い鎧の巨人の動きを封じ、その隙に既視感を覚える漢字の人と書かれた紙で顔を隠した銀髪の兵士が何かを呟いた途端に発せられた超音波によって鎧に隙を作り、その隙にエレンを奪還するまでは良かったがまさか鎧が巨人を投げて足止めするとは予想外だった。
 早くエレンを連れてこの戦場から離脱しなければならないが…

「チッ、巨人が邪魔すぎる…!」

「クッ…グンタ、オルオ、ペトラ!俺たちは巨人を討伐して、撤退する道を切り開くぞ!ハチマン、お前は早くエレンを見つけ出して撤退させてくれ。そのための道は俺たちが作るからな」

 隣で馬で駆けていたエルドさんが俺にそういう。
 …先輩方なら早々死ぬ事は無いな。なら…

「了解。ご武運を祈ります」

「ああ、祈っておいてくれ」

 エルドさんのその返しに少々苦笑いを浮かべつつ、俺はエレンと思しき生体反応のある方向へと向かう。
 そこには、エレンの母親…カルラさんを喰ったと伝えられていた巨人とハンネスさんが戦っていた。
 その近くにはエレンとミカサも居る。

(…俺も加勢に向かうか。
ミカサは巨人に捕まれてまともに戦えない可能性が大きい。
となると、ハンネスさんを護衛に俺が近づいてくる巨人を倒せばエレンたちが無事に撤退できる可能性は高くなる…!)

 そう考え近くの木にアンカーを刺し加速して加勢しようとした時、ハンネスさんが左足の踝を削ぎきり巨人がハンネスさんを掴もうとしているのが見えた。

「マズいッ!」

 食われる前に救出する為に慌てて『規則性付与』を発動し、巨人…正確にはハンネスさんとの距離を一気に詰める。
 そして、

「なっ…!」

 ハンネスさんを掴もうとする指を切り落とし、ハンネスさんに向かって思いっきりタックルしながらその腕を避ける。
 結果…

「グッ…」

「ガッ!」

 助ける事はできたもののハンネスさんは地面へと叩きつけられ、俺は慌ててスキルを発動させた為か異常な反動で動けず体勢を崩して回転してしまい背中から木へ激突してしまう。

「痛てて…てっ、おい!ハチマン、大丈夫か!?」

 ハンネスさんの心配する声を聞きながら、俺は木へ激突した衝撃で意識を失った。

―――
――


 ハチマンが意識を失った丁度その時、ミカサは涙していた。
 愛する人が、大切な家族が、親にも近しい人が、己が動けないままに傷ついていくのを見ていることが悲しかった。
 そして何より…

(…嗚呼、私は…思いを伝えられず逝くのか…)

 後ろからこちらを狙う巨人の姿を捉えて、自らの秘めた心を愛しの人に伝えられない事が何よりも悲しかった。
 でも…少しでもその悲しみを、悔いを減らすために、

「…結局、俺はなにも出来ないままだった…。
 母さんの仇もとれなくて、夢を追いかけることもできなくて…。
 ああ…俺は…何にも…何にも出来ないままだったよ…」

 彼女は嘆く目の前の家族に言葉を紡ぐ。

「…そんなことないよ、エレン」

 彼女の言葉にエレンは顔を見る。

「エレン、聞いて。
 ヒョウにも…ハチマンにも…もう言えなそうにないけれど…せめて、エレンにだけは伝えたい事がある」

 この場には不釣合いな笑み。
 それを浮かべながらミカサは言う。

「私と…一緒にいてくれてありがとう」

 そう言葉を述べるミカサに近づく巨人。

「私に…マフラーを巻いてくれて、ありがとう」

 それを聞くエレンに向かってゆっくりと手を伸ばすエレンにとって仇の巨人。

「私と…家族でいてくれて…ありがとう」

 その言葉と共にミカサは涙を流す。
 エレンはその涙を見て、感じた。

(…俺は、コイツに泣いて欲しいと思ったか?)

 いや、こいつにはハチマンと共に幸せになってほしいと思い、そして願った。

(俺は、コイツを死なせていいと思ったか?)

 いいや、俺はコイツだけじゃない。ハチマンやヒョウやアルミンや…調査兵団の、同じ同期の皆を死なせたくは無いと思い、鍛え戦った。

(ならなんで俺は諦めていた?俺は諦めるのか?)

 諦める?自らの望んだ事を全て放棄して、抗うことなく諦める?
 …そんなの…

(お断りだ)

 己の『渇望』を。

「…ミカサ、もう、泣くんじゃねぇ」

「ぇ…?」

「家族を…もう悲しみで泣かせたくはねぇ。
 俺たちは家族だ…これまでも…これからも…ずっと」

 そういってエレンは立ち上がり、己に向かって手を伸ばしてくる巨人と相対する。

(そうだ…思い出せ…)

 思い出されるは己の幼少期。
 己の兄とも、姉とも、師匠とも、友人とも言える存在たちに刻まれた言葉。

『One day you’ll leave this world behindいつかおまえもこの世を去る時がくる.So live a life you will rememberだから記憶に残る人生を歩め.
 私が好きな曲の歌詞だ。
 エレン、お前もいつかは死ぬだろう。だから、その”死”の瞬間まで己にとって良かったと思えることがあった人生にしなさい。
 やりたいと、やらねばならないと思ったとき、それを成し遂げられるように前を向いて歩みなさい。
 誰かを、何かを守りたいと思ったとき、それを守れるように諦めず抗い立ち向かいなさい。
 それが自分1人では無理な事だったり、倫理観や道徳心に反する事だったとしても…そのときは、私とハチマンがどうにかしてやるからね』

『いや、ちょっとまて。何で俺もやる前提?
 というかそのセリフ…というか歌詞『The Nights』のじゃねぇか。
 相変わらず曲に関してはいい趣味してやがるな、おい』

『いやぁ…それほどでも…』

『皮肉に決まってんだろ、この百合厨が』

『百合が好きで何が悪い!
 互いに愛し合うカップルを応援する事の何がいけないと言うのかね!』

『テメェの場合は度が過ぎてんだよッ!
 どこに近所の子供たちに百合カップルを成立させようとする馬鹿がいる!』

『ここにいる』

『自分を指差すんじゃねぇッ!』

(…うん、言葉自体は良いがその後の謎の抗争は思い出さなくて良かったな…)

 ハチマンの返答はついぞ聞く事は出来なかったが、それでも己のケツイは漲った。

(…そうだ、俺は…ミカサを、家族・・を守りたいと思った。
だったら…ッ!)

「こんな所で…諦めてたまるか…ッ!」

 その言葉を胸に、エレンは拳を振りかぶる。

「アアアアアッ!」

 その非力で小さな拳は己へ伸びてくる掌の中央に当たった。
 巨人にとっては一切の痛痒も感じない、児戯のようなもの。
 だが…ここで重要なのは、エレンが巨人の身体に触れたという事だった。
 その拳は巨人の前では無力のはずである。
 それなのに…その拳は巨人の掌を弾き飛ばしていた。

「アアアアアアアアアアッ!」

 エレンが再び拳を握り、思いっきり空を殴る。
 すると、ミカサを狙っていたはずの巨人が目の前の仇の巨人へと突っ込んでいった。

「…は…?」

 エレンはその光景に少々呆然とするもすぐに思考を切り替え、怪我でまともに動く事ができないミカサを背負い走る。
 そんな中、背中のミカサが呆然として声を発した。

「何で…あいつが…食べられてるの?」

 その問いに答えられるものはいない。
 なにより、今はそんな状況ではないのだから。

「馬はどこだ…!?」

 そうエレンが言ったとき、丁度のタイミングで逃げ出していたはずのミカサの馬が緑がかった白い毛の馬に連れられてやって来た。
 その馬にはどことなく既視感がある。

「ミカサ!早く乗れ!」

「うん…!」

 そんなことを気にしても仕方が無いと思い先にミカサを馬に乗せる。
 それを確認した後エレンも馬に乗ろうとすると、

ドォドォドォドォ

 巨人を振りほどいた鎧の巨人がエレンたちに向かって走ってくるのが見えた。
 それを見てエレンは叫ぶ。

「来るんじゃねぇ!テメェら!ぶっ殺してやるッ!」

 その言葉に反応したのか、仇の巨人を喰らっていた巨人達は我先にとばかりに鎧の巨人の元へと走り出していった。
 それを尻目に、エレンは馬に跨りその場を後にする。

「この機を逃すな!撤退せよ!」

 エルヴィン団長のその声がした方向を見れば、生き残った調査兵団がある程度の列を組んで撤退しようとする所が見える。
 エレンもそれに続いて馬を走らせたとき、

「おい、エレン!ミカサ!」

「ッ!ハンネスさん!」

「無事でよかった…」

 自分達を守ろうと1人で懸命に戦ってくれた親のような存在が馬を走らせながらよって来た。

「お前たちも無事でよかった。
 …だがそれは兎も角だ。
 一難去ってまた一難。今度はハチマンが目を覚まさなくなっちまった…」

「「!」」

「すまねぇ…多分だが、俺があの巨人に捕まれそうになった時、ハチマンが無理して救援に駆けつけちまったから身体に無理が祟ったんだろう。
 不甲斐ねぇよ…」

「…気にすんなよ、ハンネスさん。
 ハンネスさんがいなかったらシガンシナ区で俺たちは死んでただろうし、何よりここで死んでた。それはハチマンだって一緒だろうからな」

 エレンはハンネスの背中にもたれ掛かりながら気絶しているハチマンを見つめながら言う。

「…ああ、そうか…だが…これで、あの日々も取り戻せるような気がしてきたぜ」

「?あの日々?」

「…ああ、気にすんな。ただのオッサンの独り言だからな」

「お、おう…」

 そんななんでもない会話を続けながら、エレン達は壁へと走っていく。
 道中、巨人とは多少なりとも出くわすことは会ったが…皆が皆、鎧の巨人がいた方向へと走っていったため戦闘は起こらなかった。

―――
――


 エレン・イェーガー奪還作戦
 総勢114名
 内憲兵58名、調査兵34名、駐屯兵22名
 死者48名
 内憲兵34名、調査兵9名、駐屯兵5名
 負傷者31名
 内憲兵9名、調査兵12名、駐屯兵10名

    作戦自体は成功。




   原作(第2期)との相違

・ミケ班全員が疲労と怪我により療養中ではあるものの生存

・ハンネスの生存

・リヴァイ班が生存中

・死者数の減少

・ミカサとエレンの会話

・エルヴィン・スミスの片腕損失の回避

・調査兵団全体の疲労数値ゲロ上げ











 
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