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その小さな女の子のことが気になってしまったんだが、どう接していけばいいんだろう

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第1章
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 その女の子に気が付いたのは、大学を出て、勤め始めて1か月ほど経った時。5時過ぎ仕事を終えて、いつものように自転車でその公園の横を通って、坂を下りて行くのだが、独りぼっちで、芝生の小高い丘に座り込んで、眼下に見渡せる街並みを眺めているのだ。

 僕は、隣の県の大学を卒業して、4月からこの町のスポーツセンターに勤めていた。就職活動も真面目にやってなかったので、年が明けてから、適当なところが無いかと探し当てたところだった。大学の時はサッカー部に所属していたので、スポーツインストラクターということでちょうど良かったのだったが、実際の仕事といったら、グラウンドの整備に雑草刈り、そして、借りる人の受付とかをするという具合だった。最初はこんな調子じゃぁ無かったはずと思ったが、今では、まぁ気楽でいいかーという気になっていた。支給された名刺にもスポーツインストラクターと並んでグラウンドキーパーの文字が書かれていた。土日は勤務日になっていたのだが、僕は気ままな独り暮らしだし、やることも無いので、別に良かったのだ。

 それから気に掛けていると、毎日、その子の姿を見るようになっていた。そして、いつも独りっきりだった。その横には、赤いランドセルが友達のように置かれている。その日は、しばらくその様子を見ていたのだが、女の子は下に広がる景色を眺めて、ランドセルを膝に乗せて台にして絵を描いているようだった。鉛筆だけで、眼の先の景色と手元の紙だけを見て描いているようなのだ。小学校からここに来るのには、登坂になっていて、子供の足では30分近くかかるだろう。だから、その子の家はここの近所なのかなって考えながら、帰って行った。僕は、駅の近くのアパートを借りていて、キッチンのエリアと一応別れている部屋がある1DKということだったが、2階なので日当たりも良かったし、ベランダもあって洗濯機もそこに置けるようになっていたので、ここに決めていた。それに、就職前には知らなかったけど、住宅手当という形で家賃の半分近くが補助されていたので助かっていた。

 僕は、雨模様の日は歩いて来るようにしていたけど、その日の帰りは雨が降り出していて、帰る時、その公園のほうを見ると、やっぱり女の子は居た。傘をさして、ランドセルを背負って立ったままで、景色を見ていた。ショートパンツに運動靴なのだが、その足元は濡れてぐずぐずになっているようだった。どうしてなんだと気になったのだが、変に声を掛けたりするのもなぁーと躊躇して、そのまま坂道を降りて帰ることにしたのだが、その女の子のことが気になってしょうがなかったのだ。やっぱり、普通じゃあないな、なんか特別な事情があるんだと思っていた。 
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