DOREAM BASEBALL ～夢見る乙女の物語～　

仕事ある日は全然書いてない件についてww 

「バントの構えを徹底してこっちを前に誘き寄せ、低い打球でその間を抜く……言われてみればできなくはないが、まさかこのチャンスの場面でやれることか？」

一つのミスで流れを完全に失いかねない戦法。それなのにそれを平然と行い、ましてや逆転の一手として使ってくるとは想像もできるわけもない。

（ここからは下位に向かっていくが……まだノーアウト。何を仕掛けてくるのかわからない）

ランナーがいなくなったことで新たな気持ちでプレーに入ることはできる。しかしマウンドへと戻っていく瑞姫の表情は明らかに曇っていた。

「澪、伝令頼む」
「はい！！」

この回二度目となる伝令。回数に制限がある以上何度も使うことはできないが、これ以上の失点は命取りになりかねない。

「まずは逆転したな。ここから何点取れるかが大事だからな」

タイムがかかったためベンチ前に戻ってきている白髪の少女とショートヘアの少女二人に声をかけるカミューニ。彼の言葉の意味を理解している二人は小さく頷いて答える。

「最初の二球は見送っていけ。三球目の甘いストレートを流してやれ」
「わかりました！！」

長めのタイムが終わったところで打席へと駆けていく少女。それを見届けてから、次の打者へも指示を出す。

「お前は初球のスライダーを流せ。ボール気味でも構わない。それだけ狙っていけ」
「オッケーです」

指示を受けてからネクストへと向かう。打席に入った少女はベンチへ視線を向けることなく打席で構える。

（ここからは下位打線。ストレートは見せ球に変化球で勝負しろってことだったけど……）

真田から指示を受けた莉愛は初球のサインを送る。瑞姫の投じたそれは力が入ったのか高めへと抜けて1ボール。

（ストレートが上擦っちゃった。変化球の方がいい？）
（どっちでも。今のは力が入りすぎただけだし）

二球目は外へと決まるスライダーでカウントを一つ戻す。二球目の見送り方を見て莉愛は首をかしげた。

（二球とも全然反応してなかった……もしかしてフォーク狙い？）

決め球に狙いを絞ることは戦略として間違いではない。ただ、ここまで瑞姫のフォークは誰も捉えていない。その事は相手も重々承知のはず。

（フォーク待ちならストレートで追い込む。その判断が間違いだったも思わせてやる）

ストレートで追い込みフォークで仕留める。狙われていても打たれないと彼女は考えていたし、サインを受けた少女も同じことを考えていた。

（狙うのはここのストレート。変化球だったらカミューニさんのせいでいいんですもんね？）

明確な指示が出ている分余計なことを考えなくていい。桜華学院のメンバーは進学校ゆえに頭も優れているため打席でもあれこれ考えてしまいがちだが、野球に詳しい彼の指示が出ることによりそれだけに集中することができる。

（このストレートは確実にゾーンに……と）

外角へのストレート。カウントを整えるためと投じられたそのボールにバッターはタイミングを合わせ振り抜く。

ｷﾝｯ

「ウソッ！？」

三遊間へ鋭い打球が飛ぶ。優愛と莉子がそれに飛び付くがその真ん中を白球は抜けていった。

「やったぁ！！」
「ナイスバッチ！！」

一塁上でガッツポーズしている少女に拍手を送る。いまだにアウトを取れずにいる明宝ナインは焦りが見え始めていた。

（ストレート狙いだったの？初球は外れすぎてて見送っただけ？それとも配球が読まれてる？）

何が正解なのか、はたまた全てが正解なのではないかと思わせるほどの相手の行動に莉愛も頭が付いていかない。しかし試合は進行していき、右打席に次の打者が入る。

（この人は初回は三振に取れた。ならバントもありかと思ったけど……）

ボーイッシュな印象を与える彼女は普通にバットを構えている。セーフティバントも考えられるが、今の段階でその様子は見えない。

（ストレート狙いだと仮定して……なら初球は変化球だけど……）

迂闊にカウントを取りにいっていいものかと頭を悩ませる莉愛。しかしカウントが悪くなればなるほど追い込まれていくのは自分たち。

（外れてもいい。入ってくれれば最高。そんな感じで……）
（うわっ、アバウトな指示にしてきた）

悪い流れのはずなのに、二人は思わず笑ってしまった。その理由がわからない莉子たちは眉間にシワを寄せていたが、二人はそれに気付いていない。

（外のスライダー。ストレート狙いなら打ってこないけど……）

そんな中後方を守る一人が動きを見せる。クイックから投じられたスライダー。ストライクかボールか際どいそのボールに打者は踏み込み捉える。

ｷﾝｯ

「ファースト！！」

またしても球足の速い打球。本来ならギリギリ届くような打球だったが、らんなーがいるためベースに付いていた葉月は飛び付くものの打球はその横を抜けていく。

「「「「「抜けた！！」」」」」

連打連打にますます沸き上がる桜華学院。その声を聞いた一塁ランナーはわずかにベースランが膨らんだ。

「ほっ」

しかし抜けたと思われた打球に紗枝が回り込んでいた。

「莉子さん」
（間に合うか……？）

右打者から逃げていくスライダー。打つならこちらしかないと一塁側に寄っていた紗枝。彼女は身体を反転させ二塁へ送球。ギリギリのタイミングに莉子は身体を伸ばす。

「！？」

それを見たランナーは慌ててスライディングに切り替える。打球が外野へと抜けたとものだと思っていた彼女は三塁を狙うためのベースランに入っていたことでスライディングのタイミングも、最短距離での走塁も怠っていた。

「アウト！！」

その事が明宝側に幸いした。ギリギリのタイミングではあったものの二塁でのアウトを取ることができた。

「危ねぇ……無理しなくてもよかったろ」

フィルダースチョイスになりかねないプレイに大きく息を吐く真田。それに対しカミューニは驚愕の表情を見せている。

（ランナーの後ろを抜けていく打球。普通なら進塁打には十分だし何ならライト前に抜けてた。あのセカンドがうまかっただけだな）

一年生で唯一の背番号一桁。それでも穴として考えていた彼女の好フィールディングに考えを改めざるを得ない

（でもわざわざリスクを負った理由はなんだ？アウト一つ確実に取ればいいだけだったはずだが……）

しかし彼も彼女の狙いが何なのかわからない。もし間違えればせっかくのファインプレーが無になる行為。それにも関わらずこの判断はあらかじめ決めていたとしか思えない。

（得点圏にランナーがいると何をしてくるかわからないからか？ならその判断は間違いだ。なぜなら……）

打席に入る少女にブロックサインを送る。それもあえてゆっくりと正確に伝えるように。

（ランナーがいる限り奇策はいくらでも仕掛けられるんだからな）
















莉愛side

（明らかに何か仕掛けてきそうなサインの出し方だったけど……この場面でできるのなんてエンドランくらいでしょ？）

なぜあそこまで思わせ振りなサインの出し方をしたのか気になるけど……向こうのやり口はわかってる。あらゆる手段を持っているからこそここまで勝ち進むことができたんだろうし。

（内野警戒。外野は前に来すぎないでください）

また一番深いところに打たれてランニングホームランのんてされたら流れが完全に相手に行ってしまう。ここは是が非でも打ち取りたい。

一度牽制を挟んでからクイックで外した投球。しかしランナーもバッターも動かず1ボール。

（あれ？動かない？）

次のサインも丁寧に……先ほどと同じようなサインを出している。もしかしてこれは……

（私……騙されてる？）

何かあると思わせて何もしない。相手が多くの戦法を持っていることがわかっているからこそこちらがそれを警戒して自滅する。そんな方法を狙っているのではと感じ取った。

（でも警戒は解けない。ただゾーンに入れていくので打たれた時はお願いします）
（（（（（了解）））））

次もボールになると相手が何でもしてこれるカウントになる。ここは確実に入れたい。でも迂闊に取りに行くと痛打されかねない。

（ここはフォークを入れる。瑞姫頼むよ）
（浮かないように注意しないとだね）

瑞姫のフォークは落ち幅の大きい。だからこそ空振りが取れるんだけどそれでカウントを取るのは技がいる。でも瑞姫ならできると思う。それだけ彼女のコントロールはこの大会冴え渡ってる。

セットポジションから長めの間を取りつつ投球に入る瑞姫。そのボールは要求通りの完璧なコースと高さに来た。

ｶﾞｷｯ

それに振っていったバッターだったが、打球はボテボテのピッチャーゴロ。瑞姫が難なくこれを捌きセカンドへ送球。莉子さんから一塁へ転送してゲッツーを完成させた。

















第三者side

「ここで切れたのは大きいな」

そう呟いた真田はこのピンチを脱した一年生バッテリーと彼女たちとハイタッチする同じく一年生の少女へ視線を向ける。

（紗枝のあのリスキーなプレーはダブルプレーの機会を作るためだったのか）

ランナー二塁の状況ではライナーやフライによる飛び出しでしかダブルプレーのチャンスはない。しかしランナー一塁の状況であればゲッツーの可能性が格段に上がる。さらに相手が勢いに乗っていたこともあり送りバントの可能性が低かったため彼女のプレーが生きたのだ。

「あぁ……」

対してせっかくのチャンスを生かしきれなかったことで肩を落としているのは桜華の部長。後ろにいる彼女のそのタメ息に指揮官は不満そうにしている。

「気にしなくていいぞ！！逆転したんだからな、この回の守備はいつも以上に集中していけ！！」
「「「「「はい！！」」」」」

珍しく大きな声を出し気合いを入れる。それは彼なりの考えの表れでもあった。

（あんなタメ息なんか付かれたらせっかくの流れが切れちまう。それに、逆転さえしちまえばこっちのもんだ。相手にチャンスなんか与えないんだからな）

二回以降打たれたヒットはわずかに一本。さらにソフィアはここまでの試合二回以降からは失点をしていない。その事実があるからこそ彼は強気な考えを持っていられる。

「ソフィア」
「ん？何？」
「丁寧に……だからな」
「もう！！わかってるよ」

言われるまでもないといったように怒った表情でマウンドに向かうソフィア。それを見て青年は笑いを抑えられずにいる。

（釘は刺しておかないとやらかしかねないからな。まぁ、それもあいつらしいんだが）

彼女の性格をよくわかっているゆえの発言。その事に彼女が気が付いているかはわからないが、万全を期すに越したことはない。

「さて、相手はどう出てくるかな？」

勝利を確信し余裕綽々なカミューニ。その姿が目に入った真田は目を細めていた。


 

いかがだったでしょうか。
もしかしたら次からは端所りながら進んでいくかも？