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赤ちゃん象の名前

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第二章

「潰れたな」
「そうでしたね」
「問題は調教の内容で」
「そんなことしたらです」
「問題になって当然です」
「それでその中にな」
 マカーシーさんはさらに言いました。
「ケニーもいたんだ」
「えっ、いたとは」
「どういうことですか!?」
「ケニーがいたなんて」
「今のケニーじゃなくてな」 
 そうではなくというのです。
「仏教の考えだが前世だな」
「ケニーの前世ですか」
「生まれ変わりですか」
「仏教っていいますと」
「そうだ、それで前世でな」 
 その時にというのだ。
「あいつはその虐待を受けてな」
「そういえばあのサーカス団にはそんな話もありましたね」
「子供の象も調教してショーに出して」
「子供の象は身体壊して」
「それで死んだんでしたね」
「三歳、象は五十年も七十年も生きるからな」
 マカーシーさんは象の寿命のこともお話に出しました。
「三歳っていうとな」
「ほんの子供ですね」
「人間で言っても三歳ってそれ位です」
「本当に子供です」
「赤ちゃんからものごころついた位ですね」
「そんな子供が母親から引き離されてな」
 まだ甘えたい年頃なのにというのです。
「一ヶ月以上足を縛られて立たされてな」
「心壊されて」
「調教されてですね」
「鉤爪で引っ掻かれて」
「ショーをしていない間は檻に入れられて」
「それでショーは一日に何度もで」
「酷使されてな」
 そうしてというのです。
「身体壊して死んだんだ」
「三歳っていったら身体もできていないのに」
「本当に赤ちゃん位なのに」
「そんな目に遭って」
「そうして」
「死んだんだ、お母さんに甘えることも出来ないで」
 そうしてというのです。
「前世じゃな、けれど生まれ変わって」
「マカーシーさんがまたケニーと名前をつけて」
「それでここで、ですね」
「前世じゃ出来なかったことをしてるんですね」
「お母さんに甘えてるんですね」
「幸せに暮らすこともな」 
 前世で出来なかったことの中にこのこともあるというのです。
「しているんだ、だったらな」
「ええ、俺達も幸せにしましょう」
「前世のケニーが味わえなかったものを堪能してもらいましょう」
「そうしましょう」
 他の飼育員の人達もマカーシーさんの言葉に頷きました、そうしてです。
 マカーシーさん達はお母さんと幸せな時間を過ごしているケニーをとても可愛がって大事にしました、そうして彼を幸せにしてあげるのでした。


赤ちゃん象の名前   完


                   2022・5・19 
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