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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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GX編
  第117話:大人は子供を助けるもの

 響が敗北し、ジェネシスもオートスコアラーも撤退した。それを見て颯人も撤退し、本部へと戻っていた。

「よ、ただいま」
「お帰り、颯人」

 戻った颯人をいの一番に奏が出迎え、彼から預かった帽子を返した。颯人は奏から返された帽子を被り直すと、早速響の状態を訊ねた。

「んで、響ちゃんの方は? 大事無いって思っちゃいるけど」
「うん……翼達と大体同じ。体は大きく問題ないけど、ギアが破損して今は修復中だって」

 大体予想通りの状況に、颯人は帽子を何時もより目深に被りながら周囲に鋭い目を向ける。

 その視界にエルフナインの姿が映らない事に、颯人の右眉がピクリと動く。

「エルフナインちゃんは? もうギアの改修作業?」
「あぁ。翼とクリスのギアの改修に取り掛かってる。響のギアは今了子さんが修理中」
「ふ~ん……大変だねぇ」

 まるで他人事の様に呟く颯人だったが、その頭にウィズが拳を落とす。

「何を暢気な事を言っている。お前も遊んでいる暇はないんだぞ」
「イッテェなぁ……何? どういう事?」
「お前と残り二人、魔法使いは今から全員鍛え直しだ」
「は?」

 いきなり何を言い出すのかと颯人が聞き返すが、ウィズは聞く耳持たず颯人の襟首掴むと引き摺って行く。突然の事に颯人が抵抗するも、ウィズの手は緩まず颯人は指令室の外へと引っ張り出されてった。

「颯人達は暫く預かる。何かあったらアルドに連絡してくれ」
「分かった。あまり無茶させ過ぎないようにな」
「そんなに柔じゃない」

 弦十郎とウィズが短いやり取りを終え、改めてウィズが颯人を引き摺って指令室から出た。奏は何となくその後について行く。

「颯人達を鍛え直すって、具体的にどうするんだ?」

 魔法使いに関しては知らない事の方が多いので、奏は気になりウィズに何をするつもりなのか訊ねる。

 ウィズが何をやろうとしているのかは大体分かる。新たな敵、錬金術師とオートスコアラーとの戦いに備える為、魔法使い3人の地力を上げさせる為に鍛えようと言うのだろう。
 奏が気になるのはその方法。一体どんな方法で颯人達を鍛えるつもりなのか?

「颯人達の内に眠るファントムの力を活性化させる。私の見立てだと、3人のファントムは十分に熟してきている。その力を今までよりもさらに強く引き出せるようにすればいい」
「ファントムを活性化って、そんなことして大丈夫なのか!?」

 颯人はこれまでに何度も無茶をしてきた。そんな彼が、ファントムを活性化などさせたりすれば、最悪ファントムの覚醒を促すのではないか? 奏はそう懸念してウィズに問い掛けた。

 しかしウィズは奏の懸念など知った事かと言わんばかりにしれっと答えた。

「何も問題はない。君は颯人の事より自分の事を気にするべきじゃないか?」
「アタシの事?」
「現時点で、錬金術師の手の物に破壊されていないシンフォギアは君と暁 切歌、月読 調の3人だ。その中でも君は実力が抜きんでている。優先的に強敵が回されるのは間違いなく君だろう」

 それは言外に切歌と調は片手間に無力化できてしまうという事を述べていた。そのことに気付いた奏は咄嗟に周囲を見渡す。幸いな事に近くには2人の姿はない。今の話が聞かれる心配はなさそうだ。

 ほふぅと安堵の溜め息を奏が吐いていると、ウィズは改めて颯人をある部屋に引き摺って行った。

「だぁぁぁぁ! もういい加減手を放せよ! 自分で歩けるっての!!」

 これ以上物みたいに引っ張られるのはごめんだと颯人が暴れれば、ウィズの方もそろそろいいかと手を放して彼を解放した。自由の身になった颯人は、立ち上がると引き摺られて乱れた服装を直す。

「ったく」
「もたもたするな、さっさと来い。もう2人は待っているぞ」

 言うが早いかウィズは目的の部屋の扉を開けた。その先では既に透とガルドの2人が待っているのが見えた。
 ウィズが扉を開けたのを見て、それまで椅子に座っていたらしき2人は扉の方を見て立ち上がる。2人が立って迎えたのに対し、ウィズは颯人に顎をしゃくってさっさと入るように促した。颯人は肩を軽く竦めて部屋に入る。

 流れで奏も颯人について行こうとするが、それはウィズにより防がれた。伸ばされた腕が通せんぼし、奏は室内に入れない。

「ここから先は魔法使い専用だ。悪いが君は留守番しててくれ」
「…………分かった」

 本当は颯人の事が心配だったが、魔法使いではない奏がついて行っても出来る事などない。何より奏が離れている間に何かあれば、それこそとんでもない事になる。
 渋々奏はその場に残る事を選ばざるを得ず、だがそれでも颯人の事が心配なのか不満そうな顔を隠せずにいた。

 そんな奏を見てか、颯人は苦笑を浮かべると一度奏に近付き被っていた帽子をまた奏に被せた。その際やや目深に被せられたのか、奏の視界が僅かな間塞がれる。

「ちょ、また……」
「まぁあれだ。俺らがいない間、頼れるのは奏だけって事だ。少しの間頼んだぜ」
「へいへい」

 奏の答えに颯人は笑みを浮かべ、踵を返して部屋に入る。颯人が部屋の中央に立ったのを見ると、ウィズが右手をハンドオーサーに翳した。

〈テレポート、ナーウ〉

 颯人達は一瞬光に包まれ、光が治まった時にはウィズを含めた4人は本部とは全く違う場所に居た。文明的な部屋ではなく、岩肌剥き出しと言った何処かの洞窟の中。
 透とガルドには見覚えが無いが、颯人はこの場所を知っている。ここは颯人が最初にウィズに連れていかれたアジトだ。

 この場所が初めての透とガルドは物珍しそうに周囲を見渡している。

「ウィズ、俺達をここに連れてきてどうするつもりだ?」

 颯人が代表してウィズに問うと、彼は何も言わず3人に手招きをしながら移動した。3人がそれについて行くと、そこには3つの部屋があった。

「お前達にはこれから、自分の中のファントムと向き合ってもらう」
「ファントムと?」
「さっき天羽 奏にも言ったが、お前達3人のファントムは十分に熟した。ここからお前達は、そのファントムと向き合い力を引き出せるようにする必要がある」

 ウィズがそう言うと、何もしていないのに部屋の扉が開いた。

「この部屋にはそれぞれに合わせた魔法陣を組んである。そこに入れば、お前達は自分のファントムと正面から向き合いその力を一身に受ける事になる。その力を受け、乗り越えろ」

 そう言ってウィズは一歩下がった。雑な説明だったが、取り合えず部屋に入れば力が得られると3人は互いに頷き合ってそれぞれの部屋に入っていった。

 颯人が中央の部屋に入ると、背後で扉がバタンと閉められる。それと同時に足元に魔法陣が描かれ、颯人の目の前に彼の身の丈を大きく超える巨躯のドラゴンが姿を現した。

 宙に浮いたドラゴンがゆっくりと颯人に顔を近付けてくる。
 威圧する様に近付いてくるドラゴンに対し、颯人は挑発的な笑みを浮かべた。

「久しぶりだな。積もる話もあるだろうが、悪いが時間があまりないんでね。さっさと始めてくれ!」




***




 響の敗北と颯人達魔法使いの一時離脱から早1週間。プロジェクト・イグナイトは順調に推移していた。

 元々保管されていた聖遺物とシンフォギアに関する資料があったので、エルフナインも特に苦労することなく作業を進められていた。
 ただその作業に了子は携わっていない。理由は奏のギアの改修に手を回していたからだ。

 奏は止むを得ない理由からイグナイト・モジュールを搭載する事が出来ない。その代わりとなるものを搭載する為、現在アルドと共に奮闘しているとの事。

「……それにしても、シンフォギアの改修となれば秘密の中枢に触れる事になるのに……」

 この状況に、慎二は弦十郎に不安を零す。アルドにエルフナイン。この内アルドに対しては利害の一致などもありある程度信用できるが、未だ完全に信用しきれるものではないエルフナインに改修を一任する事に対して不安があるのは弦十郎も理解できる。

 しかし…………

「状況が状況だからな。それに、八紘兄貴の口利きもあった」
「八紘兄貴って、誰だ?」

 何気なく弦十郎の口から出た名前に、初めて聞くとクリスが首を傾げた。それに答えたのは奏だった。

「旦那の兄貴で、翼の親父さんだよ。だよな、翼?」
「ま、まぁ……」

 奏の言葉に、翼はやや歯切れ悪く答えた。その様子にクリスが違和感を覚え首を傾げるも、疑問を表に出す前にマリアが話に加わって来た。

「私のS.O.N.G.編入を後押ししてくれたのも、確かその人物なのだけど……なるほど、やはり親族だったのね」

 納得した様子のマリアだったが、肝心の翼は複雑そうな顔をしている。先程に続き親族の話だと言うのに微妙な顔をする翼に、マリアもやはり違和感を覚えたのか不思議そうな顔をせずにはいられない。

「どうした?」
「ん~、あ~……」
「天羽先輩、何か知ってんのか?」
「知ってると言えば、まぁ……」

 今度は奏の歯切れが悪くなった。言いたい事は割かしはっきり言う彼女にしては珍しい。
 つまりはそれだけ複雑な事情があるという事か。そのことに気付いたマリアが口を閉ざすと、発令所に未来が入って来た。

 未来の存在に気付くと、奏はこれ幸いと言わんばかりに手を上げて未来に声を掛けた。

「よっ、未来!」
「奏さん、どうも」
「響の様子か?」
「はい。さっき見てきました」

 未だ目覚めぬ響を心配して、未来は本部に頻繁に足を運んでいた。本来であれば部外者をホイホイ本部に入れるようなことは出来ないのだが、未来の場合は事情が事情なので殆ど特例で顔パスで入れる状態であった。

「生命維持装置に繋がれたままですが、大きな外傷も無いし心配いりませんよ」

 未来の心情を慮ってか、慎二が気遣う様にそう話した。それを聞いて未来はどこか儚げな笑みを浮かべながら感謝の言葉を口にする。

 その時、発令所の照明が消えモニターに大きくアルカノイズ出現の表示がされた。

「ッ、アルカノイズの反応を検知!」
「座標、絞り込みます!」

 オペレーター2人が素早く状況を確認し伝える、
 その結果、アルカノイズが出現したのは今本部が入港している港のすぐそばの発電所である事が分かった。

 正面モニターにはアルカノイズにより、直ぐ傍の発電施設が破壊されつつある様子が映し出される。

「まさか、敵の狙いは…………我々が補給を受けている、この基地の発電施設!」
「頭使うじゃねえか! 旦那! アタシのギアはどうなってる!」
「ちょっと待て、今確認する!」

「何が起きてるデスか!?」

 急激に慌ただしくなった発令所に、切歌と調の2人が飛び込んできた。あおいと朔也の2人は、次々と入ってくる情報を発令所に居る面々に伝えた。

「このドックの発電所が襲われてるの!」
「ここだけではありません! 都内複数個所にて同様の被害を確認! 各地の電力供給率、大幅に低下しています!」

 今このタイミングでの電力供給のカットは色々な意味で痛い。ギアの改修にも影響が出るし、何より生命維持には多くの電力を使う。それが断たれたとなれば、最悪響の容態が悪化する危険もあった。

「それじゃあ、メディカルルームも!?」

 現状の危機感に多くの者達の目が正面モニターに集中する中、調は伊達メガネを取り出し静かに掛けると、切歌を伴ってその場を後にした。

「潜入美人捜査官眼鏡を取り出して、一体何をするつもりデスか?」
「……時間稼ぎ」
「なんデスと?」

 思わず聞き返してくる切歌に、調は真っ直ぐ正面を見据えたまま答えた。

「今必要なのは、強化型シンフォギアの完成に必要な時間とエネルギーを確保する事」
「確かにそうデスが、全くの無策じゃ何も……」

 何より今の2人にはLiNKERが無い。あれが無ければ2人は例えシンフォギアを纏ったとしても時間も力も大したものではない。前回、クリス達を助け出すのが精一杯だったのだ。今回の様に多数のアルカノイズを一度に相手取るのは難しいと言わざるを得ないだろう。

 それは調も分かっていた。分かっているからこそ、それを何とかする為に行動を起こしたのだ。

 調が切歌を伴って向かった先は、メディカルルーム。調はそこである物を手に入れるつもりだった。

「全くの無策じゃないよ」

 訝しむ切歌と共に、調はメディカルルームへと忍び込む。そこには今も尚響が静かに眠っていた。

「このままだと、メディカルルームの維持も出来なくなる」

 調の視線と言葉から、彼女が響を助ける為に行動を起こしたのだと切歌は気付いた。

「だったらだったで、助けたい人が居ると言えばいいデスよ!」
「嫌だ」
「どうしてデスか?」
「恥ずかしい……切ちゃん以外に、私の恥ずかしいところは見せたくないもの」
「はぁぁぁぁぁぁ! 調ぇぇぇぇぇぇ!」

 調の可愛らしい答えに、切歌は状況も忘れて調に飛びつこうとする。しかし調はそれを華麗にスルーし、結果切歌は床と盛大にキスをする事になった。

「て、ててて……全く何デスか、もう」

 床に盛大にぶつけて赤くなった鼻を押さえながら切歌が顔を上げると、調はメディカルルームの一画にある棚を開けた。床の近くに置かれたその棚の中には、怪しい緑色の薬液が入った試験管が並んでいる。
 それはLiNKER.MODEL K……奏専用に調整されたLiNKERだった。

「全く調ってば、穏やかに済ませられないタイプデスか?」
「メディカルルームなら、奏さん用のLiNKERの予備が保管されててもおかしくないもの」
「訓練の後、リカバリーを行うのもここだったデス」

 これがあれば自分達もシンフォギアを用いて戦える。奇しくも以前の戦闘で、奏がマリアにLiNKERを分け与えた事で2人はいらぬ事を覚えてしまったらしい。

 調が保存庫の中に手を伸ばして、試験管の一本を取ろうとした。

 その時、2人の背後から強い懐中電灯の明かりが照らされた。

「はいそこまで~! 悪戯の時間は終わりよ、小さい泥棒さん?」
「デッ!?」
「あっ!?」

 そこに居たのは了子だった。何時の間にかメディカルルームに来ていた了子は、部屋に備え付けの懐中電灯で2人の事を後ろから照らしたのだ。

「な、何で了子さんがここに!?」
「そりゃ響ちゃんを心配しての事に決まってるじゃないの……ってのは建前で、アルドから貴方達2人がメディカルルームに入っていくのを見たって言われて、何をするつもりなのかピンと来たって訳」

 響をメディカルルームで治療する際、もしもと言う時の事を考えアルドが響の周りに不可視の結界を張っていたのだ。響に近付く者を弾いたりするようなものではなく、誰かが近付けばアルドに報せが届く程度の簡単なものだが。

 そして飛んできた了子は、自分が入った事にも気付かず奏専用のLiNKERに夢中の調と切歌の2人を発見したのだった。

「全く、困った子達ね。そのLiNKERは奏ちゃん用だって言ったでしょ。マリアちゃんは問題なかったけど、貴方達はまだ子供。そんな子供達に奏ちゃん用の強力な奴を使ったりしたら、オーバードーズで最悪戦う前からグロッキー何て事にもなりかねないのよ。そこのところ分かってる?」

 突如始まった了子からの説教に縮こまり正座する2人。自分達がやっている事が本当は良くない事だと理解しているので何も言い返せない。
 しかし同時にジッとしていられないと言う少女特有の溢れる気概が何時までも黙っている事を良しとしなかった。

「でも、このままじゃ響さんが――!?」
「私達だって、戦えるんデス!」

「シャラップ!」

 2人の反論を了子は一喝で黙らせる。普段笑顔で優しく接してくれる了子からの厳しい一喝。

 だが了子は直後に柔らかな笑みを作り、正座した2人に視線を合わせるようにその場で膝をついた。

「その気持ちは大事よ。だけど、無鉄砲はダメ。何かしたい事があるなら、まずは大人を頼りなさい。大人は貴方達子供を守り手助けする為に居るんだから」

 そう言って了子は二本の試験管を2人に一本ずつ手渡した。それは明らかにLiNKERだった。

「え!?」
「了子さん、これ!」
「貴方達2人の為に、大急ぎで調整したLiNKERよ。と言っても急ごしらえだから、まだまだ完全じゃないわ。不具合が出ないと言う保証はないけど、それでもこっちの方がマシな筈よ」

 了子が翼とクリスのシンフォギアの改修作業に携わっていなかった理由の一つはこれだった。奏のギアの改修に加え、LiNKERの調整作業までしなければならなかったのだからそりゃ手が回る訳もない。

 LiNKERを受け取った少女2人は、自分達の身を案じて無理をしてくれた了子に感謝した。

「了子さん……!」
「ありがとうございます!」

 切歌と調の2人は、了子から受け取ったLiNKERを手にその場を後にした。

「……よし! こっちもあともう少し!」

 2人の少女を見送ると、了子は気合を入れ直し奏のギアの改修に戻るのだった。 
 

 
後書き
という訳で第117話でした。

この作品では了子さんが生きてますので、細々とですがマリア達3人用にLiNKERの調整も行っていました。マリアの時はそれが間に合わず、かつ奏が勝手にマリアに自分のLiNKERを分け与えてしまいましたが。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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