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一人のチトー

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第三章

「抑えられるだけだ」
「大統領によってな」
「そうなるだけか」
「そうだ」
 リーダーと思われる男が言った、暗い密室の中で仲間達を顔を突き合わせたうえで。
「そうなるからな」
「だからか」
「今は息を潜めるか」
「そうするか」
「人は絶対に死ぬ」
 彼もこう言った。
「だからな」
「その時か」
「大統領が死ねばか」
「その時にか」
「立つぞ、死んで暫くは威光があるだろうが」  
 チトーの影響力それがというのだ。
「しかしな」
「やがてはだな」
「その威光も消えるな」
「何時かは」
「そうだ、人は絶対に死ぬんだ」
 またこのことを言うのだった。
「それで大統領程のリーダーは出るか」
「それは難しいな」
「後継者はいないな」
「どう見てもな」
「そうだな」
「だから待つんだ」
 今はというのだ。
「逸る気持ちを抑えてな」
「それじゃあな」
「待つな」
「俺達が独立出来る日を」
「セルビアの奴等を皆殺しに出来る日を」
 こうした話をしていた、そして。
 その状況を見てだった、その時のアメリカ大統領リチャード=ニクソンはその鋭い光を放つ目をさらに鋭くさせ険しさを感じさせる顔をさらにそうさせて自身の外交のブレーンであるヘンリー=キッシンジャー眼鏡をかけており理知的な印象を与える風貌の彼に話した。
「ユーゴスラビアについてはな」
「今はいいですが、ですね」
「君も同じ考えだな」
「はい、あくまで今はです」
 キッシンジャーはニクソンに話した。
「いいですが」
「彼がいるからな」
「しかしです」
「彼がいなくなるとな」
「今は地下に潜伏しているでしょうか」
「各民族の独立派がな」
「彼によって完全に抑えられているので」
 チトーにというのだ。
「問題ないですが」
「彼だから出来ることでな」
「彼がいなくなれば」
「終わりだな」
「数年は保たれますが」
「数年だな」
「十年はもたないです」 
 こう述べた。
「そして後はです」
「それぞれの民族が独立宣言をしてな」
「そうしてです」
 そのうえでというのだ。
「あの国は元々複数の国に分かれ」
「殺し合ってきた」
「分裂とです」
 それに加えてというのだ。
「殺戮がです」
「行われるな」
「誰にも止められません」
「あくまで今はだな」
「彼がいる間だけです、そして」
「彼もそろそろ歳だ」
「その時は近いかと」
 キッシンジャーはニクソンに苦い顔で話した、そしてニクソンもまた苦い顔でだった。そして遂にだった。
 チトーは亡くなった、彼はその時に密かに周囲に漏らした。
「もうこれでこの国は終わるか」
「いえ、我々がです」
「何とか保ちます」
「同志チトーの想いを」
「何とか守ります」
「そうして欲しいがこの国は難しい」 
 チトーは臨終のその床で語った、四角く頑健な身体も今は死に向かっている。
「私も常に必死だった、君達を信じたいが」
「それでもですか」
「この国を保つことはですか」
「難しいですか」
「無理だ」
 一言で言った。 
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