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Fate/WizarDragonknight

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芸術鑑賞はお静かに

「!」

 ドカン、と爆発が空気を揺らす。
 回避したウィザードと可奈美。それぞれ、自らの体の感覚を確かめた。

「体が戻ってる……!」
「アイツがファントムを倒したからか……?」

 ウィザードはそれを確かめ、さらに金髪の男が続ける攻撃に備える。
 白い鳥が、何度もウィザードたちへ襲い来る。

「可奈美ちゃん! 俺の後ろに!」
『ディフェンド プリーズ』
「う、うん!」

 これがウィザードの本来の魔法の出の速さ。
 可奈美がウィザードの後ろに移動するや否や、発動した炎の防壁が、鳥の爆発を防いだ。

「ほう……見たところ、お前たちも摩訶不思議な力を使うようだな……うん」

 金髪の男は、粘土の鳥から決して降りることはなく、ウィザードたちを見下ろしている。

「この街には、さっきの化け物といい、お前たちのような力を持つ者といい、平和ボケしている世界には不釣り合いな能力者がいる。どうやら、聖杯戦争って奴の力は、どこまでも大きいらしいねえ……うん」
「聖杯戦争のことを知っているということは……お前も参加者……!」

 ウィザードは警戒を露わにする。
 金髪の男は口を吊り上げながら、笑みを続ける。

「芸術家として、ちゃんとこの世には名前を覚えてもらいたいもんだ。デイダラだ。うん」

 デイダラ。
 彼はそう名乗ると、またポーチに手を入れる。

「小手調べだ。そろそろ歯応えがある参加者に会わねえと、このままオイラが勝ち残っちまうぞ! うん!」
「何だ……!? あの手……!?」

 彼が粘土を放つ手。その中に、ウィザードは確かに口のようなものを見た。

「そらそらァ!」

 デイダラが放った粘土は、鳥。
 だが、先ほどまで武器として使われたものよりは大きく、彼が乗るものよりは小さい。
 次は本気の攻撃ということだろうか。

「行くよ! 千鳥!」

 可奈美は愛刀、千鳥の名を叫ぶ。
 彼女の異能である写シの能力が、本来の持ち主に発動された。
 白いオーラが可奈美の体を包み、そのまま上昇。迫ってくる鳥を両断し、爆発させた。
 だが、可奈美の速度は爆発のタイムラグを超えている。粘土から爆炎が上がるころには、すでに可奈美はデイダラの目の前、鳥の上に降り立っていた。

「千鳥だと……?」

 デイダラは耳を疑う様子を見せる。

「可奈美ちゃん!」
「分かってる! あの爆発を引き起こしているのは、あの腰の奴でしょ!」
「チィ!」

 可奈美の手が伸びる。
 抜群の反射神経を持つ彼女に、デイダラは敵わないようだった。
 可奈美がポーチを掴むところを、デイダラはむざむざ見過ごすことしかできなかった。

「取れない……?」
「勝手に触るんじゃねえこのガキ!」

 デイダラは肘打ちで、可奈美の首筋を叩く。
 だが、痛みに堪えながらも、可奈美はその手を放さない。
 だが。

「これは……」
「また粘土……!」

 さっきまで生きて動いていたように見えたデイダラは、全てが真っ白に変わっていた。
 それどころか、デイダラが掴んでいた腕もまた粘土と化しており、完全に可奈美は動けなくなっている。

「そんな見え透いた弱点、対策しないわけねえだろ! バアアアカ!」

 その声は、可奈美の足元から聞こえてきた。
 見れば、彼女の足元___鳥の内部から、デイダラがその体を抜き出していた。
 デイダラはそのまま、可奈美の足を掴む。

「ぐっ……!」
「このままオイラの芸術を味わいな! うん!」

 デイダラはそう言って、その口から白い粘土を吐き出した。
 可奈美の体を埋め尽くしていく白い粘土。あれが爆発すればという想像に、ウィザードは行動を急いだ。

「可奈美ちゃん!」
『ウォーター プリーズ』

 すぐさま水のウィザードとなり、ウィザーソードガンの手の部分を開く。

「爆発物だったら……」
『ウォーター シューティングストライク』
「コイツで消火だ!」

 ウィザードの銃口より、水の魔力を凝縮した弾丸が放たれる。
 可奈美ごと、それは粘土に命中。大きく湿らせていく。
 粘土は水による凝固で、その拡大が止まる。その隙に、ウィザードはさらに指輪を入れかえる。

『エクステンド プリーズ』
「掴まって!」

 さらに発動する伸縮の魔法。
 それは、粘土の中から可奈美を掴まえ、粘土の中から抜き出していく。

「いい手だ、だが……」

 粘土を噛み切ったデイダラは、そのまま上空へジャンプ。即、手で印を結んだ。
 すると、空中の粘土の塊は、煙とともにその形状を変化。
 より大型の鳥となり、空中の可奈美へ向かっていく。

「なっ!?」
「オイラの爆発は、水遁なんかじゃ消せねえぜ! うん!」

 鳥の人形に、見てはっきりとわかるほどのエネルギーが溜まっていく。
 さきほどまでの爆発の規模。小型であれだけの破壊力を発揮したそれが、あの大きさになったことを考慮するだけでぞっとする。

「だったら……!」
『チョーイイネ ブリザード サイコー』

 反射的に、ウィザードは氷の魔法を発動させた。
 水のウィザード最強の魔法は、発生した魔法陣より強烈な冷気を発生させ、そのまま鳥の人形を凍結させていく。

「喝っ!」

 デイダラが唱えると、氷に閉ざされた粘土が爆発。
 氷が内側からの圧力に耐え切れずに粉々に砕け、日光に反射されて虹色に煌めく。

「いいねえ! 即興にしてはなかなかのアートじゃねえか! うん」
「次だ!」

 ウィザードは即座に指輪を入れ替える。

『ハリケーン プリーズ』

 爆煙を吹き飛ばす、緑の風。
 エメラルドのウィザードは、氷と粘土片を吹き飛ばしながら、残った爆煙を晴らしていく。

「チャクラの感じが変わった……どうやら奴は、任意の性質変化になれるようみたいだな……うん」

 そんなウィザードを見下ろすデイダラは、表情をピクリとも動かすことがなかった。
 その前髪が風により靡き、小さなカメラのようなものが右目に装着されているのが分かる。

『コピー プリーズ』
「なるほどな……奴がさっきから使っている術のカラクリは、あの指輪にあるのか……」

 ウィザードが発動した複製の魔法。
 風のウィザードの姿が二人、四人と倍になり、四つの銃口から銀の銃弾が放たれていく。
 デイダラが放った粘土の鳥たちは、次々に銀の銃弾により爆発していくが、デイダラはそれに表情を歪めることはない。
 ウィザードの分身たちが消えたところで、デイダラはまたポーチに手を入れる。

「分身……いや、影分身か……千鳥といい、色々とムカつく記憶を思い出させてくれるぜ、うん」
「このままだとこっちもジリ貧だな……戦闘不能にとどめるだけとはいえ、あんなに爆発物をばらまく相手にどうすればいいものかな……」
「要は、あのポーチの粘土を使えなくすればいいんだよ。今度は、取り上げるんじゃなくて、千鳥で切り取る方向で!」
「またアイツの本体が粘土と入れ替わっていなければいいけどね……」
「……あっ! そうだ!」

 可奈美は、思い出したように千鳥の底を叩く。

「ハルトさん! あの魔法、使ってみてよ!」
「あの魔法?」
「私が作った指輪! ホルスターに付いてるよ!」
「え? 結局指輪作っちゃったの!?」

 ウィザードは驚愕しながら、ホルスターに付いている指輪を一つ一つ確認していく。
 そして。

「これか!」

 見つけた。
 この中で唯一、ウィザードが作った記憶がない指輪。右手に嵌めたそれを、即座に起動させた。
 だが。

『エラー』
「へ?」

 だが、ウィザードライバーから返ってくるのは、エラー音。
 魔力切れにでもならない限り、聞いたことのない音声に、ウィザードは言葉を失う。

『エラー』
「嘘!? ちゃんとゴーレムちゃんの指示通りに作ったよ!」
「よそ見とは、余裕だなあ! うん!」

 そして、当然その隙をデイダラが逃すはずもない。
 無数の小さな鳥たちが、ウィザードたちを爆撃していく。

「ぐっ……」

 爆炎に傷つきながらも、ウィザードは可奈美がくれた指輪を、別のものと入れ替えた。
 これは、確実に発動できる。そう確信しながら、ウィザードはハンドオーサーを操作した。

『ルパッチマジックタッチ ゴー チョーイイネ キックストライク サイコー』
「さあ、オイラの芸術をもっと味わうがいい! 芸術は爆発だ!」
「芸術鑑賞は静かにってのがマナーなんだけど!」

 吹き荒れる突風。
 デイダラの爆発を吹き飛ばす風が、ウィザードの右足に集っていく。
 それを見たデイダラの表情に、ようやく変化が見れた。

「何だ……!? チャクラ(・・・・)が右足に集まって……」

 デイダラが唇を噛むのと同時に、ウィザードは天高く駆け上がる。
 緑の風は、そのままデイダラを捕縛し、竜巻の中に閉じ込める。
 緑のストライクウィザードが、そのままデイダラへ向かっていく。殺しはしないよう、少しだけ急所を外すようにするが。

「舐めるな!」

 デイダラはジャンプ。乗っていた鳥、そして数体の新たに生成した大型の鳥をウィザードへ差し向けた。

「だあああああああああああああっ!」

 そのまま、ストライクウィザードは通過。
 一瞬の沈黙の末、鳥たちは次々と風に切り裂かれ、爆発していった。

「なっ……!」
「はあっ!」

 粘土たちへ使ったことで、想定以上に十分威力は軽減された。
 ただのキックとなった風のストライクウィザードは、そのままデイダラの胸に命中。

「がはっ!」

 吐血したデイダラは、そのまま地面に追突した。
 着地したウィザードは、その勢いのまま、体を一度回転させ、その姿を見つめる。

「やった……!」
「ハルトさん!」

 可奈美はウィザードに駆け寄った後、デイダラへ接近する。

「これ、預からせてもらうね!」

 倒れたデイダラのポーチを取り上げ、抵抗しようとする彼へ千鳥を向ける。

「ぐっ……!」
「私達は、あなたと戦いたいんじゃないよ。ただ、話がしたいだけ」

 千鳥をデイダラの首元に付きつけながら、可奈美は続けた。

「私は、衛藤可奈美。あなたと同じ、聖杯戦争の参加者だよ」
「ケッ……! 倒した相手に自己紹介か? 願いが叶うんだ。とっとと殺せばいいだろ」
「そんなつもりはないよ。私達は、聖杯戦争を止めるために戦うんだから」
「……甘ちゃんじゃねえか。うん」
「そういうアンタは、何のために戦っているんだ?」

 ウィザードは変身を解除しながら、デイダラに歩み寄った。
 丸一日ぶりの松菜ハルトの体に安堵を覚えながらも、ハルトはデイダラへ手を差し伸べる。

「聖杯なんかに頼らなくても、俺たちは力になれる。これ以上の戦いはもう、無意味だよ」
「……下らねえ」

 デイダラはそう呟いて。顔を上げる。
 彼はそのまま、一気にハルトへ接近。

「ぐっ!」

 彼の蹴りを腹に受け、ハルトはそのまま地面を転がる。

「デイダラさん!?」
「オイラの願いを聞きてえんだって!?」

 さらに、デイダラはノータイムで粘土を放り投げる。
 可奈美はギリギリのところで写しを張り直したことで、致命傷を避けた。だが、防御で差し出した両腕が爆発で傷つき、そのまま地面を転がった。
 デイダラはその隙に、可奈美から離れる。
 ポーチから粘土を取り出したデイダラは、それを直接口に運び、食らう。

「な、何をして……」
「可奈美ちゃん! 離れて!」

 ハルトの叫び声に、可奈美は反射的に離れる。
 手にした粘土を喰い終えたデイダラの肉体は、だんだんと肥大化していく。ゴキッゴキッと、肉体の組織が破壊されるような音も聞こえてくる。

「オイラの究極芸術だ……味わえ!」
「まさか……自爆するつもりか!?」

 さっきまでの彼の爆発に対する思い入れから、それは容易に想像付く。
 粘土ではなく、彼自身の自爆。
 果たして、この公園から、人がいる範囲まで届く可能性があるのかどうか。
 ハルトは変身する時間さえも惜しく、手に付いたままの指輪をそのままベルトにかざした。

「間に合ってくれ……!」
『キックストライク プリーズ』

 赤い魔法陣から力を供給されながら、ハルトは走る。
 デイダラの懐に潜り込み、その顎を蹴り上げる。
 魔力によって底上げされた能力により、デイダラの体は宙へ浮く。

「悪いけど、自爆するなら一人でやってくれ!」

 地面の魔法陣の助力をバネに、ハルトは大きくジャンプ。デイダラの体を何度も蹴り上げ、被害の少ない上空へ持ち上げていく。

「だったら……お前だけでも道連れだ! うん!」
「しまっ……!」

 デイダラは、ハルトの右足を掴まえながら叫ぶ。
 そして。

「オイラの芸術は……!」
「……!」

 一瞬。
 ハルトの眼が赤くなり。

「ハルトさん!」
「爆発だ!」

 デイダラは、逃げ場のない空中で大きな体で、ハルトに覆いかぶさり。
 爆発した。



 爆発の影響は大きく、地上の可奈美は爆風に顔を覆った。

「ハルトさん!」

 悲鳴を上げながら、可奈美は焼け焦げた粘土片を拾い上げる。
 触るだけで熱さが残る粘土片に、可奈美はイヤな想像が過ぎる。
 だが。

「ぐはっ!」

 聞こえてくる、肉体が落ちてくる音。
 見れば、全身を火傷したハルトの姿があった。

「ハルトさん!?」

 彼が普段から使っていた革ジャンは、原型が残らないほどになっており、あちらこちらの皮がむけている。

「大丈夫!?」
「可奈美ちゃん……うん、平気……デイダラは……?」
「……」

 可奈美は顔を反らす。
 ハルトは頭上を見上げる。
 爆炎の残滓が残る上空。それを見ながら、ハルトは静かに唇を噛んだ。

「結局……こうなるのか……」

 爆煙が晴れ。
 もう、自爆したデイダラは、姿どころか肉片一つ残っていなかった。 
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