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展覧会の絵

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第十六話 最後の審判その八

 そのうえで携帯を取り出してだ。神父に話したのだった。
「一組の愛し合う二人が完全に飛び立ったよ」
「自らですか」
「そうなったよ。素晴しいことにね」
 こう神父に話す。
「そして後は」
「もう一組のですね」
「そう。放課後にそれが行われるよ」
「では枢機卿はその手助けを」
「僕がするまでもないよ」
 そうする必要はないというのだ。全くだ。
「彼等が果たすよ」
「それだけの強さを備えたからですね」
「邪悪の力は本当の力ではないよ」
 こう言ってだ。彼は悪しき力は全否定した。
「本当の力はね」
「正しい力ですね」
「そう、心正しい力がね」
 それこそがだ。本当の力だというのだ。
「今の彼等にはそれがあるから」
「そうですね。では」
「僕は何もする必要がないよ」
「見守られるだけですね」
「そう。愛し合う二人については」
 今はそうするだけだというのだ。こう答えてからだ。
 十字は枢機卿にだ。こんなことも言ったのである。
「ただ。悪人達はね」
「裁きの代行ですね」
「それを果たすことは忘れていないよ」
「今回はじっくりとですね」
「悪人への裁きの代行は徹底的に行う」
 そうするというのだ。
「恐怖と絶望と苦痛を極限にまで刻み込んでね」
「処刑しますね」
「そうするよ。今夜にでもね」
「まずは誰を処刑されますか」
「彼等かな」
 ここではこう言うだけの十字だった。
「あの彼等にしようかな」
「そうですか。では処刑方法は用意していますので」
「有り難う。悪人の死はこのうえない恐怖と絶望、苦痛によって描かれる」
 十字は表情がないが言ったのだった。
「今回も同じくね」
「キャンバスも絵の具も筆も既に」
「いつも済まないね」
「いえ、枢機卿が絵を描かれるなら」
 それならばだとだ。神父も答える。
「私は道具と環境を用意させてもらいます」
「それが君の仕事だね」
「その通りです。ですから」
 気にかける必要はないというのだ。そうしたことは。 
 十字もそのことを聞いてから電話を切った。そのうえで放課後体育館裏に向かったのである。
 その放課後の体育館裏では猛、それに雅が四人と対峙していた。十字はその彼等を物陰から見ていた。草原と木々に囲まれたやや広い土の場所で対峙していた。
 まずは四人から鳩山がだ。下卑た笑みで猛に言った。
「おい、わかってるだろ」
「雅のことだね」
「そうだよ。こいつは俺達の奴隷なんだよ」
 そうだとだ。今度は雅を好色そうな顔で見て言った。
「そんなのと一緒にいるのかよ」
「僕わかったんだ。あることがね」
「あること?何だよ」
「雅は汚されたんじゃない。噛まれただけなんだ」
 それだけだというのだ。
「犬にね。いや、寄生虫にね」
「何っ!?俺達が寄生虫だってのかよ」
「そうだよ。人間は人間の心があるから人間なんだ」
 鳩山だけでなく他の三人も見据えての言葉だった。
「その心がない君達は人間じゃないよ」
「だから寄生虫だってのかよ」
「俺達が」
「そうだよ。君達は虫だよ」
 猛は毅然とした口調と姿勢で四人に言う。 
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