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Fate/WizarDragonknight

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吠え猛る山

「友奈ちゃん!」

 その声は、友奈にとっては僥倖だった。
 赤い龍。金色の眼差しと炎のような赤い胴体は、うねりながらトレギアの前に立ちはだかった。
 そして。
 ドラグレッダーとともに現れた、青いダウンジャケットを着た青年。
 城戸真司。

「友奈ちゃん、大丈夫?」
「う、うん……!」

 彼に助け起こされた友奈は、顔を輝かせる。
 真司は頷いて、トレギアへ向き直った。

「お前……トレギアっ!?」
「やあ、ライダー」

 トレギアは真司を指差す。いやらしく指を回し、

「君もここに来ていたんだね。全く……殺し合いの聖杯戦争に、よくそんなにつるめるね」
「そもそも、こんな戦い間違ってる! だから、俺が……俺たちが止めてやる!」

 真司は吐き捨てて、腰から黒い長方形を取り出した。手のひらサイズの小さなそれの中心には、金色の龍の顔をあしらったエンブレムが太陽の光をはね返していた。
 すると、どこからともなく銀のベルトが飛来、真司の腰に装着される。それを一顧だにせず、真司は右腕を真っすぐ斜めに伸ばした。
 そして。

「変身!」

 真司は高らかに宣言。エンブレム___カードデッキを、ベルトの中心にある窪みにセットした。
 すると、ベルトが起動。
 無数の鏡像が真司の姿に重なり、だんだんと立体となっていく。
 そして真司の姿は、鏡の騎士へと変わっていった。赤いライダースーツの上に乗せた、銀と黒の鎧。中世の騎士のような鎧兜の目元には、赤い魂がありありと現れていた。
 仮面ライダー龍騎。
 その名を持つ騎士は、左手に付けた籠手、ドラグバイザーを口元に近づけた。

「っしゃあっ!」

 気合を入れた龍騎は、トレギアへファイティングポーズを取る。

「面倒だな……マスター」
「はい、トレギア」

 ため息をついた少女が、人形を取り出した。どこにしまっていたのかと言いたくなる、白い人形。紙粘土で精巧にできたようなそれを、少女は躊躇なく放り投げた。
 トレギアの目が赤く発光し、右手を翳す。すると、

「インスタンス アブリアクション」

 蒼い光が放たれるそれ。
 トレギアの手から流れていくエネルギーはぐんぐんと白い人形が色を染め上げていく。
 やがて、人間大の大きさになった人形は、唸り声を上げた。

「「!?」」

 色が付き、生命のように躍動を始める、人形だったもの。
 周囲の木々を薙ぎ倒し、大地に巨木のごとく君臨する足。それは木々を飲み込み、森の上で新たな山となる。
 巨大な質量。それは、轟音を鳴らしながら動き出す。上下に分かれていく亀裂が、生物における口部分だと理解するのには時間がかかった。

「な、何だあれ!?」

 龍騎の悲鳴も心底理解できる。
 友奈の記憶をたどっても、あれほど巨大な怪物(バーテックス)と対峙したことはない。
 ゴーヤベックという名の怪物は、そのまま口を開き、吠えた。

「友奈ちゃん!」

 龍騎は慌てて友奈に覆いかぶさる。龍騎の鎧に無数の岩石が降り注ぎ、その体を大きく揺らしていく。

「真司さん!?」
「大丈夫……!」

 ようやく落石の雨が収まった。
 龍騎は起き上がり、こちらを見下ろすゴーヤベックを見返した。

「何てデカさだ……!」
「踏み潰して!」

 アカネの命令に、ゴーヤベックは動く。
 山の上に山が乗っていると錯覚してしまう中、友奈はゴーヤベックの足元にいるアンチの姿に血相を変える。

「アンチ君!」

 踏み潰される。
 そう考えた友奈は、大急ぎでアンチの前に立ち、その槌のような足へスマホを向けた。
 花びらのエフェクトとともに牛鬼が、その質量を防ぐ。だが、だんだんと圧されていき、友奈の足も地面を削る。

「うっ……!」
「友奈ちゃん! この……!」
『ストライクベント』

 背後で、龍騎がカードを装填している。彼の右手に装備された、龍の頭部の形をした武器。ドラグクローの口元に、炎が集っていく。
 ドラグクローの動きに合わせて、ドラグレッダーもまた動く。ドラグクローの炎とドラグレッダーの炎が同時に吐き出され、ゴーヤベックの足を燃やしていった。
 苦手であろう炎に、ゴーヤベックは後ずさりし出した。燃える足を振り回し、暴れる。

「友奈ちゃん、大丈夫か?」
「うん。あ、危ない!」

 友奈は叫んだ。
 トレギアのマスターであるアカネは、今も変わらずトレギアのすぐ近くに佇んでいる。巨大な足が踏み鳴らす場所であり、今にも潰されてしまわないか心配になる。
 友奈は彼女の救出に向かおうとするが、その前にゴーヤベックの柱と見紛う足が友奈を止める。
 さらにゴーヤベックが、その牙で友奈と龍騎を食らいつくそうとする。
 その直前、龍騎は友奈をお姫様抱っこで飛び退く。友奈は一瞬唖然としていたが、すぐさま我に返り、龍騎の腕から降りた。
 そして。
 改めてスマホを取り出した友奈へ、ゴーヤベックが吠えた。

「うっ!」
「な、なんて衝撃だ……!」

 ゴーヤベックの咆哮は、山が吠えているのとほとんど同義。
 重圧を持った空気が友奈たちの上から圧し掛かって来たのだ。
 さらに、ゴーヤベックの体が動く。
 生身の友奈と装甲の龍騎を木々ごと食らい尽くそうとするが、龍騎は急いで友奈を抱えて退避する。

「大丈夫か、友奈ちゃん……」
「うん……うっ!」

 体の痛みがまだ抜けない。
 友奈は龍騎より下ろされて、ゴーヤベックの体を見上げる。
 ゴーヤベックは、何度も友奈たちへその牙を突き立てる。
 友奈たちが死に物狂いでゴーヤベックの攻撃から退避しているとき、トレギアの声が聞こえてきた。

「マスター」

 トレギアが森の奥の方を指差している。
 苛立つように、アカネはトレギアを振り向いた。

「何!?」
「いたよ。あれ」
「あれ……っ!」

 その時、アカネの目の色が変わる。
 友奈には、彼女の視線の先……森の中で、何かが蠢く姿が。そして、茂が揺れる場面さえ見えた。

「ムーンキャンサー!」

 その表情は鬼気迫るものだった。
 さっきまでのやつれた顔とは真逆に目を輝かせ、そのまま、アカネが走っていく。
 蠢いた何か。それが、彼女がこの山奥に来た目的に違いない。
 追いかけようとした友奈だったが、その前に無数の落石が遮った。
 下あごの影だけでも、友奈を覆いつくすほどの巨大さ。それが振動を繰り返せば、その体から無数の落石が落ちていく。
 だが。

「友奈ちゃん! これ持って行って!」
『ガードベント』

 龍騎が、その左手のドラグバイザーを鳴らす。
 彼の手に、ドラグレッダーの胸を模した盾、ドラグシールドが握られる。龍騎は即座にドラグシールドを投げ、友奈の頭上に迫った落石を弾き飛ばした。

「た、助かった……ありがとう真司さん!」

 友奈は落ちたドラグシールドを拾い上げ、傘のように頭上に当てる。
 ドラグシールドの特別な防御力が、友奈への落石を次々と防いでいく。
 だが、衝撃を殺しきれず、友奈は何度も後ずさる。
 その最中、友奈の目が捉えた。
 アンチが、落石の雨を掻い潜りながらアカネを追いかけていくのを。

「待って! アンチ君!」

 友奈はドラグシールドを握る力を強めながらアンチの背中を追いかけだす。
 落石が何度も友奈の頭、肩、足を打ち付ける。だが足を止めることなく、ただ。
 気になる怪獣の少年の後に続いて、茂の中へ入っていった。



 ゴーヤベックの落石を避けた龍騎は、友奈が消えていった茂を見つめた。
 追いかけようとするが、ゴーヤベックの落石に足が止まる。頭上で口をゆっくりと開けるその姿を見て、龍騎はゴーヤベックを倒すことを優先しようと決意した。
 巨体を見上げ、龍騎は改めて「っしゃあ!」と気合を入れる。

「さっさとやっちゃうぞ!」

 龍騎はそう言って、腰のカードデッキからカードを引き抜いた。
 カードデッキと同じ紋章が印されたそれを、龍騎はドラグバイザーに装填した。

『ファイナルベント』

 だが、即座にゴーヤベックの体から無数の岩石が降り注いできた。
 だが、赤い龍の体が、無数の岩石を流し、砕いていく。
 無双龍ドラグレッダー。それは、柔軟な動きとともに、龍騎の周囲を旋回していく。
 同時に、龍騎もまた両手を前に突き出し、そこから姿勢を低くし、頭上を舞う赤き龍へ舞を捧げる。
 そこからジャンプし、高いところからキックをするのが龍騎の必殺技、ドラゴンライダーキック。
 だが今回、龍騎の頭上にはゴーヤベックの巨大な顎が傘となった。
 しかし、そんなもので龍騎は止まらない。龍の咆哮とともに、龍騎は上昇していく。炎の拳とともにゴーヤベックの顎を砕き、貫いていく。
 そして。

「はああああああああっ!」

 龍騎は体を捻らせ、ゴーヤベックへ足を向けた。さらに、回転を続けるドラグレッダーもまた、その大口を龍騎の背中に沿わせる。

「だああああああああっ!」

 ドラグレッダーの口から吐かれる炎が、龍騎の体を包んでいく。右足に集約していく炎とともに、赤き龍もともにゴーヤベックへ突き進む。
 人馬一体ならぬ、人龍一体となった龍騎の必殺技、ドラゴンライダーキック。
 それを飲み込んだゴーヤベック。だが、これまで逃げられたものがいない龍の蹴りが、岩石の牢獄程度で防ぎきれるはずがない。
 ゴーヤベックの閉じた口から、炎が溢れ出す。それは、口どころかゴーヤベックの全身から噴き出ていく。
 やがて、山を思わせる怪物は、その体を火山と化す。
 爆発とともに噴火を思わせる火柱が見滝原山にそびえたち、無数の燃える岩石が降り注いでいく。
 そして、その中に立つのは。
 勝利の咆哮を上げるドラグレッダーを従えた、鏡の仮面騎士(ライダー)龍騎。



 誰もいない山道。
 できたばかりの獣道を下り、アカネはようやくたどり着いた。

「ムーンキャンサー……!」

 ようやく見つけた。
 トレギアに唆されて召喚した第二のサーヴァント。それは、疲れ果てたかのように触手を地面に投げ出し、その体も力なくへこたれている。
 その軟体生物を思わせる体を投げ出し、ミイラのように乾こうとしている。

「ムーンキャンサーっ!」

 アカネはムーンキャンサーの頭に触れた。
 柔らかい手触りに心地よさを感じながら、ムーンキャンサーの顔を持ち上げる。
 抵抗することもなく、ムーンキャンサーは顔をアカネに動かされていく。そのつぶらな瞳は、何を考えているのか分からない。
 ムーンキャンサーの顔を胸に抱き留めたアカネ。
 ムーンキャンサーは数回その頭部でアカネの体を撫でていく。やがて鎌首を持ち上げたムーンキャンサーは、その体を浮かせていく。
 やがて、ボコッボコッと、その体が変化していく。
 肩の部分が震え、そこからそれぞれのパーツが生成されていく。夕日に照らされたムーンキャンサー。その半透明な体は、太陽の光をプリズム状に反射させ、虹色の美しさを見せていく。
 触手を広げ、より大きく見せていくその体に、アカネは思わずため息をついた。

「ムーンキャンサー……熱いよ……」

 アカネは静かに、シャツのボタンに指を触れた。
 一つ。また一つ。
 白いボタンを外し、だんだんと柔肌が露わになっていく。鎖骨、腹、臍。女性としては異性を引き付けるプロポーションだが、今この場にはムーンキャンサーしかいない。アカネの白い肌が夕日によって色が変わっていく。白い下着姿を自ら以外が目にする機会など、金輪際ないだろう。
 ムーンキャンサーはしばらく顔を傾けた後、その触手を静かにアカネへ泳がせた。
 触手は抱擁のようにアカネの体を掴まえ、そのままムーンキャンサーへ引き寄せていく。アカネの体がムーンキャンサーへ近づくごとに、触手が、どんどん増えていく。
 一本一本がアカネの体を締め付け、巻き付けていく。
 ムーンキャンサーの触手がアカネの肌に触れるたびに、アカネの神経は過敏に反応し、表情が強張ってしまう。
 やがてムーンキャンサーは接吻のように顔を傾けると、全ての触手が集まり、やがて繭となってアカネを包んでいった。 
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