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投げることに熱心で

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第一章

               投げることに熱心で
 観客達はマウンドにいる右ピッチャーを観て話していた。
「あれっ、今日もサチェル=ペイジか?」
「あいつ昨日も投げただろ」
「いや、今日ダブルヘッダーで最初の試合も投げてたぞ」
「今日二試合目だぞ」
「今シーズンも凄い投げているな」
「もうずっと投げてるな」
「それで稼いでるんだな」
 ここで金の話が出た。
「プロだからな」
「プロは結果出してどうかだ」
「バッターだったら打ってだ」
「守って走ってな」
「それでピッチャーは勝ってだ」
「勝ってどれだけだ」
「それであいつも投げてるんだな」
「昨日も今日も」 
 それこそというのだ。
「ダブルヘッダー連投でもか」
「投げて投げて投げまくって」
「それで勝ってか」
「金稼いでるんだな」
「そうしてるんだな」
 そのピッチャー、サチェル=ペイジを観て話していた。観れば選手は皆黒人で観客達も殆どそうだった。
 それで試合が終わってからだ。
 観客の中には球場の近くのパブで飲みつつだ、こう話していた。
「俺達黒人は黒人でやれってか」
「何処でもな」
「学校もトイレもな」
「挙句は野球もだ」
「他のスポーツもそうだな」
「白人のところには来るな」
 この言葉がバーボンの匂いがする息と共に出た。
「俺達は俺達でやってろ」
「ったく、俺達はいつもこうだな」
「白人のバスに間違って乗ったら降りろだ」
「白人は寄り付かないしな」
「本当に嫌なものだな」
「野球を楽しむのもそうだ」
「白人は白人だ」
「そして俺達黒人は黒人だ」
 完全に分けられていることを愚痴っていた、そのうえで黒人の野球を観ていた。そしてその中でだ。
 ペイジはひたすら投げた、来る日も来る日も投げてだ。
 金を多く出すチームがあればそこに移ってまた投げた、痩せた顔で淡々と全身のバネを遺憾なく使ってだった。
 投げ続けた、そうしている間にだった。
 彼のところにだ、こんな話が来た。
「俺達黒人もか」
「ああ、これからはな」
 チームメイトの一人が試合後のロッカールームでペイジに話した。
「大リーグで野球が出来るらしいぞ」
「そうか」
 ペイジは素っ気ない声で応えた。
「わかった」
「おい、それだけか?」
 ペイジのその素っ気ない返事にだった。
 チームメイトは驚いてだ、彼に言った。
「俺達黒人がだぞ」
「聞いたよ、大リーグで野球が出来るんだな」
「野球はやっぱり大リーグだろ」 
 チームメイトはさらに言った。
「そこでプレイ出来るんだぞ、俺達黒人がな」
「だからそれがどうしたんだって言ってるんだ」
 ペイジの返事の調子は変わらなかった。
「そうな」
「つれないな」
「投げてな」
 ペイジは素っ気ない顔でさらに言った、声だけでなく表情もそうなっている。 
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