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展覧会の絵

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第八話 絞首台のかささぎその十三

「そうさせて頂きます」
「頼んだよ。僕も一人ではできることが限られているから」
「人はですね」
「人は万能ではないよ」
 十字は己のことをわかっていた。彼は自分自身を賢明だとも全知全能だとも思ってはいなかった。では賢明であり全知全能の存在というのは。
「神だけだよ。それは」
「はい、全知全能の存在は」
「万能の存在もね」
 そうしたものはだ。まさに神だけだというのだ。
 このことを言ってだ。十字はまた神父に述べたのだった。
「藤会だけれど」
「その藤会もですね」
「神は裁きを下されるね」
「そうですね。麻薬とはです」
「魔薬だから」
 言葉遊びではなくだ。十字は実際にこう考えていた。
 それでだ。彼は今こう言ったのである。
「悪魔の薬だからね」
「そうですね。あれは人を溺れさせ狂わせ」
「腐らせて。破滅に至らせるものだから」
「阿片、いえそれ以前から」
「アサッシンもそうだったからね」
 イスラム教にあった暗殺結社だ。今もあるという噂がある。麻薬で若者を溺れさせそのうえで暗殺を命じるのだ。イスラム世界において長い間闇となっていた。
 そのアサッシンについてもだ。十字は述べたのである。
「だからこそね」
「麻薬もまた」
「許してはならない。あれは魔薬なのだから」
「では藤会も」
「藤会の。組長だったかな」
 日本風の呼び方をだ。十字はここで出した。
「確かこの国ではゴッドファーザーをそう呼んだね」
「はい、そうです」
「その組長の家とかはわかるかな」
「既に調べています」
 このことは既にだとだ。答える神父だった。
「他の主要な幹部の家もまた」
「有り難う。ではこれからも藤会については頼むよ」
「そして調べ終わり時が来ればですね」
「神は彼等に裁きを下される」
 そうなると。十字は淡々と述べた。
「そしてその時にこそ」
「枢機卿が動かれますね」
「そうなるよ。僕は神の僕だから」
 十字はこの考えを第一に置き。そして言うのだった。
「だからこそね」
「では。私はその枢機卿、いえ」
「そう。僕ではないよ」
「神の為に。働かせてもらいます」
 そうするろいうのだった。
「そうするべきですね」
「その通りです。では」
「頼んだよ。藤会のことはね」
「そうさせてもらいます」
 神父も礼儀正しく一礼した。その神父にだ。
 十字は今度はだ。こう言ったのだった。
「ところで。神父はこの町に来て長かったね」
「八条町ですね」
「はい、この町には神父になってです」
「そうしてすぐにだね」
「そうです。それからこの町にいます」
「だからこの町については詳しいんだね」
「その自負はあります」
 神父は静かに答えた。そしてだ。
 十字にだ。こうも言ったのだった。
「ですから。藤会についてもです」
「よく知っているんだね」
「どの世界にも光と闇があります」
 それはこの八条町でも変わらないというのだ。八条町は確かにいい町だがそれでもだ。闇がありその闇の中にはだ。おぞましいもので満ちているというのだ。 
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