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投げることに熱心で

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第三章

「俺じゃないのかってな」
「そう思ったのか」
「実はな」
「けれどあんた何でも」
 彼のことを知っている記者は言った。
「投げてギャラが得られるならな」
「何処でもいいだな」
「そう言っただろ」
「それは事実だ、だから差別されているとかな」
「思ったことはないか」
「野球が出来て金を貰えていたからな」 
 それでというのだ。
「思ったことはない、しかしな」
「それでもか」
「やっぱり嬉しい」
 大リーグで投げられてというのだ。
「本当にな」
「そうか、それは何よりだな」
「もう黒人リーグで投げることはない」
 これからはというのだ。
「俺はな、そしてこれからは他の選手もか」
「ああ、黒人リーグの選手はどんどん大リーグに移ってるな」
 記者もそれはと答えた。
「そうして最初から大リーグにな」
「黒人の選手も入ってるな」
「そうなってるな」
「だからもう俺もだ」
「黒人リーグで投げないか」
「大リーグで投げる、投げることは」
 これはというと。
「ない、最後まで大リーグで投げる」
「そうするんだな」
「これからはな」
 こう言ってだった。
 ペイジは大リーグのマウンドに立ち続けた、そして五十九歳まで投げたという。
 ペイジが大リーグで投げたいと思いそれが適ったことは事実だ、だが彼はそうでありながら差別を感じたことはなかったと言っていた、このことも事実だ。
 どちらが彼の本音かわからない、だが彼がどちらも言ったことは事実だ。そして。
「本当か?この成績」
「二千五百試合に登板?」
「それで二千勝?」
「五十九歳まで投げた?」
「振り逃げ含めて一試合二十八奪三振だって?」
 彼の話に誰もが驚いた。
「ナインを全員ベンチに戻らせて相手のバッターを全員三振に打ち取った?」
「ノーヒットノーラン五十五回だと?」
「球速は一七九キロ?」
「煙草の箱をホームベースにしても全部ストライクにした?」
「五十九歳で投げたことといい」
「これ嘘じゃないのか」
「一シーズン百四試合に投げたとかな」
「本当なのか」 
 彼の伝説は残った、一体何処まで真実かはわからない。だが一人の偉大なピッチャーがかつていたことは事実である。このことは最も事実と言っていいものであろうか。


投げることに熱心で   完


                     2022・9・12 
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