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魔王の友を持つ魔王

作者:千夜
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§11 ヴォバン戦、あとしまつ

 
前書き
復旧したようなので、と
管理人様ホントお疲れ様です

サイト攻撃ぇ…… 

 
「あ、れーとさん……迷惑かけてごめんなさい……」

 帰宅するなり恵那が頭を下げてきた。顔色良好、目立つ外傷もなさそうだ。エルにこってり絞られたらしい。

「んー、今度から気をつけて。あ、傘ちょっとほつれた。まぁ良しとするかなぁ」

 傘を玄関にかけながら口裏合わせに出る。

「それと今日のこと、秘密だよ。僕は今日ずっと家に居た、ってコトで口裏あわせよろしく」

「うん……おじいちゃまかられーとさんを戦わせたこと怒られちゃったよ。れーとさんもおじいちゃま達から力を借りてるんだね。恵那よりも格段に親和性が高いから戦うたびに取り込まれやすくなって危険なんだってね。本当にごめんなさい」

 どうやって誤魔化そうかと悩んでいた矢先、須佐之男命が上手く誤魔化してくれたことを知りそっと心の中で感謝する。こんなに上手な言い訳は黎斗では出てこなかっただろう。

「いいっていいって、こっちも毎日迷惑かけてるからあいこってコトで」

 笑いながら手を少し振る。治癒した、といってもそれは肉体的な話。疲労まではおそらくとれていないだろう。はやく寝かせたほうがよい。反省してくれたなら特にそれ以上咎めるつもりはないし。

「今日は早く寝なさいな。明日からまた忙しい毎日が始まるんだし」

 睡眠を促すと、しばし逡巡した後おずおずと尋ねてきた。

「あ、あのさ。今度、恵那に武術教えてくれないかな? 恵那ちょっと強くなきゃいけない用事があって」

「えっ。……強くなきゃいけない用事? 恵那くらい強ければ十分な気もするけれど」

 普通の女子高生に強さなんて必要ないだろうに。帯刀している上に強さも必要、巫女というのはいつの間に物騒な職になったのか?

「まだ、今の恵那じゃ敵わない気がするんだ。おじいちゃまがれーとさんにはまだ言うなって言うから詳細は教えてあげられないの。ごめんね」

 須佐之男命が一枚噛んでいる、という時点で何か怪しいものを感じる。あいつは恵那を強くしてどうするつもりなのだろう?

「危険なニオイが漂ってるんですが……」

「だいじょうぶ! みんなの迷惑になるようなことはしないから、きっと」

「きっとって恵那さん……」

 エルが呆れたように口を挟む。自信満々で大丈夫と言い切るところが逆にすごく不安を感じる。きっととか付け加えてるし。

「まぁ……恵那が元気になったらね」

 恵那はまだ数日は体調の様子見が必要だ。その間に直接、須佐之男命に問いただそう。現代日本で今の恵那以上の武術が必要というのはどんな事態なのか。






 恵那を先に寝かせた後、ベランダに出て麦茶を飲む。三日月を見ながらのお茶も、乙なものだ。馬鹿正直に一人働いた今日はなんか飲まないとやってられない。

「まさか護堂がこの件に関係してるんじゃなかろうな……」

「何を馬鹿なこと言ってるんですか、と言い切れないのがまた……」

 普段なら一笑に付す発言だ。だが巫女という立場にいながら力を必要とするのだ。まず無いであろうそんな事態(黎斗にとっての巫女は神社で箒を掃いているイメージしかない)ならば神殺しが関連している可能性が非常に高い、というかそれ以外に彼の貧困な脳では考えられない。祐理も確か巫女だったはず。彼女に聞いてみるか。

「でもリスク高いよなぁ……」

 ヤダヤダ、と愚痴りながら煎餅をもしゃもしゃ食べる。

「恵那さんと一緒なのがバレたら絶対面倒なことになりますよ。ただでさえエリカさん達に目をつけられているのに」

「ですよねー」

 祐理に話せばおそらくエリカにも伝わる。そうしたらバレるのは時間の問題だ。巫女&妖狐を連れている一般人で通すにはエリカという相手は強すぎる。

「ホントどうしたもんかねぇ……」

「いっそほったらかしては? 過保護になりすぎると愛娘から嫌われますよ?」

「結婚もしてないのに娘がいるか!」

 反論しつつエルの言葉に頭を冷やし考え直す。ここは恵那の好きに任せるべきか。いくら狡猾な須佐之男命でも自らの身内(しかもすごく自分に懐いている相手)を使って権謀術数の類をする程ひどくはないはずだ、きっと。今回の敗北を須佐之男命に知られ笑われたので修行に目覚めたとかそんなオチなのだろう。疑ってしまったことに若干の後ろめたさを感じつつ黎斗はベランダより部屋に戻り茶碗を洗う。静かな台所に水の流れる音が響き、エルが欠伸をひとつした。






「……ねぇ、帰っていい? どう考えても僕場違いだよね? もしかして僕も護堂の攻略対象なの? ねぇ? 僕ソッチの趣味はないんだけど」

 よく日の学園で溜息とともに護堂に尋ねる。半分は冗談だ。

「お兄ちゃんソレ本当!? だらしないにも程があるんじゃない!?」

 真に受けた静花が取り乱す。

「あら、護堂、今まで私達に素直になってくれなかったのは男色の気もあることを言い出せなかったからなのね。そういうのでも理解あるから心配いらないわよ?」

 これはおもしろそうだと、エリカが悪魔の笑みを浮かべて参戦する。

「草薙さん!? ふ……不潔ですっ!!」 

 顔を真っ赤にしながら叫ぶ祐理。

「俺だってねぇよ!! なんでそんな話になるんだよ!! エリカも煽らないでくれ!!」

 屋上での昼食は護堂の絶叫で始まった。護堂にとって既に黎斗も一緒に昼食をとる相手の一人になっているのだが、黎斗からすれば護堂を中心としたハーレムの中に迷い込んだようで居心地が悪い。
 草薙静花はブラコンである。今クラスの男子の間で囁かれる噂だ。護堂(及び周囲の女性陣)と親しい(と思われている)黎斗に噂の真偽を確かめる役だ回ってくるのは、ある種当然といえよう。もっともクラス男子の八割はこの噂は真実だと認識しているのだが。かくいう黎斗もその一人だ。正直確かめる意味があったのだろうか疑わしい。

「なんで僕がこんなこと…… 妹萌えの伝道師(反町)辺りが適任でしょーが……」

 こっそり呟きながら状況を観察する。怒れる彼女の向かいに三人。護堂が中央、右にエリカ左に祐理が座っている形だ。ちなみに黎斗はエリカと静花の間だったりする。

「……まぁ、静花ちゃんがキレるのもわかるよ、うん」

 ここまで自然にいちゃつかれると黎斗としては噛み付くのも馬鹿らしく感じるが。噛み付いたら負けな気がしてしまう。護堂によりそった祐理がさりげなくお茶を注ぐ様など見ていて虚しくなってくるので少し前に視界から外した。他所でいちゃつけと言いたいがここは妹さんに任せよう。

「だいたい何よその王様ポジション!!」

 鋭い、正解です。彼は王様ですよ。泣く子も黙る魔王サマだけど。
 そう答えたくなったが必死に我慢。答えたところで静花からは頭の可哀想な人扱いされ三人に事情を説明せねばならなくなるだけなのだから労力の無駄というものだ。黎斗を取り巻く状況も悪化するし。
 そんなことを思い耳を澄ましながら弁当を突っついていると祐理が真っ赤になって静花に反論を始めたではないか。

「に、新妻———私が護堂さんの!?」

 結局ツッコミはそこかよ。
 どうやら本当に祐理も護堂のハーレム入りか。あの男の一件で仲が深まったのかと勝手に予想を立てる黎斗。新妻に反応する辺り彼女も自覚があるのではないだろうか。

「なんか僕ギャルゲの親友ポジだよなぁ……」

 もしそうだとしたら散々道化をやるギャグキャラ要員ではないか。そこはまだ良しよしても杜撰な対応をされるのはイヤだ。

「泣きゲーとかだったら親友ポジは中々良かったりするんだけど……」

 黎斗がぼんやりとくだらない考えをしている間も、ずっと護堂達のランチタイムは華やかで賑やかだった。珍しくエリカが静かにしていたのが気になるが、放っておいて十分だろう。何か考えているのだろうけどどうせ護堂が巻き込まれるだけだ。こっちには関係ないだろう。





 そう思った日の夜。 

「助けてくれ!!」

 やかましくなる携帯電話。出た第一声が、コレ。

「……護堂、こんな夜にどうしたよ」

 眠っている最中にたたき起こされた黎斗は、薬草図鑑に熱中している恵那とエルを横目にそう答えた。どうせ昼間予想したようにエリカが何か仕掛けてきたのだろう。

「エリカの奴が俺を婚前旅行に連れて行こうと画策しているんだ!! じいちゃんも味方につけて根回しも済んでるみたいなんだよ。夏休みの間どこかに身を隠さないと無理矢理」

「……行けばいいじゃん。っかこんな時間に惚気かよ」

「こんな計画に付き合ったら待ってるのは破滅だろうが!!」

 護堂の台詞を途中で遮り提案するもあっけなく却下される。しかしなぜ破滅なのだろうか。相思相愛なら破滅どころか幸福へ一直線だと思うのだが。

「まぁ確かに結婚は人生の墓場っていうけどさぁ」

「だろ!?」

 我が意を得たり、とばかりの護堂にさらっと一言。

「なるほど。つまりもうしばらく美少女を侍らせる生活を続けたい、と。流石外道な護堂先生。そこに痺れるけど憧れねぇ。いっそ地獄にでも行けば流石のエリカさんも追ってはこれな……おっとごめん、本音が出た」

「お前俺に恨みでもあるのか!? すげぇ黒いぞ!!」

 流石にここで肯定するのは可哀想だと思い沈黙を選ぶ。この場合は肯定と同じ意味になってしまう気もするが直接言うよりはいいだろう。

「……」

「れーとぉぉぉ!!」

「護堂、こんな夜更けに近所迷惑だよ。こっちも耳が痛い」

 護堂の叫びで耳が麻痺した黎斗は、しかめ面で抗議する。

「誰のせいだ誰の!! ええい、話がすすまん! そういう訳だからどこか潜伏場所でよさそうなところ探しておいてくれ。俺も探すが黎斗は転校してきたんだからここ以外の地理も詳しいだろ? 前住んでいた土地とか」

 そんじゃな、と一方的に通話が切れる。たしかに転校してきたが前黎斗が住んでいたのは幽世だ。そんなところに招けとでもいうのだろうか。あいにく他人を連れて幽世へ行けるほど魔導に熟練していないのでそれは無理な話だ。

「故郷は日本海側なんだけど…… 夏休みにもう一度、行ってみようかなぁ」

 パンドラによれば黎斗にとってここは平行世界ではなく過去の世界らしい。本来ならば存在すべき家族が居ないのは黎斗のしてきた行動によるバタフライ効果が積み重なった結果とのこと。事実、元の世界で東京タワーが炎上した、という噂を聞いた記憶がある。ネットで映像が流れて荒れに荒れた事件だ。すぐに消されたらしく動画を直接見ていない黎斗はデマだと思っていた話。真相はこれだったのか。

「マスター、どうしました?」

 微妙な雰囲気を感じ取ったのか、エルがこちらへ視線をよこす。

「んー、夏休みどうしようかな、って話」

「恵那夏休みは山篭りしなきゃなんだー。いくらこの部屋が聖域ビックリの場所になってても、恒例行事だから、ね。れーとさんもどう?」

 たったいま風呂から上がったと思われる恵那が会話に参入する。湿気を帯びた髪と上気した顔が色っぽい。物騒な刀を持っているだけでそれも台無しなのだけど。これが危ない色気、というやつだろうか。

「……謹んでご辞退させていただきます」

「恵那さん、マスターは肉体強化かけなきゃ100メートル20秒近いんですよ? 登山なんかさせたらぶっ倒れますって」

 情けなさ過ぎる事情に恵那も苦笑いを隠せない。自分が苦戦したような敵をダース単位で秒殺した相手の身体能力が論外な程低レベルだったのだから無理もないだろう。

「じゃあ夏休みは恵那も居ないのか。はてさて、本格的にどーしようかねぇ……」

 夏なのに引きこもっているのは青春をドブに捨てているようでもったいない。

「夏だし反町達とバカな事するかな」

「脈絡全然ありませんしソレいつもと同じじゃないですか」

「……」

 間接的に言われると堪える。いつもバカじゃないですか、と言われたほうがまだマシな気がしてしまうのは気のせいではないだろう。

「夏休みに勉強してみる?」

「マスターが勉強を続けられるとは思えませんね。三日坊主で終わります」

「……」

「つまるところ、夏休みに期待するだけ無駄ですよ。私はマスターは言葉だけで行動しないってことも計画立案能力皆無であることもわかってますし」

「……」

 黎斗は無言で空を仰ぐ。絶対に何か一味違うことをしてやる、そう心に決めた、夏のある夜のことだった。
 
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