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DQ3 そして現実へ…  (リュカ伝その2)

作者:あちゃ
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駆け引き

<海上>

ジパングより北に向かい、ムオルの村に程近い海域を進むアルル一行…
この日は天気に恵まれず、朝から薄暗く雨が降り続いている…
操船の為、外で作業をする者以外、皆が船内で時を過ごしていた。


勇者カップルも例外ではなく、朝から船内の食堂で身を寄せ合って親密な雰囲気を作り出している。
そんな光景を、朝食の為に訪れたリュカは不思議そうに眺めていた。
何が不思議かと言うと…
真面目カップルが人前でイチャ付くのが、あまりにも珍しいから!

その手の状況に敏感なリュカは一早く感づき、本来なら邪魔をしない様に勤めるのだが、気になる事が1つだけあり、どうしてもティミーに話しかけずにはいられないのだ!
「あ~…ティミー君…その…何だ…それ、どうしたの?」
リュカはティミーの左頬を指差し、真っ赤に付いた紅葉(もみじ)の痕を質問する。

「あ…いや…こ、これは…」
ティミーは慌てて左頬を手で隠し、しどろもどろに言い訳しようとしている。
「あー!!お、お兄ちゃん!アルルさん!ご、ご相談があるのですが!!今よろしいですか!?」
そんな父と兄を見つけたマリーが、大慌てでリュカの質問を遮り、強引に話題を変えてしまう…

「な、何かなマリー」
「ま、まぁマリーちゃん!とっても急用みたいね!」
「えっと~あの~…急用…ですわよねぇ…あのね……………あ、そうだ!『祠の牢獄』に行く前に、先にグリンラッドのお爺さんの元へ赴いてほしいんです!先に『変化の杖』と『船乗りの骨』を交換してもらい、何時でも幽霊船に遭遇できるようにスタンバっておきたいんです!」

マリーは兄カップルを守るべく、必死に話題を逸らし昨晩の出来事には触れない様に努力する…
しかし既にリュカは大凡を察し、ティミー達から離れた所にウルフを連れ込み、状況の確認を行った。

「おい…お前が唆したのか?」
「イ、イッタイナンノコトデスカ」
ウルフの瞳が水泳大会を行っているのを見て、リュカは苦笑いしつつデコピンを喰らわす!
そして、額を押さえる蹲るウルフと、頬の痕に触れられない様必死に話題を変えてる子供達を横目に、食堂から自室へと戻ってしまったリュカ。


「ど、どうやら誤魔化せたかしら?」
額を抑えながら近付いてきたウルフに質問するマリー。
「ムリだね……俺の一言が原因なのも悟られたね!」
「あ、あのやり取りだけで!?」

「マリー…君は自分のお父さんを侮りすぎだ!そう見せないだけで、リュカさんは凄い人なんだから!」
「ほんと、凄い人だよ…もう少し真面目に生きてくれれば最高の父親なんだけど…」
「ティミーさん、それは違う!考えてみて下さい…程良く真面目なリュカさんを…アルルは絶対にリュカさんに惚れますよ!ティミーさんに勝ち目はありませんよ!」
ウルフの言葉に、アルルとマリーが揃って頷く。

「ティミー…お父さんが不真面目で良かったわね♡」
人の悪い笑みでティミーを苛めるアルル…
そして思わず4人とも笑い出してしまう。
若者達も成長著しい様だ。





<グリンラッド>

アルルは先日のマリーの言を思い出し、先に『船乗りの骨』を手に入れる為、以前訪れた雪原の老人宅へと赴いた。
「じゃ~ん!お爺ちゃん、手に入れたわよ『変化の杖』を!」
「お…おぉぉぉぉ!何と本当に手に入れてくるとは……よ、良し!船乗りの骨と交換じゃ!」
マリーが手にする杖を老人が取ろうとした瞬間、それをリュカが奪い老人から遠ざけた。

「な、何じゃ!?この骨との交換の約束じゃぞ!…いらんのか船乗りの骨…」
「爺さん…聞きたい事がある。この杖を使って何をするつもりだ?」
「何って…変化の杖じゃぞ!変化するんじゃよ!」
(イラッ!)
「先に僕のドラゴンの杖で、屍に変化させるぞ!変化して何するのかって聞いてるの!…悪用されると困るのだが…」
「悪用ぅ?変化する事しか出来んのに、どう悪用するんじゃ!?」
「どうもこうも、他人に化けて悪事を働く事は出来るだろ!」
「安心せい!ワシはグリンラッドから出る気は無い!時折やって来る者を驚かしたいだけじゃ!」
狭い室内で、リュカと老人が睨み合う…


「お、お父さん…お爺さんの事を信じましょうよ…この人は悪い人じゃ無いですよ!」
「そ、そうですよリュカさん!マリーの言う通り、この爺さんなら大丈夫だよ!万が一変化の杖を悪用されても、俺達にはラーの鏡があるじゃんか!」

「……………」
リュカは変化の杖を握り、瞳を伏せ深く考える…
「マリー…ちょっと……………あ、他のみんなは待ってて!」
突如マリーだけを外へ連れ出し、コソコソと相談を始めるリュカ。



「さみー!外、ものっそい寒いよ!バカじゃないの!?」
暫くしてリュカとマリーが室内へと戻ってきた…騒がしく。
「おい爺さん!数ヶ月間の物々レンタルって言うのはどうだ!?」

「…何じゃ、物々レンタルってのは?」
アルル達も聞きたそうにリュカを見つめている…
「爺さん…悪く思わないでほしいのだが、やっぱりこの杖を他人に託すわけにはいかない!この杖の所為で、大勢の弱者が虐げられるのを目撃してしまったからね…」
「何と失礼なヤツじゃ!ワシは悪用しないと言って居るだろうに!」
リュカの言葉に老人は激しく憤慨する…
しかしリュカは、優しい表情のまま首を横に振り、話を続ける。

「勘違いしないでくれ…爺さんの事は疑ってない!むしろ、その後の事が心配なんだ!」
「「「その後?」」」
老人だけではなく、アルルやティミー達もリュカの言葉に首を傾げる。
「失礼な言い様だが、爺さん…アンタはもうそれ程長生き出来ないだろう…しかも家族も居なさそうだし…」
「全く持って失礼だが、その通りじゃ!それが何じゃ!?」
「爺さんが死んだ後、この杖はどうなる?誰の物になる?」
「……………」

誰もが言葉を失った。
そうなのだ…この老人を信じられても、その次に杖の所有者になる人物までもは信じられない…
リュカの懸念は其処にあった!

「う…ぐ…で、では船乗りの骨は諦めるのじゃな!?」
「いや、だから物々レンタルを提案したい!…つまり、爺さんの『船乗りの骨』と、僕等の『変化の杖』を、期間限定で交換しようって事!」

「……………なるほど。確かに、ワシの死後はどうなるか………じゃが、もしワシが断ったらどうする?おヌシ等にはこの骨が必要なんじゃろ?」
「いや…正直言うと、今の段階では大して必要じゃない!だから今は諦めるだけだ………だがもし、僕等の旅に必要な物になれば、アンタを殺してでも手に入れるつもりだ!本当はそんな事はしたくないけどね…やむを得なくなれば、アンタ一人の命は犠牲にする!」

室内に短い沈黙が続いた…
誰が見てもリュカが本気な事が分かるから…
「…分かった…物々レンタルに応じよう…それが一番、ワシにとって得なようじゃ」

商談が成立し、互いの持ち物を交換する…一時的にだが。
そして誰もがリュカの深慮に感心する…
自分なら、この老人を信用し、その後の事までは考えないだろうと…

そしてこの事が、二人の少年にとって大きな意味を成す。
義理の息子予定の者には、憧れる大きな目標として…
血を分けた実の息子にとっては、自身の器の小ささを痛感する大きな壁として…


 
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