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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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第87話:隔離施設


翌日・・・

俺は隣に座るはやてから指定された場所に向かって車を走らせていた。
右手には海が広がるほとんど直線の道路が海岸線に沿って走っている。
1時間ほど車を走らせると、ずっと先に白い建物と海に向かって伸びる
長い橋のようなものが見えてきた。

建物が近づいてくると、俺は徐々に車の速度を落とし、
道路から外れて建物に向かって車を走らせる。
しばらくすると、前方に2重になったゲートと検問所のような
建物が見えてくる。
俺は1つ目のゲートの手前で車を止めると、窓を開ける。
すると、走り寄ってきた職員の男が話しかけてきた。

「どちら様ですか?」

「本局古代遺物管理部機動6課の八神とシュミットです。
 海上施設に収容されているJS事件の参考人と面会に来ました」

職員の男ははやての返答を聞くと小脇に抱えた端末を操作する。
その間に俺ははやての言葉の中で理解できなかった点について尋ねる。

「JS事件ってなんだ?」

「最近になってスカリエッティの件をまとめてそう言い出したんよ」

「ふーん。しかし、PT事件といい管理局はネーミングセンスが雑だな。
 俺が言うのも変な話だけど」

「ま、わかりやすくてええやん」

その時、俺の車の横に立つ男性職員が端末から目を上げる。

「確認できました。どうぞお通りください」

男はそう言ってゲートの脇にある小さな建物に向かって手を振る。
すると、目の前のゲートが重々しい音を立てて開く。
俺はゆっくりと車を前に進ませると、2つ目のゲートの手前で
再び車を止めた。
すると、後でゲートが閉まっていく。やがて1つ目のゲートが完全に
ロックされると、2つ目のゲートが1つ目と同じように開いた。
完全にゲートが開くと俺は車を前に進ませる。

「相変わらずここは警備が厳重だな」

俺がそう言うとはやては俺の方を見る。

「ゲオルグくんも来たことあったんや」

「ああ。ほんの数回だけどな。それにしても、事件の解決に協力的な
 戦闘機人をわざわざここに収容する必要性があったのか?」

「私もそう思わんではなかったんやけどね・・・。
 まあ、あれだけの大事件を起こしたわけやし、それまでの犯罪行為もあるから
 こういうところに入れとかんと、上層部と世論が納得せえへんのよ」

「ま、言われてみればそうだよな。戦闘能力も高いわけだし・・・」

そのうちに、海上の施設へと伸びる橋の袂にある小さな建物へとたどり着いた。
ここから先は歩いていかなければならない。
車を降りると隣に停められた車を見ているはやてが目に止まる。

「どうかしたのか?」

俺が声をかけると、はやては俺の方を振り返って口を開く。

「ん?どうもギンガが来てるみたいや」

「ギンガが?」

俺が車のドアを閉めながらはやてに尋ねると、はやては頷いて建物の方に
向かって歩き出した。
俺は早足ではやてに追いつくと、改めてはやてに質問をぶつける。

「なんでギンガがここに?」

「知らんよ。私も車を見て気づいたんやもん」

俺とはやては建物に入るとそこにいた職員に声をかけた。

「機動6課の八神です。JS事件の参考人との面会にきました」

はやてがそう言うと、職員は人懐っこい笑顔を向けてくる。

「八神二佐とシュミット三佐ですね。ゲートの方から連絡は受けてますので
 どうぞお通りください」
 
橋の中に敷かれたムビングウォークの上で、俺は戦闘機人たちのことについて
はやてに尋ねることにした。

「なあ、はやて。戦闘機人って何人がここに収容されてるんだ?」

「捜査に協力的な7人やね」

「結局戦闘機人は全部で13人だから・・・半分以上はここにいるのか」

「そやね」

そう言ってはやては小さく頷く。

「そういえば裁判っていつごろ始まるんだ?」

「ここに収容されてる子らの裁判はもう始まってるよ。
 テロ行為の主犯とか共同正犯やなくてあくまで幇助の罪でやけど」

「・・・司法取引か」

「まあそうやね。もうすぐ結審するんやなかったかな」

「早いな・・・」

「まあ、罪状認否で罪を認めとるからね。あとは罪状と取引と情状の
 バランスを考慮して判決を出すだけやから」
 
「情状?」

「スカリエッティっちゅう稀代の犯罪者によって人格形成がなされた
 っちゅうことよ」

「なるほど。まともに育つ機会を奪われたから犯罪に手を染める
 ことになってしまった。っていう判断か・・・」

俺が納得してそう言うと、はやては前を向いたまま頷く。

「そういうこと。ま、甘いと言われれば甘いかもしれんけど・・・」

はやてはそう言うと少し表情を曇らせる。
俺は歩を進めながらはやての考えに思いを巡らせた。

(まあ・・・フェイトも同じような境遇だったしな・・・。
 はやてにしろ闇の書事件の責任を部分的に問われてるし・・・
 その辺を思ってるんだろうな・・・)

「・・・考えてみればあいつらも運が悪いよな」

俺がそう言うと、はやてはその歩みを止めて意外そうに俺を見る。

「運が・・・悪い?」

俺ははやてに合わせて歩を止めると、はやての方に顔を向ける。

「よく言うだろ。”子は親を選べない”って。それと同じじゃないかな」

「親って・・・スカリエッティのことかいな」

俺ははやてに向かって頷くと話を先に進める。

「あいつらにとってはそういうことになるんじゃないか?
 で、その親は希代の犯罪者で子供にその片棒を担がせるべく
 生まれたときから教育を施した。
 結果として子供は親の手伝いが世界的な大規模テロに手を染める
 ことになった。
 そう考えればあいつらはずいぶん不運じゃないか」

「そうやね・・・」

はやては微妙な表情を浮かべてそう言うと前に向かって再び歩きはじめたので、
俺もそれに合わせて歩きはじめる。
俺達はそれ以降無言のままムービングウォークの上を歩き続けると、
海上隔離収容施設の入口へとたどり着いた。

もともとは魔導兵器の実験施設として建造されただけあって、
建物は非常に堅牢で、実験場としては使われなくなったあと、
強い力を持つ犯罪者の隔離と更生教育を行う施設として改修されたらしい。

俺自身は情報部時代にここに収容されていた犯罪者から話を聞くために
何度か訪れたことがある。

ムービングウォークを降りると、いくつかのドアをくぐって
隔離施設の入口にたどりつく。
ここから先には一切の武器の類の持ち込みは禁止されているため、
デバイスはここでロッカーに預ける必要がある。
俺は待機状態のレーベンを首から外すとロッカーに入れて電磁ロックをかけた。

「ゲオルグくん、早よ行こ!」

声のする方を見ると、はやてが隔離施設への扉の前で手を振っていた。
俺は小走りで移動すると、はやてに声をかけた。

「はやてはデバイスどうしたんだよ?」

「ん?置いてきたよ。めんどいし」

きょとんとした表情ではやては言う。
俺はそんなはやてに小さくため息をつくと隔離施設への扉を開けた。
隔離施設への入場者が武器や危険物をもっていないか確認するための
スキャニングシステムを通り抜け、隔離施設へと入る。
白い壁に囲まれた通路を進んでいくと、右手に大きな窓が見えてきた。
窓の向こうには芝の敷かれたサンルームのような部屋があった。

「おっ、みんなこんなとこにおるやん」

はやての声に反応して部屋の奥の方に目を遣ると、白い服に身を包んだ
7人の戦闘機人たちが思い思いの格好で座って大きなモニターを見ている。

「あれ?ギンガがあんなとこにおる」

見ると、モニターの横にギンガが立っていて、時折モニターを操作しながら
何かを説明しているようだった。
声は聞こえないので何を説明しているのかはわからなかったが・・・。

「ひょっとして、ギンガが更生プログラムを担当してるのか?」

「かもしれんね・・・。あ、ルーテシアとアギトもおる」

「は?どこだよ」

「ほら、あの銀色の髪の子の横に・・・」

そう言ってはやてが指さす方を見ると、確かに三角座りをしている
ルーテシアとその肩の上に座るアギトの姿が見えた。

「あの子たちも一緒に更生プログラムを受けるのか?」

「さあ?聞いてへんけど・・・」

しばらくはやてと窓越しに様子を見ていると、ギンガが俺達に気づいたのか
小さく手招きをしていた。

「ん?ギンガが入って来いって言うとるで。入ってみよか」

俺ははやての言葉に頷くと、窓の横にある扉を開けてサンルームの中に入った。
芝を踏みしめながらギンガ達の方に向かって歩いて行くと、モニターの方を
見ていた戦闘機人の一人が足音に気付いたのか俺達の方を振り返った。

「あっ!はやてっス」

俺たちの方を見たピンク色の髪を後ろでまとめた戦闘機人が声を上げる。
すると、他の戦闘機人やルーテシア達も俺たちの方を振り返る。
そしてお互いに近くの者と俺たちの方を見ながら話し始める。

「ほら!まだ終わってないでしょ。きちんと聞いてちょうだい!
 すいません、まだ途中なのでしばらく後の方で待ってて下さい」

前半は戦闘機人たちに、後半ははやてと俺に向かってギンガが言う。
すると、戦闘機人たちは不承不承だったり、黙っておとなしくだったり
それぞれではあるが、モニターの方に向き直り、ギンガの話を聞き始めた。

俺とはやては、少し離れたところで芝生に腰を下ろすと、
ギンガと戦闘機人たちの様子を眺めながら待つことにした。
聞こえてくるギンガの声を聞く限り、善悪の判断についての
話をしているようだった。

「善悪判断・・・か。ちょっと胸に刺さる部分があるわ・・・」

はやては足をだらりと前に投げ出して、手を後ろにつくと天井のガラス越しに
見える空を見上げて言った。

「同感・・・。あ、人を騙すようなことはしてはいけません、だって。
 マジで刺さるわ・・・」
 
俺は芝生の上であぐらをかくとギンガたちの方を見ながらそう答える。

「なあ、ゲオルグくん。私らの義務と責任って何なんやろか・・・」

「そうだな・・・」

俺はそう言って少し考え込む。

「法的に言えば、次元世界の平和と安定を維持すること。なんだよな」

「そらそうや。そのために力を尽くしますって宣誓したもん」

「で、はやてさんはそういう答えを求めてるんではない・・・と」

そう言うと、はやては真剣な顔で頷いた。

「私らは今回の件を調査する過程で何回か法によって許された権限を超えた
 行動をとったわけやんか。公式にはお咎めなしって結果にはなってるんやけど
 どうも、私のなかで消化しきれん部分があるんよね」

「判るよ。でもまあ、結局のところ最後は自分自身の良心が
 拠り所になるんじゃないのか?」

「良心・・・か。そうかもしれんね・・・」

はやてはそう言うと大きくふぅっと息を吐くと、芝生の上に寝転がる。

「私は自分の良心に恥じん生き方ができてるんやろか」

「さあな。そこは人それぞれ自分自身で答えを出さないといけないところだろ」

「そやね。ちなみにゲオルグくんはどうなん?」

「ん?」

「自分の良心に恥じん生き方ができてると思う?」

「俺は・・・どうだろうな。わからん」

「わからへんの?」

はやてが芝生に寝転がったまま体にこちらに向ける。

「ああ。あの戦闘機人を殺したことも、情報部時代にやってきたことも
 まだ答えを出せてない」

「あの戦闘機人、ディレトっていう名前やったらしいわ」

「そうなのか?」

「うん。さっき私を見て最初に声を上げた子がおったやろ。
 ウェンディって言うんやけど、取り調べの時にあの子に聞いたんよ」

「そっか・・・。ディレトね・・・」

俺はそう言うと、目を閉じてあの時のことを思い出す。
姉と同じ容姿ではあるものの、一切の感情を感じさせない冷たい目が
印象に残っていた。

「やっぱ、簡単に答えが出そうにないよ。きっと死ぬまで答えは出せないな」
 
「結局のところ、そういう疑問と戦いながら生きていくしかないんやろね」

「だな。で、それはあいつらも同じだ」

そう言って俺はギンガの話を聞く戦闘機人たちに目を向けた。

「ただ一つ言えるのは、あいつらにも自分なりの幸福を見つけて欲しいと
 思ってるってことだけさ。俺が殺したあの子の分もな」

「そやね・・・」

ちょうどその時、ギンガの話が終わったのか戦闘機人たちが
立ち上がるのが見えた。

「大変やとは思うけど、あの子らには人並みの幸せを手に入れて欲しいわ」

はやてはそう言うと身を起こして制服についた汚れを叩き落としながら
立ち上がる。

「行こ。あの子らに紹介するわ」

俺ははやてに向かって頷くと、芝生から腰を上げた。

 
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