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Fate/WizarDragonknight

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爆発の美学

 ウィザードが動いているのを見るのは、こんな感じなのか。
 可奈美(ハルト)はそう思いながら、腰に付けられた千鳥を下ろす。鞘から抜き取っても、それはあくまでただの日本刀。

「……俺写シのやり方分からないから戦えないじゃん」
「大丈夫だよ!」

 口を尖らせるハルト(可奈美)へ、ウィザードは頷いた。

「私だって戦える! ……ウィザーソードガンってどうやってだしてたっけ?」
「コネクトオオオオオ!」

 ハルト(可奈美)は叫びながら、ウィザードのホルスターからコネクトの指輪を取り出す。

「大丈夫? 俺の指輪、どれがどれだか分かる?」

 ハルト(可奈美)はそう言いながら、コネクトの指輪をウィザードへ手渡した。

「これ俺が一番よく使ってる指輪だとおもうんだけどなあ」
「ぎゃははは! なんて無様でありんす!」

 そんなハルト(可奈美)とウィザードのやりとりを見ながら、腹を抱えて爆笑していた。
 ウィザードはぎこちない動きで、ハンドオーサーを操作する。

『ルパッチマジックタッチ ゴー ルパッチマジックタッチ ゴー』
「えっと、これで……」
『コネクト プリーズ』
「この際だから教えておくけど、実は指輪に付けなくても魔法は使えるからね。参考までに」
「え? それじゃ、指輪の魔法使いって通り名……」
「ファントムが勝手に言い広めただけだからね」
「そうだったんだ……」

 ウィザードはコネクトで発生した魔法陣に手を突っ込む。あの魔法陣は今、無意識であれば自室のウィザーソードガンに合わせてある。
 そのままウィザーソードガンを取り出したウィザードは、即座にソードモードに変更させた。
 周りにどんどん湧いてくるグールたちへ、ウィザードは両手でウィザーソードガンを構える。

「さてと。折角ウィザードになったけど、魔法はあまり使え無さそうだね。私は私らしく、剣術で勝負だよ!」

 ウィザードはそう言って、まさに型にはまった動きでグールたちを斬り捌いていく。

「おお……ウィザードがあんな堅実な動きをしていくのって、新鮮」

 剣道のような構えをしたまま、ウィザードは襲ってくるグールたち一体一体を的確な動きで斬り倒していく。
 だが、グールたちが近くで見ているだけの可奈美(ハルト)を放っておくはずがない。


「能力が使えない刀使って、ただの可愛い女の子じゃないか!」
「ハルトさん! それ、どういう意味!?」

 ウィザードのツッコミを無視しながら、可奈美(ハルト)は千鳥でグールたちに応戦する。
 だが、写シを使わない状態の御刀は、ただの特別な素材で出来た刃こぼれしない日本刀でしかない。
 スカートに構わず、足技を豊富に交わらせながら、可奈美(ハルト)は次々にグールを薙ぎ倒していく。
 手首で千鳥を回転させながら、グールたちを切り裂いていく。
 だが。

「先に、お前を絶望させてやるでありんす!」

 ブラウニーは、槍で可奈美(ハルト)を先に狙うことにしたようだ。
 可奈美(ハルト)は千鳥で槍を弾き、距離を置く。

「可奈美ちゃん! こっちに!」
「うん!」

 ウィザードは剣術で複数のグールたちを斬り倒しながら、可奈美(ハルト)の援護に入る。

「ハルトさん!」

 ウィザードはソードガンでブラウニーの槍を弾く。そのまま、剣道のような姿勢をしながら、ブラウニーとの距離を保つ。

「えっと、たしかこうやるんだよね?」

 ウィザードは恐る恐るウィザーソードガンの手のオブジェを開く。

『キャモナスラッシュシェイクハンド キャモナスラッシュシェイクハンド』
「これは変身に使うやつそのまま使えるから便利だよね」

 ウィザードは、そのままルビーの指輪をソードガンに読み込ませる。

『フレイム シューティングストライク』

 並みのファントムであればあっさりと倒せる威力のスラッシュストライク。
 だが、危機回避を選んだブラウニーは、その場を飛び退く。
 そのまま空間を切り裂いた赤い斬撃は、奥で固まっていたグールたちを爆発させた。

「避けられた……!」
「いい爆発でありんす! でも、そんな破壊ぐらい、こっちだって出来るでありんすよ!」
「爆発だと……?」

 その時。
 木陰より、金髪の男が顔を覗かせる。

「あの人……!」
「逃げてなかったの……!?」

 可奈美(ハルト)とウィザードは、ともに驚愕する。
 金髪の男は、長い前髪を抑えながら、笑みを浮かべる。

「だせえなあ。それ程度の爆発」
「危ないですよ! 逃げてください!」

 ウィザードが叫ぶ。
 金髪の男はウィザードの言葉を無視しながら、その左目で強くブラウニーを睨む。

「化け物。お前、面白いことを言ったな? 爆発だぁ?」
「何でありんすか? お前は。絶望したいなら、順番待ちでありんすよ?」
「本物の爆発ってものを教えてやるよ」

 金髪の男は腰のポーチから何かを取り出し、地面に投げつける。
 すると、その地点から白い煙が立ち込めていく。
 煙から現れたのは、白い鳥。
 金髪の男は、その背中に飛び乗り、同時に鳥は羽ばたきだす。

「どうだい? この芸術的造形は?」

 彼を乗せた鳥は、そのままブラウニーの頭上へ飛翔。

「まずは小手調べだ。うん!」

 鳥が通過した上空。そこには、白い点が三つ残されていた。
 自由落下により、徐々にブラウニーのもとへ落ちていくそれ。一度、白い煙に包まれ、それは、三匹の蜘蛛の粘土細工となった。

「な、何でありんす!? この変なのは!?」
「変なのはねえだろ……やっぱりバカは芸術ってものを分かってねえなあ……」

 金髪の男は、両手を組んだ。
 人差し指だけを立てた、真っ先に忍者の印が連想されるそれ。
 そして。

「芸術は……爆発だ!」

 上空の金髪の男が叫ぶ。
 すると、ブラウニーの体に張り付いた蜘蛛の粘土たちは爆発。

「ぎゃああああああああああああ!」

 ブラウニーが悲鳴を上げながら、地面を転がる。

「な、何!?」
「何が起こったんだ!?」

 可奈美(ハルト)とウィザードは、ともに戸惑いを浮かべた。
 だが、起き上がったブラウニーは、その敵意を金髪の男へ向ける。

「いきなり何をするでありんす! もう謝ったって許さないでありんす!」
「へえ、化け物は良く吠えるねえ……だが、アレ程度での爆発なんて、オイラは認められない。うん!」
「どこにキレているんだアイツ……」

 可奈美(ハルト)はそう呆れるが、更に金髪の男の攻撃は続く。
 続いて彼が投げた粘土。それは、小型の鳥となり、素早くブラウニーに被弾していく。

「ぐっ……でも……!」

 だが、ブラウニーがただやられているだけのはずがない。
 槍で突き返し、それは見事に金髪の男が乗り物としている鳥の右翼に命中。貫通させた、
 落下し、爆発する鳥。
 だが、すでに乗っていた鳥を乗り捨てていた。
 上空で体を回転させながら、彼は腕を組んだ。
 すると、予め投げられていた、中型の鳥が命を吹き込まれる。
 さらに、複数の粘土細工が鳥へその姿を変え、弾道ミサイルのようにブラウニーに炸裂。

「これ以上は……許さないでありんす!」

 怒りに顔を赤くしたブラウニーの槍から、白い雷光が放たれる。
 それは、金髪の男の胸を的確に貫く。間違いなく、急所を貫かれている。

「あっ!」

 ウィザードが声を上げる。
 ブラウニーは、すぐ槍を抜き。

「全く。ムカつくもんだから、絶望どころか、つい殺してしまったでありんす」

 鳥から落下し、音を立てた金髪の男。
 駆け寄った可奈美(ハルト)が、金髪の男の肩を掴む。

「これは……粘土……?」
「何!?」

 可奈美(ハルト)の言葉に、ブラウニーは驚愕を露わにする。

「変わり身は、忍者の基本ってな。うん」

 それは、頭上から。
 また別の巨大な鳥の背に乗る、金髪の男。彼は、今度は大量の粘土を投げつけてきた。

「ひ、ひいいいいっ!」
「オイラの芸術から、逃げられると思っているのか? うん」

 逃げ出そうとするブラウニーへ、金髪の男は追撃を仕掛けてくる。
 逃げるファントム、その背中へ容赦なく突き刺さっていく爆撃。地面に投げ出されたブラウニーを見下ろしながら、彼はさらに粘土を練り出した。

「っ!」
「体に教えてやるよ……」

 彼はそう言うと、両手に生成した白い粘土を放る。
 軽いパス程度に投げられた、ただの粘土の塊。それは、瞬時に煙を放ち、同時に蜘蛛となってブラウニーの頭部に張り付く。

「離すでありんす!」

 彼が手のひらから出したのは、またしても蜘蛛。
 だが、蜘蛛は彼の手にあるものだけではない。夥しい数の白い粘土製の蜘蛛が、ブラウニーの周囲に配置されていた。

「本当の芸術ってのをよ……!」

 にやり、と笑む金髪の男。
 無数の蜘蛛たちは、そのままブラウニーに張り付いていく。

「ひ、ひいいいっ! 離れるでありんす!」
「蟲爆喝砕っ!」

 金髪の男が唱える。
 すると、ブラウニーに張り付いた蜘蛛たちが次々に爆発。
 果たして、どの段階でブラウニーの命が断たれたのかは分からない。
 人形のように踊りながら、宙へ飛んで行くブラウニーの体は、みるみるうちに破壊されていく。やがて最後には、木端微塵。蜘蛛の爆発とともに、消滅した。

「まさに……儚く散りゆく一瞬の美。……うん」

 金髪の男が満足そうに頷き、ウィザードと可奈美(・・・)を見下ろす。
 あまりにも一方的な破壊。

「ハルトさん……」

 それは、可奈美(・・・)の声。
 姿が戻っている。元のウィザードになっている。
 ウィザードも可奈美も、本来の戦闘態勢に戻ることができたのは。

「お前たちにも、芸術を教えてやる! うん!」

 金髪の男が、こちらにも鳥の粘土を投げてきてからだった。 
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