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展覧会の絵

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第八話 絞首台のかささぎその九

 だからこそだ。十字もそれについて言ったのである。
「だから。止めるよ」
「それと共にですか」
「二人。いやおそらくは」
「おそらくは?」
「もう二人だね」 
 少女達だけでなくだ。まだ二人いるというのだ。
 そしてその二人は誰と誰なのか。それは。
「彼女達の相手だね」
「彼等ですか」
「おそらく。悪人達はね」
 由人や雪子、彼等のことである。
 その悪人達が何をするのか。それは。
「彼等にも仕掛けてくるよ」
「ただ少女達を手篭めにしただけではなく」
「そう。僕はそれを止めることができない」
 悪人達に即座に裁きの代行を下す、それがだというのだ。
「できればしたいけれど」
「それはですね」
「一つを誤れば全てを誤るし」
「何よりもですね」
「そう。神はまだ裁きの代行を僕に許されていない」
「だからこそ」
「そう。だからこそね」
 それができないというのだ。悪人への裁きの代行を務めてそのうえで彼等を救うこと、それはまだできないというのだ。
「カルヴァンではないけれど」
「神の定められた予定ですか」
「そう。それになるね」
 いささかプロテスタント的な考えもだ。十字は述べたのだった。
「僕はプロテスタントではないけれど」
「それでもですね」
「そう。神がまだ許されていないから」
 それでだというのだ。
「僕は動けないよ」
「このことについては」
「そう。僕はあくまで神の僕だから」
 この立場は変わらなかった。十字にとって絶対のことであり彼を彼たらしめているものだからだ。そしてそれ故にだ。彼は今そうした動きはできないのだった。
 だからだった。彼は今はだった。
「表には出ないよ」
「準備を進めるだけですね」
「儀式はただ儀式をするだけじゃない」
「はい、その前にですね」
「準備が必要だから」
 それ故にだった。今できることは。
 やはり準備だった。それをしなくてはならないというのだった。
 そしてだった。このことを言ってからだ。
 十字は映像も録音も消してだ。それからだ。神父に顔を向けてこう言ったのだった。
「それじゃあこの話は終わって」
「今はですね」
「それでだけれど」
「お食事ですか。それとも」
「絵を観に行こう」
 表情はない。今も。
 その無表情な仮面の如き、ヴェネツィアの祭りに使う仮面の様に表情のない顔でだ。十字は神父に対してだ。画廊に行くことを提案したのだった。
 声も仮面の声だ。その声でもだった。
 神父に提案する。神父もそれを受けて。静かな口調でこう答えた。
「わかりました」
「それではね」
「それでどの絵を御覧になられますか」
「今日は。寒い絵だね」
「寒い、ですか」
「少なくとも暖かい絵ではないよ」
 十字が描いた絵の中でもだ。そうだというのだ。
「それでもね」
「その絵を観たいのですね」
「今はそうした心境だから」
 だからだと言ってだ。十字は席を立ちそれからだ。画廊に向かった。
 神父もそれについていってだ。画廊で観たものは。
 確かに寒い絵だった。色彩自体は寒くはない。
 青い澄んだ空に豊かな緑がある。そして茶色も。空と木々に大地、そして遠くには川も見える。山から川を見下ろす、そうした自然を描いたものだった。 
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