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木ノ葉の里の大食い少女

作者:わたあめ
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第一部
第四章 いつだって、道はある。
  五代目火影

「影分身で乱回転するチャクラを押さえつけるとは……よく考えたのう」

 感嘆した目つきで繰り返し頷く自来也に、ナルトは得意げな顔をした。
 執務室の蝶番が微かに軋んで来客を告げる。振り返ればそこには金髪を二つにわけて結った美女と、黒い髪の女性、それにユナトが立っていた。

「あ、エロ仙人、もしかしてこの人が……」

 ナルトが緑の半纏を羽織った美女を指差して自来也を振り返る。自来也がにかっ、と笑みを見せた。
 
「ああ、こいつが五代目火影になった――綱手だ。木ノ葉崩しのちょっと前に木ノ葉に戻ってきた」

 金髪の美人の医療忍者が木ノ葉崩しの時に色々な怪我を治してくれた――という噂はナルトも耳にしている。青い目を輝かせて、ナルトはにかっと笑った。

「へぇー! 噂どおり、すっげえ美人なんだなあ! 俺さ、俺さ、うずまきナルト! よろしくだってばよ、綱手ねーちゃん!」

 手を差し出す。ああ、と笑いながら綱手が手を握り返した。にこにこするナルトの耳元に、自来也が小声で耳打ちをする。

「……ナルト、こう見えても綱手はわしと同い年だぞ」
「へー、エロ仙人と! っつーこたぁ五十歳くらいはあるかなぁーぁー……あー……?」

 自来也を振り返り、綱手を二度見し、また自来也を振り返る。五十代? 肌ぴっちぴっちなのに? こんなにハリあんのに? 同期の母親とかより十数倍若々しいのに?

「えぇぇえええぇぇえええええぇぇえええ!?」

 綱手を指差し絶叫するナルトに、三人の女性が顔を見合わせて笑いあう。えっ? えぇっ? と未だに混乱しながら脳裏を整理していたナルトが不意に真剣な顔で綱手を見据え、

「えっ……ってことはさ、てことはさ、姉ちゃんじゃなくて、ばあちゃん?」
「まあ、そうなるな……ってユナト今笑ったか」

 頷きかけ、不意に聞こえてきた笑い声に素早く振り返る。いえ、と当のユナトはすまし顔だ。

「し、信じられないってばよ……ユナトの姉ちゃんより若いじゃんか!!」
「……ナ・ル・ト・く・ん? 世の中には言っていいことと悪いことがあってだねぇ……?」

 大人気なく時空間忍術でナルトの背後に移動したユナトが屈んでナルトの耳元で囁く。ぞわりと体を震わせて逃げようとするナルトの肩をしっかりキャッチし、ぷす、と笑い声を零した綱手をじろっと睨みつける。

「笑いました、綱手さま?」
「いいや?」

 じとー、っと綱手を暫く見つめていたユナトは視線をナルトに戻した。だってほんとのこといっただけだってばよなどともにょもにょ言っているナルトの頬をつねりながらユナトが怒鳴る。

「綱手さまの二分の一倍近くの年齢の癖に年取って見えて悪かったですぅうううう!!」

 ナルトの頬をつねりながら怒鳴るユナトに残された三人は苦笑し、暫しの間ほのぼのとした空気が流れた。

「で? ぐだぐだしててもいいの、ナルト君? 今日はイルカさんと約束があるじゃないです?」
「あーっ、そうだったってばよっ!!」

 ユナトがふと問いかける。なぜユナトがそのことを知っていたのかについては何の疑問も抱かず、ナルトは慌しく火影邸の執務室を飛び出していく。その姿を眺めながらふっと綱手が口元を緩めた。
 自来也の言った通り、彼は綱手の弟に――縄樹によく似ていた。せっかちで慌しいところも、明るくて人懐っこいところも、火影を夢見ていることも、外見でさえ、そっくりだった。火影を夢見ているという点だけなら、今は亡き最愛の恋人、加藤ダンにもよく似ている。
 首を振って頭に浮かんだ二人の笑顔を振り切ってため息をつく。木ノ葉の為に何かしたいと決めたのだ。まさか火影とは思いもよらなかったが、それでも自分にやれるのなら全力を尽くす。過去にばかり囚われていて前に進めなくなり、博打に沈んだ一人の女を、自分が一番よく知っている。

「そういえば綱手、今日はなんの用だ?」
「ああ……狐者異について聞きたいことがあるんだが、ちょっとまっててくれないか」

 自来也が振り返る。綱手は不意に用事を思い出し、前髪をかきあげながら言った。
 今日はガイの弟子を診てやる予定があるんだ、そういう綱手に、ユナトの顔が僅かに強張った。

 +

「……え?」

 シノビヲヤメロ。綱手の口から発された音声情報がなんなのかも分析されないままにリーの脳を突き抜けていった。数秒遅れて、嫌々と脳がそれを分析していく。分析が終わってリーが出来た第一の反応は、ただ意味の無い母音を疑問符と共に喉奥から吐き出すことだった。
 繰り返し脳内で綱手の言葉をリピートする。意味がいまいち理解できない。ペーパーテストに余り集中できていない時、問題を何度も繰り返し読まないとどこから解いていいのかわからなくなるのと似たような感覚だ。

「重要な神経系の近くに骨の破片が多数……しかも、深くもぐりこんでいる。例え手術したとしても……」
「そんなっ!」

 テンテンが悲痛な叫びをあげた。眉根を寄せたネジがぐっとテンテンの肩を掴み、綱手を見据える。

「……可能性は、ないんですか」
「あたし以外には無理な手術な上……時間がかかり過ぎる。それに大きなリスクを伴う」
「リスク?」

 眉根に先ほどよりも多くの皺を刻んだネジが問い返した。

「手術が成功する確率は、よくて五十パーセント。……成功しなければ、死ぬ」

 沈黙の幕が下される。ネジもテンテンも言葉を失った。
 今日――この場にいるのはユナト、綱手、シズネ、自来也、リー、ネジにテンテン。五代目火影綱手がリーを診てくれるときいて、テンテンは喜び勇んでネジを引っ張りやってきた。リーのことが気になっていたネジも素直にくっついてきた。
 だがそこで告げられた診断結果は――自分たちの期待を大きく外れていた。
 ユナトにもうリーは治らないかもしれないと言われても、テンテンはきっとまだ希望はあると信じていた。そうだと信じてやまなかった。だから綱手が来た時、テンテンはリーが治ると確信した――そんな診断結果がくるだなんて、そんな結果を想像してもいなかったのだ。
 ちらりと視線を隣へ寄せれば、綱手が診断のためこちらに赴く前、「よくなったらまた一試合しよう」と前と比べるとずっと清清しい、憑き物の落ちたような顔でリーに笑いかけたネジの白い瞳も、大きく見開かれている。
 ネジだって最近性格が丸くなってきて、三人で綱手さまが落ち着いてこっちにきてリーを診てくれるのを待っていた。待ち遠しかった。きっと大丈夫だと信じてやまなかった。
 なのになんで。なんでこんな。
 沈黙の幕を引き上げて、綱手が静かに言う。

「忍びをやめて、別の道を探ったほうがいい」

 なぜこんな一番大切な時にガイはいないのだろうと、テンテンは呪わしく思いながら拳を握り締める。ぽろぽろと涙が零れた。ぐっとネジが腕を掴む。わかっている。一番辛いのは自分たちではなくて、リーだ。
 綱手とてこんな診断結果を伝えるのは不本意だったが、それでもリーにとってこの術は負担が多すぎた。成人しているガイならまだしも、リーのまだ未熟な少年の体ではその負担を全て受け切れなかったのだ。我愛羅の術によって受けた負傷の治療自体はどうってことはない、成功させられる自身はある。だが裏蓮華の反動によって受けてしまったこの大怪我について、自分は手術の百パーセントの成功を保障できない。その上この手術が失敗したものなら、リーは死んでしまうかもしれない。 

「リー」

 ネジが振り向く。松葉杖をついて、ゆっくりと一歩一歩歩き出し病室を出て行くその後姿は、以前よりもずっと小さく見えた。がら、と音を立てて病室のドアが閉まる。また、沈黙。今回幕を引き上げたのは、テンテンの涙声だった。

「なんで……? なんでリーなの? どうして誰よりも忍びになろうと頑張ってたリーがこんな目に合わなきゃならないの? 体術しかなくても立派な忍者になるって、誰よりも頑張ってたのはリーなのに……!」

 ネジが下唇を噛み締めて俯いた。体術がなくても立派な忍者になる、それがリーの夢。三班結成当時に語られた彼の夢、自分が忍術が使えない時点で忍者じゃないだろうと笑い飛ばした夢、そして彼が今まで精一杯努力してきた夢。
 天才と落ち零れは運命によって決まるのだとまだ運命論を信じていたあの頃の自分でさえ運命の例外を認めざるを得なかったくらいに努力し、そして強くなっていった彼と、今ならバカにせずに全力で組み手が出来ると信じていたのに。
 何故こんな時にガイはいない、とネジはテンテンとまったく同じことを思った。そしてテンテンを振り返った。

「行くぞ、テンテン」
「……ネジ」

 こういう時、もしかしたらリーを一人にさせておいた方がいいのかもしれない。だけど今の状態のリーを一人にさせておくのは不安だ。
 自分たちがリーに何をしてあげられるのか、まだわからないけれど、きっと何もしないよりましだろうと、二人もまた病室を跳び出て行った。

 +

「で……話とはなんだ、綱手」
「ああ……話ってのは――さっきも言っただろうが、狐者異の子についてだ。ユナトは狐者異のことは覚えているな」

 狐者異の実態がいかようなものだったか知る者は大体、ユナトやカカシと同じ年頃のもの達だ。ヒルマぐらいの年になると、狐者異がどのような存在なのかはあまり知らない。暴食なのに成長しない一族、それ以外の印象は全く持っていない。彼らが何故あれほどまでに大食いなのかも、どのような技をつかうのかも余り広く知られてはいなかった――というのも、狐者異とは閉鎖的な一族だったからだ。
 余り外界と接触するのを好んではいなかったし、何より他の者たちも我が子を狐者異と接触させようとは思わなかった。

「気の違った妖集団のこと――です?」
「……まあ、そうなるな」
 
 余り聞こえのよい言葉ではないが、恐らくそれが最も適切な表現だ。
未だに彼らの体のメカニズムは解明されておらず、妖の中でももっとも謎の多い種類だ。代表的な妖である尾獣や犬神は大抵チャクラの塊だったり、岩で生活している妖は人間に酷似した外見やチャクラ性質をもち、遁術を使うものもいるが、狐者異だけは違う。体の構造自体が人間とは全く違っている――いや、体の構造というよりは経絡系のつくり、というべきだろうか。

「で、ユナトによると彼女が中忍試験で狐者異秘伝のあの技をつかったそうだが」
「あの技……じゃと?」
「不完全だったけど条件としては整ってたです。といっても彼女がこの術のこと知ってるわけないし、ハッカだって覚えてないはずだし、術で探知してみたところ誰も教えてないみたいだし、偶然とみて間違いないです」
「ならいいが……」

 狐者異に伝わる禁術は三つ。
 どれも目覚めなければいいと綱手は願った。
 あの禁術の力を覚醒させて幸せになった狐者異なんていままで一人もいないのだから。

 +

「何が呪いだ。いい加減にしろ!」

 こんなに感情を表に出しているはじめを、ユヅルははじめて目にした。がこん、という音と共に椅子が蹴っ飛ばされて壁にぶつかる。呆気にとられるユヅルの、痩せこけた頬が殴り飛ばされる。青白い顔に落ち窪んだ瞳のチームメイトを、はじめは灰色の瞳でじっと見つめた。
 彼が犬神を体に宿し、その呪いの能力故に父に疎まれてきたり、兄弟や姉妹たちからもあまり好かれなかったという話はマナやハッカから聞いていたし、彼自身も彼の妬みや羨望の生む力についての説明をしてはいた。恐らく幼い頃から母や兄や姉達の死について自責の念を持ち続けていた彼は、残された二人の肉親すら死んでしまったという事実に泣き続け、そしてこれは自分の所為だと、自分が呪った所為だと泣き続けた。
 僕どういう顔してユヅルにあったらいいのかわかんないよと、チョウジがうつむいたまま言っていたのを思い出す。彼がユヅルに渡してくれと差し出してきた花束は病室の一角で淡い輝きを放っていた。
 肉親の死はきっとショックだっただろうし、その間ずっと昏睡状態にあった自分を恨む気持ちもわかる。だけど呪いだ呪いだとユヅルが何度も繰り返すうちに、はじめの中には苛々が湧き上がりはじめていた。何年も内側にためていた負の感情は、ユヅルに矛先を向けたままに爆発した。

「呪いだなんてただの現実逃避だ。事実を受け止められないからこそ呪いの所為だと責任転嫁しているに過ぎない!」
「現実逃避なんかじゃない! はじめだってアイツを見たはずでしょ!? あいつは呪うんだよ。俺がうらやましいって思った人間をあいつが放っておいたことなんてなかった!! 兄さんも姉さんも母さんも、父さんや妹でさえあいつに、そして俺に奪われたんだ!! 俺がうらやんでたから、妬んでたから、だから!!」
「だからそうやってぐちぐち言うのをいい加減やめろと言っている!」

 はじめが叫んだ。ユヅルは黙り込んではじめを見上げた。

「身近な人間の死を呪いだなんて言葉で片付けるな。身近な人間の不幸をなんでもかんでも犬神の所為にするな。憎むべき相手は木ノ葉崩しを起こした大蛇丸であってお前の中にいるくだらない犬神なんかじゃない」

 すう、と息を吸う。ぐい、と顎を持ち上げて彼は聞いた。

「お前ごときの呪いはそんなに強いのか?」
「……!」
「お前なんかの呪いで私は死なないし、私が死んでもそれは私の選んだ道であってお前の呪いなんかの所為じゃない。お前の呪いなんかで私が死ぬわけがない。お前は自分がそんなに強いとでも思ってるのか? お前に親しい人たちの死を全て犬神と呪いの所為にするな。彼らの生死はお前なんかの呪いに左右されるようなものじゃない!」

 もっともっと尊くて大切なものなんだ。お前の呪いなんかで終わらせられてしまうようなものじゃない。
 はじめはそう言って、親指の唇を噛み切った。口寄せの術。彼に召喚された一羽の鳩が、くるっぽーと鳴き声をあげた。

「とっても暖かいだろう」

 はじめに差し出された平和の象徴のその暖かさを手のひらに感じながら、ユヅルは鳩を抱き寄せた。とくんとくんと指の間で脈打つ心臓が感じられた。
 小さくても、それはちゃんと脈打っていた。
 
 

 
後書き
最近更新停滞すいません……
次回でサスケとイタチ再会します。というか先走ってそちらの話を先に書いてしまいました。のですぐにその話もさっさとアップする予定ですすいません……。 
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