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桃源郷

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第二章

「最近までな」
「呉の帝があんまりでな」
「税は取り立てる、何かと仕事に駆り出す」
「奇麗な娘がいたら後宮に連れ去っていく」
「そんな場所がすぐ近くでな」
 それでというのだ。
「こっちにも色々迷惑が及んで」
「逃げて来た者も多くて」
「それで食えなくなってだ」
「賊にもなってだ」
 そうしてというのだ。
「賊はあちこちにいてな」
「碌でもなかったからな」 
 呉の皇帝である孫酷の暴政のせいで酷かったというのだ、事実彼は民も宮廷の者達も非常に苦しめていた。
「ようやく晋の帝の下に入ったが」
「その帝も最近遊んでばかりでおられるそうだ」
「落ち着いてきたがどうなるか」
「わかったものじゃないからな」
「不安なものだ」
「それがここはどうだ」
「随分のどかでな」
 それでというのだ。
「落ち着いているな」
「平和なものだ」
「幸せそうだな」
「わし等の村もこうだったらな」
 こう言うのだった、そしてだった。
 村の中を歩いて見回っていると一人の若者が彼等を見て怪訝な顔で聞いてきた。
「あんた達何処から来た?」
「ああ、わし等はな」
「実はな」
 二人はすぐに男に自分達のことを話した、するとだった。
 男はそれならと頷いて二人に話した。
「大体わかった、それならな」
「それなら?」
「それならというと」
「ああ、詳しいことを飲みながら話そう」
 こう言ってだった。
 男は二人を自分の家に連れて行った、男の家は大きくしかも木の質もよかった。そしてその家の中でだ。
 男は二人に酒と鶏の料理を出してだった、そのうえで。
 自分も含めて三人で飲み食いをしつつ自分のことを話した、すると二人は男に対して仰天して言った。
「何、あんた秦か」
「秦の頃にか」
「ここに来たのか」
「わし等のご先祖はそうなんだよ」
 男は鶏の肉、茹でたそれを食べつつ話した。
「実はな」
「そうだったのか」
「また随分昔だな」
「秦の頃とは」
「もうやれ長城だやれ墓だやれ宮殿だとな」
 始皇帝の建築のことを話した。
「駆り立てられるので」
「あの時はそうだったらしいな」
「あと長城の方で北の連中との備えに兵も置いてな」
「あの時も大変だったな」
「そうだったな」
「しかしもう秦はないのか」
 男は二人のことを聞くうちに時代の流れのことも聞いて言った。
「そうなのか」
「ああ、そうだ」
「あの国はすぐに滅んだ」
 二人で男に答えた。 
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