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展覧会の絵

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第八話 絞首台のかささぎその十

 だが絵の左下の部分に人が何人か集まり彼等の前には大きな木の台がある。そしてその台の上に。
 小さな鳥が止まっている。その鳥は気付かないまでに些細に描かれている。だが一旦気付けば妙なまでの存在感を見せる。そうした風景画にも見える絵だった。
 だがその小さな鳥をだ。十字も神父も見てだ。こうそれぞれ言うのだった。
「この絵の主役はね」
「そうですね。自然でも人でもなく」
「鳥だよ」
 そのだ。小さな鳥だというのだ。
「この鳥が主役なんだよ」
「ブリューゲルの絵ですね」
 神父は絵の作者の名前を出した。あの高名な、農夫のブリューゲルとさえ呼ばれるルネサンス期の画家だ。彼の作だったのである。
 神父はさらにだ。絵のタイトルも言った。
「絞首台の上のかささぎですね」
「そう。それだよ」
「枢機卿はその絵も模写されていましたか」
「ブリューゲルも好きだからね」
 それ故にだというのだ。
「農夫のブリューゲルと俗に言うけれど」
「しかしですね」
「こうした面白い絵も多いからね」
「ブリューゲルの絵には隠された恐ろしさがありますね」
 神父もだ。このことは知っている感じだった。
 そしてその一羽のカササギを見ながらだ。こう言ったのだった。
「その絵にしてもです。主役は」
「一見すれば風景だね」
「はい、どうしてもそう思えます」
「確かにこのうえなく奇麗な風景だよ」
 それはだ。まさにそうだというのだ。
 だがそのカササギを見てだ。十字は言ったのだった。
「けれど。実はね」
「このカササギが実はですね」
「この絵の主役なんだよ。そして」
「主題ですね」
「そう。だからこそ」
 それでだと述べながらだ。十字はだ。
 風景も人々もカササギも見てだ。そして言ったのである。
「このカササギは何でもないといった感じで見ているね」
「風景も人々も」
「この美しい自然の中で人は処刑をしようとしている」
 十字は絵の中の動きを見ながら述べていく。
「人は因果なものだね。ただ」
「ただ、ですね」
「処刑されようとしている者が罪を犯したのなら」
 それならばだというのだ。その場合は。
「それは当然のことだよ」
「処刑をされることもですね」
「罪には罰があるものだから」
 それ故にだというのだ。
「だからここでの処刑もね」
「この様な美しい場所でも」
「処刑されるものだよ。ただ」
「このカササギは」
「ただ見ているだけ。いや、見ていないのかも知れない」 
 人々が行おうとする処刑もだ。それもだというのだ。
「全くね。人の世界で為すことは」
「では自然を見ているのでしょうか」
「そうかも知れない。そして逆かも知れない」
「自然を見ておらず」
「処刑を見ているかも知れない」
 その場合も有り得るというのだ。カササギが見ているものはだ。
 そしてだ。十字はその場合についてこう話したのだった。
「それならどう思って見ているかだね」
「人の処刑を」
「普通のカササギなら何でもなく見ている」
 自分の世界のことではないからだ。まさにただの風景画に過ぎないというのだ。カササギにとっては。
「けれど。そうでないのなら」
「普通のカササギでないのなら」
「そう。その場合はどう思っているのかな」
 こう言うのだった。そのカササギを見ながら。 
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