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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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GX編
  第125話:獣と堕ちる

 
前書き
どうも、黒井です。

今回はアガートラームの初戦闘と、ガルドVSハンスの2戦目です。 

 
 マリアが新たに生まれ変わったアガートラームを身に纏い、唄を歌いながらガリィへ向けて走り出す。ガルドもそれに続き、槍を手に突撃した。

「あの時みたく、失望させないでよ?」
「今度は確実に仕留めてやる!」

 ガリィは迫るマリアを前に、新たにアルカノイズを召喚して対応する。一方で、ハンスは恐れずガルドに向け接近すると、彼の刺突を跳ぶ事で避け更に突き出された槍を足場に彼を飛び越えた。

「くっ、身軽な奴!」

 ガルドは自身を飛び越えていくハンスを目で追い、着地の瞬間を狙って槍を薙ぎ払った。
 しかしハンスは着地の直前、右手の指輪を交換しており着地と同時にスタイルをチェンジした。

〈カメレオン! ゴーッ! カカッ、カッカカッ、カメレオー!〉

 スタイルチェンジと同時に右肩にカメレオンの頭部を模した肩当と緑色のマントが装着される。そしてガルドの攻撃が直撃する寸前、ハンスの姿は空気に溶けるように掻き消え槍は何もない空間を素通りした。

「チッ、またあれか……」

 あのスタイルの厄介さはよく分かっている。何処から攻撃が来るか分からない以上、慎重に動く必要があった。

 ガルドがハンスにより事実上動きを封じられている間に、マリアにはガリィが召喚したアルカノイズが襲い掛かろうとしていた。目の前に現れる無数のアルカノイズを前に、しかしマリアは臆することなく左腕のガントレットから幾本もの短剣を取り出しそれをアルカノイズに向けて投擲した。

[INFINITE†CRIME]

 放たれた無数の短剣は先鋒のアルカノイズを次々と切り裂き進行を止めるが、ガリィが召喚したアルカノイズはまだまだ居る。次から次へと迫るアルカノイズだったが、マリアは恐れを知らないかのように右手に持った短剣で切り裂いていく。
 フロンティア事変の際には奏と同型のアームドギアに加えてマントを用いての戦闘を行っていたマリアだが、大きく戦い方が変わる筈のアガートラームでの戦闘でも十二分に能力を発揮していた。

 着地の際の隙を突こうと左右から攻撃してきたアルカノイズも、マリアに対し傷を付けることは叶わず返り討ちに遭い赤い塵となって風に流されていった。
 全くアルカノイズを寄せ付けない、自身の戦果にマリアは確かな手応えを感じていた。

――私用に調整されたLiNKERが効いている! これなら!――

 しかし今のマリアの戦闘が危険と隣り合わせである事は、諸々の状況を慎二から聞いた弦十郎が理解していた。何しろマリアがアガートラームを用いて戦闘をするのはこれがぶっつけ本番。しかも諸刃の剣のイグナイトまであるのだ。あまり無茶をされては、マリアの身に何が起こるか分からない。

 遠く本部で弦十郎が危惧しているのを、当の本人であるマリアはまるで杞憂だと言う様に暴れまわった。短剣が伸びて蛇腹剣となり、蛇の様にうねりながらアルカノイズを次から次へと切り裂いていく。

[EMPRESS†REBELLION]

「うわー、アタシ負けちゃうかも~……あははは!」

 対するガリィは、ワザとらしく弱気な姿を見せるも堪えきれないと言う様に笑った。マリアはそれを不審に思いつつ、臆することなくガリィに接近して剣を振るった。アルカノイズは既に居らず、ガリィへの道は開けた。確かな手応えを感じているマリアは、ここでガリィを倒せると踏んでいた。

 しかし、マリアが放った一撃はガリィによりあっさりと避けられる。

「――――なんてね!」
「ッ!? がっ?!」

 急いで振り返ったマリアだが、避けた時点でガリィは右腕に氷柱を作っておりそれでマリアを思いっ切り殴った。振り返った直後のマリアにこれに対処する術は無く、叩き付けられた氷柱が砕けると同時にマリアは地面に叩き付けられた。

「あっ!?」
「姉さん!?」

 マリアが地面に倒れる様子を、離れた所から見守っていたセレナ達が見て思わず悲鳴を上げた。
 セレナ達の悲鳴はガルドの耳にも届き、これは不味いとハンスに背中を晒すリス
クを承知でマリアの援護に向かった。

 だがやはりと言うか、ガルドがマリアの援護に向かおうとすることをハンスは読んでいた。意識をマリアに向けて警戒が緩んだ瞬間、ハンスは右の肩当からカメレオンの舌を鞭の様に伸ばし、無防備なガルドの背中を打ち据える。

「ぐぁっ!? くぅっ!?」

 背中を強かに打たれて、ガルドはバランスを崩し転倒する。それでも彼は即座に立ち上がり周囲を警戒するが、その時にはハンスは既にガルドのすぐ傍に接近していた。

「貰った!!」
「ッ!?」

 すぐ傍でハンスの声が聞こえたと思った次の瞬間、ガルドは胸をダイスサーベルにより突かれていた。

「がぁぁぁぁっ?!」

 幸いなことに胸を貫かれるという事にはなっておらず、鎧に大きく傷がつくと言った程度で留まった。だが今の一撃は確実にガルドにとって大きなダメージとなっており、それを証明する様に彼は立ち上がるのに苦労していた。

「ぐ、く……うぅ」

「ガルド君!?」
「セレナさんダメです!? 今行くのは危ないですよ!?」
「でも!?」

 倒れたガルドに思わず駆け寄ろうとするセレナだったが、未来が腕を掴みそれを引き留めた。彼女の言う通り、今あそこに近付くのは自殺行為である。

 地面に倒れたマリアとガルドだったが、マリアの方はまだダメージが小さいのか立ち上がるのが早かった。立ち上がりながら、マリアは改めてオートスコアラー・ガリィの能力を実感した。

「強い……だけど!」

 ガリィもハンスも、どちらも強い。それは認めよう。だがしかし、マリアにはまだ切り札が残されていた。それを使うべく、マリアの手が胸のギアコンバーターに伸びた。

 それを見てガリィは笑みを深めた。待ってましたと言わんばかりの様子だ。

「……聞かせてもらうわ」
「この力で決めてみせる! イグナイトモジュール、抜剣!!」
【DAINSLEIF】

 マリアがイグナイトモジュールを起動した事で、形を変えたギアコンバーターがマリアの胸を貫いた。
 そしてマリアの心と体を、魔剣の呪いが蝕んでいく。

「ぐぅぅ、あぁぁぁぁぁぁっ!?」

「あぁ!? 姉さん!?」

 マリアの体を赤黒い光が包んでいく。体の中をグチャグチャに掻き回される様な苦痛に、マリアの口から抑えきれない苦痛の悲鳴が上がりセレナはそんな姉を心配して悲鳴を上げた。

 全身を呪いに蝕まれながら、マリアは必死に耐えていた。この呪いを克服し、新たな力を得てこの状況を打開しようと。

「弱い自分を、殺す――!? あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 だが呪いはマリアが思っている以上に強かった。押さえ込もうとして、逆に溢れる呪いの光がマリアの体を見えなくなるくらい包み込む。
 そして次の瞬間、そこに居たのは最早マリアではなかった。

「ア゛ァァァァァッ!!」

 全身を赤黒く染め上げ、まるで影がそのまま動いているかのような姿となった。シルエットだけの様な姿の中で、煌々と光る赤い目が異様に存在感を主張している。
 その姿は以前、ネフィリムにより片腕を食い千切られた際の響の姿と全く同じだった。

「あれれ?」

 思っていたのとは違うマリアの変化に、ガリィは目をパチクリとさせる。
 暢気とすらいえる姿を晒すガリィに、マリアは獣の様に襲い掛かった。

「ガァァァァァァッ!!」

 人間では不可能な素早い動きで襲い掛かるマリアだったが、動きが直線的すぎるからかガリィにはひらりひらりと避けられてしまう。寧ろ理性が働いていない分、今のマリアはガリィにとって倒しやすい存在となったとも言える。

 にも拘らず、ガリィの顔に浮かぶのは笑みではなく苛立ちであった。

「獣と堕ちやがった!?」
「ガリィ!」
〈バッファ! ゴーッ! バッバ、ババババッファー!〉

 避けるのは容易いが、それでも素早いマリアの動きは脅威である。マリアの状態に危険を察したハンスは、スタイルをバッファに変えるとマリアにタックルを喰らわせガリィから引き剥がした。

「ッ!?」

 横合いからの突進に、マリアは回避も防御も間に合わず吹き飛ばされる。吹き飛ばされた先にある木をへし折り、倒れた木がマリアの上に倒れて下敷きにした。

「別に手助けは必要無かったんだけどね~」
「そう言うなって。お前に何かあったら俺がキャロルに怒られる」
「嬉しいくせに」
「まぁな。しっかし、あれどうしたもんかね」

 ハンスとガリィが見ている前で、マリアは自分の上に倒れた木を片手で持ち上げて立ち上がった。マリアはその木をハンス達に向けて放り投げ、その後を追う様にして駆け出した。

「よっ!」

 飛んできた木をハンスがゴミを払う様に腕で弾き飛ばした。その隙に接近したマリアが爪の様に伸ばした指でハンスを切り裂こうとするも、その前に躍り出たガリィがマリアの顔を掴んで動きを止めた。

「そんな無理くりじゃなくってさ…………歌って見せろよ! アイドル大統領!!」

 ガリィはそのままマリアの顔を掴んで振り回し地面に叩き付けた。

「姉さん!?」

 地面に叩き付けられた際の衝撃でマリアの姿は土煙により見えなくなる。セレナが心配する前で、突如今度はマリアの倒れた場所から光の柱が立ち上った。それが消えるとそこには、気を失ったのか倒れてピクリとも動かないマリアの姿があった。

「やけっぱちで強くなれるなどと逆上せるな!」

 ガリィはマリアの顔を掴んだ右手をハンカチで拭いながら吐き捨てる。

 だが次の瞬間、ハンスがガリィの体を掴んで押し倒す様にその場に伏せた。

「ガリィ!!」
「え? わっ!?」

 突然押し倒されて何が何だか分からないと言う顔をするガリィの眼前を、魔力の閃光が突き抜ける。

 それはガルドがキャスターガンランスを砲撃モードにして放った一撃だった。マリアがハンスとガリィの注意を引いている間に体力を回復させた彼は、静かに槍を砲撃モードに切り替えガリィかハンスに隙が生まれる瞬間を待っていたのだ。

 しかしガルドの一撃はギリギリのところでハンスに気付かれ、砲撃はガリィの鼻先を掠める程度に留まった。自分があと一歩のところでお陀仏だった事を悟ったガリィは、顔を引き攣らせながら立ち上がった。

「あ、危ない危ない……助かったわハンス」
「お前をこんな事で失う事になったらそれこそキャロルに殺される。それより、ここは退こう。他の連中も集まって来た。時間切れだ」

 遠くを見ればこちらに向かってくる響とクリス達の姿が見える。反対側をみれば、そちらからは切歌と調が向かってきていた。恐らくその後ろからは翼と奏も来ているのだろう。

 この状況にガリィは大きく溜め息を吐いた。

「はぁ~……アホくさ。所詮外れ装者は外れ装者か、ガッカリだ」

 ガリィはテレポートジェムを地面に叩き付け、ハンスと共に姿を消した。

 敵が居なくなったことを確認すると、ガルドが周囲を警戒しながらマリアへと近付いていく。近くで見れば、マリアの体は至る所に傷を作っていた。

「マリア、おいマリア! しっかりしろ!」
「マリア姉さん!?」

 ガルドに続きマリアに近付いたセレナが、目に涙を浮かべながら倒れたマリアを抱き起す。
 2人の声に反応してか、マリアは瞼を震わせゆっくりと目を開けた。

「ぅ……」

 目を開けたマリアにセレナとガルドは安堵するが、マリアの目は2人ではなくどこか遠くを見ていた。

「勝てなかった…………私は、何に負けたのだ…………?」

 呆然としながら呟かれた言葉が、真夏の炎天下に消えていく。
 彼女の疑問に答えられるものは、少なくともその場には居なかった。




***




 マリアとの戦闘を切り上げ拠点に戻ったガリィとハンス。ガリィは台座の上でポーズを取った状態で姿を現し、その傍らに居たハンスは指定席とも言える玉座に続く階段の最上段に腰掛けた。

「……派手に立ち回ったな?」
「目的ついでにちょっと寄り道よ」

 戻ってきたガリィにレイアが話し掛けるが、ガリィはどうでも良さそうに素っ気なく返した。
 ガリィの様子にキャロルがハンスに目を向けると、彼はシニカルな笑みを浮かべながら肩を竦めた。

「自分だけペンダントを壊せなかったのを引き摺ってるみたいだゾ?」

 空気を読んで何も言わないで置いたハンスだったが、性格が一番幼いミカは空気など読まず思った事を口にした。それがガリィの神経を逆撫でする。

「うっさい!? だからあの外れ装者から一番に毟り取るって決めたのよ!」
「ホント、頑張り屋さんなんだから……」

 ミカの言葉に苛立ちを隠さず、ドスの利いた声で返すガリィ。それを見ていたファラはガリィを宥めるように静かに言葉を紡ぐ。

「私もそろそろ動かないとね」

 ファラの言葉に今度はハンスがキャロルの事を見る。彼の視線を受けて、キャロルはゆっくりと頷いて見せた。

 ガリィはファラの言葉に加え、ハンスとキャロルのやり取りを見て視線を上に向ける。そこには4体のオートスコアラーに準えたかのような、赤・青・黄・緑の4色の垂れ幕が天井から吊るされていた。
 それを見てガリィは胸の中で静かに呟いた。

――……一番乗りは譲れない―― 
 

 
後書き
という訳で第125話でした。

姿を消せる能力は普通に厄介だと思うので、ガルドには今回も苦戦していただきました。今回は前回と違い、奏や他の装者の援護が望めない状態だったので仕方ありませんね。加えて近くにセレナ達も居たので、あまり周囲に被害が広がる様な事も出来ませんでしたし。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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