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展覧会の絵

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第十一話 ノヴォデヴィチ女子修道院のソフィアその十四

 神父は静かにだ。彼と共にいる十字に問うた。
「ロマノフ家の女帝でしたね」
「そう、ソフィア女帝だよ」
 この絵の中にいる女を見ながらだ。十字は答えた。
「かのピョートル大帝の姉のね」
「その方でしたね。ただ」
「そう、この絵の状況に至った経緯はね」
「弟であるピョートル大帝との政争の結果でしたね」
「ロシアは。どの国でも大なり小なりだけれど」
 どうだったかというのだ。ロシアは。
「政争が多く」
「そして多くの血が流れてきた」
「その中の一幕だよ」
 この絵の状況、それもまただというのだ。
「そうなったのはね」
「そうだね。けれど」
「けれどとは」
「この絵の中に僕が見ているのはね」
「政争ではなくですね」
「うん、別のものだよ」
 ソフィアが敗れた、それではないというのだ。
 十字は今は窓の向こうに吊るされている男を見ていた。男の目は何も見ていない。だが祖フィアからは見える。その男を見ながら言うのだった。
「人は悪事の共犯者が滅んでもね」
「それでもですね」
「それを見ようとしない」
「悪人であればあるだけ」
「そうするものだよ」
 それを見ていたのだ。悪事をだ。 
 そのうえでだ。十字はまたソフィアを見て述べた。
「この人は政争の結果だけれど」
「枢機卿が今裁きを代行されようとしている者達は」
「悪事の結果今この中にいるんだよ」
 そうだというのだ。絵の中と同じ状況にだ。
 そしてそれ故にだと。十字はさらに言った。
「僕は既に男は吊るした」
「藤会ですね」
「そして部屋、牢獄にも閉じ込めた」
「彼等の気付かないうちに」
「ならば後はね」
 次の段階だった。彼が言うのは。
「裁きが下されて」
「枢機卿はそれを代行される」
「それだけだよ。そしてもう一つね」
 ただ裁きの代行だけではなかった。彼が行うべきことは。
 それが何かもだ。彼は今言った。
「救わなければならないね」
「罪なき子羊達を」
「裁きと救いは共にあるものだからこそね」
「そうですね。救いのない裁きはです」
「神の裁きではないよ」
 十字は絵から顔を離していた。後ろにいる神父に顔を向けていた。そしてそのうえでだ。その彼に対して言いながらそこにも神を見ているのだった。
 神を見つつだ。彼は述べた。
「だからこそ。僕は」
「救いも代行されるのですね」
「あの人達は救われなければならない」
 十字は顔を正面に戻した。そうしてだ。
 上を見上げてだ。こう言うのだった。
「だからこそね」
「そうですね。ではそのことについても」
「協力してくれるね」
「はい」
 そうするとだ。静かに答える神父だった。そうしてだ。
 そのうえで彼はだ。十字に対して問うた。
「これからどうされますか」
「今日だね」
「はい、今日はどうされますか」
「今日もまた務めを果たしに行くよ」
「藤会ですね」
「藤会の本部は潰したよ」
 だがそれでもだった。幹を倒しただけなのだ。 
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