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フェアリーテイルに最強のハンターがきたようです

作者:ブラバ
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第7章 日常編
  第31話 粋筋

アレンへ禁忌クエストの依頼が来た当日の日没直後。ミノトはフェアリーテイルでの業務を筒がなくこなし、自宅へと向かっていた。英雄感謝祭の影響もあり、指名の依頼含め、数多くの依頼が殺到している。今日は本来の時間よりも30分程遅くギルドをでた。姉のヒノエは先に帰宅しているため、足早に歩みを進める。アレン宅の隣、一件挟んだ木造の家を借りているため、ギルドからは歩いて1分程度なので、往復は楽なものである。
ミノトは、玄関のカギを開け、中に入る。靴を脱ぎ、リビングへ上がると、ヒノエがテーブルに腰かけてうさ団子を頬張っている様子が見られた。
「あら、おかえりなさい。ミノト」
「ただいま戻りました、姉さま。すぐに夕飯の支度を致しますね」
ミノトは帰宅して早々、荷物を置くと、エプロンを手に取り、キッチンへと向かう。夕飯のメニューはすでに決まっており、無意識に身体がそれを作ろうと動く。故に、他のことを考える余裕が生まれる。
「姉さま、本日は申し訳ありませんでした」
「アレンさんのことですか?まあ、フェアリーテイルの皆さんはとても良い方ばかりですし、お話ししても大丈夫だとは思いますが、時期早々だと思うわ」
「はい、姉さま。痛恨の極みです」
ヒノエは、特に気にした様子ではなかったが、ミノトの表情は暗い。そんなミノトの様子に気付きつつ、ヒノエは気になっていることを口にする。
「ですが、フェアリーテイルの皆さまが知る日が来たとして、それをナツさん達がどう捉えるのか、少し心配です」
「イグニールやグランディーネなる竜は、とても優しく人間に対して友好的だとのお話ですが、私自身はまだ信じられません。ナツさん達も含め、アレンさんがどう思っているのか…」
ヒノエが顎に手を添えながら悩む素振りを見せる。
「そうですね。ナツさん達に関しては、きちんと割り切って関わっているように思いますわ。昔のフェアリーテイルのお話をお伺いする限り、我が子のように接していたようですし」
ヒノエは、ミラから聞いた過去のフェアリーテイルの話などを踏まえて口を開く。
「そこについては、姉さまの言う通りだと、私も思います。ですが、アレンさんの過去を知った時、ナツさん達はどう思うのか、そしてもしアレンさんがナツさん達の探す竜と遭遇した時、どのような決断をするのか…」
ミノトの言葉に、ヒノエは暫く沈黙を作る。最悪のシナリオた思い浮かぶ。
「そうですね…。最悪は滅竜魔導士との対立…引いてはフェアリーテイルの分断や内乱に発展するかもしれません」
「…アレンさんがどう決断しようとも、ナツさん達の重荷になることに変わりはありませんね」
アレンが竜との交流を選ぶのか、はたまた殲滅を選ぶのか、そのどちらをとっても、皆がアレンの過去を知った上であれば、複雑な気持ちとなるのはわかりきっている。加えて当事者のナツ達からすれば、それは更に大きなものとなるだろう。そんな風に考えていた2人であったが、ヒノエは意を決したように口を開く。
「…ですが、私は何があってもアレンさんの味方です。アレンさんが殲滅を望むのであれば、それに追従しましょう。例え、フェアリーテイルと敵対することになっても」
ヒノエは、これまでにないほどの覚悟を持った声で口を開いた。
「アレンさんにとって、竜とはそれほどの怨敵…。私も姉さまと同じ気持ちです」
ミノトはその言葉を皮切りに、夕飯の支度が済んだのか、テーブルへと料理を運ぶ。
「あら、できたのですね!折角の夕飯ですし、暗い話はこれくらいに致しましょう」
「はい、姉さま。では、アレンさんの子ども時代の話なんかいかがでしょうか?」
ミノトの提案に、ヒノエは嬉しそうに承諾し、夕飯を食べ始めた。

アレンは、日が昇る前に目を覚ました。時刻を確認すると、時計の針が3時を指していることが分かった。
「…あのまま随分と寝入っちまったのか…」
アレンは怠そうにベットから起き上がると、明かりをつけ、テーブルの上に置いた手紙を見つめる。そして、ふとあることを思い出す。
「そういえば、王国からの手紙開いてなかったなー」
アレンは王国からの手紙の封を開けると、数枚の紙に目を通す。執筆者はヒスイ王女であるらしく、先の英雄感謝祭で発生した竜種襲来に対する謝罪と感謝であった。
「ふっ…随分と律儀なものだな…だが、それにしても…」
アレンはヒスイからの手紙の末尾を見て、思わず顔が引きつる。
「毎日でも王宮に遊びに来てくださいって…いち魔導士が王宮に頻繁に出入りするのはまずいだろ…」
アレンは小さくため息をつきつつ、残りの2枚の手紙を手に取る。
「…いつまでも辛気臭くしててもしょうがねぇ…とりあえず、評議院と青い天馬に向かうとするか…」
アレンはそう呟き、身支度を済ませてまだ暗いマグノリアの街から去っていった。

アレンは口寄せの術で呼び出した鷹に乗り、まず評議院へと向かった。前回の連行の時と同じ会議室、同じメンバーで話を進める。評議院が得た情報と一瞬ではあるが、アルバトリオンを捉えたとされる映像魔水晶を見せられる。実際にこの目でアルバトリオンを見たことのないアレンであったが、自身が知りえるアルバトリオンの情報と合致していたこともあり、評議院とともに、この龍が煌黒龍アルバトリオンであるということで確定させた。
「して、アルバトリオンが目撃されたというのは、一体どこですか?」
「フィオーレ王国の北方、霊峰ゾニアの更に先にある、宵闇山の山頂付近じゃ…」
議長のクロフォードの言葉に、アレンは目を細める。
「神域と呼ばれる場所か…よくたどり着いたものだな…調査に出ていた評議員は?」
アレンの言葉に、議長は首を横に振った。
宵闇山は、山全体が霧と黒い雲に覆われており、太陽の光がほとんど届かない。だが、火山活動による溶岩がそこかしこに存在し、視認性はそこまで悪くはないものの、溶岩の熱や足場の不安定さに加えて、高度8000mを超えるために人間にとっては長時間の活動や生存ができないデスゾーンとなっている。
「…さすがの俺も、そんな環境の中ではそう身が持たんな…」
「うむ、それは承知の上だ」
「しかし、このまま野放しにしておくこともできまい」
アレンの強靭さであっても、先の環境の中では、戦闘時間は制限される。加えて敵はアクノロギアよりも強大。勝算はほぼ皆無であった。
「それは理解しているつもりです。ですが、奴を宵闇山で討伐若しくは移動した先で討伐するにしても、調査や作戦を練る必要はあります。私の持ちうる情報では、奴が私より強い可能性すらありうる」
「ふむ、あなたが知る情報とは?」
ベルノが小さく呟いたのを聞き、アレンはゆっくりと自分の持ちうるアルバトリオンの情報を話した。
天災と属性を司る異質な古龍。黒き太陽と言われるほどの力。火・氷・雷・龍の4つの属性を操ること。更に、「エスカトンジャッチメント」という、あらゆる生物の命を一瞬にして奪い去る技を用いることを話した。この話を聞き、評議員一同が、嫌な汗を流したのは言うまでもない。
「まあ、どちらにせよ、この依頼は引き受けましょう。といっても、依頼されなくても奴を討伐することに変わりはありませんが」
「うむ、我々も出来うる限りの協力をしよう」
「そういって頂けると助かります。しかし…」
クロフォードはホッとしたのも束の間、アレンの含みある沈黙に、暫し緊張を覚える。
「フェアリーテイルの解体と引き換えに俺を呼びだしたのは悪手だったのでは?」
「うむ…それほどまでに切羽詰まっていたと理解してほしい」
「はぁ、他にもいくらでも方法はあったでしょうに…」
アレンが呆れたように言葉を発するのと同時に、オークが苦笑いしながら口を開いた。
「じゃが、フェアリーテイルの行動が目に余るのは事実じゃ」
「…返す言葉もありません…、私の方からも、きつく言っておきましょう」
「ふふっ、それで改善するのであれば、とっくに改善しているのでは?」
ベルノが笑いながら言葉を発すると、他の評議院もつられてクスクスと笑い始める。嘲笑の笑いではなく、単純に呆れと可笑しさでの笑いであった。アレンはそんな雰囲気の議長たちを見て、「評議院の雰囲気も悪くはないな」と思ったのだが、評議院の特に上級評議院の雰囲気を変えたのがアレンであるということを、アレン自身が知ることになるのかは神のみぞ知る。

10年クエストや100年クエストでマグノリアの街を不在にしている時以外は、ほぼ毎日のようにギルドに顔を出すアレン。だが、そんなアレンが禁忌クエストの依頼の手紙を受け取った午後から丸2日顔を出していないことに、ギルドにいるものは不安な様子を浮かべていた。アレンが早々にギルドを去ったあの日、アレンの様子が少し変だったことに加え、詳細は分からないが、ミノトの口から漏れた含みのあるアレンの過去、そしてヒノエの言葉。ヒノエとミノトを除き、アレンの過去、引いてはフェアリーテイルに入る前のアレンについて知っている者がいないだけに、皆の表情に暗いものが浮かぶ。時刻は18時を回りかけ、酒場のカウンターを埋め尽くすように10数人のメンバーが集まっていた。
「アレンの奴、一体どこいっちまったんだろうな…家にもいないみたいだし…」
「あの日、早々にギルドを出たっきり見ていないな…」
グレイとエルザがそう呟くと、皆が悩むように表情を曇らせる。
「アレンがギルドに2日も来ないなんて…まさか…アルバトリオンの討伐に?」
カグラの言葉に、皆が焦ったように目を見開く。
「い、いやそれはないだろう…」
「アレンのことだ、例えそうだとしても、私たちにきちんと言ってくれるはずよ」
「そうだ!アレンが黙っていくわけねー!」
ジェラール、ウルティア、ナツが口々に言葉を発する。
「…でも、依頼が届いた日のアレン様の様子もちょっと変でした…」
「ヒノエとミノトの発言も、気になるゾ」
ユキノとソラノがそう言葉を発すると、皆暫く考え込むようにして考える。すると、ある集団がギルドへと入ってくる。
「なにしてんだ、お前ら。そろそろ日落ちるぞ…」
仕事を終えてギルドへと返ってきたラクサス達は、薄暗いギルドのカウンターで密会のような雰囲気を醸し出している集団に声を掛ける。
「ラクサス…」
「ええっと、最近アレンさんをお見掛けしないので、どうしたのかなと…」
ナツとジュビアが簡単に状況を説明する。
「あ?アレンだ?それなら仕事帰りに会ったぞ」
ラクサスの発言に、皆がガバッと立ち上がり、ラクサスへと詰め寄る。
「ど、どこですか!!」
「どこって…評議院の近くの街だが…」
ウェンディの焦ったような口調に、ラクサスは少し驚く。
「評議院…それじゃあ本当に…」
「急いで追いかけよう!」
シャルルとハッピーが焦りながら言葉を発すると、皆がバタバタと準備を始める。そんな様子をポカーンとみていたラクサス達であったが、フリードがそれを止めるように言葉を発した。
「何があったか知らんが、アレンはもう評議院の近くにはいないと思うぞ」
その言葉に、皆の動きが一斉に止まる。
「青い天馬に向かうって言ってたな?」
「ええ、なんかお礼がどうとかって言ってたわよ」
ビックスローとエバが、フリードの言葉を補うようにして口を開く。
「青い天馬…そうか、確か青い天馬からも手紙が届いてたな…」
「よし、青い天馬に向かうぞ!」
リオンとエルザがそいうと、皆そそくさと準備をしてギルドを後にした。ポツーンと残された形のラクサス達は、その集団を見届けると、呆れたように口を開いた。
「一体何だってんだ…」
「ちょっと、色々あったのよ…」
ラクサスの言葉に、あの集団の中で唯一ギルドに残ったミラが、小さく呟き簡単に事の経緯を説明する。
「なるほど、それでアレンの様子がおかしいことを心配していたというわけか…」
「評議院の近くに滞在していたのはそれが理由だったのね」
フリードとエバが納得したように頷く。
「しかし、煌黒龍アルバトリオンとは、また穏やかじゃないなー」
ビックスローの発言に、5人の表情が曇る。そんな様子の中、ラクサスが落ち着いた様子で口を開いた。
「まあ、だとしてもあいつが何も言わずに勝手に行くってことはないんじゃないか?」
ラクサスの言葉に皆が少し安心したように頷く。
「それに、他人の過去を詮索してやるな。アレンが自分から話すまで、待ってりゃいいんだ」
ラクサスのこの上なく素晴らしい言葉に、皆がポカーンと口を開いて固まる。そんな様子の皆に、ラクサスが怪訝な表情を浮かべる。
「な、なんだよ」
「…ラクサスもたまにはいいこと言うのね」
ミラの悪意ともとれる言葉に、ラクサスは軽く激高する。
「うるせー、てかお前は行かなくてよかったのかよ」
ラクサスは、いつもならカウンターで待機するミラの様子を疑問に思うことはないのだが、アレン絡みとなると、受付やウェイターの仕事をほっぽりなげて飛んでいく姿を見ていたので、怪訝な様子で疑問をぶつけた。
「んー、確かに心配だけど、あのメンバーなら大丈夫かなって。それにちょっと依頼が多くて捌ききれてないのよね…」
「…完全に後者だな」
ミラから理由を聞いたラクサスは、
「あら、何か言った?」
「…別に」
ミラの圧にさらされたラクサスは、プイッとそっぽを向いて目線を反らす。そんな2人の様子を見て、雷神衆の3人はくすくすと笑いを生む。
怪訝な様子で始まった話題は、笑いを生むほど穏やかな雰囲気で幕を閉じた。

評議院での依頼の引受を終えたアレンは、近くの街で一泊した。まずはアルバトリオンについての詳細な調査と、戦闘を前提としない潜入接触を考えていた。街での滞在時にラクサスや雷神衆と偶然出会ったが、仕事帰りということで、軽く会話をするに留まった。そんな風に考えながら街を出て向かっていたのは3つの内の手紙の1つである青い天馬であった。
事前に、今日青い天馬に向かうことを伝えていたため、街や青い天馬がアレンを出迎える形で歓迎した。
その後は青い天馬での1日ホスト体験をすることとなった。アレンは、先の首都における竜種討伐に加え、アクノロギアとの死闘による認知度の高さもさることながら、そのルックスと人柄の良さで瞬く間に大人気となり、日間売り上げの記録を2倍近くの値で更新するほどであった。
アレンのホスト姿は、客として青い天馬に訪れた女性だけでなく、ジェニーを始めとした青い天馬の女性陣ですら惚れ惚れとするほどであった。
そんな風にして1日体験を終えると、アレンはスーツのネクタイを緩め、天馬のギルドのカウンターへと座り込む。
「あらー、やっぱりあなた、いい男ね!客の娘もうちのギルドの娘も目がハートだったわよ!」
天馬のマスターボブが、アレンへ酒を差し出しながら口を開いた。
「そうでもないさ、1日だけだから物珍しさがあったんだろ」
「いや、そんなことはないさ!アレンさんの人柄とルックスは最高のモノさ、メエーン!」
アレンとボブの会話に入るように、一夜がアレンの隣に座り込む。アレンは差し出された酒を一口飲むと、真剣な表情で2人に声を掛けた。
「マスターボブ、一夜、あなた方にはなんとお礼を言っていいか…」
アレンの言葉に、2人は目を見開いた。
「あなたがいなかったら、今頃この国は滅亡してましたわ!」
「天狼島でのアクノロギアも、首都クロッカスでのドラゴンの襲来も、アレンさんがいたからこそ…メエーン!」
2人の言葉を聞きながら、アレンはふっと微笑しながら酒を煽る。
「俺はただ、自分の守りたいものを守っただけだ…それに…」
アレンは含んだように言葉を一度止める。
「それに…なんだい?」
一夜がその言葉を急かすように口を開いた。
「…首都を守ったのは俺じゃない。一夜たちを含む皆だろ?」
その言葉に、ボブや一夜だけでなく、後ろにいたトライメンズとジェニーも目を見開いて固まる。
「ふふっ…やはりあなたには敵わないな…」
「さすがはアレンさんですわ!とても…かっこいいですわ」
ヒビキとジェニーが感銘を受けたように呟く。そんな風に良い雰囲気のギルド内であったが、ドカーン!と扉を思いっきり破壊する音によってそれは遮られる。
「「「「「「「「「「アレーーーーーンッ!!!」」」」」」」」」」
「なっ!お前ら!何でここに!!」
アレンはその扉から大きな音を叩きだした現況を確認すると、驚いたように口を開く。
「メ、メエーン…」
「と、とびらが…」
一夜とレンが引きつった表情でその様子を見ていた。アレンは大きくため息をついて一夜とボブに声を掛ける。
「すまない、扉の修理は俺から出す…本当にすまない」
「ま、まあ、これが妖精…と言ったところよね…」
アレンが頭を抱えて小さく呟くと、それを擁護するようにジェニーが口を開いた。そんな風に会話をしていると、フェアリーテイルのメンバーがアレンへと詰め寄る。
「アレン!無事だったか…ッ」
「間に合ってよかった…ッ」
「私はてっきり討伐に出ているのかと…ッ」
「全然ギルドに顔を出さないから心配しました…ッ」
「全く、心配させないでよ…ッ」
「グレイ様が落ち込んでおりましたよ…ッ」
「出かけるなら行って欲しかったゾ…ッ」
「私…そうしようかと…ッ」
エルザ、ルーシィ、カグラ、ウェンディ、ウルティア、ジュビア、ソラノ、ユキノの7人がそれぞれ声を掛けながらアレンに近寄る。だが、アレンのかっこいいスーツ姿、ホストの姿を見て、固まってしまう。
「「「「「「「か、かっこいい…」」」」」」」
つらーっと鼻血を垂らしながら、アレンの姿を見つめていた。ジュビアだけは、「はっ!わ、私にはグレイ様が…」と正気をとり戻した。それと同時に、男性陣がアレンへ声を掛ける。
「こんなところにいたんだな、アレン!」
「心配したぞ!」
「さあ、帰ろう」
ナツ、ジェラール、グレイがアレンの肩を叩きながら、笑顔を向ける。それを見たアレンはまた一つため息をつく。
「わりーな、これ以上天馬に迷惑かけるわけにもいかねーし、今日のところはお暇するわ」

アレンは、鷹を口寄せし、皆をのせてマグノリアの街を目指していた。深夜ということもあり、速度をおとして飛んでいることもあり、心地よい風が皆の頬を撫でる。
「なるほどな、俺がギルドに顔を出さなかったから心配してくれてたのか。そいつは悪いことしたな」
「全く、出かけるなら言ってくれ…」
「心配しただろう…」
エルザとカグラが頬をぷくっと膨らませている。
「悪かったって…そう怒るなよ」
アレンは2人の頭を撫でながらあやす。すると、2人は顔を赤らめて俯く。
「そ、それ、ずるいぞ…」
「…許しちゃうじゃないか…」
エルザとカグラが小さく呟く。それを見たジェラールが小さくため息をつきながらアレンに声を掛ける。
「しかし、評議院に行ったということは、例の依頼に関して聞いてきたのだろう?」
ジェラールの言葉にアレンは目を見開いたが、すぐにそれに返答する。
「まあな、だが今すぐに討伐…というわけにはいかなかった」
「そ、そうか…」
ジェラールの様子を見て、アレンは小さく微笑む。
「それに、いざ討伐に行くとなれば、お前たちに黙って行ったりしないさ…」
アレンの言葉を聞き、皆が目を見開く。そうして、ナツがははっと笑って口を開いた。
「ほらな!アレンなら俺らに黙っていくなんてこと、ないって言ったろ!」
ナツの言葉に、皆がホッとしたような表情を浮かべていた。

評議院と青い天馬への訪問を終えたアレンは、フェアリーテイルのメンバーが怒涛の迎えに来たこともあり、無事にマグノリアの街へと帰還を果たした。
青い天馬への訪問の翌日、アレンは朝早くからフェアリーテイルのギルドに足を運ぶ。酒場にはまだ人が疎らであったが、見知った顔を見ていつものカウンターへと足を運ぶ。
「無事でよかったわ、アレン」
「おう、なんか無駄に心配かけちまったみたいだな」
ミラはアレンにニコッと笑いかけると、頼まれる前にコーヒーを差し出す。
「あら、私はアレンが何も言わずにどっか行っちゃうなんて思ってなかったわよ?」
「ははっ、さすがミラだな」
アレンはそんなミラの言葉に丁寧に返しながら、紙とペンを取り出す。そんなアレンの様子にミラは首を傾げながら声を掛ける。
「誰かにお手紙?」
「あー、王国への手紙…っていうか、ヒスイ王女への返信を書こうかなと」
アレンの言葉に、ミラは小さく身体を震わせる。
「そ、そういえば、王国からの手紙も来てたのよね…ヒスイ王女からだったのね…」
「そうそう、王宮に遊びに来てくださいって書いてあったけど、さすがにただの魔導士が王宮に入り浸るわけにもいかないしさ、かといってなんのアクションも起こさないとそれはそれで失礼かなと…」
ミラは目を見開いて驚いていたが、アレンの言葉を咀嚼するように頷く。
「そ、そうよね。王宮に入り浸るなんてダメよ…うん、絶対ダメ!」
「だろ?だからこうして手紙を書いてるってわけだ」
アレンの解釈とは違う解釈をしているミラであったが、アレンがそれを知る由もない。そんな風にアレンが手紙を書き、それをカウンター越しに笑顔を浮かべて眺めるミラという構図であったが、それが5分程経った頃、2人組の女性がギルドに入ってきたことで終わりを迎えることになる。
「あらあら、アレンさん。なんだかお久しぶりな気がしますわ」
「はい、姉さま。アレンさん、おはようございます」
ヒノエとミノトは、いつもと変わらぬ調子でアレンに声を掛けた。
「ああ、ヒノエ姉さん、ミノト姉さん。おはようございます。なんだかご心配をおかけしたみたいで、すみません」
「あらあら、そんなこと気にしなくていいんですよ?」
「はい、姉さまの言う通りです。ただ、出掛けるのであれば一言頂ければと思います」
アレンの謝罪に、これまた特に気にした様子もなく、2人は淡々と言葉を発していた。すると、ミノトが少し真剣な様子でアレンに近づき、声を掛ける。
「そんなことより、評議院でのお話はいかがでしたか?」
「ええ、詳しくは後ほどお話ししますが…煌黒龍アルバトリオンで間違いありませんね」
「そうですか…それで場所は?」
ミノトと同じように、ヒノエもアレンに近づき、話しの続きを問う。
「宵闇山の山頂付近です。こちらから手出しするのはほぼ不可能ですね…」
「宵闇山って、確か霊峰ゾニアの更に先にある未開の地…」
アレンの言葉に、ミラは考え込むようにして口を開いた。
「ああ、人が生存出来ない領域だ…まずは奴の動向などを調べるに留まるだろうな。討伐するにしても、別の場所に誘き出さないことには…」
「世界に何かしら行動を起こさないのであれば、無暗に手出しする必要もない…とも考えられますね」
「その辺も含め、調査が必要ですわ」
アレンの言葉に、ミノトとヒノエも考え込むようにして言葉を発した。
「まあ、とにかく、今すぐにどうこうできる話ではないってことですね…」
「入念な準備を要するようです…」
「後ほど、我々の知りうる情報など照らし合わせて、まとめるとしましょう」
ヒノエとミノトは、そう言い残し、フェアリーテイルでの仕事に取り掛かった。
「ねえ、アレン?」
「ん?」
ヒノエとミノトが離れていくのを見て、ミラがアレンに声を掛ける。
「ヒノエとミノトは、アルバトリオンについて何か知っているのかしら?」
「ああ、といっても俺が知ってることと差異はないと思うけどな。ミラも含め、フェアリーテイルのメンバーにも後でちゃんと伝えるよ」
「うん、よろしくね。今度は私もアレンの役に立てるように頑張らなくっちゃ!」
ミラは両手でガッツポーズをとって、アレンへとその意思を見せる。
「ははっ!頼りにしてるぞ、ミラ」
アレンは笑いを浮かべながらミラの姿を見つめる。まるで子どもに期待するかのようなアレンの表情にミラは頬を膨らませる。
「ちょっと、私はまじめに言ってるのよ!」
「わかってるよ…ほんとに頼りにしてるよ、ミラ」
「そう?それならいいんだけど…」
そんな風に会話を繰り広げながら、アレンは再び手紙を認め始めた。

さて、時刻は11時を少し回った頃。フェアリーテイルの酒場は、いつものような賑わいを見せていた。そんな折、アレンは王国への手紙を認め終え、休憩しながら軽く酒を煽っていた。そして、ギルドを見回すと、いつものメンツがいないことに気付く。
「あれ?マスター、ナツやエルザ達は仕事か?」
アレンはいつものようにカウンターのテーブルに腰かけているマカロフに声を掛ける。
「そうじゃ。じゃが、仕事とは言っても倉庫の整理じゃがな」
「なるほど、ミラも行ってるのか?」
アレンはいつもカウンター裏に控えているミラの姿がないことから、件の質問をした。
「確か、ナツ、グレイ、ルーシィ、エルザ、ミラ、カグラ、ウルティア、ジュビア、ウェンディそれとハッピーとシャルルが一緒に整理してくれておる」
「ほう?そりゃまた随分と大人数なことで…」
アレンは少し様子でも見に行ってやるかと思い、腰を上げようとするが、ヒノエに話しかけられたことで、それを止める。
「アレンさん、このマフラー、ナツさんのものではありませんか?」
「ん?ああ、本当だ…こんな大事なマフラーを置きっぱなしにするなんて、ナツの奴大丈夫か?」
アレンはヒノエからマフラーを受け取り、眺めながら呟いた。
「なんだか、今日はいつも以上にボケッとしていたぞ」
「ギヒッ!そりゃいつものことだろ。大方腹でも減ってんじゃねーのか?」
リリーとガジルが、軽口を叩くように声を発した。
「ま、気付いたら取りに来るだろ…俺が預かっといてやるか」
アレンはそう言ってナツのマフラーをカウンターに置き、再度酒を煽った。 
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