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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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第88話:ナンバーズ


はやての後について戦闘機人たちの方に向かって歩いて行くと
はやてが来たことに反応したウェンディがピンク色の髪を揺らして走ってくる。

「はやてじゃないっスか。また来てくれたんっスね」

ウェンディはバンバンとはやての肩を叩きながら笑顔ではやてに話しかける。

「まあ、またちょくちょく来るって言うたしなぁ」

「うれしいっスよ。またはやてが来てくれて」

「ホンマか?そらうれしいなあ」

はやてはそう言って顔をほころばせる。

「お前の目当てははやてが持ってくるお菓子だろう。ウェンディ」

見ると、アイパッチをした銀髪の少女がウェンディの背後から現れた。

「うっ・・・そ、そんなことは無いっス」

「嘘をつくな。姉にはすべてお見通しだ」

「はは・・・。お菓子目当てでも私が来るのを楽しみにしてくれるんは
 嬉しいで。今日はケーキを買ってきたから後でみんなで食べてな」

「ケーキっスか!?うーん、待ちきれないっス!」

「・・・現金なヤツだ」

「まあまあ。それよりチンクも元気やったか?」

はやてがチンクと呼んだ少女は、はやての顔を見上げると
自慢げに胸をそらす。

「当然だ。私のコンディションはいつでも万全だからな」

「そらよかった」

「ところで・・・」

チンクはそう言って俺の方に顔を向ける。

「コレは誰だ?」

「あー、うん。今からみんなに紹介するからちょっと全員集めてくれるか」

「そうか、了解した」

チンクはそう言うと戦闘機人たちの輪の中に入っていく。
どうやら彼女がここにいる戦闘機人たちのリーダー格らしい。

「あの子はチンクっていうんよ。作られたんがここに入れられた子らの
 中では一番早いらしくて、みんなのまとめ役みたいになってるわ」
 
「みたいだな」

チンクが他の戦闘機人たちと話しているのを眺めていると
ギンガが俺達の方に向かって歩いてきた。

「おはようございます。はやてさん、ゲオルグさん」

俺達が挨拶を返すと、ギンガは俺の方を見る。

「ゲオルグさんは入院されていると聞いてたんですけど、
 退院されたんですね」
 
「ああ、一昨日ね」

「そうなんですか。スバルから重傷だって聞いたんで心配してたんです。
 あ、お見舞いに行けなくてすいませんでした」

ギンガはそう言って俺に向かって頭を下げる。

「いいよいいよ。ギンガも忙しかったんだろ?捜査官だし」

「それもあるんですけど、見ての通りあの子たちの更生プログラムを
 担当することになったので、それで忙しかったんですよ」

「それなんやけどさ、なんでギンガなん?」

はやてが不思議そうにギンガに尋ねる。

「私が戦闘機人だから適任ってことみたいです」

「それはまた安易な・・・。それで、プログラムの方は順調か?」

俺がそう尋ねるとギンガは困ったように苦笑する。

「いえ。今は一般常識とか社会通念を教える段階なんですけど、
 結構苦労させられてますよ」

「そうか・・・。俺で協力できることがあったらいつでも言ってくれよ」

「はい。ありがとうございます。だったら、あの子たちに時々会いに
 来てあげて下さい。外の人間と接触するのが面白いみたいなんで」

「判った。俺も忙しいからなかなか来れないかもしれないけど、
 時間を作って来るようにするよ」

その時、ギンガの後ろからチンクが現れる。

「全員集めたぞ」

「ありがとう。ほんならゲオルグくんを紹介しよっか」

「そうですね」

はやての言葉にギンガは笑顔で頷いた。



戦闘機人全員の名前を紹介されたあとで、ギンガは俺を戦闘機人の前まで
連れて行った。

「今日はみんなに紹介したい人がいます。じゃあ、ゲオルグさん」

集まっている戦闘機人たちの前に立つと、全員の目が集中するのが感じられた。
俺は一度小さく息を吐くと、全員を見回す。

「ゲオルグ・シュミットだ。はやてやギンガとも知りあいだし、
 これからも時間を見つけてここに来るつもりだからよろしくな」

俺は自己紹介を終えると、戦闘機人たちは興味なさそうに解散していく。
が、水色の髪をしたセインが声を上げた。

「あーっ!なんかどっかで見たことあると思ったら、あたしこいつと
 会ったことあるよ!」

そう言って俺のことを指さす。

「そうだな。お前とは地下水道で会ってる」

「ああ・・・あんときか・・・」

そう言うと、セインは少し沈んだ表情を見せる。

(こいつはなんというか・・・表情豊かだな)

「んん?どうしたんっスか?セイン」

ウェンディがセインに声をかける。

「あー、いや。あんときは失敗しちゃってさー。帰った後のクア姉の顔を
 思い出したらちょっと・・・」
 
「そういうことっスか・・・」

ウェンディはセインに同情するような目を向ける。
が次の瞬間にはころっと表情を変える。

「で?こいつ強いんっスか?」

「わかんないよ、ちゃんと戦ってないもん。
 でも、不意を突いたのに的確に当て身を食らわされたから
 弱くは無いと思うな」

俺は話している2人に近づくと、声をかけた。

「どうでもいいけど、こいつ呼ばわりはやめてくれ」

俺がそう言うと、2人はそろって首を傾げる。

「じゃあ、何て呼べばいいんっスか?」

「ゲオルグって呼んでくれ」

「判ったっス、ゲオルグ」

「あたしも判ったよ。ゲオルグ」

「よし。じゃあ改めてよろしくな。セインにウェンディ」

そう言って手を差し出すが、2人はきょとんとしてお互いに顔を見合わせた。

「ゲオルグは何がしたいんっスか?」

ウェンディの言葉に俺はガクっと肩を落としかけるが、気を取り直す。

「握手だよ。よろしくって意味をこめて手を握り合う挨拶の一種だ」

「へー。じゃあ、よろしくっス」

ウェンディはそう言って俺が差し出した手を握る。
・・・力いっぱい。

「いててて・・・握手ってのは軽く握る程度でいいんだよ」

「そうなんっスか・・・こんなもんかな?」

そう言って再び俺の手を握る。今度はきちんと力を加減されていて
きちんとした握手になっていた。

「ほれ、セインも」

俺はそう言って今度はセインの方に手を差し出す。

「うん。よろしく」

その時、2人の後ろから1人の少女が歩いてきて、俺の前に立った。

「あの・・・私・・・」

「ん?どうした、ルーテシア」

ルーテシアにそう尋ねると、ルーテシアは言いづらそうに顔を落とす。

「おい、ルール―」

その時アギトがルーテシアに声をかける。
ルーテシアはアギトに向かって小さく頷くと、顔を上げて俺の顔を見る。

「私、ゲオルグ・・・さんとお話したいことがある」

「そうか、じゃあちょっとそこらへんに座って話そうか。
 悪いけどセインとウェンディはまた今度な」

「はいっス」
「はいはーい」



俺はルーテシアの手を引くと他の連中から少し距離をとったところに
腰を下ろす。

「で?お話ってのはなにかな?」

ルーテシアは俺の前に立って、やはり言い出しづらそうにしていた。
何の話かは大体想像がついたので、しばらく無言のまま向き合っていると、
ルーテシアは意を決したように顔を上げる。

「あの・・・あのときはごめんなさい」

そう言ってルーテシアは深く頭を下げた。
見るとその肩は少し震えているようだった。

「あのときのことはもういいよ」

俺がそう言うとルーテシアは俺を見る。

「で、でも・・・」

「あの時のことも含めてルーテシアはここに入れられてるんだから、
 罪は償ってる。だからもういいよ。ただね・・・」

俺はそこで一旦言葉を切るとルーテシアの目を見つめる。

「2度とああいうことをしてほしくない。
 ガリューを大切に思うならなおさらね。いいかな?」

そう訊くとルーテシアはこくんと頷いた。

「よし。いい子だね」

俺はルーテシアの頭に手を伸ばすと、ゆっくりと撫でた。
俺の手が触れた瞬間にルーテシアはびくっ肩を震わせたが、
ゆっくりと撫でていると、気持ち良さそうに目を細める。

後から声をかけられて振り返るとはやてが自分の腕時計をトントンと
叩いていた。

「もうそんな時間か・・・」

そう言ってルーテシアから手を離すと俺はもう一度ルーテシアの顔を見た。

「悪いけど今日はもう行かないと。でもまた来るから」

「うん・・・待ってる」

ルーテシアはそう言うと俺に向かって微笑んでみせた。

 
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