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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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魔法絶唱しないフォギアGX編
  明星颯人の忙しい一日

 
前書き
どうも、黒井です。

今回から数話ほど、閑話的な話を投稿していきます。

まずは颯人をメインとした話からです。 

 
 キャロルが中心となって起こし、東京都庁周辺が瓦礫の山になると言う結果に終わった魔法少女事件から早数日。

 この日、颯人は朝から上機嫌だった。それと言うのも、今日は奏がイギリスから返ってくる日だったのだ。
 事件終息後、奏は翼と共にツヴァイウィングとしての活動を再開し、イギリスで日々多くの人を歌で魅了している。だがそれは、奏から自由な時間が減る事と同義。勿論それは奏自身が望んだ事でもあるので、彼女にとって大変ではあっても決して苦ではない。

 颯人はそんな彼女を想いつつ、自身も手品師として忙しなく活動していた。
 彼もまた自身の手品が人々を魅了する光景に満足感を感じていたが、それはそれとして奏と触れ合えない事に関しては日々不満を感じずにはいられなかった。

 5年と言う月日を経て漸く同じ時間を歩めるようになった最愛の彼女。未来を約束し合った関係ではあるが、それと触れ合えない事は全くの別問題。端的に言って、彼は奏の温もりを欲していた。

 その奏が久々に時間が空くという事で帰ってくる。颯人が上機嫌になるのも至極当然と言えた。

「♪~♪♪~~」

 上機嫌に鼻歌交じりに発令所に入ってきた颯人の姿に、オペレーター席に座っていた朔也が首を傾げた。

「あれ? 颯人お前、今アメリカに居るんじゃなかったか?」
「あっちの仕事ならとっくの昔に終わらせてきたさ。もう向こうでの仕事も無いし、ちゃっちゃと帰って来たって訳よ」

 そう言って颯人は紙袋からドーナツを取り出し一口齧る。その様子にあおいは彼が急いで帰って来た理由を察した。

「今日は奏ちゃんがイギリスから返ってくる日だものね」
「そゆ事!」
「あの、もしかして魔法使って帰って来たんですか?」

 おずおずと言った様子で訊ねるのはエルフナインだ。
 一応緊急時には魔法を使っての長距離の移動も容認されてはいる。だがそうでない場合は、余計な騒ぎや諍いを起こさないようにと普通の移動手段で移動する事が求められていた。本来であれば無許可で国家間を行き来するのは大問題以外の何物でもない。
 特に今回の場合、颯人は完全に私的な理由で魔法を使った。それがウィズなどにバレようものならどうなるか……と、彼女は危惧したのである。

「固い事言いっこ無し。こちとら奏と会えなくて寂しい思いしてるんだから、ちょっとくらいご褒美あっても罰当たらねえだろ」
「会えなくてって、まだ一週間くらいしか経ってないだろうが……」
「知らないわよ~? 罰が当たったりしても」

 何気なく了子が資料を眺めながら呟く。颯人はそれを聞き流しながらドーナツに齧り付き――――

 その時突如、発令所に警報が鳴り響いた。

「あ、緊急事態発生。近海で客船が損傷、多数の乗客が船内に取り残されてるって」
「事態は一刻を争うわ。という事は……」
「迅速に動ける魔法使いの力が必要よね?」

 全員の視線がドーナツを齧った姿勢で固まった颯人に集中した。颯人は一瞬表情が抜けた顔で動きを止めていたが、次の瞬間にはドーナツを一気に口の中に押し込んで飲み込むと手に付いた砂糖を払い落しながら指輪を着けて準備した。

「場所は?」
「東京湾内。消防や海保が動いてるけど、火災も起こってて救助活動が手間取ってるらしい」
「要救助者は船内の一か所に固まってるみたい。場所はここよ」

 朔也が船の場所を表示し、あおいが要救助者が集まっている場所を表示する。それを見た瞬間、颯人はさっさと魔法を使って転移してしまった。

〈テレポート、プリーズ〉

 消えた颯人に、朔也達が溜め息を一つ吐く。万が一にも彼がごねて嫌がるなどと言う事は考えていなかったが、このタイミングはあんまりだ。ちょっと彼には同情してしまう。

「ま、アイツならちゃちゃっと終わらせてくれるだろ。魔法で要救助者を安全な場所に送り届けるだけだし」
「そうね」
「そうでしょうか……」

 既に終わった気分で楽観的になるオペレーターの2人。実際颯人からすればこの程度の仕事大した事は無いだろう。何しろ人を別の場所に移動させるだけなのだから。懸念があるとすれば人数が多くて何度も往復せざるを得ない可能性がある事だが、その程度であれば大きな問題ではない。
 だと言うのにエルフナインは何やら心配そうな声を上げる。それが気になって了子は資料から顔を上げエルフナインの顔を覗き込んだ。

「どしたの? 何か心配事?」
「あ、いえ、その……颯人さんが失敗するとは思ってないんですけど……何て言うか、これだけで終わるのかなって……」

 了子がふと時計を見れば、時刻はまだ朝も早い時間。颯人であれば昼になる前に終わらせて帰ってくるだろう。
 だがしかし、これだけで何事も無く終わってくれるだろうかと考えると…………

「……祈ってあげましょうか」

 せめて彼の今後に幸あれと願う事しか彼女達に出来る事は無かった。




***




 それから数時間後、見事要救助者を全員救出した颯人は発令所に戻ってきた。
 救助の最中、逃げ遅れた人が船内に居ると聞かされ、沈みつつある船内を彼は大急ぎであっちこっち探し回って見つけ出してから船を脱出したり、事故で心に傷を負った子供を癒す為に手品を見せてやったりと救助だけでなくケアまでしっかりやってから戻った頃には時刻は昼近くになっていた。

「ただいま~、もう、チクショー!?」
「おぅ、お帰り。随分と荒れてるな?」

 颯人が発令所に入ると、そこでは弦十郎が席に座っていた。颯人は発令所の椅子に置いて来た紙袋から朝の残りのドーナツを取り出して齧り昼食代わりにしながら話した。

「今日ぐらいは厄介事勘弁だよ。折角久々に奏に会えるってのにさぁ」
「会おうと思えば何時でも会いに行けるだろうが」

 弦十郎の言う通り、颯人であればその気になれば地球の裏側からでも奏に会いに行く事は可能である。魔法を使えば一瞬だ。だが彼は、それだけはしようとしなかった。

「奏には奏の都合があるんだから、俺が勝手に押し掛ける訳にはいかないっしょ?   
 流石にそこまでするほど自分勝手じゃないんでね」

 とは言うが、既に私的な理由でアメリカから勝手にここまで来ておいて何を今更……とは流石に言わないでおいてやった。彼の中にも何らかの線引きがあって、その線引きの範疇での行動なのだろう。そして彼は、他人が何と言おうとその線引きの内側で済む行動なら何を言われても気にしないタイプの人間だ。言っても無駄である。

 弦十郎がやれやれと溜め息を吐いていると、あおいがコーヒーを手にやって来た。

「ともあれ、今回はお疲れさま。多少の怪我人はいたけれど、要救助者は全員救出。流石ね」
「よしてくれよ友里さん。魔法なんてインチキ使っての事なんだから、褒められるほどの事じゃないって。ともあれ、どうも」

 謙遜しつつコーヒーを受け取る颯人に、あおいは苦笑する。素直じゃないと言うか、プライドが高いと言うか。確かに魔法を使えば大抵の事は出来てしまうのかもしれない。だがそれを望んで使っているのは間違いなく彼自身だ。そこは評価されて然るべきだろう。
 尤もそう評価される事自体、彼のプライドが許さないだろうからこれ以上は何も言わないでおいてやるが。

 それから暫くして、ドーナツを食べ終えコーヒーで流し込んだ颯人は近くの椅子に座り背筋を大きく伸ばして背凭れに体重を預けた。

「あ゛ぁ~~……頼むからもう今日は何も起こらないでくれ~」

 颯人にとっては切実な願いである。今日は帰ってくる奏を出迎えると決めているのだ。これ以上問題が起こって奏を出迎える事が出来ないなんて冗談じゃない。

 しかし人生とは儘ならぬもの。悪い時には悪い事が重なるなどと言うのは往々にして起こるのである。
 弦十郎がその事をやんわり颯人に警告してやろうかと考えていた矢先、颯人の目の前にウィズが魔法で姿を現した。

「ここに居たか颯人」
「ッ!?!? ウィ、ウィズ……!?」

 突然姿を現したウィズに、颯人は盛大に嫌な予感を感じた。彼がこんな風に直接出向いてくるなど、ただ事である筈がない。
 その予感は正しかった。ウィズは颯人の姿を見るなり、彼の腕を掴んで引き摺って行った。

「すまんが少し颯人を借りるぞ」
「厄介事か?」
「あぁ。ジェネシスの連中が隠れてサバトをやろうとしていたのでな。急ぎそれを阻止する」
「他の人手は?」
「現場で既にガルドが戦っている。必要ない」
〈テレポート、ナーウ〉

 颯人が何かを言う前にウィズは魔法で転移してしまった。消えていく刹那の瞬間、弦十郎は颯人の顔を見た。見てしまった。
 光に包まれる瞬間、彼の顔からは感情が抜け落ち能面の様な顔になっているのを…………。

「まぁ、何だ……頑張れ、颯人君」
「ドンマイ、颯人君」
「お前なら大丈夫だ」
「あったかいもの、用意しておくから」
「あ、あはは……」

 弦十郎達は気の毒な颯人にエールを送り、そしてこのタイミングで騒ぎを起こしたジェネシスに対し思わず合掌してしまうのだった。









「がぁぁぁぁぁぁぁっ!? ちくしょぉぉぉぉぉぉっ!?」

 弦十郎達が予想した通り、現場に到着するなり颯人は感情を爆発させ大いに暴れていた。
 到着早々オールドラゴンになりメイジ達を蹴散らす颯人。文字通り木端を散らす様に次々と琥珀や白の仮面のメイジが宙を舞う姿に、先行してサバトを起こさせないように戦っていたガルドは勿論颯人をこの場に連れてきたウィズも何が何だか分からないと言った様子で眺めていた。

「何だ? ハヤトの奴今日は随分と荒れてるが……ウィズ、何かしたのか?」
「何故私を疑う? こっちだって訳が分からないんだ」

 ウィズは奏が今日帰ってくることを知らない。だから颯人が荒れる理由が分からず首を傾げるしか出来なかった。
 だがガルドの方は、ある程度予定を把握していた為颯人の様子を見て何となくだが事情を察する事が出来た。

「あ~、もしかすると今日カナデが帰ってくるからかもな。いの一番に出迎えたいのに厄介事が重なって、でも無視する訳にもいかないから苛立ちをぶつけてるんだろ」
「なるほどな……まぁ、あの調子なら直ぐに終わるだろう」

 雑魚メイジは既に蹴散らされ、残るは現場で指揮を執っていたメデューサのみ。ここは颯人に任せて、2人はサバトに掛けられそうになっていた人々を安全な場所に逃がす為行動を開始した。

 怒りに燃える颯人の背後で、ウィズとガルドが囚われた人々を解放していく。本来であればそれを阻止したいメデューサではあったが、颯人はそれを絶対に許さないだろう事が容易に想像できた。

「な、何なの一体? 今日は随分とご機嫌斜めみたいだけれど?」
「誰のせいだ誰のッ!? このくそ忙しい日に騒ぎ起こしやがって、もう許さねぇ!!」
「何の事だか分からないわよッ!?」

 これはマズイと逃げるメデューサを、颯人が追い掛け回す。まともに相手をしては命に関わると、メデューサは全力で逃げ颯人はそれを逃がすまいとしつこく追いかけた。怒りに燃える颯人の目には、最早メデューサしか眼中になくそのまま時間だけが経過していった。

 結局メデューサには一瞬の隙に逃げられ、目標を失ってやっと怒りが収まった颯人が気付いた頃にはとっくの昔に人質の救助が終わっており、彼は自分が無駄な時間を過ごしてしまっていたことに気付いた。

「何で早く教えてくれなかったんだよッ!?」
「言ったに決まってるだろうが」
「お前の頭に血が上り過ぎて、呼ばれたことに気付いてなかっただけだぞ?」

 そう言えば、メデューサを追い掛け回してる最中に名前を呼ばれていたような気がする。メデューサの方も頻りに颯人に呼びかけて後ろを気にするように言ってきていたような気がするが、あの時は本当に頭に血が上っていて何が何だか分かっていなかった。

 己の迂闊さに颯人ががっくりと膝をつくのを、ウィズとガルドは気不味いと言いたげに見ていた。今回ばかりはウィズも颯人に対して何かを言う事は控えるらしい。

「まぁ、あれだ。そろそろ天羽奏も帰ってきてるだろうから、本部に戻ってはどうだ?」
「それがいい。ハヤト、さぁ帰ろう」

 2人に促されて颯人は本部に帰った。するとそこには翼の姿だけが。

「あ、颯人さん?」
「つ、翼ちゃん? あれ? 奏は?」
「奏なら一足先に帰りましたけど?」

 今度こそ颯人はその場に崩れ落ちた。出迎えてやる予定が完全に狂い、何だか色々とやる気が無くなった。

 崩れ落ちた颯人の様子に、翼は目を丸くして口をポカンと開けるしか出来ない。

「えっと、あの……大丈夫ですか?」
「あ、うん、大丈夫…………今日はもう帰るね」
「は、はい……お疲れさまでした」

 トボトボと発令所から出て行く颯人の後ろ姿を、翼は奇異なものを見る目で見送った。颯人が出て行き、発令所の扉が閉まると翼は隣に立つ弦十郎の方に視線を向けた。見ると彼は腕を組み、やれやれと言った様子で溜め息を吐いていた。

「全く……」
「あの、言わなくて良かったんですか?」
「ん?」
「奏の事……」
「あぁ、良いだろう偶には。こういうサプライズも」




 疲れ切った様子で颯人が自宅マンションの鍵を開ける。今日は本当に散々だった。普段は大した事件など起こらないのに、この日に限って大仕事が二つも入った。恐らく今日は人生最悪の日に数えられるかもしれない。

「はぁ~……あれ?」

 溜め息と共に扉を開けた颯人は、室内に光が灯っているのに気付き首を傾げた。家を出る前に電気は消しておいた筈なのに何故?

「おぅ、颯人お帰り!」

 暫し呆然と灯りのついた室内を見ていると、キッチンから奏が顔を出した。その光景に颯人は目を瞬かせる。

「か、奏? お前、帰ったって……」
「あ~、いや、ほら……。旦那から颯人が今日は大変だったって聞いてな? それでまぁ、飯でも作ってやろうかと……」

 見れば奏はエプロンを身に付け、キッチンからは食欲を誘う匂いが漂ってきている。そして奏は、普段颯人に見せた事のない家庭的な姿を見られて少し恥ずかしいのかはにかんだ笑みを浮かべている。

 そんな彼女の姿に、颯人は匂いに釣られたようにフラフラと家の中に上がると、真っ直ぐ奏に近付き彼女を無言で抱きしめた。

「わぷっ! は、颯人?」

 奏が問い掛けるが、颯人は何も言わず奏をギュッと抱きしめた。まるで彼女と触れ合う事に全神経を集中させているかのようだ。

 思いっきり甘えてくる颯人に、奏はしょうがないと言う様に笑みを浮かべると、彼の背中に手を回して優しく抱きしめ返した。

「ふふっ……お帰り、颯人」
「ん……お帰り、奏」

 こうして颯人は、久方ぶりの奏との触れ合いを堪能する事が出来たのだった。 
 

 
後書き
ここまで読んでいただきありがとうございました!

颯人と奏のイチャイチャした話を書きたかったけど、2人がイチャイチャできたのは結局最後の方だけだったと言う。

次回は透にスポットを当てた話になる予定です。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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