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展覧会の絵

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第九話 聖バルテルミーの虐殺その十

「それを使う人を破滅させるんだ」
「破滅、ね」
「快楽と共にね」
「そうなのね」
「けれど清原さんは知らないんだね」
 雪子自身に気付かれない様にだ。十字は彼女の目を覗き込んだ。
「だったらいいよ」
「そうなの。麻薬ね」
「イタリアにもあるよ」
「本当にあの国でもあるのね」
「この国もそうなんだね」
 何気なくを装ってだ。十字は述べた。
「わかったよ。それじゃあね」
「ええ、絵を描いてくのね」
「暫くね。そうするよ」
「わかったわ。それで佐藤君塾も通ってたわね」
 清原塾のことをだ。雪子は話してきた。
「清原塾ね」
「うん、通ってるよ」
「凄いじゃない。全教科殆ど満点で塾に入って」
 それからもだというのだ。
「それでこの前の塾のテストだけれど」
「もう結果わかったんだ」
「ちょっと職員室で聞いたのよ」
 間違っても由人や一郎から聞いたとは言わない雪子だった。このことは隠したのだ。
「佐藤君のテストが凄いって」
「そうだったんだ。職員室で」
「そうなのよ。本当に凄い噂になってるから」
「わかったよ。そのことはね」
「ええ。とにかくね」
 雪子は塾のことも話してからだ。そしてだった。
 十字にだ。賽後にこう言ったのだった。
「またね」
「遊ぼうっていうのね」
「何か楽しくね」
 こうした話をしてだった。雪子は十字の前から姿を消した。十字はその後姿を無言で見送った。その考えはここでもだ。全く見せないのだった。
 雪子はだ。塾で一郎に話していた。二人は今理事長室にいる。
 そこで自分の左手に注射を打ちながらだ。そして話したのである。
「折角誘ったけれどね」
「向こうは乗らなかったんだ」
「そうなのよ。教会にいるせいだと思うけれど」
 こう推察しながらだ。言う雪子だった。
「朴念仁みたいね」
「雪こに誘われても動かないなんて」
「そうなのよ。私が誘ったら」
「誰でもついてくるけれどね」
「誘いに乗らなかった男はいないわ」
 これまでそうなったことをだ。雪子は言ったのだった。
「これまではね。ただね」
「ただ?」
「あのお坊さんだけは別ね。腹が立つわね」
「やれやれ。怒ってるね」
「勿論よ。何よあいつ」
 忌々しげにだ。言っていく雪子だった。
「許さないから」
「許さない、ね」
「具体的に何をしてやるかは考えてないけれど」
 今の時点ではだ。そうだというのだ。
「何時か誘って。そうしてね」
「危険な道を教える」
「そうしてやろうかしら。高潔なお坊さんこそね」
「それじゃあそれを使うんだね」
「悪くないわね」
 兄の言葉に応えてからだ。雪子は剣呑な目で右手に持っているその注射針を己の顔の前に持って来てだ。そうして悪魔の様な笑みで見てこう言った。
「これはね」
「まさに堕落の薬だからね」
「そうね。しかもこれを打ってから遊べば」
 どうなるのか。雪子はその笑みにさらに邪悪なものを含ませて言った。
「もう病み付きになるから」
「それにしても彼は」
「あいつが?」
「随分潔癖症みたいだね」
 雪子から聞いた話をだ。一郎はそのまま返したのだ。
「そうみたいだね」
「そうね。確かにね」
「潔癖症なのはやっぱり」
「坊主だからね」
 十字が教会に住んでいることからだ。彼をこう呼んだのである、
「だからこそむかつくのよ」
「善人ぷっている人間はね。どうもね」
「兄さんだってそうよね」
「うん。好きじゃないよ」
 含み笑いでだ。兄は妹に返した。 
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