| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

矢澤にこ、結婚!!!!!!

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

矢澤にこが結婚してしまう話

 
前書き
虎太郎視点です。 

 
僕は姉、矢澤にこの事が好きだ。この世界で1番愛していると言っても過言じゃないくらいに。
きっかけはもちろん僕が小さい頃から姉がしていたスクールアイドル活動だ。1回学校まで見に行った事があるのだが、あまりの凄さに僕は驚愕した。フリフリの衣装、煌めくツインテール、輝く笑顔。僕の世界は丸ごと塗り変えられてしまった。
 
それから僕は姉である矢澤にこを意識しはじめた。褒めて欲しくて勉強も頑張りだした。褒めてくれるたびに見せてくれる優しい表情に僕は更に落ちていった。
 
僕だけが見たことのある姿。
僕だけに見せる表情。
そういうのを意識していると不意にある事が頭をよぎった。
 
 
もし姉に僕以外にも僕のような人ができたら……?
 
 
それからというもの僕は姉のアイドル活動に対して否定的になった。表向きには「厄介なファンなどに絡まれると危ないから」と言っているが、本当は違う。姉が他の人に取られてしまうかもしれないのが嫌だからだ。それに大勢の男が姉に群がる事にも耐えられなかったからだ。にこねぇちゃんの良さは僕が知っていればいい。にこねぇちゃんを独り占めしたい。
 
そう、僕は歪んでいる。
 
 
──────────────
 
 
「にこお姉さまがアイドルを引退するそうです」
 
 
ある日姉のこころからそういう連絡が来た。
 
 
「それ本当!!?? 〜〜ぃぃいやっほぉぉぉ!!! やったぁぁぁぁ!!!!」
「……お姉さまの心配をしていたのは知っていますが、そこまで露骨に喜ばれると少し不快ですね」
「まぁまぁ、嬉しいんだから仕方ないじゃん。はぁ〜遂に僕の思いが届いたのか……」
「ちなみに次は女優になるらしいですよ」
「女優!!??」
 
 
そんな! まだ僕だけのものになってくれないなんて……でもまあ……アイドルよりはマシかな。キモいおっさんが群がるわけじゃないから。
 
 
「あと今日久しぶりに帰ってくるそうです」
「本当!!??」
 
 
やった! 久しぶりに生のにこねぇちゃんを目におさめることができる!!! 神か?
 
僕の気分はかなり良かった。
 
 
 
 
だが、その先に待っていたのは最悪の展開だった。
 
 
 
 
「実は私、結婚する事にしたの」
「え」
 
 
何もかもが足元から崩れ落ちる感覚。あのにこねぇちゃんが誰かのものになる? ありえない。そんなもの僕が1番望まなかった展開だ。
 
それからその彼氏とやらの話が始まったが全て頭には入らなかった。ただ理解できたことは世間に発表するのは明後日、式はそれから2週間後という事だけだ。タイムリミットはあと2日。それまでにどうにかしないと結婚する事が確定してしまう。
どうする!? どうしたらいいんだ?? にこねぇちゃんに結婚止めるように説得するか? ダメだ。この祝いムードの中そんな事したらにこねぇちゃんを悲しませてしまう! 彼氏を嫌いになるように仕組むか……? それもダメだ。にこねぇちゃんが傷つく! じゃあ彼氏を殺すか……? それもにこねぇちゃんが悲しむ!
じゃあどうしたらいいんだ……? にこねぇちゃんが誰かのものにならないかつ悲しまない方法……
 
 
 
 
そうだ。にこねぇちゃんが死ねばいいんだ。
 
 
 
そうすれば誰かのものになる事もない。女優になる事もない。苦しませずに殺してあげることができれば悲しくもならない。僕も後追いで死ねば永遠に僕だけのものになるじゃないか。
よし、そうと分かれば早速準備しよう!
 
 
そうして僕は人を苦しませずに殺す方法を調べた。結果、ヘリウムガスを使用する方法にたどり着いた。頭に袋を被せ中をヘリウムで満たせば酸欠で死ぬらしい。この方法、普通は自殺に使われるらしいけど他殺で良い方法がなかったからこれにすることにした。
 
という事で次の日僕は学校帰りに酸素を含まないヘリウムのボンベと頭に被せる用の袋、密封用のゴム、そして今回の計画は気付かれないように睡眠中に行うため途中で起きないように睡眠薬を買って帰った。
 
その夜睡眠薬をにこねぇちゃんの食事に潜ませ準備完了。みんなが寝てからある程度経つまで待つ。
 
 
深夜1時。外に隠しておいたヘリウムのボンベを取り出しひっそりとにこねぇちゃんの寝る部屋に近づく。廊下を進みゴールまであと少しの時。不意に電気がついた。
 
 
「ふぁぁ〜……あれ? 虎太郎? どしたのこんな夜中に……ってなにそれ? ボンベ?」
 
 
ここあの部屋からここあが出てきた。
まずい。なんてごまかそう。必死に考えるが思いつかない。こんな夜中に真っ暗闇の中ボンベを持ってする事なんてマジで無いだろ。
 
 
「なぁ虎太郎、なにそれ? 虎太郎〜」
「あと、えと、あー」
「うるさいですよ。どうしたんですかこんな夜中に」
 
 
まずいまずいまずい! こころまで出てきた!! こころねぇちゃんは頭良いからバレるかもしれない!! 適当に誤魔化して早くやり過ごそう。
 
 
「な、なんでもないよ! おやすみねぇちゃん!」
 
 
そう言って自分の部屋に立ち去ろうとするが
 
 
「待ちなさい虎太郎! ここあ! 捕らえて!」
「はーい」
「ちょ、やめ、おい!」
 
 
ゴタゴタでポケットに入れていた被せる用の袋とゴムを落とす。
 
 
「……まさかとは思ったけど虎太郎、それ自殺セットでしょう!」
「自殺セット!!??」
「しかも自分の部屋の近くじゃなくてにこお姉さまの部屋の近くにいるってことはそれをお姉さまに使おうとしてたんでしょう!!」
「嘘……でしょ??なに考えてんの!?」
「………」
 
 
バレた。もうダメだ。にこねぇちゃんにバラされて僕は嫌われてしまうんだ。
 
その時。
 
 
「どうしたのこんな夜中に」
「ね、ねぇちゃん!?」
 
 
扉が開いた。にこねぇちゃんだ。
おかしい。睡眠薬を飲ませたはずなのに……効き目が弱かったのか? とにかく本人まで出てきたんだ。もうおしまいだ。しかし次に出てきた言葉は予想外のものだった。
 
 
「姉さん聞いてよ! 結婚パーティー用にヘリウムガスを用意するように虎太郎に頼んでたら見てよこれ!」
 
 
????
一体何を言っているんだここあねぇちゃんは。予想外の展開になにも喋ることができない。
 
 
「こ、こらここあ! その辺りの事はサプライズなんですよ!?」
「うぁしまった!!」
 
 
しかもこころねぇちゃんまで口を合わせている。何が起きているんだ?
 
 
「あっはははは! あんた達……もう、サプライズならバレないように準備しなさいよもう」
 
 
にこねぇちゃんが笑う。そして優しい顔で
 
 
「でもありがと。当日楽しみにしてるわ。早く寝るのよ〜」
 
 
と言い、部屋に戻っていった。
 
 
「……今のは……??」
 
 
瞬間。2人が耳元に近づいてくる。
 
 
「勘違いしないで。別にあんたを庇ったわけじゃない」
「そうです。私達はお姉さまの笑顔を守っただけです。虎太郎がお姉さまを殺そうとしてたなんて知られた時のことを想像してみなさい! きっと深く傷つくことでしょう」
「次もし繰り返すような事があれば……わかるよね?」
「何をしようとしても私達が止めてみせますから。ではまた明日。虎太郎」
 
 
そう言って2人は去っていった。
計画に完全に失敗した僕は失意の底に突き落とされた。
 
 
次の日、女優転向と結婚の宣言が正式に出た。
 
しかもあれからにこねぇちゃんがいる間はこころとここあにびっしり監視されるようになった。
 
もう僕にはどうしたら良いのかわからない。ねぇちゃんの笑顔を崩さずに結婚を止める方法がわからない。
 
ねぇちゃんが他の誰かのものになってしまうなんて耐えられない。もうだめだ。
 
 
 
死のう。
 
 
 
その日は学校を早退した。別にもう学校なんて意味ないんだ。僕は今日終わるんだから。
 
家に着き自室に入る。ヘリウムガスの自殺セットが目に入る。せっかく作ったんだしこれで死のう。苦しくないらしいし。
 
 
早速袋を被りゴムで隙間をなくす。
そしてガスの元栓を開けた。
 
あーこれ結構時間かかるんだな……
 
そんな事を考えながら数分。なんとなく意識が朦朧としてきた頃。
 
 
「虎太郎!!!!!」
 
 
気がつくとにこねぇちゃんがすぐそばにいた。なんで?
被ってた袋を外され揺さぶられる。
 
 
「にこ……ねぇ……ちゃん……??」
「虎太郎!! 何があったの!!?? なんでこんな事してるの!! 馬鹿!!! 生きてて良かった……!!」ポロポロ
 
 
にこねぇちゃんが泣いてる。そんな、泣かないでよ。僕のために泣いてくれてるの? こんな僕のために……
 
 
「ねぇちゃん……う……うぅ……!!」ポロポロ
 
 
2人で抱き合いながら涙を流す。
暫くして涙が止まってきたので理由を話すことにした。
 
 
「にこねぇちゃんがアイドル辞めるって言ってさ……結婚するって言うじゃん……」
「うん……」
「でも誰も僕の気持ちわかってくれなくてさ……それどころか脅されて………もう……こんな思いするならって……」
「そう……」
 
 
ねぇちゃんは真面目に僕の話を聞いてくれた。こんなどうしようもない僕の話を。
 
 
「ごめんね虎太郎……私のせいで……」
「…………」
「でもね、正直言わせてもらうと他人が何よ! 人の幸せを喜べないようなやつなんてロクな人間じゃないわ!! 虎太郎は虎太郎よ、虎太郎のやりたいようにやりなさい!! むしろそんな奴らにはやり返してやりなさい!!! 誰かの為に自分だけ死ぬなんてそんなのおかしいんだから!!」
「ねぇちゃん……!!」
 
 
目と目が合い、視線が絡み合う。
そうだよね……そうだよ!僕の頑張って考えた見つけた幸せを拒むなんてあいつらロクな人間じゃない!! ねぇちゃんはこんな僕の事でもちゃんと認めてくれた……!! あいつらもこの計画に巻き込んでやる……
 
 
「ありがとう、もう大丈夫だよ……僕、立ち向かってみるよ!!!!」
「もし次何かあったら私に任せなさい! 別に全てを1人で溜め込むことないんだから」
「うん! ありがとう!」
 
 
──────────────
 
 
それから僕は家全体を巻き込む苦しまない死に方を探した。結果見つけたのは一酸化炭素を使う方法だ。無臭な上ある程度吸うだけで酸素を取り込めなくなるようになり死ぬらしい。しかし意識がある時にそれを行うと苦しいらしいので、睡眠薬を盛り睡眠中に実行する事にした。勿論前回より強力なやつだ。
 
そして式前日。また晩ご飯に睡眠薬を潜ませる。盛り分け前に2人にバレないようにチェックの緩い大元の方に入れた。そして僕はそれをあまり食べないようにすればいい。
 
そして食後。
 
 
「にこねぇちゃん、明日朝早いんだし今日はもうお開きにしようよ」
「ふぁ……それもそうね……なんだかもう眠たいしね」
 
 
よし、しっかり効いてるみたいだ。こころとここあにもさっさと退散してもらおう。
 
 
「こころねぇちゃんもここあねぇちゃんも、明日準備早いし寝るよー」
「……まぁそうですね。じゃあ早いですが今日はここまでで。おやすみなさい」
「おやすみー」
「……おや……すみ……うぅ……」
「おやすみー……ふぁぁ」
 
 
みんなが部屋に入り寝静まった頃。死への活動を開始する。まず一酸化炭素が外に漏れず家に篭るように玄関と窓の隙間ににガムテープを貼る。次にこころとここあには少しズレたタイミングで死んでもらうように2人の部屋の扉の隙間にもガムテープを貼り準備万端。事前に用意しておいた練炭入り七輪をいくつも並べて点火。後は自分も睡眠薬を飲み、にこねぇちゃんの横に転がる。
 
後はこれで眠れば意識の無いうちに僕たち2人は死に、翌朝部屋から出た2人も部屋に充満した一酸化炭素により僕らとは違うタイミングで死ぬ……と。我ながら完璧な計画だ。ありがとう、にこねぇちゃん。
 
安らかな寝顔で寝ているにこねぇちゃんを撫でる。かわいすぎる。そういえば僕を励ましてくれたあの時の泣き顔もとても可愛かったな……僕のために流してくれた涙、僕のためにしてくれた顔、僕のために……あぁ、僕はなんて恵まれていたんだろう。神に感謝する。さぁ、じゃあ行こう? 僕たちだけの世界へ……外からの邪魔も……何もない………平和な…………世界へ…………。ね? にこねぇちゃん…………… 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧