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Fate/WizarDragonknight

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二度目

「「紗夜さん!」」
「やはりそれなりに体の相性はいいね」

 トレギアは自らの体を見下ろした。

「トレギア……! なんてことを……!」

 ハルトは歯を食いしばる。そして銀のベルトを付けたまま、指輪を付け直した。

「さあ……衛藤可奈美も動けないようだし、このまま始末させてもらおうかな」
「……!」

 ハルトは右手で可奈美をかばいながら、ウィザードライバーのつまみを操作した。

『シャバドゥビダッチヘンシーン シャバドゥビダッチヘンシーン』
「変身!」
『ハリケーン プリーズ』

 エメラルドの指輪より発生した緑の魔法陣は、即座にハルトの頭上に現れた。それは降下により、ハルトを風のウィザードへ変身させた。
 ウィザーソードガンを構えて、緑の風とともに飛び上がる。

「トレギアアアアアア!」

 ウィザードは叫びながら、斬りかかる。
 一方のトレギアは、その爪でウィザードの刃と切り結ぶ。何度も甲高い音を響かせながら、ウィザードとトレギアは上昇していく。

『チョーイイネ サンダー サイコー』

 渦を巻きながら、ウィザードは風属性最強の魔法を使う。ウィザードの体が巻き起こした竜巻の中に、緑の雷光が閃きだす。

「おやおや? 容赦がないね? この体は氷川紗夜のものだというのに」
「くっ……!」

 仮面の下で歯を食いしばりながら、ウィザードはホルスターから切り札の指輪を取り出した。
 以前、紗夜を闇から救い出した指輪。
 紗夜もさっきまで、お守りとして右手に付けていたが、今はトレギアの闇に飲まれて消失したものと同種の、エンゲージと呼ばれる指輪。
 だがトレギアの赤い眼は、ウィザードの動きを目ざとく察知した。右腕からの闇の雷光が、ウィザードが手にした指輪を弾き、そのまま破壊した。

「なっ……!?」
「残念だねハルト君。前と同じ手はもう通じないよ」

 トレギアは笑みを浮かべながら、両手を広げながら接近してくる。

「感情的になっていると思わせておきながら、随分と冷静じゃないか。その切り札を使う的確なタイミングをずっと窺っていて……人間にしては冷たいねえ?」
「だったら……これはどう!?」

 その声は、トレギアの背後から。
 近くの建物を伝って飛び上がった可奈美が、千鳥を振り上げていたのだ。

太阿之剣(たいあのつるぎ)!」

 可奈美の千鳥から発せられる、紅蓮の斬撃。それは、トレギアを大きく後退させることとなった。

「本当に君のことは嫌いになるよ……! 衛藤可奈美!」

 トレギアは怒りの言葉を滲ませながら、その手に蒼い雷を宿らせる。ウィザードと可奈美の頭上から、トレラアルディガイザーを放った。

「可奈美ちゃん!」
『ディフェンド プリーズ』

 ウィザードは落下する可奈美の手を取りながら、風の防壁を発動させる。
 それはある程度はトレラアルディガイザーの攻撃を防ぐ。だが、それはやがて押され、ウィザードと可奈美はどんどん下降していく。

「やばい!」

 ウィザードは慌てて可奈美を抱き寄せ、自らの体が下になるようにする。
 トレラアルディガイザーによって墜落させられ、生身に戻ったハルトと可奈美。

「動けないんだったら、無理しないでよ……」
「ハルトさんだって、肩ケガしてるじゃん……!」

 折り重なるようにして呻く二人へ、トレギアが赤い眼を光らせた。
 その爪を交差させ、斬撃が二人へ落とされていく。
 トレラムノー。これまでも、何度もハルトたちを苦しめてきた技。

「やばい……!」

 変身も魔法も間に合わない。
 だが。
 横から飛び込んできた、青い光線がトレギアの攻撃を押し流していった。

「何これ、どういう状況!?」

 それは、ハルトたちの前に着地したのは、新たな参加者。
 ガンナーのサーヴァント、リゲル。
 彼女はハルトと可奈美、そして狂三、浮いたままのトレギアを見渡した。

「蒼井晶を見つけたんじゃなかったの!? どこにもいないし、あれはフェイカー……? それに、アイツは?」

 リゲルはフォーリナーを見て銃を向ける。
 フォーリナーはほほ笑んだだけで微動だにすることもない。
 リゲルはフォーリナーから目を離すことなく、トレギアへスコープを当てる。彼女のゴーグルにあらゆるデータが表示されては消えていく。

「……! ちょっとウィザード、どういうこと? トレギアの中から氷川紗夜の生命反応が検出されているんだけど!?」
「さすが。その通りだよ……!」

 ハルトは立ち上がりながら毒づく。
 すると、リゲルは驚きと共に眉を吊り上げた。

「その通りって、彼女を危険な目に遭わせないって話はどうなったのよ!」
「トレラアルディガイザー」

 リゲルの非難が終わらない中、トレギアの攻撃が止まる理由にはならない。
 ハルトはリゲルを背中に回し、防御の魔法を使った。

『ディフェンド プリーズ』

 もう一度発動する、魔法陣の防壁。だが、それはトレギアの攻撃に対して、十分な防御力を持つとは言い難いものだった。赤い壁はあっさりと吹き飛ばされ、ハルト、可奈美、リゲルの三人は地面に打ち付けられる。

「くっ!」

 だが、いち早く復活したリゲルが、その衝撃と同時に、散弾を放った。
 それはトレギアの足を止め、さらに彼女が手に持った剣での攻撃を可能にした。

「フン」

 手を後ろで組みながら、リゲルの攻撃を避け続けるトレギア。それどころか、読めたトレギアは、簡単にリゲルの剣を受け流していく。
 トレギアは腕を伸ばすフェイントで、リゲルの動きを止める。さらに、右手から放たれらた蒼い光線が、リゲルの体を押し流していく。

「ぐっ!」
「リゲル! ……変身!」
『ウォーター プリーズ スイ~スイ~スイ~スイ~』

 ハルトは右肩にハンカチで簡易的な包帯を作り、水のウィザードへ変身。リゲルへ迫られてくる爪をソードガンで防ぐ。

「リゲル、大丈夫?」
「敵であるアンタに助けられるなんて……」
「あはは……今更何を」

 そのまま、ウィザードとリゲルはトレギアとの戦いを続けていく。ウィザードはソードガン、リゲルは大砲。それぞれの攻撃がトレギアを捕えようとするが、相手は羽根のように軽い身のこなしで避けていく。

『ウォーター スラッシュストライク』

 水のウィザードは、ウィザーソードガンへ水の魔力を宿らせた。
 だが、両手を腰で組んだトレギアはよけ、やがてウィザードの顔へ手を出す。

「っ……!」

 フェイントだと分かっていても、反射的に動きが止まってしまう。さらに、無理に動かしている体を急に静止したせいで、肩にまた激痛が走る。

「ウィザード……あなた、その肩どうしたの!?」
「見ての通りだよ」
「さあ、次はこれでも使おうか……?」

 トレギアは、いつの間にか白い人形を手にしていた。
 粘土らしき素材でできたそれを放る。即座に蒼い雷を放ち、人形の色を蒼く染め上げていく。

「さあ、マスターからの贈り物第二弾だ。行け。デバダダン!」

 人形が、人間よりも少し大きいサイズに巨大化する。その肉体は、白いボディと、その内側に無数の黒が走る。緑の半透明なゴーグルの中には、左右非対称の位置に目玉が付いていた。
 因果応報怪獣デバダダン。
 ギョロギョロとした目が、ウィザードとリゲルへ迫って来る。
 ウィザードは慌てて指輪を切り替えた。

『バインド プリーズ』

 水を固めて作られた鎖が、デバダダンの動きを止める。
 だが、さして苦しむ様子もなく、デバダダンは鎖を引きちぎった。
 だが、それだけの時間を稼げれば十分。

『ウォーター シューティングストライク』

 ウィザードは、すでに攻撃の準備をしていた。
 ウィザーソードガンの銃口に宿した水。魔力を練り上げたそれは、そのままデバダダンへ放たれた。
 無数の怪物たちをうち滅ぼしてきたウィザードの水弾が、デバダダンへ放たれた。
 一方、デバダダンもただではやられないと言わんばかりに、その能力を行使した。足元から並び立つ、衝撃波の柱。それは、デバダダンの姿を、衝撃波の向こうに隠してしまうほどだった。
 だが、水の弾の威力は下がらない。
 そのまま青い攻撃は、デバダダンに命中。そのまま爆発するはずだった。
 だが。

「効いてない!?」

 これまでもシューティングストライクが決め手にならない敵は数多くいた。だが今回、この敵にはシューティングストライクの威力が発揮されていないどころか、水の弾に込められていたはずの水滴さえも見当たらない。
 ウィザードとリゲルは、ともに左右に散開。デバダダンからの衝撃波を回避し、それぞれ銃口を向けた。
 放たれる、銀と光の銃弾。地面からの衝撃波を貫き、デバダダンに命中しているようだが、白い怪獣の動きは何一つ変わることはなかった。

「これも効いていないのか!?」

 だが、驚いている暇はない。すでに至近距離に迫ったデバダダンが、両手でリゲルを押しつぶそうとしてくる。

「くっ!」

 リゲルはバックへ飛び退きながら、装備したバズーカを発射する。青い光線が、まさにデバダダンの体を貫こうとしていた。
 だが。

「え!?」

 リゲルの驚愕。
 それは、彼女の光線が、デバダダンの腹に吸収されたからだった。アンテナのような組織が腹部に形成され、光線を吸収しているではないか。
 さらに、デバダダンの能力披露は続く。腹部のアンテナからは同じく青い光が集いだしていく。
 それは、まさに反射。リゲルが放った光線とほとんど同質のそれが、リゲルへ襲い掛かる。

「なんなのっ!?」

 リゲルは慌ててバズーカ砲を盾にする。
 青い光線を弾く砲台ではあるものの、リゲルはその勢いに押され、地に伏せた。

「リゲル!」

 さらに、デバダダンの追撃だろうか。足元から連続して衝撃波が走って来る。
 ウィザードはリゲルの前に立ち入り、サファイアの指輪をトパーズに交換する。

『ランド プリーズ ド ド ド ド ド ドン ド ド ドン』

 水のウィザードが土のウィザードとバトンタッチ。
 身体能力を犠牲に魔力を伸ばした水のウィザードとは対照的に、土のウィザードは魔力よりも物理能力を会得した形態。
 そして、こういう状況での土のウィザードの役割はいつも同じ。

『ディフェンド プリーズ』

 ウィザードが発動するのは、此度の戦闘で、何度も破られた指輪。
 だがそれは、土の形態であれば、鉄壁の土壁として発動する。デバダダンの衝撃波を防ぐと同時に、土壁は粉々に砕けていった。

「次!」
『バインド プリーズ』

 ウィザードが次に発動する、鎖の魔法。
 今度は土が鎖の形となり、デバダダンを拘束する。ウィザードはそのまま、鎖を発生させている魔法陣を地面に叩きつけた。
 すると、土の鎖はそのまま地面に真っすぐ張った状態でデバダダンの動きを封じた。

「リゲル! 今だっ!」
「ええ!」

 ウィザードの合図に、リゲルは飛び出す。
 右手にバズーカ砲、左手に青い半透明な剣。
 リゲルは剣を逆手に持ち、デバダダンの腹部……アンテナ部分に深々と突き刺す。アンテナとデバダダンの肉体の間に隙間が生じ、ミシミシとデバダダンの体が悲鳴を上げた。

「______」
「消し飛びなさい!」

 デバダダンの声にならない声を打ち消すように、リゲルの砲台に青い光が宿っていく。
 そのまま、隙間からデバダダンの体内へ直接放射。光線を跳ね返すというデバダダンの特性が発動しない領域で、直接異形の怪物の体内を焼き尽くす。
 爆発とともに、デバダダンの白い破片が散乱していった。
 肩で呼吸しながら、デバダダンがいた場所を見つめるウィザードとリゲル。その二人を、トレギアは拍手で讃えた。

「へえ……すごいなあ。その怪獣に、光線でトドメを刺せるなんて思わなかったよ」
「トレギア……っ!」
「それもまさかガンナーがねえ。以前君と戦った時は、無視してもいいかと思ったけど」

 その挑発はリゲルにも堪えたのか、明らかに怒りを滲ませている。

「あの時は、怪獣を出して逃げられたけど……今回はそうは行かないわ」
「こっちはただの散歩の途中だったんだけどなあ?」

 トレギアは証拠とばかりに、手に持ったそれを見せつける。
 ただの、紙容器に入ったポップコーン。放り投げ、中身がデバダダンの破片とともに散らばった。
 そして、ポップコーンの雨の中。

「気に入りませんわね……」

 ただ一人。
 影に潜むフォーリナーの声を耳にできた者などいない。 
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