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フェアリーテイルに最強のハンターがきたようです

作者:ブラバ
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第7章 日常編
  第30話 驚愕

時刻は深夜の2時を回った頃。アレンの家で食事会を終えたエルザ、ミラ、カグラ、ウルティア、ウェンディ、レヴィ、ルーシィ、ジュビア、ガジル、ジェラール、ナツ、グレイ、ハッピー、シャルル、リリー、ミネルバ、スティング、ローグは皆満足そうにリビングで雑魚寝をしていた。
アレンはそんなメンバーに毛布を掛けると、開いている椅子に腰かけ、ため息をつく。
「これで全員寝たか…」
片付けなど含め、エルザとウルティアが最後まで起きていたが、30分前に力尽きたように眠りについていた。アレンは皆が寝ている様子に笑顔を浮かべながら、ワインを口にした。それと同時に、どこからともなく声が聞こえたことに驚きを見せる。
『ようやく、言葉を交わせる機会に巡り合えたな』
「…誰だ?」
アレンはキョロキョロと周りを見回すが、その声の主を捉えることはできなかった。
『ここよ』
先ほどとは違う、女性のような声にアレンは思わず椅子から立ち上がる。
「ウェンディの身体から…まさか、そういうことか…」
先の声がナツとウェンディの身体から聞こえてきたことで、アレンは一つの予測を立てた。
『理解が早いな』
『さすがは竜の天敵…と言ったところか』
『単騎でアクノロギアを下すだけはある』
またも違う3人の声がアレンの耳に入る。
「そうか…イグニールにグランディーネ、メタリカーナ、スキアドラム、バイスロギア。お前たちがそうなのか…」
アレンは何かに気付いたように小さく呟き、ゆっくりと椅子に腰かける。
『そう。わし等は滅竜魔導士の中にいる。お主のことは、ナツの中でずっと見てきた。お主の生き様を…だからこそ、こうしてお主に話しかけている』
イグニールはそう呟くと、なぜ滅竜魔導士の中にいるのか簡単に説明して見せた。
滅竜魔導士の竜化を防ぐため、自身の延命のため、そして力を取り戻し、アクノロギアを滅するため…。イグニールの話す内容は、アレンにとっては驚き以外の何物でもなかった。
「なるほどな…大体理解した」
『そして、この話はウェンディ達には黙っていてほしいの』
グランディーネは、悲しそうに小さく呟いた。
「…ウェンディ含め、ナツとガジルも会いたがっているぞ?」
スティングとローグの2人に関しては、『自分たちが殺した』という記憶を埋め込んでいるらしく、とりあえずその心配はない。だが、アレンはナツやウェンディが親代わりであったドラゴンを必死に探していることを傍で見てきたのだ。
『来るべき決戦の時…アクノロギアと戦う時が来たら、我らも姿を現す。…だが、我らは一度でもナツ達の体内から出れば、二度と戻れない』
『そして、魂を抜き取られている私たちは、そう長くは生きられない』
『すでに死んでいるも同じだからな…』
イグニール、グランディーネ、メタリカーナは言葉を続けるように呟いた。
「…そういうことか…奴の魂を抜き取る力は、竜にも有効というわけか。それで、なぜ俺に語り掛ける」
『お主が三天黒龍を、アルバトリオンとミラボレアスを倒せる唯一存在だからだ』
イグニールが低く唸るように呟く。
「なるほど、俺にアクノロギアを滅することはできない、というのは理解しているらしいな」
『いや、アクノロギアも、お主の力で滅することは可能だ』
イグニールの言葉に、アレンは目を見開く。
『言葉が足りなかったな、正確には、我ら竜、若しくはナツ達滅竜魔導士と共に戦うか、付加術で滅竜の力をお主の攻撃に付与するか…さすればアクノロギアを滅することもできよう』
「付加術…ウェンディか…」
『そう、あの子が滅竜の力を他人に付加できるまで成長すれば、それも可能。まだもう少しかかりそうだけど』
グランディーネの言葉に、アレンは真剣な面持ちで答える。
「間に合いそうなのか?その決戦の時ってのに…」
『それはわからないわ…』
「なら、現状ではお前たちドラゴンが戦う時に、俺も一緒に戦うってのが最大打点ということか」
アレンは膝に肘をつき、項垂れながら悩むようにして下を見つめる。何かに葛藤する様子であったが、その真相はわからない。
『加えて、アルバトリオンの気配がより強固なものとなっている』
バイスロギアの発言に、アレンは目を見開く。
「わかるのか?復活したかどうか…」
『ああ、もうミラボレアスに関しては察知できないが、アルバトリオンは復活を果たし、着実に力を取り戻しつつある』
「つまり、少なくとも三天黒龍の内2体と戦わねばならないということは確定したのか」
アレンは苦虫を噛んだような表情を見せる。
『アルバトリオンとミラボレアスに関しては、お主の世界の竜なのだろう?』
「…よく知ってるな、そうだ。禁忌の龍と言われる存在…元来、人間…いや数多の生物が抗うことのできない天災…そういわれている。実際のところ、俺も勝てるかどうか…いや、戦いになるのかすら怪しいかもな」
その言葉に、ドラゴンたちは暫し黙り込む。そして、意を決したようにイグニールが口を開く。
『…竜満ちし世界の英雄よ。例えそうであったとしても、わし等はお主に頼むほかないのだ』
「…わかっているさ。もちろん、この命を賭して戦うつもりだ…」
『よいのですか?あなたは私たちドラゴンのことを…』『グランディーネ!』
グランディーネの発言を、メタリカーナが強く制止する。アレンはそんあ様子を見て、ふっと笑いを生む。
「そうか、お前たちは知っているんだな…」
アレンの言葉に、ドラゴンたちは再度口を閉じる。
「心配するな、それとこれとは別の話だ。…その事は、三天黒龍を倒し、無事に世界を救えた時に、語り合うとしよう」

アレン宅での食事会は、皆が寝坊助なこともあり、次の日の午前10時にようやく解散となった。アレンは、ミラとカグラと共に、片付けと掃除を終えた後、フェアリーテイルへと向かった。
だが、家を出てすぐに、一緒にクエストへと出かけていたウルとリオンと遭遇する。
アレンと一緒に家から姿を現したミラとカグラに、怪訝な様子を見せていたウルであったが、皆で食事会をしたという話をすると、幾ばくかその怪訝な様子も落ち着きを取り戻す。その後、少し迷ったようにウルがアレンに言葉を発した。
「それなら…アレンこの後少しだけ時間ある?」
「ん?ああ、ギルドに向かおうとしてただけだから、大丈夫だけど、なんかあったのか?」
アレンの言葉に、ウルは少し顔を赤らめる。
「ちょっと2人だけで…大事な話があるんだ…」
そんな様子に、ミラとカグラに雷が落ちたかのような衝撃が走る。
「あ?そうか…わかった場所を移そう。ミラとカグラはリオンと一緒に先に酒場で待っててくれ」
アレンはそう言って、ウルと一緒に街の方へと消えていった。
固まっているミラとカグラに、リオンが仕方ないと言わんばかりに声を掛ける。
「ほら、いくぞ…」
しかし、2人はリオンの言葉とは裏腹に、アレンとウルと追いかけるように街へと歩み始める。
「おい、ウルは2人で話を…はぁ、追いかけるなら、バレないようにすることだ…」
リオンはそんな2人に注意しようとするが、振り返った表情があまりにもすごい形相であったため、諦めて1人で向かうことにした。
「…頑張れ、ウル」
リオンはそう言い残し、ギルドへと歩みを再開した。

アレンは、2人きりで話がしたいということで、ウルと街の路地裏へと入っていった。周りに人がいないことを確認すると、ウルの顔を見て、口を開いた。
「で、なんだよ、大事な話って」
ウルは暫くもじもじとしていたが、意を決したかのようにアレンの胸元へと飛び込む。
「なっ…ど、どうしたんだよ…急に」
「好きなんだ…」
ウルの言葉に、アレンは目を見開いた。
「何を言って…」
「私は…アレンのことがずっと好きだった。初めて会った時からずっと…」
そんなウルの様子を見て、アレンはふっと笑いを浮かべる。
「俺も好きだぞ…ウルのこ…」「違う!」
ウルはアレンの言葉を遮るようにして声を荒げた。急に怒鳴られたアレンは、ビクッと委縮する。
「アレンの好きと…私の好きは…違うんだ…。私は、アレンのことを一人の男として…好きなんだ」
ウルは消え入りそうな声で、呟いた。
「…こんなこと言われても迷惑なのはわかってる。私は死別しているとは言え既婚者…子どもが、ウルティアがいる。だがそれでも…私は…」
ウルの言葉を聞き、アレンはそっとウルの頭を撫でる。ウルは頭を撫でられると同時に、涙の溜まった目でアレンを見つめた。
「…ありがとう」
アレンの言葉に、ウルは目を見開く。
「死別とか子どもがいるとか、そんなことは関係ない。俺もウルティアのことは好きだ。だが、女性としてと言われると正直自分の気持ちはわからない。そして、何より、今ここでウルの気持ちに返事をすることはできない…」
「え?…」
アレンの言葉に、ウルは悲しそうな表情をする。
「俺がウルのことを女性として好きかどうかわからない状況でも、それでもいいなら、俺はウルと恋人関係になってもいいと思ってる。だが…」
「い、いい!全然いい!これから好きになってもらえるように頑張る!だ、だから…」
ウルは、アレンの言葉を遮るように口を開く。そして、同じようにアレンは、ウルの言葉を遮るようにウルを抱きしめた。
「…だが、戦いが終わるまでは…三天黒龍を倒すまでは…」
その言葉にウルは全てを察したかのように落ち着きを取り戻す。そして、アレンの腰に、ゆっくりと手をまわし、抱擁する。
「…なら、待ってる。三天黒龍を倒して、戦いが終わるまで待ってる。もちろん、私も一緒に戦う。終わったら、そしたら、返事を、くれるんだな」
「…ああ、約束しよう」
アレンは真剣な面持ちでウルに言葉を返した。そうして暫く抱き合っていた2人であったが、アレンがウルを引きはがす形でその抱擁を終える。ウルは真っ赤になった顔でアレンを見つめる。
「絶対だぞ…」
「ああ、俺は約束破ったこと、ないだろ?」
アレンの言葉にウルはキッと睨みつける。
「破った…7年も帰ってこなかった…」
「いや、ちゃんと戻って…悪かった」
アレンは言い訳をしようとしたが、ウルの気迫にやられ、謝罪を余儀なくされる。
「信じて…いいんだな」
「ああ、もちろんだ」
アレンがそう言うと、ウルはもう一度アレンに抱き着く。
「三天黒龍の討伐じゃない…あなたの無事をだ…」
ウルの言葉に、アレンは再度目を見開く。そして、微笑を浮かべる。
「ああ、わかっている」
アレンがそう呟くと、ウルはガバッとアレンから離れ、ステップを踏むようにしてご機嫌な様子になる。
「わかった!なら、信じる…。じゃあ、またな!」
ウルは照れを隠すようにして、足早にその場を去った。アレンはウルの後姿を見送った後、暫くその場に立っていたが、ゆっくりと視線を地面へと移し、呟いた。
「ごめんな…ウル。本当に、すまない…」
アレンはそう言って、路地の奥へと姿を消した。

アレンとウルの後を追いかけていたミラとカグラは、ある路地裏に消えていった2人を見て、バレないようにこっそりと覗き込み、話しを盗み聞きしていた。
そして、驚くような話の内容が飛び込んできた。
「今のって…」
「告白…だよな?」
ミラとカグラは、驚いたまま表情を固めていた。そして、アレンとウルが互いに抱きしめあうの見た瞬間、さらなる衝撃を受ける。
「え…承諾…した?」
「い、いや…でもまだ先の話だろう?そ、それにOKしたというわけでは…」
ミラとカグラが顔を合わせて小刻みに震える。アレンは明確な受け入れを表さなかったものの、逆に明確な拒否もしていない。それはつまり、同じくアレンを好いている2人にとっては、由々しき事態であった。
「わ、私たちもきちんと告白したほうがいいのかしら…でも…」
「断られでもしたら…」
ミラとカグラは視線を合わせる。
「「立ち直れない…」」
そんな風にして、悶々としていると、こちらに向かってウルが小走りしてくる様子が見られる。2人は急いで路地から顔を退け、民家の壁に張り付くようにしてやり過ごす。どうやら、バレなかったようだ。
「…と、とにかく、アレンに聞いてみる?」
「だ、だがどうやって…」
2人はうーんと悩んでいたが、微かに聞こえたアレンの言葉に、更に頭を悩ませる結果となった。
「ごめんな…ウル。本当に、すまない…」
それを聞き、2人はまたもや固まってしまう。
「今の…どういう…意味?」
「断る…いや、そんな単純な様子じゃなかったな…」
ミラとウルティアが不安な様子で語り合う。
「ねえ、もしかして…」
「…約束を守れないって意味か?」
2人はアレンが何に謝っているのか憶測を立てると、焦ったようにアレンのいた路地裏を再度覗く。だが、すでにそこにはアレンがおらず、悲鳴のような呻き声を上げる。
「あ、あれ?アレン?」
「ど、どこにいったんだ?」
2人は路地裏に身を乗り出し、キョロキョロとあたりを見回すが、アレンの姿を捉えるには至らない。
「あっちに行ったのかしら…」
「追いかけよう!」
2人は息を合わせたかのように、同時に路地裏へと駆けて行った。

ミラとカグラは、路地裏から消えたアレンを探し回ったものの、結局見つけることができず、諦めてギルドへと戻ってきた。
ギルドの門を潜ると、なんとそこには先ほどまで探していたアレンがカウンターに座っているのだから大層驚いた。
どうやら、完全にすれ違ってしまった様子であった。ミラとカグラは、顔を見合わせて苦笑いを浮かべると、アレンへと声を掛ける。
「戻ってたのね、アレン」
「ん?おお、ミラか…どっかでかけてたのか?」
アレンは後ろを振り返り、返事を返す。アレンからしてみれば、先にギルドに帰っているはずの2人がギルドを開けていたため、少し疑問に思っていた。適当に買い物にでも出かけていたのだと思っていた。
「ま、まあそんなところだ」
カグラは、アレンの隣、左側のカウンター席に腰を下ろす。右側には、エルザが座っていたためである。ミラはアレンの後ろを通り過ぎ、カウンターの内側へと入っていく。
カグラは先ほどのウルとのやり取りに、モヤモヤした気持ちを抱えていたが、意を決したように口を開こうとする。だが、それはある者の言葉によって遮られることとなる。
「アレンよ、王国からお主宛のモノと、評議院とマスターボブから、わしとお主宛で手紙が届いておるぞー」
その声は、いつものようにカウンターのテーブル部分に座っているマカロフのモノであった。
「あ?んー、マスター先に読んでいいぞ」
「そうかのう?むぅ…」
アレンの言葉を聞き、アレン単名宛の王国からの手紙をアレンに託した後、マスターは手紙を一つ開く。
「おー、マスターボブから青い天馬に遊びに来てほしいって連絡じゃ…」
マカロフは一通り目を通した後、アレンへと手紙を手渡す。
「あー、そういえば一夜とそんな約束したっけ…何々…5日後か…まあ、予定もないし、行くかなー」
アレンの発言に、左右に座るエルザとカグラがビクッと震える。
「アレン…いかない方がいいのでは?」
「危険な気がする…」
「…何が?っていうか、お礼もしないといけないし、ホストってのもやってみたいしな」
アレンの発言に、ミラ含め3人が顔を赤らめて俯く。
「アレンのホスト姿…」
「見に行きたい…」
「し、しかし…」
ミラ、カグラ、エルザがもじもじしていると、マカロフがバッと立ち上がり、怒号を上げる。
「な、なんじゃとー!!」
「ど、どうしたんですか?マスター」
「一体何が…」
ミラとエルザが驚いたように声を上げる。
「…アレンよ、評議院から依頼じゃ…」
「あ?何だってんだ…ッ!!マジか!」
マカロフから受け取った手紙を見て、アレンは声を荒げる。
「…禁忌クエストとはのー…やつらもこき使ってくれる」
マカロフは怒りを含んだ声で、口を開く。
「なっ!禁忌クエストだと!!」
「バ、バカな!!」
エルザとカグラがその名を聞き、悲鳴に似た声を上げる。
「禁忌クエスト?」
その様子を見て、カウンターの後ろのテーブルにナツやグレイ、ウェンディと共に座っていたルーシィが首を傾げる。
「禁忌クエスト…100年クエストを超える、史上最高難易度の依頼よ…」
ミラが畏怖を含んだ物言いで呟くと、ルーシィやウェンディが驚愕の表情を浮かべる。
「100年クエストの上!!100年クエストが最高難度じゃなかったの!?」
「い、一体どんな内容なんだろうね、シャルル…」
「ええ、興味あるわね…」
ルーシィ、ウェンディ、シャルルが呟き終わるのを見て、ミラが再度口を開く。
「禁忌クエストは、100年クエストのように達成されなかった期間があるわけじゃないんだけど、あからさまに100年クエストと同等かそれ以上の難度であると認められ、且つそれが世界の秩序に直接的に影響する場合に、評議院が認定して依頼を出すものなの。私も実際に禁忌クエストの依頼を知るのは初めてよ…」
ミラの言葉に、酒場が一気に静寂に包まれる。それを破るように、カグラが再度同じ質問をアレンにぶつける。
「そ、それで一体どんな依頼なんだ!」
アレンはその質問に、一呼吸おいてから答えた。
「詳しいことは書かれていないが、煌黒龍アルバトリオンの目撃情報があったらしい。その討伐が依頼内容だな…」
アレンの言葉を聞き、更なる驚愕の雰囲気が酒場を包む。
「煌黒龍…三天黒龍の一角か!」
「そんな依頼…」
「アレン、まさか行く気ではあるまいな!」
カグラ、ミラ、エルザがアレンに詰めるように声を掛けるが、アレンは手紙から目線を外すことなく、怪訝な表情を浮かべている。
「…アレンよ、わしはお前の決断を尊重しよう。フェアリーテイルのことは気にするな」
「………ッ!」
マカロフの言葉に、皆の頭に?が浮かぶ。そんな様子を見て、マカロフはため息をついた後に、言葉を続ける。
「…実はな、評議院からフェアリーテイルの解体命令の最終忠告が出ておる…」
その言葉に、皆が立ち上がり、怒りの声を上げる。
「なんだとっ!!」
「ふざけんなー!!」
「…どういうこと?」
ナツ、グレイ、ウルティアが闇のオーラを放ちながら怒りを口にする。だが、それ以上に低く唸った声が酒場を支配する。
「「…本当になぜか、分からないのか?」」
狙ったようなマカロフとアレンの言葉に、皆がしり込みする。原因はわかりきっている。依頼の度に一般人に被害者を出したり、建造物を壊したり、挙句の果てに街を半壊させたりなど、最強ギルドという名を有してはいても、フィオーレ一の問題ギルドとして評議院から目をつけられているのは皆、承知の上であった。
「はぁ…依頼の内容に付け加えるようにして、請け負わない場合、フェアリーテイルの解体を視野に入れてるって書かれてるんだ…さて、どうすっかなー…」
内容が内容だけに、メンバーは怒りでプルプルと震えているが、アレンは特に深刻な様子は見せていない。そう、評議院の意図が分かっている分、怒りは特になかった。
メンバーが、「いくら何でも横暴だ!!」という声を上げる前に、アレンが口を再度開く。
「ま、いつかは戦わなきゃならねーんだ。とりあえず、評議院に顔出して詳細でも聞くかな」
アレンはそう言って席を立ちあがるが、左右から両手を掴まれて身動きを封じられる。
「なにを…言っているんだ、アレン」
「そんなもの、ダメに決まっているだろう…」
エルザとカグラが、今にも消え入りそうな声で呟く。
「…エルザ、カグラ…」
2人の様子を見て、アレンは思わず言葉を詰まらせる。そんな様子を見て、マカロフが口を開く。
「…アレンよ、お主もわかっておると思うが、アルバトリオンなど、お主でも無事ではすまん相手じゃ…くどいようじゃが、死ぬつもりじゃあるまいな…?」
マカロフの唸るように声に、アレンは目を見開くが、すぐにふっと笑いかける。
「…俺は死なねーよ、マスター。…とりあえず、今日はもう帰るわ」
アレンは手紙をポケットにしまうと、エルザとカグラの手を振り払うようにして、ギルドを後にした。何人かがアレンを呼び止めるが、アレンは片手をあげて返事をするだけに留まった。そんなアレンの背中を、ギルドメンバーは全員が見えなくなるまで見つめていた。

アレンは、怪訝な表情でフェアリーテイルを後にすると、自宅のベットに倒れこんだ。無造作にテーブルの上に放り投げた3通の手紙が、視界に入り込む。
そのうちの1通の手紙と、食事会でのイグニール達との会合での内容が頭を巡る。その瞬間、アレンの脳裏に、懐かしい記憶が蘇ってくる。幼いアレンに寄り添う、1組の男女。そして、そんな幼いアレンの左右に佇む2人の少女、片方はアレンより身長が高く、片方は小さい。その5人の集団を眺めるようにして微笑むヒノエとミノト。そして、記憶は流れ、それぞれが血を流し倒れこむ描写が浮かぶ。そこに佇みむは絶望の表情を浮かべるアレンと巨大なドラゴン。アレンはそんな記憶をかき消すようにして、仰向けから横向きへと体勢を変える。そうして一つため息をつくと、小さく呟いた。
「ちっ…嫌なもん思い出しちまったな…」
一度掘り返された過去の記憶はそう簡単にかき消すことはできず、更に思いにふける。そうしているうちに、グランディーネが発した言葉がふと脳裏をよぎる。
『よいのですか?あなたは私たちドラゴンを…』
アレンは一度目を閉じ、ゆっくりと目を開く。
「一体、どこで知ったんだろうな…」
そんな風に考えながら、アレンは目を閉じ、暫くその目が開かれることはなかった。

アレンが去った後のフェアリーテイルの酒場。雰囲気は、どんよりとしたものとなっていた。アレンへの禁忌クエスト、三天黒龍の一角であるアルバトリオンの討伐依頼が来たからである。だが何より、自分たちの日ごろの行いによって、アレンに選択の余地を与えない結果となってしまったことが、後悔と申し訳なさを増幅させていた。そんな様子の酒場を見て、リクエストボードにほど近いカウンター裏で腰かけていたミノトが、小さく呟いた。
「…皆さん、あまり自分自身を責める必要はないかと」
ミノトの発言に、ギルドメンバーは一瞬顔を上げたが、再度俯くようにして視線を下におろす。
「…だが、私たちの日ごろの素行が、そのまま弱みとして利用されているのは事実」
「ええ、ナツさんにグレイさんなどはほぼ毎回のクエストで甚大な被害を出されていますい。最近はエルザさんも無駄な被害を出されておりますし、ミラさんも前回のクエストで街を半壊させています。過去の事案、他の方々も含め、あげればきりがないですが、正直に申し上げて、目に余ります」
エルザの言葉を肯定するように、ミノトは淡々と言葉を発する。それを聞き、皆反論の余地がないのか、ぐうの音も出ないといった様子であった。
「全くじゃ…、今まではアレンの為した10年クエスト並びに100年クエストの功績に加え、エーテリオン投下も含め、評議院側がアレンに頭が上がらないという理由でギルド解体を免れてきたが、他のギルドがフェアリーテイルと同じように振舞っていれば、もう3,4回はギルドは解体されておったな」
マカロフが更に皆を責め立てるように言葉を発するが、皆事実であることを分かっている手前、何一つ反論できずにいる。そんなマカロフの言葉を遮るようにして、うさ団子を頬張るヒノエが口を開いた。
「ちょっと言いすぎですわ、ミノト。皆さん頑張っておられるのですから。それに、アルバトリオン討伐に関しては、フェアリーテイルの素行は関係ないではありませんか」
ヒノエの言葉に、皆が顔を上げて目を見開く。
「どういう意味ですか?ヒノエさん」
「そのままの意味ですわ、ルーシィさん。アルバトリオン含め、三天黒龍の討伐はアレンさんの使命。それはフェアリーテイルの素行が良くても悪くても変わりません」
「しかし、例えそうだとしても、アレンに迷惑をかけたのは事実だ…。それに、なんだかアレン、今日は機嫌が悪そうだった」
カグヤは、ヒノエに言葉を返しながら、先ほどのアレンの振舞いを思い出す。いつもなら、文句を言いながらでも優しく笑顔で接してくれるアレンであったが、先の手紙の内容に反発の意思を見せ、腕を掴んだところ、少し強めに振りほどかれてしまった。同じようにされたエルザも、考えるようにして俯く。
「それは…恐らく思い出してしまわれたのではないでしょうか?」
「思い出した?」
ミノトの発言に、ウェンディが首を傾げる。
「辛い…過去の記憶を…アレンさんは」「ミノト!」
ミノトの言葉は、ヒノエの強めの発言に遮られる。そんな風に声を掛けられたミノトは、驚いたように目を見開き、少し俯く。
「失礼しました、姉さま」
ミノトの発言に、皆驚きつつ、興味を持っていたが、ヒノエの様子から、これ以上は聞き出せないと悟り、誰もそれについて言及することはなかった。そうして少しばかり沈黙が流れた後、ヒノエが小さくため息をついて口を開いた。
「いつもはそんな雰囲気を見せないアレンさんにも、抱えるものがあるということです。…今は、そっとしておいてあげてください」
ヒノエはそう言い終えると、再度うさ団子を口に運んだ。
 
 

 
後書き


 
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